(46)
俺が言うと、橋口さんが言う。
「そりゃ、火狼が入ったんだから当然だと思うケド」
「ちょっとまって、玲香と影山くんは、どうやって出たの?」
「そのまま出ました…… あっ。扉が開かないようにノブの部分を紐でくくって」
橋口さんがあごに指を当てて考えているようだった。
「それ霊力のある紐なのかしら?」
「いや、普通の紐だと思うわ。仮に玲香は霊力のある紐だとしても扱えない。影山くんも同じ」
「どういうことなんですか?」
冴島さんがその扉をじっと見る。
「扉の封印がとけて、ここから中にいた霊が漏れた、ということよ」
「……やっぱり俺のせいだったのか」
背中に手をあてられる。
「自分を責めないの。私の指示の問題でもあるわ」
もう一つ、別の手が背中にあてられる。
「貧乳除霊士が勝手に入れって言ったんだから、しょうがないわ」
「けど、俺は死んだ人に対して……」
「交通事故になれば車は人を殺してしまう。それを人殺しというなら、車を作ったり売ったりする人は殺人罪になってしまうケド」
冴島さんが言葉を継いだ。
「ちんちくりんのたとえだと分かりにくいけど、あなたはしっかりと扉を閉めた。実際は、霊を閉じ込めることは出来なかったけど、可能な限りのことはしたのよ。自分を責めるのはやめなさい。人が死んだのは霊のせいよ。もっと言えば、ここに霊を集めた人間が……」
「それも」
振り返り、冴島さんの言葉を遮った。
「それも俺、じゃなければ俺の家族が集めたのかもしれない。結局、俺が……」
「だから!」
と冴島さんが両手を握り込んで叫んだ。
「もう自分を責めるのはやめなさい。この屋敷に霊が集まっているからといって、必ずしも家のものがやったことかどうかは分からないでしょ」
橋口さんは何かスマフォに何か機械を付けていた。
そして繋がっているスマフォをこちらに向ける。
「ほら。ここの霊圧が下がっている。火狼を追い込んだことで結果的に周辺の霊圧は下げることができたんだケド」
「ああ、霊圧っていうのはこの近辺の霊の密度のことね。ここに来る前に話したと思うけど」
俺はうなずいた。
「行けるのかしら? 屋敷のなかでは働いてもらわないといけないんだケド」
もう一度うなずいた。
「さあ、行きましょう」
中島さんと一緒に入った時とは全く別の雰囲気に思えた。
黒い影はみえない。
橋口さんが霊圧を測る。
「ここも屋敷の外と変わらないぐらいに下がってる。この屋敷の中で、誰かが霊を吸引しているか、霊を引き付けているとおもうケド」
「同意見だわ」
今日は門からこちらを覗かれることはない。屋敷の周りは警察が封鎖しているからだ。
だから中島さんと着た時とは違って、俺たちは堂々と門から屋敷へ通じる道を進んでいく。
「これだけ霊気がないと、気味悪いぐらいね」
冴島さんが独り言のように言うが、霊気を感じない俺には何が違うのか分からない。
と、突然、橋口さんが身構えた。
「そう楽はさせてもらえないみたいだケド」
「そうね」
俺には何がなんだかわからない。
ただ、そこからは大きな屋敷の姿が見えていた。洋風だけれど、どこかアジアの雰囲気がある。近現代風の建物だった。
「来たわよ!」
「麗子、この子、見えてないみたい」
「危ない!」
俺は飛び込んでくる冴島さんを抱きとめた。
直後、冴島さんの身体が弾かれるように俺にぶつかってくる。
そして冴島さんは苦痛に顔をゆがめた。
「えっ? 今の、なんなんです?」
「霊弾よ。低級霊をミサイルのように飛ばして生きているの」
「もしかして、今、そのミサイルみたいのに当たっちゃったんですか?」
「大丈夫、私は対処方法を知っているから。それより影山くん。あなたも霊弾を見えるようにしておかないと戦えないわ」
俺のこめかみに冴島さんの指があたる。
冴島さんは目を閉じて何かブツブツと唱える。
「これでいいはず」
「また来たんだケド」
橋口さんが指さす方向を見ると、炎に包まれた石のようなものが飛んでくるのが見えた。
それは放物線を描かない、でたらめに飛翔する物体だった。
「避けて!」
冴島さんは俺を突き飛ばした。
石は冴島さんをめがけて突っ込んでくる。
「冴島さん!」
俺が叫ぶのと同時に、冴島さんはパチン、と指を鳴らした。
「消えた」
「消したんじゃない。麗子は、霊弾を昇天させたんだケド」
「そうか、霊は霊なんですね」
道の左右の林からも、炎に包まれた石のようなものが飛んでくる。
「一斉に撃ってきたわね」
「麗子、逃げるわよ」
「逃げる? かんな! いつも見たいにムチで叩き落としてよ!」
「さっき火狼と戦った時に燃されちゃったわ」
「まったく! 役に立たないちんちくりん!」
「うるさい貧乳、早く走りなさい!」
俺たちは全員で、来た道を門の方向へ逃げる。
林から出てきた霊弾は、カーブしながら俺たちを追いかけてくる。
この数の霊弾をどうしたらいいのだろうか。
俺は思いついたことを口にした。
「冴島さん! GLPの『助逃壁』は効き目がありますか?」
「おっ、たぶん行けるっ! けど、もうすこし引き付けて霊弾が直線状に並ぶまで走るわよ」
あちこちから放たれた霊弾は俺たちを追尾して道なりに集まりつつあった。
ちらっと振り返った冴島さんが言う。
「準備して。『助逃壁』を使う時はカンナと私の力を加えるから勝手に使わないのよ」
「はい」
俺は逃げながら竜頭を回して『助逃壁』を選択しておく。
門近くまでやってくると、冴島さんが言った。
「振り返って!」
冴島さんと橋口さんは、腕を伸ばして俺の肩を押すように支える。
何か触れられた筋肉が痙攣するような感覚がある。




