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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(40)

 考える前にそう口にしていた。

 俺は何か忘れている。あそこに住んでいた理由があったはずだ。

「なに? 忘れ物なら明日にしなさいよ」

「違うんです、このニュース」

「コンビニ立てこもり事件?」

 冴島さんがディスプレイを指さす。俺はうなずいた。

「影山くんのせいだとか?」

「そうだとは言い切れないんですが、そんな気がするんです」

 冴島さんは顎に指をあてて何か考えている。

「ここに入って一時間弱。荷物を移動してからとしても四時間弱だわ。たったそれだけの時間で何かが変わった、と判断するには短すぎる。大体、なにをしていたっていうの」

「記憶が出てこないから…… けど、何かがあるんです。俺の役目があるはずなんです。あそこに居なきゃいけない理由が……」

 思い出せないと話にならない。

 思い出そうとしても目を閉じてバットを振るぐらい空しい。探そうとしてる意志だけが空回りしている。

「……この前の機械、もう一度乗る気ある?」

 中島さんがソファーから立ち上がった。

 俺がうなずくと、中島さんが言った。

「すぐ手配します」

「お願い。じゃあ、これから除霊事務所に行くわよ」

 中島さんが二階に消えていき、冴島さんが電話をかけた。

 三分ほどして外に出ると、松岡さんが車を回して待っていた。

「お嬢様、こちらに」

「自分で締めるから早く車を出して」

 松岡さんは驚きもせずに運転席に乗り込む。俺も慌てて助手席に飛び込む。

 墓地の周りを走ってから、大きな通りにでると、坂を下るトンネルに入った。

 トンネルを出ると、にぎやかな街に出た。すぐの信号を曲がり、地下駐車場へと入って行く。

 エレベータ口で俺と冴島さんが降りる。

 冴島さんがエレベータにカードをかざすと、エレベータの呼び出しボタンが赤く高速点滅した。

「なんですか、今の?」

「普通はこのエレベータからは除霊事務所へのエレベータは使えないの。それを臨時につかえるようにしたってだけ」

 エレベータにのり除霊事務所に付くと、所長室に入った。

「玲香ちゃんが来る前に、あなたの中身を見やすいように準備をしておくわ。そこに座って」

 俺はソファーに座った。

「目をつぶって。何があっても開けろ、というまで目を開けないのよ」

 冴島さんは手をかざすようにして言う。しかし、そこに強制されているような力はなかった。

「はい」

 そう言って目を閉じると、何かが近づいてくるのを感じた。顔の前に何か来ている。

 かすかに呼吸音がする。まさか…… いや、目は開けれない。

「!」

 唇に柔らかいものがあたる。しばらくすると、フッと消えるように離れていく。

 この感触は冴島さんのアレに間違いないだろう。しかし、確認することは許されない。

 ギャグ漫画でありがちなネタとしてこれは、松岡さんのアレ、かもしれない。

 しかしとてもいい匂いだ。俺と冴島さん以外にこの所長室に入ってきたとも思えない。とすれば結論として、冴島さんの……

「はい、目を開けて」

 俺の間近に冴島さんの顔があった。冴島さんの綺麗な瞳の中に、俺が映っている。

 本当に、この唇が、俺の……

「少し寝ててもらうわよ」

 言われた時には、すでに(まぶた)が重くなっていた。




 サングラスをかけた男が、暗い部屋でタバコを咥えている。

 タバコの炎は、吸うたびに明るく光るだけで全く燃え進まない。部屋の扉が開くと、ショートボブにつややかで真っ赤な口紅をつけた女性が入ってくる。

「また失敗したな」

「……」

 女性は何も言わずに頭を下げる。

「しかし、事態は動き出した」

「?」

「わからんのか。それと、その男がキーではないことも明確になった」

 女は口を尖らせて何か言いかけた。

「キーとなるのはもうひとりの影山だ。俺もまだ見たことはないが」

「もうひとりの影山?」

「ああ。まあ、それに気づけたのはお前のおかげだよ」

 タバコを咥えて、大きく吸い込んだ。しかし炎は進まない。

 ふぅ、と大きく吐き出すと、女は軽く咳き込んでしまう。

 男は突然口が緩むと、笑い始める。

「ハッハッハ…… このことは冴島も気づいていまい。準備しろ」

「はい」

 女は業務用の大型の掃除機のようなものを引っ張り出す。

 男は真っ黒な薄手のコートを引っ掛けると部屋を後にした。

「待て。俺の車で行くぞ」

 女は緊張した面持ちになったが、うなずいた。

 エレベータで地下まで降り、駐車場を歩くと、黒いスポーツタイプの車の前に止まった。

 黒と言っても光を映すようなツヤはなかった。漆黒の車。早く走るために飾りを取り去って出来たくさび形。

 男が小さなスペースに女の持ってきた掃除機を入れる。

 女は車のドアの開け方が分からない。サングラスの男が後ろに回って、指先で軽くドアを開ける。

 寝そべるような恰好のシートに座るが、女はシートベルトの付け方も分からない。

「キャッ」

 男は女の股間に手を入れたかと思うと、直後にカチッと音がしてシートベルトが固定された。

 男の表情は分からなかったが、女は男の機嫌がいいことが分かった。

 イグニッションを回すと、地下の空間に爆発的なエンジン音が響き渡った。




「!」

「……起きたわね」

 どうやら俺はソファーに寝かされていたようで、俺の横の椅子に中島さんが座っていた。そこで中島さんも寝ていたようだった。

「どう…… でした?」

「分からない。あの屋敷のことは一切出てこなかったの。一つ明らかな映像があって、今冴島さんがいろいろ当たっているところ」

 中島さんがタブレットを操作して、俺の方へ向けた。

「唯一取り出せた映像はこのお婆さん。知ってる?」

 そこには白髪をカラフルに染め上げ、大きめのメガネをして微笑んでいる老婆が映っていた。記憶がある、と言えばある。どこで見たとか、これが誰だ、とか言われるとまったく引っかかるところがない。

「知ってはいるんですが、誰だとかどこであったとか、俺との関係とか……」

「……やっぱりそうなのね」

 中島さんはがっかりしたようにスマフォを操作し始めた。

「冴島さんが言っていた通りだった」

「すみません」

「あやまることはないわ。予想通りだったんだから」

 スマフォを操作し終わると、中島さんは言った。

「テレビでもみる?」

 俺は上体を起こしてソファーに座り直した。

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