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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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35/103

(35)

 俺は左手で影をつまもうとするが、その影は全く手ごたえがない。

「う~~」

 目を凝らして、なんどかチャレンジすると、その影を掴むことが出来た。

『イタイイタイ…… はなせよ、はなせ』

「ねぇ、何やってるの影山くん逃げようよ」

 中島さんは俺の背中の方に回り込んで服を引っ張っている。

「大丈夫ですよ。この霊、痛がってる」 

 腕からはがし終えると、つまんだ黒い影を林の方へ放り投げた。

『おぼえてろよ』

 黒い影はぶるっと震えたように見えた。そして、スッと上昇して消えて行った。

「なに?」

 中島さんが聞くので、俺は答えた。

「おぼえてろって、言ってました」

 それを聞いて、中島さんは急に俺の背中をひっぱった。

「ちょっとまって、何か言ってたの?」

「ずっとしゃべってたじゃないですか?」

「霊の言葉がわかるの? さっきの黒い霊は影山くんの親族や知りあい、じゃないよね」

 冗談だと思って、俺は笑った。

「まさか。霊に知り合いがいるわけないじゃないですか」

 中島さんは手を振る。

「違う違う。親族や知り合いじゃない霊の言葉がわかるんだとしたら……」

「えっ? もしかして普通はあれ、聞こえないんですか?」

 俺の袖を引っ張る中島さんの手が震えた。

「君、ちょっとヤバいかも」

「どういうことですか?」

「それは私もわからないけど……」

 俺はGLPを付けると、林の先に気配を感じた。さっき黒い影が逃げて行った方向だった。

『おら、今度はさっきみたいにはいかないぞ』

 木の幹から、スッと黒い影が現れた。

「えっ、また出た」

『若造じゃねぇか、こんなのにつままれたのか』

 屋敷側に生えている低木の陰から、透明な空気のゆがみのようなものが現れた。

『いや、まてまて、なんかこいつ見覚えが……』

 最初の黒い影の横に、かすかな炎の球が現れた。

 中島さんがそれに気づいた。

「ひ、ひの玉…… に、逃げよう。やっぱりはいっちゃ行けなかったんだよ」

「見覚えって、俺のこと知ってるのか?」

 俺が言うと、火の玉は木の幹に隠れた。

『ビビるなって。束になって襲えば』

『俺たちの』

『勝利だ』

『時計は俺のモンだ』

 あっという間に多数の黒い影現れ、周りを囲まれた。

 さっきの霊はなんとかつまんで投げることが出来たが、この数から、自分と中島さんを守れるとは思えない。

 周りを見回して、一番数が少ない方向を探す。

「(逃げますよ)」

 中島さんに小さい声で囁く。

 小さく中島さんがうなずく。

「(あっち!)」

 中島さんの手を引きながら走り始める。門から屋敷に通じる通路に出ると、そのまま門の方向に走った。

 霊の群れも、俺たちを追いかけるように通路に出てきた。

「影山くん!」

 俺はGLPを屋敷方向に構えた。

 竜頭を回して『助逃壁』に合わせる。

 十分に霊を引き付けると、龍頭を押し込んだ。

 GLPから光る壁が飛び出し、霊をひとまとめに押しやりながら、屋敷の方向へ進んでいく。

「やった」

 俺は中島さんの方を追いかけて、そのまま敷地から逃げ出した。

 中島さんは門の横の扉のノブに紐を括りつけて固定した。

「これで、追ってこないかな?」

 中島さんも、俺も息が切れていた。

「屋敷の外には出てこないですよ」

 俺はなんとなく、この屋敷の壁や門があの霊を閉じ込めている、そう思っていた。

「なんでわかるの?」

「……なんとなく」

「楽観的すぎない? どっかに隠れたほうがよくない?」 

 屋敷の門の前の道の反対側に、俺が住んでいるアパートがある。

「よければ、そこ、俺のうちなんですけど?」

「えっと……」

 頭からつま先までをジロジロ見られた。

「わかった。とりあえずなんでもいいわ」

 俺たちは急いで道を渡って、アパートの階段を上り、俺の部屋に入った。

 狭い玄関を上がって、俺の狭い部屋に入る。

 暗い部屋に先に入っていき、灯りを点けた。

 部屋の全体が見える。ロフトがあって、上るための梯子がかかっている。

 中島さんがいきなり指をさして言う。

「……なにこのテレビ?」

「いや、別に。いろいろな用途に使うから、大きい方がいいかなって」

「部屋の半分、いや一辺を全部占めてるじゃない。せまくなるじゃん」

 確かに端から端近くまでテレビがある。ただ、これはスマフォもつなぐし、パソコンもつなぐ。テレビも見れば、ネットも見る。映像はほぼこれで済ましているのだ。一人で済むにはのこりのスペースがあれば十分だ。

「あと、なんで雨戸閉まってるの」

「窓、開けたことないんで」

「向こうは何があるの?」

 中島さんは雨戸に近づいて行って、内側の窓を開け始める。

「地図上から判断すれば、さっきの屋敷が正面に」

 そう聞くと、体がビクッと震えた。

「やめとこっか」

「そうですね」

「……」

 中島さんが上を指さす。

「寝床しかないですよ」

 中島さんは口をゆがめた。

「なんかないの?」

「えっと、飲み物とか食べ物とかの話ですか? それとも椅子とか座布団とか?」

「どっちも」

「座布団はないので、俺のジーンズ出しますから敷いて座ってください。冷えた水ならありますよ。けど、食うもんはないです…… いや、あった。キャベツがあります。千切りにしましょうか?」

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