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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(21)




 部屋にはタバコをくわえた男が立っていた。男は黒いスーツに、黒いネクタイをしていて、暗い部屋にも関わらず、黒いサングラスをしていた。タバコは吸っても吸っても、光る部分が進んでいかない。

 扉が開くと、清掃員のような恰好をした女性が、掃除機を持って入ってくる。

「回収できたようだな。それはここに置いてくれ」

 女性はマスクをしたまましゃべり始めた。

「冴島除霊事務所の男ですが、あの影山と考えるべきだと思います」

べきだとおもいます(・・・・・・・・・)、というのはどういうことだ?」

「確実にあの影山家の人間かどうかを確かめられてはいません。あくまで接触した感じですが」

 黒いスーツの男の口元が歪んだ。

「君の『感じ』とやらに頼るわけにはいかないんだ。早く調べたまえ。そして、本当に影山家の長男だとしたら、我々の仲間に引き込むんだ」

「工事現場での状況ですが、おそらく冴島と契約しています。冴島の命令(コマンド)が入るところを見ました」

「ふん。どれだけのレベルの契約をしたかしらんが、そんなのはどうとでもなる。問題はその男が本物かどうかだ」

「本物?」

 黒いスーツの男は、ため息をついてから、離し始めた。

「影山家の事件の後、影山家の長男を名乗るいかさま霊能者が山ほど現れた。俺も長男を名乗る何人かに会ったが、すぐわかるような低能だった」

「……であれば。冴島除霊事務所の男はすくなくとも低能ではないと」

「いいから戸籍でもなんでもいい。影山家とのつながりがあるか調べるんだ」

 黒いスーツの男は、追い払うような仕草をした。清掃員の恰好をした女性は頭を下げると、そのまま部屋を出て行った。




 俺は都心の高層ビルの高層階に呼び出されていた。エレベータを降りた廊下には絨毯がひかれていてまるでホテルのような静寂さがあった。いくつか立派な扉を通りすぎ、プレートがつけられている扉を見つけた。

 一呼吸おいて、扉の横にあるインターフォンを押すと、受け付けの女性の声がした。

「冴島除霊事務所です」

「か、影山ですが。冴島さんに言われて来ました」

「……バイトの影山さんですね。その扉の一つ左の扉です。今開けますから入ってください」

「はい」

 俺は廊下をさらに奥へと向かい、扉が開くのを待っていた。

 カチャリ、と小さい音がしたが、扉が開く様子はなかった。

 三、四分まったが扉が開く様子がなかったので、もう一度インターフォンのある扉に戻った。

「冴島除霊事務所です」

「影山です、扉が開かないんですが」

「バイトの影山くんね。この扉の一つ左。一つ左の扉ですよ。今開けますから」

 俺はまた奥の扉に向かった。

 扉が開くものだと思っているが間違いなのだろうか。判断がつかないままじっとしていると、またカチャリ、と音がした。そうか、と思い俺は扉のレバーを押し下げようとした。

「あれ? やっぱり開かない……」

 ガチャガチャと何度もやってみるがビクともしない。

 俺は仕方なくインターフォンに戻った。

「冴島除霊事務所です」

「影山ですが……」

「いい加減にして。一つ左の扉よ。ほら、開けたから入りなさい」

 俺はそのまま体をそらして左の扉を見た。

「開いてないですよ?」

「……」

 インターフォンのランプが消えた。

 正面の扉が急に開いて、スーツ姿の女性が現れた。ショートカットで、金属フレームのメガネをかけている。

「扉は開きません。鍵をあけてるんです。あなたがレバーを押し下げて、扉を開けるんです。わかりましたか?」

 苛立ったような感じだった。俺は申し訳ないと頭をさげた。

 女性は指で左側の扉の方を指図した。

「あと、扉を開けないで時間がたつと自動的に鍵がかかるの。早く開けること」

 女性はそう言うと、目の前の扉が閉まって、インターフォンから声が聞こえた。

「今あけたから入ってください」

 俺は急いで左の扉に行き、レバーを押し下げる。ようやく扉が開いて、中に入れた。

「うっ?」

 つるピカ頭で、袈裟を着た人物がこっちを睨んでいた。俺は何も言わずにじっと見ていると、それが生きているものではなく、人形である事に気づいた。

「な、なんだ……」

 奥で扉が開く音がした。

「どうしたの? そんなところで固まって」

「……」

 冴島さんは袈裟を着た人形の肩をぽんと叩いた。

「ああ、これ? 私のおじいさんよ。冴島除霊事務所の創業者」

 冴島さんは衝立の先にあるテーブルに行くのを見て、俺もそれについていく。

 錫杖がシャリン、となった。

「えっ?」

 俺は袈裟を来た人形を振り返った。どう聞いてもそこから音がしたからだ。

「い、今動きませんでしたか?」

「あれ、創業者のおじいさんよ。もしかして挨拶してないの?」

「えっ、に、人形だと思っていました」

「……だって。だとしたらよく出来た人形よねぇ」

 冴島さんはまたおじいさんの肩をポンポンと叩く。

「えっ、でもピタッとして動かなかったですよ…… こ、こんにちは、はじめまして」

 冴島さんはテーブルに戻っている。

「おじいさん、こちらに座りませんか?」

 テーブルの方から冴島さんの笑い声が聞こえる。

「ほら、人形と遊んでないで、こっちに来なさい」

「えっ、に、人形? 騙したんですか? なんだ、やっぱり人形じゃないですか…… けど、さっきの錫杖の音は??」

 確かに耳に残っている。錫杖についている輪が鳴ったのだ。間違いない。

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