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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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25/103

(25)

 ガシャガシャ、と何度ひねってもビクともしない。近くのゾンビがもう手を伸ばせば届くところに来ていた。

「あっちいけ!」

 俺はまっすぐ足を突き出して動く死体を押し戻すように蹴った。

 動く死体はよろよろと左右に揺れながら後ずさりしていく。もしかしたら、これで何とかなるかも。俺はもう一体にも同じように蹴りをかました。

「うわっ……」

 今度は調子に乗って強く蹴ったせいか、動く死体の腹を蹴り抜いてしまった。抜けなくなった足を、ゆっくりと動く死体の手でつかまえられてしまう。

 ひっくり返りそうになりながら、俺はGLPの竜頭を回していた。

「何か役に立つもの……」

 ただ役に立つのではだめだ。そこに死体がいるのだ。間違ったものを出している時間はない。

「あっ」

 俺は思い出して竜頭をクルクル回して合わせた。そして竜頭を強く押し込んだ。

 GLPから煙のようなガスが吹き出しているように見えた。いやGLPであるからには、これはガスではなく霊気なのだ。霊気を通すと向こう側にいるゾンビ達が歪んで見える。

 歪みが急に収まった時、俺はそこに手を伸ばした。

「来た!」

 確かな手応えがあった。

「いくぜ『鉄龍』」

 俺の手には綺麗な細工が施してある鉄製の杖が握られていた。

 素早く突きを繰り出すと、俺の足を押さえていたゾンビが崩れていった。

 単純に叩いただけの力ではないな、と俺は思った。何か霊力が加わっているのだ。行ける。

 俺は積極的にゾンビを突きに向かった。ゾンビは床にどんどん崩れていき、床を埋め尽くしていった。

 暗い上に崩れたゾンビの体が足に掛かって、歩くことも困難になってきた。

 動く影が減ったな、と思った時、ふと手に持っている『鉄龍』の状況に気付いた。

「まずい……」 

 『鉄龍』が短くなっているのだ。推測だが、霊力をすり減らしてしまったのだ。サーバールームの電気が回復していない今、外に逃げれないこの状態で『鉄龍』を失うのは死に直結する。

 とにかく、温存しないと。

 俺は再びサーバールームの出入り口。監視カメラの下に戻った。カードリーダーも監視カメラも電源は戻っていない。

 俺は扉を叩いて廊下側に音を伝えることにした。通りかかった人が気づき、開けてくれるかもしれない。

「誰かっ」

 ドンドン、と扉を叩く。扉を叩く手が赤くなっているのに気付いた時、突然、電気が復旧した。

「?」

 足もとに転がっていた動く肉片が、氷が溶けてなくなるように透明な液体となり、どこかへ吸い込まれるように消え行った。

「なんだったんだ?」

 俺はとにかくカードを操作し、サーバールームを出て監視室に戻った。

「先輩、大変です……」

 見ると、部屋の中にスーツを着た正社員らしい人が三人いた。一人の男は腕を組んで黙っている。もう一人の男は議事録を取っているのか、誰かが話す度にノートPCのキーボードをたたいている。最後の一人は女性で、怒りをあらわにしている。その女性の前に、先輩が正座している。

「なんで最初の停電時に連絡しないの。あなたが先輩なら、停電後はあなたが行くべきでしょう」

「すみません」

 先輩が頭を床に擦り付けそうなほど下げ、謝っている。

「なんでそんな判断もできないの。ここ最近同じことの繰り返しよ」

 女性は自身の手帳を取り出して、赤くしるしをした日付を叩いて数えた。

「すみません」

 また叩く。

「すみません」

「何度も謝らなくていいの。言われたことを直しなさい…… あれ?」

 スーツの三人が俺の声に気付いて、一斉にこっちをみた。

「すみません。サーバールームを見てきたんですが、あのゾンビが出まして」

「はぁ? 何寝ぼけたこといってんの?」

「本当です。動く死体。生ける屍、リビングデッドってやつです」

「あなたが新人ね。まったくサーバールームで寝ぼけたことしないで」

 俺は監視カメラの映像を映しているモニター前に行き、リモコンを操作した。

「……」

「早く見せなさいよ」

 俺は再生方法を教わっていなかった。

「先輩どうするんでしたっけ?」

「……やめろ影山。言い訳なんか。俺が怒られれば済むことなんだよ」

「映っているはずなんですよ。俺、スマフォで照らしたんだから。再生方法を教えてください」

 先輩は俺を両手で押して、カメラの前から離れさせた。

 俺が持っていたリモコンを取り上げ、言った。

「休憩室で休憩してこい」

 物凄い形相だった。

「篠原さん、すみませんでした」

 先輩はスーツの女性にそう言った。

「香川くんはカメラ映像を確認しなくていいのね?」

「はい」

 先輩は手で俺を追い払うようなしぐさをした。

 俺は黙って監視室を出た。

「あれ?」

 監視室を出て、休憩室に向かうところで手首の違和感にきづいた。どうやらGLPが何か反応していたようだった。

「そういや、これって」

 GLPが反応するのはこれが初めてではない。工事現場の警備のバイトの時も、トンネルの時も、何かGLPが察知しているような気がする。もしかすると、あの中に霊を導いた人間が、いや内在させている人間がいるのかもしれない。

 俺は休憩室に入り、ソファーに体を預けた。

「誰だろう……」

 鬼気迫っているとすれば、あの篠原さんとかいうスーツの女性だ。あんなヒステリックに怒っているのは尋常じゃない。それを他の二人も止めるわけじゃない。女性の霊の力で、二人の男は押さえつけられているのかもしれない。

 そんなことを考えている時、休憩室の扉が開いて男の人が入ってきた。

「!」

 俺は、扉の先の廊下に清掃作業員を見つけた。

「あの時の!」

 慌ててソファーから立ち上がり、扉を再び開けて清掃員が行ったであろう方向を追った。

 建築現場でも、トンネルの時も現れた。間違うわけがない。

 通路の突き当りに来て、左右を見回すが動く者は見当たらない。

 見失ったか。俺は一か八か、右の方向へ進んだ。

 その廊下は、どこに通じている訳でもなく、行き止まりになっていた。

 何もないわけではなく、パイプスペースに通じる小さい金属の扉があった。

「?」

 懸命に壁を見回したが、不審な部分はなく俺は休憩室に引き返した。




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