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家族

「弾は十分だな」


 超電磁砲の弾は十分にたまった。チタン合金十立方メートルくらいだろうか。全部まとめて撃てば、地平線の彼方まで届きそうだ。


「創造できるのはいいが、魔力がどんどんなくなってく。無闇には使えない、か」


 創造は、何もないところから物体を産み出すため、一つ物質を産み出すには魔力量が上級魔法一発分も必要なのだ。


「あと二時間と三十分だ。・・・・・暇だし、海の魔獣でも狩っとくか」


 半径一キロで探知をかける。海の中には複数の反応が見つかった。いずれも大地の一パーセントにも満たない魔獣しかいない。


「錬成」


 周囲の空気を集め身に纏う。半径二メートル程度の玉の中に入っているような感じだ。


「これなら水中でも呼吸ができる。活動が広がる」


 海の中へとはいる。当然だが、魔獣以外にも魚はいる。陸から離れ、三百メートルの地点。深さはすでに、四十メートルに達している。


「空気に入っているせいで水に浮かべないのが欠点か。改善できるか?」


 ぶつぶつと独り言をいいながらその場で立ち止まる大地。


「放電、錬成」


 放電で水を電気分解することで、酸素と水素が出てくる。それを錬成で空気の玉に加えることで、玉が大きくなるのだ。


「大きさは半径十五メートルといった感じか」


 半径十五メートルの玉が出来上がった。これだけ大きければ、魔獣が飛び込んできても大地には届かず地面に落ちるだろう。


「お、早速一匹来たみたいだな」


 勢いよく突進してきたマグロのような魔獣は、案の定大地には届かずに失速し、落ちた。


「軽くさばいてみるか」


 大きさは一メートルほどの魔獣を、刀でさばき出す。ザクザクと、切るたびに血が吹き出る。


「大したことないな。肉は不味そうなうえに硬い」


 ぽいっと海の中に戻す。ここでもう少し、気をつけていればよかったのだが、大地は何も気が付かないまま、さっさと歩いていってしまった。


 大地が去ったあと、さばかれた魔獣が、何者かに咀嚼(そしゃく)されていた。


「これで五十六」


 飛び込んできた魔獣を五十六匹殺した。大地から攻撃したわけではない。魔獣が自分から飛び込んできたのだ。


「魔石はなかなか見ないものばかりだ。海の魔石ってのは貴重なのか?」


 陸地では取れない魔石に驚きつつ、飛び込んでくる魔獣を殺していく。


「さて、そろそろ出るか。陸地からもだいぶ離れちまったからな」


 大地は今、陸地から三キロ離れたところにいる。さすがに離れすぎてしまったため、そろそろ戻ることにしたのだが。


「ん?」


 何かの違和感に気づいた。潮の流れとは違う。魚が泳ぐ音でもない。なにか巨大なものが、高速で大地に接近して来ていた。


「探知っ」


 魔獣がどんどん飛び込んでくるため、大地は探知を使っていなかったのだ。それ故に、近づいてくるものに気付くことが出来なかった。


「ちっ。魔力反応がイリスと同等だ。やばい」


 何かはすでに、百メートル近くにまで来ていた。泳ぐスピードが異常に速い。


超電磁砲(レールガン)


