殺害
「俺は今回、しばらくは戦闘に参加しない」
「え?なんで」
「お前たちの成果が見たいからな」
新しく調達した船の中で、大地たちはレアについての対策をたてている。
「ほんとにヤバくなったら下がれ。無理だけはするな、絶対にな」
「わかりました」
おそらくイリス達の攻撃は、一発も当たらないだろう。全部反射されるのが目に見えている。
「あの島は沈めてもいい」
「おにいちゃん、わかってるじゃん」
運が良くても道連れがいいところだろう。だが、高確率で敗北は決定している。
「打撃はほとんど自分に返ってくる。遠距離からの攻撃のみを行え」
「しょうがないわね」
特に打撃は強ければ強い分、跳ね返ってくる力が直に伝わってくるため、不利なのだ。
「自分を過信するなよ。油断はレアに利用されるぞ」
油断してもしなくても、恐らくたいした差は出ないだろう。
数時間後。大地たちの船は、レア島に到着した。
ギリギリ火山らしい形を保った火口に立つ。
「俺は火口の上から見てるから、思う存分やってこい」
「「「「「おぉぉぉぉぉ」」」」」
各々火口から中に飛び込んでいく。大地は傍観者だ。いざとなれば一瞬で勝てるのだから。
「一人足りないようじゃが」
「大地がいなくても十分」
「いきますよっ」
イリスとイリアで焔を放つ。二人分の焔は、火口から熱い熱気を吹き出させ、火口付近を飛んでいた鳥を次々に落としていった。
「こっちも負けてないよ」
「舐めないでよねっ」
夜空とレイアの水界だ。熱い焔と、冷たい水界。予想はできるだろう。水蒸気爆発だ。
「そんなちゃちな爆発じゃ意味ないわよ」
ラミアが水蒸気爆発に衝撃重複をかける。こうすることで、爆発の威力が格段に上がるのだ。
マシンガンを放つかのごとく、連続で引き起こされる爆発。一撃一撃が凄まじい衝撃波を生む。ビシビシと周囲の岩がひび割れていく。
「こざかしい・・・・・」
ぼそりと呟いたレアは、反射を一気に強め、イリス達の攻撃を余すことなく全て反射した。無論、反射なので攻撃は全て発動した者に返ってくる。
「くっ」
各々うまく避けたが、レアは完全にお怒りモードのようだ。目が黄色に光っている。
「反射の応用、教えてやろうか?」
ニヤリと歪んだ笑顔を見せるレアは、イリス達との距離、十メートルを一瞬で縮め、イリスの胸部に手を置いた。
「あっ・・・・・」
「完了じゃ」
どさりと地面に倒れるイリスは、声を出せずにただうずくまっている。何が起きたのか理解できていないイリア達はやだ唖然とするだけだった。
「簡単なことじゃ。殴る時にかかる自分への衝撃を、相手に向けて、力の方向を全部一点に集中させただけじゃ」
要約すると、自分には衝撃が加わらないため、相手は倍の痛みを負うことになる。そして、手のひらで胸部を触った時に、手のひらで攻撃する力を一点に集中させることで大きな圧力が加わるということだ。
例えるなら、時速百キロのトラックと時速百キロのトラックが正面衝突した際に、一方だけ二倍の負荷がかかるということ。
ハンマーで壁を殴ることと、先を尖らせたハンマーで殴るのとでは威力が違う。一点にかかる圧力が大きくなるため、後者のほうが威力は強いのだ。
「魔力で障壁を作りましょう」
「行動に移すまでが遅いわっ」
障壁を張ろうとしたイリアに、レアは付近に転がっていた石を投げつける。
空気抵抗を無効にし、投げる際に力を一点集中させる。狙撃銃にも勝るスピードでイリアの額に、石は直撃した。
「痛っ」
額から血が出る。それを拭っている間に、レアはイリアの懐に潜り込んでいた。
「残念じゃったの」
「ぐっ」
胸部に強い衝撃が走る。胸からは出血し、イリアの体を大きく舞い上がらせた。
「射撃が無理なら打撃でっ」
「愚かな」
大地に言われたことだ。打撃はやめておけと。それでもラミアは打撃を使ってしまった。
「あぁっ」
「よく考えてから動くべきじゃったな」
ラミアの打撃は、威力を変えずに跳ね返ってきた。すなわち、自分の打撃が自分に当たるということだ。
「隙がおおいぞ。狙ってほしいと言っているようなものではないかっ」
「ぐあっ」
背後に回られ、背骨に直撃するようにレアは指先を当てた。
「ああぁああぁぁあぁぁあぁぁぁああ」
ボキボキと嫌な音をたて、ラミアは地面に倒れた。ピクピクと動くことは出来ても、再生能力のないラミアに、戦闘の続行は不可能となった。
