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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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30/103

(30)

「はい。電力設備に憑いていた霊は俺がやりました」

「停電があると、篠原さんがくるからね」

「!」

 松岡さんの後ろで聞いていた篠原さんが、ハッとこちらをみた。

 香川さんは気づいているのかいないのか、視線を動かさないまま言葉をつづけた。

「篠原さんが来て、怒られるのが嬉しかった」

「えっ?」

 思わずそう言っていた。俺は怒られるのが楽しい、という意味が理解できなかった。

「本当は楽しいことを語り合いたいけど、篠原さんの声を聴けるなら、近くにいれるならそれで良かった」

「ああ、なるほど」

 俺は香川さんが単なる『M』ではないと思って安心した。

「だから霊を買ってきて、電力設備のところに撒いた」

「それ、どういう意味?」

 俺は思わず聞き返していた。霊を買う、とか撒く、とか初めて聞くような内容だった。

 冴島さんは口に人差し指を当てた。

「影山くんは黙ってて」

「えっ?」

「後で説明する。はい、続けて」

 香川さんはまだ同じところを見ていた。

「それでこのデータセンターは何度も停電して、何度も篠原さんが来た、ということです」

「えっ、じゃあ、サーバールームのゾンビは?」

「?」

 すこし間をおいて何を言われたのかを理解したように香川さんは、慌てて手を振った。

「違います。サーバールームには何もしていません」

「……」

 冴島さんは何か考えているような表情で、香川さんを見つめる。

 香川さんはさらに慌てて立ち上がる。

「違います。何もやってません。信じてください。本当です」

「そんなに慌てなくてもいいのよ」

 冴島さんはそう言った。

「影山くん、例の清掃員、今回は見なかった?」

「えっ…… あ、ちらっと見かけたような見かけてないような」

 冴島さんが俺の胸倉をつかんでくる。

「何そのいい加減な発言。見たの? 見てないの?」

「見たんですが、見失いました」

「何で言わないの? それ、重要事項よ」

 俺は手を合わせて頭を下げた。

「ごめんなさい。追いかけたら消えたようにいなくなってしまって。自分の見たものが信じられなくなっちゃったんです」

「……そうか」

「どうしたんですか」

 冴島さんは俺を放すと、警察を呼ぶように言った。

 どうやら、香川さんを器物破損や傷害未遂で警察に引き渡すようだった。

「自白すれば罪は軽くなるから」

「篠原さんでしたっけ? このデータセンターの社員さんですよね」

「はい」

 松岡さんの後ろから返事が聞こえた。

「ここの清掃員の名簿、できれば顔写真入りのものを見せていただけませんか」

「えっとそれは個人情報保護……」

 冴島さんは何もない空間で、片手でカーテンを開けるように手を横に動かした。

「至急用意します」

 篠原さんが荷物の中からノートPCを取り出して、冴島さんのところに持ってくる。

「契約している清掃会社の顔写真付き一覧です」

 冴島さんは画像をめくりながら確認している。

「ほら、影山くん。あなたが一番多く見てるはずなんだから、一番真剣にみなさい」

「は、はい」

 何枚かめくっていると、テントにやってきたあの女性そっくりなひとがいた。

「これ、これです」

七尾(ななお)美紅(みく)…… ふぅん。まあ、名前とかは当てにならないでしょうけど、この情報は控えさせてもらうわよ」

 篠原さんが首を横に振ろうとすると、冴島さんがまた手を横に払った。

「はい」

「けど、この前も『美紅(みく)』って名乗ってました」

 冴島さんが俺の腹に拳を押し込んできた。

「いてっ」

「はい。ありがとう。じゃあ、電力設備の除霊だけするから案内してくれませんか」

 篠原さんがノートPCを閉じて、言った。

「わかりました。案内します。こちらへ」

 篠原さんを先頭に、冴島さんと俺と松岡さんがついて階段を下りて行った。

 地下二階まで降りると、配電盤とその奥には非常用電源設備があった。

「あれ? なんか歪んでる」

 俺は配電盤の一部が、有名なダリの絵のように、溶けたように歪んで見えた。

「歪んでいる…… とは?」

 篠原さんが不思議そうに言った。

「気にしないでください。この配電盤は香川さんの証言の通り、霊を撒かれていますね」

「そう…… なんですか」

「警察の現場検証もあるでしょうから」

 冴島さんはそう言うと、カバンから小さい短冊状の紙を取り出して、さっと筆で何かを書いた。

 そしてそのまま配電盤に付けた。

「あっ、歪みが……」

 俺はじっとその短冊を見た。そして上からそっと手を置いてみる。

「取ってみてもいいですか?」

「すぐ付けるならいいわよ」

 俺は紙を取ってみた。裏にノリがついているわけでもない。

 そして同じ場所に紙を付けてみた。紙が付けられ、配電盤のゆがみが正されることによって、その紙が接着しているようだった。紙がついている限りゆがみはないが、紙が取れればゆがみが戻る。

「へぇ」

「警察が調べるときまで、これははがさないでください」

「警察がきたらはがすんですか?」

「警察の人が剥がしてくれます。警察の調査が必要なんです」

「はあ」

 篠原さんは不安げな表情を見せた。

「お札が貼ってある間は霊による停電はありませんからご心配なく」




 俺は冴島さんの車で家まで送ってもらうことになった。

 今回の事件で疑問に思っていることをたずねた。

「結局、ゾンビは何だったんですか? 香川さんが持ち込んだわけではないんでしょう?」

窓の外を見ながら、俺は香川さんの顔を思い浮かべていた。

「そうね。香川じゃないとすれば、清掃員が持ち込んだ可能性が高いわ」

「……なんのために?」

「最初に話してなかったっけ? このデータセンターを使っている企業が業績が下がってるって。たぶんライバル会社がそれを目的にしかけたんじゃないかしら」

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