 野球ボールくらいのチタン合金をだし、陸に向けて放った。野球ボールくらいの弾ならば、陸にぶつかる前に溶けきってしまうのだが、そこは大地の知恵が入っていた。


「冷やせば溶けねぇだろ」


 周囲は海水。冷たい水の中を突き進む合金は、熱を発するが、すぐに冷やされる。つまり、水中ならほぼ無限に進んでいくのだ。


「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン」


 超電磁砲を放った瞬間。何かが大地に攻撃を仕掛けてきた。


「電撃の剣。ふんっ」


 急ぎ電撃の剣を作り出すと、向かってくる何かを刀で切り落とした。


「タコか?」


 ボトリと落ちたそれは、タコの足だった。もっとも、大きさは足の先っぽだけでも三メートルもあるが。


「ちっ。クラーケンか」


 足の主はクラーケンだった。以前浜で戦ったクラーケンよりも一回りも二回りも大きい。


「やばいな。・・・・・逃げるが勝ちだっ」


 強化十倍で走り出す。超電磁砲で水中にあけた穴を、ギュンと突き抜ける。


「ぐっ」


 あと五十メートルで陸に到達できるというところで、大地はクラーケンの触手に弾かれた。


「くそが」


 高い水柱をあげ、海上に吹き飛ばされる大地。どうやらクラーケンは大きさだけではなく、強さも以前よりも高いようだ。


「これでも食っとけっ」


 陸から五十メートルの地点で海が浅くなったせいか、クラーケンの姿がよく見える。大きさは以前よりも五十メートルも大きい百五十メートル。


「超電磁砲」


 突風を撒き散らしながら一直線に超電磁砲が突き進む。


「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン」


 クラーケンの触手を一本ぶっ千切る。根本から千切られたクラーケンは、狂ったように大地には触手を放った。


「弱いっての」


 放たれた触手にうまく乗り、走った。クラーケンも触手を走られるとは思わなかったのか、動揺している。


「至近距離の焔。避けられるか?」

「フゥゥ」


 威嚇しようと咆哮をあげようとしたクラーケンだったが、一瞬で大地の焔にかきけされた。


「さすがに焦げないか。ならっ」


 以前とは同じようにいかない。焔でも焦げないクラーケンに、大地は次なる手を打った。


「水の生き物なら、電気はよく通るよなぁっ」


 強く跳躍し、クラーケンの目の高さと同じ位置で、大地は諸刃(もろは)の剣を使った。


「神級魔法、邪滅龍雷」


 カッと光に包まれたクラーケンは、光が消えることには跡形もなく消えていた。


「やば、ちょっと強かった」


 神級魔法は、魔力を一気に全部使うため、使うと動けなくなるのだ。そこをうまくカバーするのが大地。


「邪滅龍雷の勢いを利用して陸に行こうとしたんだが、間違えたな」


 神級魔法を撃った時の力を利用して、陸吹き飛ばされたのだ。そこまではいいのだが、強すぎる神級魔法は思った以上に速く強く陸に到着してしまった。


「ぐっ」


 砂柱をあげ、大地は浜に倒れていた。おそらく意識はない。あと二時間もすれば目覚めるだろう。


 二時間後。ちょうどイリス達も起きているであろう時間帯。大地はゆっくりと意識を覚醒させた。


「しまった。あれからどれくらい経ったんだ?」


 しばらくは意識を失っていたことに気付いた大地は、急ぎ足でイリス達の元へと向かう。魔力が僅かしかないせいか、息が荒い。


 バタンと勢いよくドアを開ける。息を切らしている大地に、六人の少女の視線が集まる。


「大地、どこ行ってたの?」

「待ちくたびれました」

「おにいちゃん。おはよ」

「遅いじゃない」

「おかえり大地」

「いきなり気絶してしまうとは、情けないかぎりじゃ」


 どうやら全員起きていたらしい。自然に溶け込んでいるが、レアもいる。敵意はないのか、殺意らしきものは感じられない。


「大地、私たちに何したの?」

「あぁ。歪曲でお前たちの記憶を共有させたんだ」

「なんでですか?」

「レアを殺したくなかったからだ」


 そう。本当の目的はこれである。レアの数百年の孤独、孤独を嫌う普通の感情を知れば、イリス達も少しは心を開いてくれると、そう思ったのだ。


「せっかくだ。おれの記憶も、いれておこう。・・・・・歪曲」


 自身の記憶を歪曲で六人の少女に共有させる。もちろん、元の世界の情報をのぞいて。


「大地」

「こんなことまで」

「なんで」

「こんなこと」

「してきたの」

「ひどいもんじゃ」


 大地の記憶を共有させる。それはつまり、今まで大地が隠そうとしてきたことまで、すべてを知られるということだ。


「・・・・・隠して、悪かった」


 レアを攻略したことで、四大試練を全て攻略したことになる。それについて大地は一つ懸念していることがあった。


 目的が無くなれば、イリス達とはどうなってしまうのか。


 大地はある覚悟をしていた。これからのイリス達の人生を大きく変えてしまうような、そんなことを。


「今から俺が言うことに、お前たちは必ず従う必要はない」

「大地?」


 真剣な面持ちの大地に、イリス達は困惑する。それに構わず、大地は続けた。


「俺にとって、お前たちは当たり前の存在だ」

「どういう」


 理解しきれないイリス達は、大地を見る。だが、大地はそれに答えない。


「そこにいて当たり前。例外は無いと言い切れる」

「・・・・・」


 理解しきれないと悟ったのか、イリス達は、大地の言葉をおとなしく聞くことにしたようだ。


「だから」

「・・・・・」


 ごくりと、大地が唾を飲む。それに合わせ、イリス達もぎゅっと手に力を入れた。


「これからは一緒に暮らしていかないか?」

「え?」


 イリス達の顔がボッと赤くなる。うまく言葉を発せずに、口が動かせない。


「いやならいい。強制する気は」

「・・そう」

「ん?」


 イリスが大地の服の裾を掴み、ぼそりと呟く。


「暮らそう」


 はっきりと聞こえた。一文字一文字はっきりと聞き取ることができた。


「私は、暮らしたい」

「私も暮らしたいです」

「おにいちゃんだもん。あたりまえじゃん」

「いままでの恩返し、なんだからね」

「大地、断るとでも思った?」

「記憶を共有したのじゃ。お主の良いところはわかっておる」


 満場一致でイリス達と大地の同居が成立した。


 いままでに無いくらい柔らかい笑みを浮かべる大地は、イリス達全員に向かって


「これからも、よろしく、な?」

「「「「「「うん」」」」」」


 眩しい笑顔でそう答える。


 誰も近寄らない孤島で、七人はの少年少女は、密かに家族となった。

これで完結になります。下手くそですいません。ここまで読んでくださった読者様。ありがとうございました。

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