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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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43/103

(43)

 美紅は自身の艶のある赤い唇を隠すようにマスクをしてから、その掃除機を受取る。

「そこらに居るのから集めていくか」

「はい」

 スイッチを入れる。掃除機についているカウンターがみるみる上がっていく。

「こ、この調子だと破裂……」

 男は美紅の様子をみて掃除機の本体を触る。

 ダイヤルをカチカチと回していく。

 まわす度に音がドンドン大きくなる。

「入っていた霊が抜けて……」

「少しフィルターを荒くした。この数だ。低級霊は見逃そう」

「はい」

 しばらく歩くと道路を警察が封鎖している。二人は脇道に入って、掃除機のスイッチを切った。

 男は住宅の塀を上り、そこで手をのばす。美紅はまず掃除機を渡すと、次に自らも壁の上に上がる。

 男は掃除機を持ちながら塀の上のスルスルと移動していく。

 小さく声が聞こえてくる。

「巡査長。この首に付けるシールは何なんですか?」

「つけろとの命令だ。疑問を持つな」

「気味悪いんですけど、外しても……」

「意味を言わなければ」

 別の男の声だった。

「サカキ警部補!」

「意味を言わなければ従わないだろう。このシールの意味も伝えていたはずだが」

 サングラスの男は聞こえてくる声に立ち止まった。

 美紅は言った。

「(警察の会話ですよ。早くここを抜けましょう)」

 サングラスの男は黙って息をひそめたままだった。

「このシールは霊に取りつかれないための魔除けだ」

「まよけ?」

「コンビニ強盗も、その犯人を射殺した警官も霊に取りつかれていた」

「サカキ警部補、それ本気で……」

「本気だよ」

 サングラスの男はそこまで聞くと、塀の上の行動を再開した。

 塀と塀を巧みにつたって警察の検問の裏を抜けると、そこからは塀を下りて何気なくそこを歩いていく。

 美紅が掃除機のスイッチを入れようとすると男が言った。

「待て」

 男は周囲を警戒する。

 美紅もそれとなく周りを確認するが、何かに気付く様子はない。

「……なにいますか」

「おそらく除霊士だ」

「冴島……」

 そう言って美紅は掃除機を構える。

「あら。除霊士は冴島だけじゃないのよ。忘れないで欲しいんだケド」

 街灯のしたに人影が見えた。

 その人影はかなり背が低くて、まるまるとした雰囲気だった。

「学生?」

 美紅がそう言うと、サングラスの男は笑った。

「学生だとよ…… クッ、クククク」

「お前が黒い火狼(ほろう)ね」

 街灯の下の女も、サングラスの男のことを知っているようだった。

 サングラスの男が進み出ると、街灯の下の女が後ろに下がった。すると灯りに照らされ姿が見えてくる。

 トレンチコートの内側に胸元が開いた紫のセーターを着ている。巨乳だったが、足は短い感じだ。

「”ちんちくりん除霊士”の『橋口(はしぐち)かんな』だろ」

「ちんちくりんとはなんだ」

「みたまんまを言ったまでだ」

 サングラスの男は笑った。

「そう…… 野生の火狼(ほろう)にはシツケがしつようってことネ」

 女除霊士は、右手を高く振り上げ、そして、投げ込むように振り下ろす。

 アスファルトに『パチィィィン』と音が響いた。

 サングラスの男は見えていたのか、軽くバックステップをしてかわしていた。

「ムチ?」

「この掃除機と同じ仕掛けだ。当たれば霊を、霊力を抜かれるぞ」

 サングラスの男は、腕を伸ばして美紅を下がらせた。

「ムチなんて、初めてみた」

「ばか、言ってないで逃げろ!」

 黒い火狼(ほろう)が言った時は遅かった。

「じゃあ、体に味あわせてあげる」

 再び、『パチィィィン!』と音が鳴り、美紅の足首に絡みついた。

「うわぁぁぁ……」

 片足を(むち)に引き込まれて、倒れた美紅は、そのまま電撃が走ったように体をくねらせる。

「霊力を抜かれるぞ!」

 火狼がムチを手で掴む。

「うあぁぁぁ……」

 掴んだ火狼(ほろう)は息を吐き出すように、うめき声をあげる。熱もないのに、ムチと接触した手からは煙が噴き出している。

「早く外すんだ」

 美紅は苦しみながら、足首に絡まったムチの先を外す。

 火狼(ほろう)は、ムチを掴んでいた手に右手を重ねる。

 体を使ってムチを引きながら、(おんな)除霊士(じょれいし)を睨みつけた。

「行けっ!」

 火狼(ほろう)の身体から陽炎のように黒く空気が歪むと、煙が出ていた手のあたりにもそれが伝わる。

 臨界を超えると、突然ムチが燃え上がった。

「なんだと! この鞭を霊的に燃やすなんて」

 女除霊士は焼かれまいと、上下、左右に激しく鞭を動かし、火狼(ほろう)の手を外そうとする。しかし、火狼(ほろう)の力を振り切ることは出来なかった。

 ふっ、とムチに伝わる力が弱まった。

 火狼(ほろう)はとっさに指をまいて周囲にいた『犬霊』を取り込むと、走ってきた大型トラックに向けて投げつけた。

 運転手はしびれたように全身が痙攣した後、憑かれたような表情で、女除霊士に向かってハンドルを切った。

「そうだ。そこに突っ込め」

 火狼(ほろう)がそう言うと、トラックの運転手はさらにアクセルを踏み込んだ。

 女除霊士はトラックの動きに気付いて、霊弾を撃つ先をトラックに変更する。

「間に合って!」

 女除霊士が手を放すと、ムチは空中で細かく分解されて消えていく。

 除霊士が撃った霊弾は、青白いビームのように大型トラックの運転席へ飛ぶ。

 その青白いビームは車体を突き抜けて運転手の『犬霊』を破壊し、赤い光に変えた。

 正気に戻った運転手はハンドルを操作し、ブレーキを踏み込む……

「間に合わない!」

 女除霊士は宙を飛ぶように、後ろに跳ね退いた。ノーステップからの十五メートルの大ジャンプ。

 大きなブレーキ音がしながら、タイヤが焦げる匂いがする。

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