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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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44/103

(44)

 トラックは民家の壁を壊し、建物に突っ込む。

 ヨロヨロと壊れた壁から運転手(ドライバー)が出てくる。

 家とトラックの間に、雷が直近に落ちたような光が数度、走る。

 バァーン、と破裂音がして、炎が上がった。

 女除霊士は逃げていく火狼(ほろう)を横目でみながら、運転手を助けに走った。




 走ってきた車は検問で止められた。

 警察官は運転手に言う。

「いまこの地域の通行は……」

 冴島さんが窓を開けると警察に何か見せ、言った。

「除霊士の冴島(さえじま)麗子(れいこ)です。緊急案件ですから通してください」

 若い警察官は冴島さんの方の窓をのぞき込むようにしてくる。

「えっ、除霊士……」

 冴島さんは手で窓を拭くかのように動かすと言う。 

「さっさと上席に確認するのよ」

「はぁ?」

 逆切れ気味の表情とは行動が違っていて、その若い警察官はすぐに無線で確認を始めた。

「もう一度先ほどの番号を……」

 耳で聞きとながら、冴島さんの出す身分証を確認している。

 そして、周りに合図して検問を開けさせる。

「どうぞお通りください」

 松岡さんが警察官に敬礼をすると、車が再び走り出した。

 立てこもり強盗が入ったコンビニを通過して、俺の住んでいた家の近くまでくると、松岡さんは車を止めた。

 松岡さんが扉を開けると冴島さんが車をおりた。

 扉をしめて、車にもどるかと思うと、松岡さんが電柱に駆け寄った。

 なんだろう、俺は松岡さんが立ちションでもするのかと思っていたら、電柱をなめるように見回しはじめる。

「?」

 冴島さんも松岡さんの行動に気付いた。

「まさか……」

「クゥーーン」

 俺は耳を疑った。

 あの松岡さんが、喉を鳴らすような声をあげたのだ。

 そして、そのまま周りをキョロキョロと気にしながら、車の運転席に戻っていく。

「冴島さん、松岡さんはどうしたんですか?」

「松岡は忠犬なのよ」

「……」

 急に理解を超えた話をされて、俺は何から聞いていいか迷った。

「えっと、そうじゃなくてですね。どうして喉を鳴らすような声をあげたのか、とかそういうところから説明してほしいんですけど」

「松岡には霊を憑けているの。それが忠犬の霊よ。私のしもべとして働いてもらう為に、本人同意の上で降霊したものなの。さっき喉を鳴らすような声をだした松岡の行動は、その忠犬の霊がおびえているということなの。おそらくだけど、あの電柱にマーキングした、より強い犬系の霊がこの近辺にいる、というわけ。先にここに入った除霊士の情報からすれば、あの電柱から感じ取ったのは『黒い火狼(ほろう)』でしょうね」

「黒いホロウ?」

 俺が聞き返すと、中島さんがスマフォの音声アシスタントにその言葉を聞いた。

 中島さんが俺に結果画面を見せる。

「火の狼、と書いてホロウっていうんですか。『黒い』ホロウ、ってことは黒いのに火の狼なんですか?」

「まあ、『黒い』ってのはあだ名みたいなものよ」

 俺は視野にものすごい形相でこちらを見つめる女性が目に入った。

 背が低く、この季節なのにコートを羽織っている。

 太っている…… わけではないようだ。胸周りがあついというべきなのか。

 怒りなのか憎しみなのか、こっちをみる目つきが厳しい。

 冴島さんも、中島さんも俺の方を向いていて、その女性に気が付かない。

 俺は言った。

「黒い火狼(ほろう)って、もしかして、あの人ですか?」

 指さすと、中島さんと冴島さんが一斉に振り返る。

 しかし、一瞬で俺の方に向き直って、同時に言う。

『違うわ』

 二人のの影に入り、その女性は見えなくなった。

「あれはちんちくりん」

 冴島さんがそういうと舌をだしてみせた。

「ちんちくりん?」

 中島さんが慌てて訂正する。

「先行してここを調査している除霊士の人よ。たしか名前は……」

 すると突然、中島さんと冴島さんが引き離され、そこからさっきの女性が現れた。

 女性は、すっと手を差し出してくると、言った。

「橋口かんなよ」

「影山です。よろしくお願いします」

 そう言って俺は握手をした。

「あら、ミドルネームが抜けているわよ。はしぐち、ちんちくりん、かんな」

「あなたのミドルネームを言っていいのかしら、冴島”貧乳”麗子さん」

 そういうと、橋口さんはおもむろにコートを脱いだ。

 そこには立派な乳房がついていた。これだけ胸があれば、太って見えたのも無理はない。むしろウエストはクビレている。

 俺は感動した。

「すごい!」

 俺のその声をきいてか、橋口さんは勝ち誇ったように腰に手を当てた。

「お、俺、生というか3Dというか、漫画やアニメ以外で『乳袋』を見るのって初めてです!」

 冴島さんは額に手を当ててつぶやく。

「良かったわね、カンナ、あなたが初めての人らしいわよ」

「ようやく私の勝ちを認めたか」

 冴島さんの顔を見てニヤリと微笑んだ。

「橋口さん…… あの、俺、さわってもいいですか?」

「ばっか、何言ってるの!」

 冴島さんが真っ赤な顔をして怒りだした。

「初めて会った人に対して、『乳袋』発言から含めて今まで全部セクハラだかんね」

「冴島さん、初めて会った、という条件はいらないです」

 メガネを指で直しながら、中島さんがそう付け加える。

 俺は空中に指でカーブを描きながら言った。

「この下乳がどう服を巻き込んでいるのか、謎だったんです」

「だからなに言ってるの」

「いいわよ。触っても」

『えっ?』

 と、俺と冴島さん、中島さん、三人の声がシンクロした。

「で…… では…… えんりょなく……」

 俺は震えながら手を伸ばしていた。

 すると、冴島さんがすっと、手を横に動かす。

「やめなさい」

 俺は手を引っ込めて気を付けの姿勢をとった。

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