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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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23/103

(23)

 扉がノックされ、看護師が入ってきた。

 短い髪の、若い看護師だった。

 一瞬、冴島さんの顔色が変わったようだった。

「どうですか?」

 看護師は軽く笑みを浮かべながら、俺の方を向く。

 俺はつながっている点滴の先を見て言った。

「もう終わりました」

「あっ、そうですね。じゃあ取り替えますね。次で終わりですから」

「あの看護婦さん、俺、固形物食べてもいいんですか?」

 ちらっと冴島さんの剥いているリンゴに視線を向ける。

「ええ、影山さんはどこか体が悪いわけではなくて、ただの栄養失調ですから。食べれるものは食べて、元気つけてくださいね」

 看護師は、冴島さんの方をジロジロ見つめる。

「お姉さまですか?」

 冴島さんはニッコリ笑うと言った。

「いえ。雇い主です」

「雇い主? 社長さん…… とか?」

「ええ。まあそんなところです」

 看護師は興味を持ったように冴島さんの頭のてっぺんからつま先までの舐め回すように見た。

「社長さんが大学生のバイトのためにリンゴを剥くんですか?」

「ええ。うちの会社では剥きますけど」

 心のなかで俺のためだ、と言われたことに感激する。

「ほら、影山くん。あーん」

 自分がにやけていることを感じながら、ベッドから頭を少し上げ、口を開く。

「失礼します」

 と言って看護師が出ていくと、切ったリンゴが、勢いよく押し込まれる。

「あいすうんえうあ(なにするんですか)」

 冴島さんはリンゴの皮をゴミ箱に捨てて立ち上がる。

「若い看護師に色目を使うからよ」

「そんなことしてないですよ」

「じゃあなんであの看護師がリンゴ剥いてるだけで突っかかってくるのよ。事前に何かあったとしか思えない」

 俺はため息をついた。

「なにそのため息? こっちがため息つきたいわよ。元気そうだから、もう私は帰るわよ。明後日からだから、仕事はちゃんとやってね」

「は、はい」

 冴島さんはとっとと出ていってしまった。




 幸いなことに翌日には退院して、冴島さんからの依頼のバイトに間に合った。都心から少し離れたデータセンターでのバイトだった。初日にはデータセンターの出入り管理システムを通る関係で指紋を登録し、カードを与えられた。一日に見て回るサーバーを教えられ、提出するレポートの見方を教えられた。

 冴島さんが言っていた通り、HDDが壊れれば引っこ抜いて交換し、バックアップでいっぱいになればテープを取り出して交換し、取り出したテープは規定の保管場所に収納する。ハード故障がないかサーバーのLEDを目視でチェックして、紙にメモする。

 そして勤務時間がいきなり24時間だった。

 いや、会社側は実際は休憩を与えているから16時間拘束するが、実労働は8時間ということだった。だが、俺は初日のレクチャーが必要なため、それらをあわせて24時間ということだ。つまり公には8時間労働だが、実質は24時間ということになる。

 先輩たちも16時間の拘束のあとにレポートをエクセルに入れ直しているから、実質はもっと拘束されているらしい。俺たちがやっているんだから、お前もやって当然という、体育会系的なブラック企業の理論だった。

 15、6列あるサーバーラックの谷間を3フロア分ほど歩いていると、何時間経過したのかがわからなくなってきた。書き込んできたレポートを見ると、この列のサーバーのチェックをすれば最後だ。サーバーを冷やすために部屋は冷気が流れていた。人間からすると寒いのだが、サーバー様には適温なのだろう。いや、もっと寒くてもいいくらいか。

 やっと俺はチェックを終えて監視室に戻ってきた。

「おつかれ」

 とバイト先の先輩が言った。

「無事終わりました」

「じゃあ、そのレポートをエクセル打ちして印刷して報告してくれ」

 一枚に5台のサーバー分の記載がある。ほほ1ラックで1枚使用するから、5掛ける16列、80台の3フロア…… 約240台の様子をこれからエクセル打ちして、印刷したものをファイルに閉じ込んで終わりだ。先輩はただみているだけじゃない。俺の手書きレポートとエクセル打ちした印刷物を比較して、入力ミスがないかチェックするのだ。間違えていれば俺が入力し直しだ。

 入力はかなり古いパソコンを用いて行わねばならず、入力の度にストレスがたまる。

 半分を超えた、と思って、とりあえず保存のボタンを押そうとした時、画面が消えた。同時に監視室の明かりもすべて消えた。赤いランプがクルクルと周り始めて(警察車両とかが付けているあれと似ている)それが部屋の中を照らした。数秒するとオレンジ色の灯りがついた。

「な、なんなんです?」

「停電だ。最近やたら停電が多いんだ。勘弁してほしいな」

「停電、って、マジっすか。さっき調べたサーバーは? こんな停電があったても大丈夫なんですか?」

「サーバーは無事だろう。あっちはこの部屋よりずっと高価な非常電源装置で守られているからな。それにラック毎にUPSもある。それより、俺にとってはお前の入力していたデータの方が重要なんだが」

 そう言うと、先輩は椅子を滑らせてこっちにやってきた。

「あっ…… そうか」

「いつセーブしたんだよ?」

「あっ、いや、今、まさに、する直前……」

 先輩は疲れたようにうつむいた。

「おいおいおいおい。まさか、全部入れ直し?」

 俺は声には出せず、ゆっくりとうなずく。

「勘弁してくれよ。誰がそれチェックすると思ってんだよ。またお前が打つのを待ってなきゃいけないのかよ」

「すみません。もっと早くやりますから」

「……早くやるより確実にやろうな。セーブはこまめにするんだ」

「は、はい」

 俺が返事をすると、ガツン、と音がして、いつもの白い蛍光灯の明かりに切り替わった。また、同時赤いサイレンが止まり、黄色いサイレンが回り始めた。

 それを見て、先輩は額に手を当てた。

「うわっ……」

「えっ? このサイレンは何なんですか?」

「全サーバーの再巡回だよ。停電の度合いによってこれが回る。これが回ったら、もう一周サーバーを点検するしかない。それも、お前がな」

 俺は口に手を当てた。

 もう一度240台近いサーバーを回るかと思うと、いつ家に帰れるのかと思ってゾッとした。

「ただ、さっきのとは違って、LEDだけ見て記録してくればいい。テープやHDDの取り換えはないから」

「いや、それはいいですけど……」

「交代直前だから、俺たちがやらないといけないんだ。ついてないよ」

 このデータを入力したら、またレポートを持ってサーバー巡りだ。

 まずはクソ反応が遅いパソコンでレポートを入力し終え、印刷をして、先輩のチェックを終えた。

 俺はレポートを持って、最初のサーバー室に入る。

「えっと……」

 サーバーラックの列の端についているカードリーダーに、首にぶら下げた沢山のカードから最初の番号が書かれたカードをみつけて当てる。個々のサーバーラックの取っ手についているLEDが光って、サーバーラックの扉が解錠したことがわかる。俺は急いで該当のサーバーラックの前に行き、ラックを開く。

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