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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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50/103

(50)

 表情のない、お面のような顔。

 口が開くと、声を上げた。

「うぉおおおお……」

 美紅さん、どうして……

 冴島さんが、指を組み合わせながら言う。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

 前に伸ばした手を合わせ、手を左右に開くと、冴島さんは何もない空間から刀を引き出していた。

 ちょっと待ってくれ……

 俺は球体を回り込んで、冴島さんのところに走った。

「待って、待って!」

 冴島さんは刀を顔の一つ一つに突き立てていく。

 刺された顔が悲鳴を上げる。

 刀が抜かれると、なかったかのように平坦に戻ってしまう。

 俺の様子に気づいた橋口さんに引き止められる。

「麗子の判断は正しいわ。もうさっきまでとは違うの。助からない……」

「冴島さん、やめてください!」

 橋口さんを引きずりながら、俺は進んだ。

「違うやり方が…… お願いです……」

 白い肌の球体は、転がりながら冴島さんに噛み付こうとする。

 両手に刀を持った冴島さんは下がったり、左右に回りながら、顔を見つけては刀を突き立てる。

「橋口さん、離して、冴島さんを止めないと」

「ダメ、助ける方法はないわ。やらなければ()られるのよ」

 もう球に残る顔は一つしかない。

「美紅さん!」

 俺が叫んだ瞬間、肌色の球に残っていた顔が、美紅さんの顔になった。

 しかし、間髪を入れず、冴島さんの刀が突き刺さる。

 俺は橋口さんを振り切って、美紅さんの顔に近づく。

「美紅さん……」

 身体はこの大きな球になっていたが、顔は人の姿の時の美紅さんそのものだった。

「伝えなきゃいけないことがあるの…… 火狼が言ってたわ、キーはもうひとりの影山だって……」

「……美紅さん」

「ありがとう。あなたといた間、少しだけ人間に戻れた気がする……」

 虹彩の反応が止まった。

 口が引きつるように動いて止まる。

 冴島さんが刀を抜くと、顔は引き込まれるようにして平坦に戻っていった。

「ほら、早く離れて!」

 冴島さんに腕を引っ張られる。

 俺は走りながら、球体を見つめていた。

 一瞬、ぐっと小さくなったと思うと、また膨張し始めた。

「あっ……」

 美紅さんの身体だったものは、破裂した。

 散らばった肉片は、蒸気を発しながら消えていく。

「美紅さぁあああん!」

 冴島さんに手をひかれながら、叫んでいた。




「ここまできて、屋敷に入らないんですか」

 冴島さんがうなずく。

「霊力の消耗が激しすぎるわ。それに…… おそらく屋敷の中は、もっと霊圧が高い。この状態では危険よ」

「麗子の判断は正しいわ。外から測ってみたから誤差はあるでしょうけど。中は一つ桁が違う」

 俺は屋敷を見つめた。

 冴島さんが近づいてきて言った。

「あなたの家族のことがなくて、屋敷が、このバランスを保っていられるなら、探査しないで放っておきたいくらいよ」

「……」

 橋口さんが俺の肩を叩く。

「大丈夫。必ず調べに入ることになるわ」 

 隅々まで覚えるように俺は屋敷を見つめた。

 屋敷の門までくると、橋口さんが霊圧を計測した。

「問題ないわね」

 冴島さんが横の小さな扉を開け、橋口さんと俺が出るのを待った。最後に冴島さんが出てきて、言った。

「コウタケのお婆さんから受け取った鍵で、ここを締めるのよ」

 橋口さんがずっと霊圧を測っている。

「大丈夫、準備できてるわ」

 俺はポケットから鍵を取り出し、差し込み、回した。扉が動くか前後に押し引きして、完全にかかっているのを確認する。

「霊圧の上昇はなし。大丈夫みたい」

「ふぅ……」

 冴島さんが大きく息を吐いた。

「警察には私が報告するから、麗子たちはそのまま帰ったら」

「カンナ、悪いわね。そうさせてもらうわ」

 橋口さんは新しいトレンチコートを取り出し、それを羽織る。

 軽く手を振りながら去っていった。

 通りを少し歩くと、止めていた冴島さんの車から、中島さんと松岡さんが出てくる。

「お嬢様!」

「所長、無事でよかった」

 言うなり中島さんが冴島さんに抱きつく。

 冴島さんに頭を撫でられながら、中島さんが泣いている。二人を見つめている松岡さんの目元にも、光るものが見える。

 まさか、それほどヤバイ案件だったのだろうか。

 車に乗り込むと、冴島さんが松岡さんに指示する。

「家に帰りましょう」

 すると、中島さんが言う。

「あの除霊士さんに警察への報告を任せて良いんですか? 手柄全部取られてしまいますよ」

 そうか、だから先に帰らせたんだ。

「大丈夫。除霊士協会でチェックがはいるから」

「けど、細かいところまでは」

()いわ。今、お金が重要ではないから……」

「……」

 俺はちらっとルームミラーをみる。

 中島さんの肩に頭を乗せ、冴島さんは眠っていた。

 俺は、ふと車と逆側の通りに、業務用のような大きな掃除機を見つけた。美紅さん、と思って振り向くと、長い髪の女性がそれを引きずっていた。

「別人か、そうだよね……」

 もう美紅さんはいない。

 俺は美紅さんのことを思い浮かべながら目を閉じると、そのまま眠ってしまった。





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