「はぁ。やっと治った」
「だいぶ時間がかかってしまいました」
一方で吸血鬼のイリスとイリアは再生を終え、戦闘に復帰した。
「撤退しよ」
「二人はラミアを運んで。時間は稼ぐから」
イリスとイリアにラミア運んで離脱を指示する、夜空とレイア。恐らく、戦闘の続行は無意味に被害を大きくするだけだと判断したようだ。
「強化九倍。重力」
「隕石誘導」
重力でレアの動きを封じる。さすがのレアも重力は反射できないようで、がくりと膝をついている。
そこに隕石を落下させる。重力の影響で、普段よりも速く強い岩が落下する。だが、当てるのはレアではない。レアの周囲の地面だ。
「なるほど。地面を壊して妾を落とそうということか」
どんどん落ちてくる岩は、順調に地面を壊している。すでに、穴の深さはニ十メートルに達した。
レアの反射で、レアの真下の岩は壊せないため、広い穴の中心にレアを残して長い柱ができている。
「これを壊しちゃったら落ちちゃうね」
「攻撃しなくても、いずれ重力に耐えきれずに崩れるけどね」
「くっ。考えたようじゃな。さすがの妾もここまでされると」
ニヤリと笑うレア。何がおかしいのかわからないレイア達は、ただ困惑している。
「やっと、死ねるんじゃな」
「え?」
驚くのも無理はない。レアが死にたがっているという情報は、大地しか知らないのだから。
「そのままレアの動きを封じ続けてくれ」
不意にかかる大地の声に驚くレイアと夜空だが、大地には何かが策があるのだろうと、指示に従った。
「約束通り、殺しに来たぜ」
「まさか本当に殺してくれるとは」
「覚悟はいいか?」
「何百年も前から出来ておるわ」
レアに近づく大地を、レイア達は心配したが迂闊に近づけないのでただ眺めていることしか出来なかった。
「最後に言っておくぞ?俺が殺すのは支配者だ」
「わかっておる。はやく殺るがよい」
「・・・・・歪曲」
カオスとの戦闘での戦利品だ。空間も、方向もねじ曲げることができる。もちろん、記憶も例外ではない。
「「「「「「あぁぁああぁぁあ」」」」」」
六人分の少女の悲鳴が響き渡る。頭を抱え、もがき苦しんでいる。
延々と続く苦痛は、次第にイリス達の意識を奪っていき、イリス達は死んだように意識を失ってしまった。
「起きるまで四時間ってとこだな」
少女たちの体を担ぎ、前回来たときに使用していた家に運び込む。
「あの山、もうほとんど壊れてるな。完璧に壊しとくか」
レイアと夜空のスキルで壊れかかっている山。いつか壊れてしまうなら今のうちに壊しておこうということだ。
「錬成。範囲は二キロくらいにしとくか」
二キロ分の空気を一気に凝縮。錬成を解けば一気に空気が放出され、島の木々が抜け落ちてしまうだろう。
「消失。これで空気の層ができた。うまくいけばいいんだがな」
真空を層で包む空気の塊を火口内部に投げ込む。あとは層を消すだけ。
「消失っ」
層を消失させた瞬間、二キロ分の真空に空気が流れ込む。
「山が小さくなっていくな。ちょっと強くしすぎたか?」
ものの数秒で山が一気に小さくなり、十秒もたつ頃には山は跡形もなく消えていた。
「空気はいろいろ応用が効く」
山を消し、イリス達のところへと戻る。
家につくと、イリス達はまだ寝ているようで、屋内は静寂に包まれていた。
「ちょっと強引過ぎたか?」
終わってみて初めて思う。やり過ぎたのではないかと。
「さすがに記憶を結びつけたのは無理があったな」
大地は、歪曲で脳内の記憶を歪め、六人の少女の記憶を共有させたのだ。
それはつまり、自分を除く五人分の記憶が一気に流れ込んでくるということだ。
「あと三時間と三十分か。なにするかな」
イリス達が起きるまで時間がある。何もすることがない大地は、おもむろに外に出る。何もすることがない大地は、
「創造」
第三の支配者倒したときに手に入れた、創造。文字通り創ることができる。
「とりあえず、チタン合金でも大量生産しとくか」
ゴトゴトとチタン合金が生産されていく。十立方センチメートルのチタン合金だ。一分でそれくらいなので、十分もやればしばらくは超電磁砲弾には困らないだろう。
「あと、三時間、か」
ほんの少し、僅かに大地の顔が曇る。あと三時間。大地は、イリス達をどうするつもりなのか。それは、大地にしか、わからない。




