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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(51)

 長い髪の女が、タブレットの画面を見ている。そこには少々間の抜けた顔で映った男が一人。どうやら、どこかのIDカードとして使うために撮った証明写真のようだった。

「この男が?」

 部屋にはそう問いかけた相手がいた。

 それはお笑い芸人しかきないような、真っ赤なスーツに黒いシャツ、そこに真っ赤なネクタイをしていた。

 暗い部屋にもかかわらず、サングラスをつけている。

 男は、チタンのスキットルからウイスキーを口に含んだ。

 蓋をして雑に机に投げると、言った。

「ああ、そうだ。黒い火狼はこいつに殺られた」

 またスキットルを手に取ると、ウイスキーを飲んだ。

「信じられません」

「……俺もだ」

 そう言って、まるで水でも飲むかのようにウイスキーを口に入れる。

「黒い火狼が知っていた、という情報はわからないのですか?」

「わからん。本人(やつ)は確かめるために屋敷に向かったんだろうが、そこで倒された」

「いっそ()ってしまいましょうか」

「顔はま抜けかもしれんが、あの屋敷の住人だった男だ。どんな霊を、どれだけ取り込んでいるかはわからん。十分注意しろ。いいか、()ろうなんて考えるなよ。可能な限り近づいて、屋敷の情報を引き出すんだ」

 女は、少し前かがみになって、胸とお尻に手をあてた。

「そのために教祖様は、こんな私に霊を()けてくれたんですよね」

「……」

「お役に立ってみせます」

「ああ、頼んだぞ」




 俺はスマフォで撮った写真を見ていた。写真を撮った写真だった。俺と、妹かお姉さんか分からない女性が一人と、父と母だ。顔が似ているわけでもない。この一人ひとりの距離感が、家族なのか、他人なのかわからなかった。俺に記憶がないせいでそう思うだけなのかもしれない。

 写真を拡大してみた。合成かなにかで、継ぎ目や修正している箇所がないか探していた。

 まるでこの写真が本当でなければいいのに、と思っているようだった。

「おい、カゲ。スマフォ見てないで仕事しろ」

 そう言ったのは職場のチーフだった。黒い前掛けをしていて、髪をジェルでべっとり後ろに流している。ちょっと怖い、チンピラ風の男だった。

「あっ、す、すみません」

 スマフォを持っている手を引っ張られた。

「……家族の写真か。なんだ。田舎から出てきて寂しいか。まあ、いいぜ。それなら少しくらい」

「いえ。大丈夫です。仕事します」

 俺は持ち場に戻って、桶から取り出し皿洗い機に皿をセットする作業を続けた。

 皿洗い機から出てくる皿を今度は棚へ戻していく。桶の水を抜いてから、汚れを取って捨てたり、トイレや床の清掃も残っている。

 俺がこの店のバイトに入れられたのは、冴島除霊事務所からの斡旋(あっせん)によるものだ。

 つまりただのバイトではない。調査目的があるのだ。

『ミラーズって店知ってる?』

 俺は店の名前に反応した。なぜなら、香山ユキちゃんがスカウトのきっかけが、ミラーズのバイトで有名になったからだった。

『知ってますよ。甘いものと美味しいコーヒーを出す店ですよね』

『ずいぶんアバウトだけど、そうよ。フルーツケーキを得意としているチェーン店。そこの虎島店でバイトして欲しいの』

『やりますやります。その店こそ、香山ユキちゃんが勤めていた伝説の店舗じゃないですか。今はユキちゃんのおかげで有名になって、タレント志望の美少女ばかりが集まるという』

 冴島さんが不機嫌な顔になった。

 どうやら、香山ユキが嫌いなようだ。以前も加山ユキのサインの話をしたら、バイト代からめちゃくちゃ経費を取られたのだ。

『だからバイト一人ねじ込むのがこんなに大変だったのね』

『すみません。俺の為に』

 冴島さんはキレ気味に指を立てた。

『あんたのためじゃない。クライアントの為よ。今回は全国降霊協会からの依頼で、違法降霊師が商談に利用していると思われるミラーズ虎島店の調査になったってわけ』

 俺は何のことか分からなかった。

『違法降霊師、ですか?』

『訳わかってなさそうだから説明すると、店員ではなくて店の客の中に違法降霊師がいるみたいね。どうもお気に入りの店らしくて、何度も利用されている。この店で張ってればそいつが捕まえられる、ってわけ』

 俺は素直に思った。

『俺、わざわざバイトする必要なくないですか?』

 冴島さんは再びキレ気味に指を立てて言う。

『客を装ったりするにはお金がかかりますね? あなたが張り込みが上手ならいいけれど? そんな技術あるんですか? どうなんですか?』

『ごめんなさい』

『よろしい』

 というワケで、半分ぐらいはおいしいバイト、という気持ちで入ったのだった。

 しかし、俺が入れられたのは裏方のバイトで、女子店員との接点などは全くない。

 モニタを見る限り、壁の反対側にはタレントのような若くてかわいい、美少女たちが胸を強調した制服を着て、短いスカートをフリフリしながら店内を歩き回っているのだ。しかし、モニタ越し以外に顔を合わせることはない。軽食の調理が出来れば、皿を渡す時にちらりと女子店員の顔を見ることが出来るだろうが、バイトにそのチャンスはない。

 ただ、店員をみることが完全にないわけでもない。

 店は制服で働く関係で、勤務の前後に更衣室へ行く。皿洗いのバイトが唯一見ることが許される場面だった。

「由恵くん、上がっていいよ」

 俺はその言葉に反応した。ほんの僅か、更衣室へつながる廊下に移動する、二三歩だけ、ここから見ることが出来るのだ。

 その時、職場のチーフが思いついたように言った。

「おいカゲ。ゴミ出しして来い」

 泣きたかった。この何時間がつまらない皿との格闘を耐えたのは、この由恵ちゃん、という女子店員がそこを通過する一瞬、その為だったのに。

「は、はい。ゴミ出しですよね」

 俺は一瞬でも遅らせれば、由恵ちゃんという店員が『制服姿で』そこを通過するのが拝める、そう思った。

「さっさと行け」

 ボン、とゴミ袋を投げ込まれた。俺は濡れた床にしりもちをついてしまった。

「おさきに失礼します」

 テーブルの下に倒れている間に、由恵ちゃんは通り過ぎてしまった。

 何てタイミングなんだ、転ばなければ見れたかもしれないのに……

「ご、ゴミ出ししてきます」

 俺は裏口を開けて、薄暗い通路を歩いてゴミの集積所にゴミを出した。

 そのまま通路を戻って厨房に戻った。

「おうカゲ、ありがとうな」

 俺はチーフに会釈した。

 そう、まだ多少だがチャンスはある。私服に着替えているが、タレント志望の女子だきっとそれなりに『見栄えのする』恰好だろう。それに、上がる由恵ちゃんがいるなら、入る別の女子店員がいるはずだ。

 その時、小さくブザーが鳴った。

 洗い桶に皿やフォーク、スプーンが入ったサインだった。

「おら、来たぞ」

 チーフに言われるまま、俺は桶に手を突っ込んで下洗いを始めた。

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