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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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36/103

(36)

「……遠慮しとく」

 中島さんはスマフォを操作して、急に呼び出し音が聞こえてきた。

「誰にかけ……」

 口の前に指をあてた。

「しっ」

 中島さんがスマフォを耳に当てた。

「中島です…… 入ってみたんです…… 霊が大量で…… けど、結局、彼は何も思い出していないんです…… 今、彼の家に避難してます…… 大丈夫ですよ。間違いなんか起こしませんから…… えっ、あの…… 来ない方がいいと思いますよ。めっちゃ狭い…… だから、大丈夫。あっ、切れた」

「なんです、その会話」

「所長がここくるって」

「えっ、入れないですよ」

 俺は周りを見回した。縦に座れるが、座れるというだけだ。何しに来るというのだ。

「そう言ったんだけどね」

 コンコン、と扉を叩かれた。

「えっ、もう来たんですか?」

「そんなワケないでしょ」

 そう言って中島さんは笑った。俺は立ち上がって玄関へ移動した。

 扉の外に、屋敷から流れてきた霊がいるかもしれない。俺は覗いて扉の外を確認した。

 扉の外には、小柄な女性が立っている。

 つやのある真っ赤な口紅。

 見たことがあるような、ないような…… えっと…… 美紅さん。

「影山くん?」

 中島さんから呼びかけられる。

「……」

 俺はもう一度のぞき込む。そうだ。髪が長くて、雰囲気も違う。

 美紅さんじゃない。俺はそう思った。

 見ていると、扉の前の女性は扉を叩いてきた。

「あの…… お願いです。お願いです。開けてください」

 声も、俺の知っている美紅さんよりワントーン低い。やはり別人だ、と俺は思った。

 つまり…… 怪しい。

 あからさまに怪しい。

 さっきまで、そんな焦っている感じもなかった。

 俺は中島さんの方を振り返った。

「……」

 中島さんは無言で首を振った。つまり、同意見だということだ。

 俺は無視しようと思って、扉を離れようとした。

「待って、そこであなたを見かけて。頼れる人があなたしかいないのよ」

「?」

 急に声が変わった。美紅さんなのか……

 俺は扉から覗いてみる。

 カツラを手に持っていて、短い髪、そして内向きにカールしている。

 つやのある、魅力的な唇。

「美紅さん?」

 と、俺は思わず反応してしまった。

「あっ! たすけて、お願い、助けて。組織に追われてるの」

 ドンドン、と扉を叩いてくる。

「組織って?」

 俺が覗いている、と思っているのか、扉の穴の方に顔を近づけてくる。

「私、霊を集めていたのは知ってるでしょ? あれ、ある組織にやとわれて霊を集めていたの。けれど、もう抜けたいって言ったら、態度が豹変して」

「豹変して?」

「あたし、殺される。秘密を知ったものは生きて組織を抜けられないって!」

 すると、ガチャリと扉が開いた音がした。

「?」

 目の前の扉は開いていない。俺は中島さんを振り返るが、中島さんも分からず首を振る。

「うるせぇぞ、このアマ!」

「キャッ。止めてください!」

 俺は扉の外を覗き見た。

 組織の男かと思ったが、隣の部屋の住人が出てきていた。

 男は俺の部屋の扉を叩いてきた。

「こら、騒がしくするな。さっさと、この女を入れてやればいいだろうが! こっちは夜遅くまで働いて帰ってきたところなんだ。とにかく静かにしろ!」

 お前の声の方がよっぽどうるさい、とは言い返せなかった。

 俺は思い切って扉を開けた。

「話、聞くから中に入って」

 少しだけ開けた扉から、するっと美紅さんが入ってきた。

「最初っからそうしろ!」

 俺は隣人に頭を下げ、そっと扉を閉じた。

「良かった……」

 美紅さんが、ぶら下がるように俺の首の後ろに手を回してきた。

 胸を…… 胸をわざと当てて、体を動かしている、ように思えた。

「ね? 私が来て、良かったでしょ?」

 中島さんが冷たい視線を俺に送っていた。

「あの、他人(ひと)がみてるのでやめてくれませんか」

「えっ?」

 美紅さんが後ろを振り返り、中島さんの存在を確認した。

「あっ、ごめんなさい。あちら、彼女さん?」

 中島さんは立ち上がって、睨みながらこっちに向かってくる。 

 俺は怖くなって手を振った。

「あの、あの……」

 俺を飛び越えて、美紅さんの方に近づいていく。

「どういうお知り合いかしら」

「どういう関係か説明するのは、あなたの方じゃない?」

 顔と顔が近づく。

 光の加減か、中島さんのメガネが光ったような気がした。

「彼にトンネルに連れ込まれて、胸を触られた……」

「えっ、俺、胸なんて触ってないじゃん? そっちが勝手に押し付けてき……」

「お兄ちゃん?」

 言った中島さん自身、口を手で抑え、ビックリしている。

 言い方と言うか、イントネーションのせいなのだろう。俺には聞き覚えのある別の人物の声に聞こえた。だが、それが具体的にこんな人物、というのは思い出せない。俺に妹とかがいたのか…… だめだ。家族というものの記憶がない。一年より以前の記憶がないのと一緒だ。

「……」

「妹さんか。な〜んだ。そういうこと」

 美紅さんは勝ち誇ったような顔をして、腰に手を当てた。

「妹さんはどんなに好きでも結婚できないのよ。いくら妹でも、お兄ちゃんの自由恋愛の権利を奪うことは出来ないのよ」

 何を言いたいのか不明だが、美紅さんが俺の腕を強く引っ張って引き寄せた。

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