表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/103

(52)

「こんにちわ」

「おさきです」

 声に反応した俺は手を止め、振り返ったが、もうそこに女子店員の姿はなかった。

 一人帰って一人入った。まだ店内に行っていないから、着替えてここを通るはず。俺はそう思いながら、再び桶に手を突っ込む。桶の中の皿、フォーク、スプーンがなくなった。俺は何気ないふりをして、廊下の方を見つめた。

 再び別の音色のブザーがなった。

 食洗機が停止したのだ。取り出して、棚に並べなければならない。

 以外に思い食洗機を開けようと手をかけた瞬間、声がした。

「はいりま~す」

 何にも優先して、振り返った自分の全力のスピードで振り返ったはずだった。

 すでにそこには女子店員の姿はなく、チーフがガムを口に入れている姿があるだけだった。

「どした?」

「いえ、なんでもありません」

 このバイトを始めるときにがっつり言い聞かされたことがある。

 基本的にバイトは女子店員への声かけ禁止。どうしてもしなければならない場合は、チーフから指示をもらう事、となっていた。女子店員にタレント志望の()が増えてからそうしたようだった。当然、どこまでそのルールが厳しいか知らずに応募してくるから、男子の求人倍率は高い。しかしこの状態だと知るとすぐやめてしまうので、離職率も高い、という具合だ。

「不満があるなら辞めても良い。代わりはたくさんいるからな」

「不満はありません」

 俺はそう言った。

 結局、ちょっとも女の子の姿を見ることはできなかった。

 皿や食器を洗って、ヘトヘトになってから、女の子の帰った店内の掃除を言い渡される。

 店内に入ると『ミラーズ』という店名に(たが)わず鏡が多いことに気付かされる。そうか、俺は思う普通に客としてくれば最高だ。店を取引の場として使っている連中を調べるのに、食器洗いの裏方のバイトをしても全く意味がない。俺は、なにか的はずれな調査をしている気がしてきた。

 その時、店の扉が開いて、女の子が入ってきた。

「こんばんわ……」

 閉店後の時間に入ってくる女子は、店の女の子だと思って、俺は口を開かなかった。

「?」

 かすかに手首に違和感があった。

 けれどそんなことはすぐに気にならなくなっていた。俺は我を忘れて女の子を見つめていた。長い髪に切れ長の瞳、白いキメの細かい肌。それに出る所は出ているグラビア曲線の持ち主だった。キラキラしている、そんな言葉がぴったり合うように思えた。

 思わずやっぱりこの店の女の子はすげぇ、と思ってしまった。しかし、口をきいてはいけない。目線を戻して、ひたすら床をモップで拭き続けた。

「あの…… チーフという方はどちらですか?」

 女の子の方から、俺に話しかけてくる。言っている言葉からすると、どうも店員ではないようだった。

 念のため話しかけないように、手を使った仕草で待つように伝えてから、俺は店の奥に向かって声を出した。

「チーフ、お客様がいらしてます」

「お客? ん…… ああ、そうだ。座って待っててもらえ」

 俺は掃除が終わった方の側の席へ案内して、その()を座らせた。

 この女の子をチーフが呼んでいたならば、この()は店員候補で、今から面接するんじゃないか、と思った。

 モップをかけながら、チラチラとその()を見ていると、チーフがやってきた。

「カゲ、VIPは掃除したか?」

 VIPルームというのは一番奥にある個室のことだった。

「最初に終わってます」

 どうやら、その()をVIPルームにに入れて話をしようとしているようだった。

「カゲ、VIP入っているからな。誰も入れるなよ」

「はい」

 俺は店内の床を拭き終えると、椅子とテーブルを拭いて回った。

 半分ほど終わった時に、VIPから袋を持って女の子が出てきた。

「あの、更衣室ってどこですか?」

 俺は無言で指を動かし、更衣室への道順を教えた。

 しかし女の子は理解できないようで、イラついた表情で言った。

「さっきからなんで黙ってるんですか?」

 VIPルームの扉は閉まっていて、チーフには聞こえないと考え、小さい声で言った。

「この店、女子店員と男子店員は口きけないんです。だから、店員候補のあなたとも話せないんです。更衣室はそこを左に言って突き当りです」

 女の子はニッコリと笑って会釈をした。そして更衣室の方へ入って行ってしまった。

 俺はとにかく部屋の掃除を進めた。正式採用までは女子店員ではないとはいえ、口をきいてはいけない規則だ。チーフが見ていたら首になってしまう。

 しかし、掃除をしていても着替え終わって出てくるだろう方向を、俺はチラチラと、いや、首がおかしくなるぐらいの頻度で見てしまっていた。あのグラビアラインの持ち主が、この店の制服をきたらどんな素敵な光景になるか、期待に胸が膨らむどころの話ではない。

 そして、現れた。

 生足、強調された胸、くびれた腰。

 そして、歩くたびに揺れるスカートのすそと、胸。

 俺は完全に仕事を忘れてしまった。

「似合うかしら」

 俺は話しかけられていることに気が付かなかった。

「……」

 VIPルームの扉が開いた。

 俺は反射的にテーブルを拭き始めた。

「杏奈くん、はやくこっちにきて」 

「は、はい」

 俺は必死に顔を上げないように耐えた。

 VIPの扉が閉まると、俺は大きくため息をついた。

「すげぇ。ここの制服、破壊力半端ねぇ」

 俺はVIPルームの扉を見つめていた。

 すると、聞こえないはずの声が聞こえた。

「いいね。制服姿みて、即決だ。採用だよ。で、いつから入れる?」

 チーフの声が漏れ出ている。

「えっと明日からでも」

 杏奈とか言った子の声だ。

「うんそうだな。明日から来てもらおうかな。明日はちょうどシフトが薄くて困ってたんだ。そうだ。聞いてないってことがないように、初めに言っておくとウチの店は、後から入った女子店員にやってもらうことがあるんだ」

「なんでしょう」

「掃除だよ。掃除といっても、さっきいた汚い男がやっているようなことじゃない。店のドアや外に出している掲示板を拭いてもらうんだ。制服でね」

 汚い男…… 俺は自分のことを頭に浮かべた。まあ、間違ってはいないか。

「仕事はウエイトレスなんでしょう? なんで『掃除』なんですか?」

「まあ、新入りの子にそういうことをさせる、って決まりなのさ。儀式というか」

 俺は想像した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