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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(42)

「大丈夫。今頃昇天してるでしょうね。スパイごっこというか、こういう非日常経験をしたかった、という未練のある霊は意外と多いの。そういう霊はこういう任務を与えると満足して消えて行くわ。そのまま行員についていても、もう二度と非日常的な経験はないでしょうから」

 冴島さんはずっと窓の外を見ている。

「へえ。そういうものなんですね」

 ランドセルを背負った子供たちが歩道橋を渡っていく。

 大通りを曲がり静かな住宅街へと入っていった。

「着きました」

 松岡さんが冴島さんのドアを開ける。

 俺と中島さんは車の外に出ると、小さい家の前にたった。

「この家…… ですか」

 冴島さんが出てくる。

 逆に松岡さんは車の中に戻ってしまう。

「そうよ。早く押しなさい」

 冴島さんは躊躇なく門にあるインターフォンを押す。

「コウタケさんいらっしゃいますか?」

『はい。どなた?』

 インターフォン越しの声だから当然なのだが、その声は、何かとても遠い空間と話している気がした。

「冴島除霊事務所の者ですが。影山くんの学費の支払いの件で」

『ああ、ようやく来たのね。ちょっと私動けないのよ。鍵開けるから勝手に上がってきて』

 そう声がすると、玄関からカチャリ、と音がした。

「オートロック?」

「さあ? とにかく入りましょう」

 俺は自分の予感を口にした。

「ちょっと怪しいですよ。止めましょう。何かある気がする」

「ここまできて何言ってるのよ」

 冴島さんは家の扉を開けて中に入っていく。

 靴に不織布の袋をかぶせて、靴のまま上がっていく。

「えっ、ちょっと何やってんですか?」

「ほら、あなたも」

 俺は中島さんから冴島さん同様の不織布の袋を渡される。

「コウタケさん?」

 冴島さんが言いながら手招きする。

「ここ居間、ですかね?」

 三人は部屋の入り口で立ち止まっていた。

 左手には台所とダイニングテーブルが見える。この部屋には、冬はこたつになると思われる掘り下げられた部分とその上にあるテーブル、そしてテレビが置いてあった。

『いらっしゃい』

 と部屋が語り掛けた。

「えっ?」

 俺は驚いて、あちこちを見回すが、どこにも人の姿を見つけることが出来なかった。

 冴島さんと中島さんの様子を見る限り、二人にも聞こえているようだった。

「あなた、この家に()いている霊なの?」

 冴島さんがそう言った。

『私はそうよ。けれど身体もあるのよ。今はタイミングが悪くてここにはいないのだけれど』

「それはともかく、私達をここに招き入れた訳を教えて頂戴」

 俺は冴島さんに言った。

「冴島さんが、探り当てたんじゃないんですか?」

 冴島さんは部屋を見回しながら言った。

「影山くんの記憶はきっちり隠されている。このお婆さんの情報だけ見えることはないわ。お婆さんの意志だったと考えるのが自然なのよ」

『鋭いわね。じゃあ、今回の問題だけ伝えるわ。そこのこたつの上に鍵があるわね。その鍵を渡すから持っていきなさい。なんの鍵かはすぐわかるでしょ』

 見ると、こたつの上に鍵が置いてあった。

 俺は記憶をさかのぼったが、最初から置かれていたのに気付かなかったのか、今、突然現れたのか判らなかった。

『それと、テレビの横の写真。写メでも撮っておきなさい』

 最初に気付かなかっただけなのか、今現れたのか、テレビの横に、フォトフレームがあった。写真は家族のような四人が並んで写っていた。端にいる男は父、もう一方の端にいるのは…… 俺、だろうか。

「コウタケさん、あなたは何者なんですか? 何故学費を前納したんですか」

 中島さんが問いかけた。

『わかるでしょう。孫の幸せのためよ。今時、大学ぐらいでなくっちゃね』

「お婆ちゃん」

『記憶が戻ってから、本人に言っておくれ。いまは生き延びることを考えて』

「……どういうこと?」

 冴島さんが俺の方を向いた。

「今、私達は、この家に残っている残留思念とでもいう霊と話しているのね。本人はどこかで生きてるの」

「生霊?」

「まあ、言い方によっちゃそうなるけど……」

 俺は血縁者が生きている、と知って感激した。

 親兄弟はいなくとも、親戚の類がいるんだろう、とは思っていたが、つながりのある人を一人として思い出せなかった。

 俺はテレビのところにある写真をスマフォで写した。

 記憶にはないが、父、母、妹、自分。

 お互いが家族というよりは、知り合いのような、微妙な距離感で立っている。これが俺の家族、なのだろうか。

『はやく行きなさい』

「どこへ?」

 間髪入れず俺は答えた。

 冴島さんがため息をついてから言う。

「なんでこういう時には勘が働かないのかな?」

「……」

「屋敷よ。ほら。それも取って」

 こたつの上の鍵を指し示した。鍵はパチパチ、と光が爆ぜているように見えた。

 俺は手で目をこすり、よく見てから手を伸ばした。

 先端までの棒の部分が長い鍵。

「あっ!」

 俺は思わず中島さんを指さした。

 そして同時に口を開いた。

((これで門を閉めないといけなかったんだ))




「ちっ、こっちも検問か」

 サングラスをかけた男が、急ブレーキをかけて路肩を使って車を転回させる。

「警察も気づいたのか? 次々に屋敷への道を封鎖しているな」

「なら、歩きで行きましょう」

「……だな」

 男はゆっくりと車を流しながら駐車場を探した。 

「屋敷の近くで人質をとった強盗、それに対応した警察がろくな交渉もせずに犯人を射殺。屋敷近くを通過した大型トラックが民家に突っ込み爆発。報道はされてない、小さな窃盗や痴漢とかも多発しているに違いない。誰でもこの場所に何かあると思うだろう」

 車を停めると男は助手席に座っている女、美紅のシートベルトを外してやる。

 そして業務用のような大きな掃除機のようなものを車から出す。

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