(41)
テレビ放送は、ちょうどニュースの時間のようだった。
『コンビニ強盗は警察の手で射殺されました。発生からわずか二時間しか経っておらず、本当に射殺するしか手段がなかったのか、警察の対応に疑問が持たれます』
俺の住んでいた家の近くのコンビニに入った強盗事件のようだった。
「そんなことって……」
俺は中島さんの方を見た。
「……」
中島さんは何も言わなかった。
『今日明け方ごろ、大型トラックが民家に突っ込み爆発、火災が発生。爆発と火災により住宅三棟を消失、死者二名、重軽傷者六名の大事故があり、警察は計画的犯行の可能性も含めて、運転手の男から事情を聴いています』
「これも近くよ」
『これは先ほどお伝えしましたコンビニ強盗があった地点からわずか三百メートルしか離れていない住宅街で発生し……』
「……やっぱり」
俺は立ち上がった。
居ても立っても居られない、しかし理由も、何をすればいいのかも分からない。気持ちだけ焦っていた。
「うわっ!」
俺はそのままソファーに尻餅をついた。足首が縛られていたのだ。
「なんですか、これ?」
「冴島さんが言った通りになったわね。事情がわかるまで、あなたをここから出しては駄目と言われてるのよ」
俺は足首の紐をよく見た。紐の結び目がない。かといって、結び目が奥に隠れているわけではない。紐は一重なのだ。
「……」
「冴島さんの特殊な紐よ。最初から輪になっているものを着けて、コーやって締めたの」
中島さんが、手の平を俺の足首の方へ向けながらそう言った。
俺は端をつまんで引っ張れるか試してみる。輪ゴムのような伸び縮みする性質のものではない。
「お願いです。俺をもう一度あの屋敷のところに……」
所長室の扉が開いた。
「まだ出かけることは出来ないわよ」
冴島さんが入ってきた。
立ち止まらずに所長の机に回り込み、資料を置き、ノートPCを開いた。
「冴島さん! これを外してください」
冴島さんは口に人差し指をつけてみせた。
そして、テレビの方を見る。
『はい。こちらトラック爆発事件現場に来ている門脇です。私はレポーターをやってきてこれほど奇妙な現場に来たことがありません。今現在、救急車や警察の車両、消防車がひっきりなしにこの地域で動き回っています。あそこ、あそこで火が上がりました。今、ここで新たな事件、事故が次々と起こっているのです』
「なっ……」
俺が声を出すと、すかさず冴島さんが手のひらを下に向け、抑えるように下げてみせる。
「落ち着きなさい。あなたが事件の原因として関係しているのか、逆に、あなたがこの事件から影響を受けているのか、私も、なんにせよ無関係じゃない気はしてる。けれどどういう関わりなのかが分からないと、連れて行ったところで何も対処できないわ。それでは事件を悪化させるだけ」
「わかるんですか」
「今、やっているじゃない。あの画像のおばあちゃんに心当たりはないのね」
俺は首を縦にふった。
「あのお婆さんについて、すこしだけ心当たりがあるわ。玲香が以前調べた時にあなたの大学の学費を前納したという人物よ」
「あっ!」
中島さんが何か思い出したように言った。
「よく覚えていましたね。確かにお婆さんがやってきて、って」
「……影山くんと無関係な人じゃないのよ。血縁関係だって思った方がいい。あのお婆ちゃんに会う必要がありそうね」
「けど、俺、何も覚えて……」
俺はうつむいて床を見つめた。
「大学に振り込んだ銀行口座の情報を追ってお婆さんの住所がわかるわ」
「へっ?」
冴島さんはノートPCに素早く何か打ち込んでいる。
「ハッキング?」
「私がハッキングなんかできると思う? 私の霊力を使って調べているの。霊を憑依させた行員にリストを探させ、銀行からメールを打たせる訳」
俺は冴島さんのノートPCを指さした。
「じゃ、今カチャカチャやっていたのは?」
「昨夜テレビで見た気になるお菓子の通販サイトを探していたんだけど?」
俺はさっきとは別の意味でうつむいた。
早く答えを見つけないといけない。あの屋敷と俺が住んでいた家に何か関連があったに違いない。けれど記憶は戻るわけでもないし、自ら何かができる状況ではい。
ポン、と肩を叩かれた。
「大丈夫。なんとかするから。とにかく状況を確認しないと焦ってもだめよ」
「すみません」
「少し話しておきましょうか。警察関係者から情報を得ているの。事件が立て込んで同一地域で起きたので、除霊士が呼ばれたようね」
「あ…… 冴島さんと最初にあった居酒屋の事件」
「そうそう。あの時は私が警察に協力するため事件現場によばれたの。今回の同一地域の事件多発でも怪しいと判断すれば警察から呼ばれるわ。その情報からすると、付近に浮遊している悪霊の密度が都心の他の地域の平均値より四桁ほど違う異常値だそうよ。どこかに溜めておいたものが流れている、そんな気がするって」
「まさか……」
俺が言いかけたところを冴島さんが割り込むように話した。
「玲香と一緒に屋敷の中に入った時、沢山の霊を見たんでしょ。屋敷周辺に集まっていた霊が漏れ出している、のかもしれないわね」
「やっぱり俺が引っ越したせいですよ」
「そう決めつけないの」
冴島さんはノートPCで何か操作している。
「お婆さんの住所がわかったわ。会いに行きましょう」
俺は両足をまとめていた紐を右足だけに巻きつけられた。
「どうして外さないんですか」
冴島さんは振り返った。
「あなたを失いたくないからよ」
「それは俺を好きだとか、抱きたいとか言う感情……」
いきなり頬を叩かれた。
「セクハラ発言は禁止だって言ったでしょ。女の子に嫌われるぞ」
「はい……」
中島さんは後部座席に、俺は例のごとく助手席に座った。
松岡さんがナビに入力すると、車は走り出した。
俺はある疑問が浮かんだ。
「冴島さん、お婆さんの住所をメールした行員はどうなっちゃうんですか?」
「別に、自分の業務内で可能なことだから誰にも咎められないんじゃない? こんな夜中まで業務していたことは注意されるかもしれないけど」
俺はちらっとルームミラーで冴島さんを見た。
「そうじゃなくて、霊をつけたんですよね。その霊はどうなっちゃうんですか?」




