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大事な存在

 もくもくと作業を続ける大地を羞恥と歓喜の混ざった表情で見ている女王。大地は女王や鬼達との戦いで足の神経を切断している。故に動かない、痛みも感じない。そういう状況だ。あの時、女王の側近を倒すことができたのは魔石で足を包み、魔石を操作していたからだ。だがずっと支えているわけにもいかない。魔力にも限りがあるのだ。しかし今の大地のステータスは以前とは比べ物にならないくらいの飛躍していた。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

名前:大神大地 年齢:16 職業:鍛治職人 レベル:41

筋力:80

耐性:80

魔力:200

魔耐:200

能力:鍛治・錬成[+気体]・鑑定・身体強化

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 驚くことに樹海や鬼の国での出来事が引き金となり新たなスキルを手にいれた。鬼に勝てたのもこのスキルのお陰といっても過言ではない。


 [身体強化]とは魔力により自身の体の性能をあげるスキルである。魔力を使えば使うほど強くなれるが、魔力を使い続ける必要がある。故にあまり長くは使っていられない。魔力使用料と強さは比例の関係にあるといえる。


 そして大地は身体強化を使い、錬成のスペードをアップさせている。樹海の中に一際大きな木があった。半径三メートルほどだ。その木を削り内部に半径二メートルほどの空間を作ろうと考えているのだ。木の中であれば魔獣も気づかない。ここまで安全なものはあるだろうかというくらい素晴らしいアイディアである。女の子が一緒じゃなければ。


「ねえ、私たちの寝床ってつまり一緒に寝るってこと?」

「はあ、何でそんなこと聞く?」

「そうよね、そんなわけないわよね」

「一緒に寝るに決まってんだろ」


 その言葉を聞いた瞬間女王の顔が紅潮した。口をパクパクとさせている。うまく言葉が出てこないようだ。女王は平然と作業を続ける大地の横顔をじぃっと見つめさらに紅潮する。もはや変人レベルだ。そんな女王に大地は


「もうそろそろ出来上がるぞ」


 大地に羞恥心などないように思える。さっさと作業を終えてしまった大地は女王を抱きかかえ、木の中にいれた。木の中への入口は縦一メートル、横一メートルの正方形に作られている。大地も狭い入口をくぐり抜け、木の中にはいる。


「ねえ、こんな部屋どうやって作ったの?」


 大地が木の中に作った部屋は半径二メートル、高さ二メートルの円柱形のような形をしている。どうやって作ったかと聞かれれば答えは単純だった。


「木の僅かな隙間に鉱石を流し込み、木の中に半径二メートル、高さ二メートルの円柱形の形を作る。あとは木を圧縮するように鉱石を小さくしていく。すると見事に鉱石内に圧縮された木が封じ込めらる、といったところだ。どうだ?簡単だろ」

「ごめん、その発想はなかったわ。ほんとぶっ飛んでいるわね」

「言ってろ」


 そういい大地は目を閉じ眠りについた。一方の女王はまだ四肢をもがれたまま。大地が鉱石をはずしてくれない限り再生は不可能なのだ。それでも女王は嫌そうな顔はしていない。なぜなら、あの時鬼を倒してくれたからだ。とっとと逃げていればこのような事態にもならなかったはずなのに助けてくれた。それが女王にとっては嬉しかったのだ。


「・・・・・ありがと」


 寝ている大地に向かって小声でそういった女王は、大地と同じく眠りについた。まだ空にはさんさんと太陽が輝いている。まだ寝るには早いというのに二人はしばらく起きなかった。


「おきろ、おい。もう夜が明けてるぞ」

「う、うんん。もうちょっとだけ」

「馬鹿か。ここはお前に家じゃない」


 なかなか起きない女王に軽く頭を叩く大地。女王はあうっという可愛らしい声と共にムクリと起き上がった。あくびをし、目をパチパチとしている女王に大地は


「いつまで寝ているんだ。眠ってからすでに半日以上の時間が経ってるぞ」

「ふぇ、そんなに」


 はぁっとため息をつき木の外へと出ていく大地。あわてる女王。樹海の中とは思えないくらい和やかな風景である。


「おい女王、んん。この呼び方はめんどくさいな。お前、名前は」

「今更感があるけどまあいいわ。教えてあげる。私の名前はイリス・アルテミス。あなたは?」

「大神大地」

「変な名前ね」

「ほっとけ」


 出会いから自己紹介まで大分時間を有してしまったがお互いに親睦が深まったようだ。以前よりも距離が近くなり、話すことも増えた。大地も満更ではないようでイリスのことを気にかけている。同じ境遇だったというのが強いのだろう。裏切られた者どうしで和やかに日常を謳歌している。


 樹海に出ると魔獣を狩り、魔石を入手。食料は鬼の国から持ち出したものがいくつか。いずれにしろ生活することに苦労はなかった。イリスの四肢ももとに戻した。それはもう大喜びだった。そのまま幾日かが過ぎ去り、


「イリス、おやすみ。明日も早いぞ」

「ん、おやすみなさーい」


 いつも通り簡単に挨拶をしてから眠りにつく。こんな日常がいつまでも続けばいいと、大地とイリスは思っていた。だが終わりは唐突に訪れる。


「イリス、足の怪我が完治した。神経の部分は魔石を使うことで補えた。だからいかなきゃならない」

「え、どこか行くの?なら私も」


 暗い面持ちで話始めた大地を不思議に思いつつ、純粋に、無邪気に大地についていくというイリスに対し大地は強く反対した。


「駄目だ。これから行くのは人間の国だ。イリス、お前は見た目こそ鬼っぽくないがその強さは人間なんて遥かに凌ぐ。つれていって何かトラブルがあったら終わりだ」


 イリスは驚いた表情のあとににっこりと笑って、だが寂しげに大地を見て別れを告げた。その姿は見ている側まで心を痛めてしまいそうなほどだった。


「そっか。そうだよね。大地にも事情があるんだよね。なら、しょうがないよね。うん、大地、いままでありがと。楽しかったよ」

「悪い。でもいつか戻ってくるから」


 大地は木の中から外へと出た。そして振り返らずに身体強化をフル稼働して人間の国の方へと走り去っていった。その様子を後ろから眺めていたイリスは、大地が見えなくなると地面に膝をつき涙を流した。その涙は、鬼が流したとは思えないほど綺麗で透き通っていた。それほどまでにイリスは大地が大事だったのだ。


 樹海を凄まじいスピードで駆けていく者が一人。大地である。イリスと別れてから一日が経過している。大地は無意識のうちに立ち止まり振り返っては暗い顔をして走り始める。こんなことを繰り返していた。


「・・・・・・・・くっ」


 途中で何度も苦しそうな声をだし走り続ける。イリスにとって大地は大事だったのと同じように大地もまたイリスが大事な存在となっていた。


 次第に辺りは明るくなり樹海の終わりが見えた。ダンジョンから落ちて流された川。ここを上流に上っていけばあの時の穴があるはず。そこから戻ろうということだ。


「にしても、長いな。今更だけど俺はどこまで流されたんだ?」


 走りながら落ちてきた穴を探す大地。と、しばらくすると穴があった。恐らく大地が落ちてきたであろう穴だ。


 あまりの高さに改めて驚くが、そんな時間はあまりない。急ぎ錬成で穴までの梯子を作る。以前の大地では無理な芸当だ。その梯子をさっさと登っていき穴に到着。


「はあ、また戻ることになるとは」


 ため息をはきつつ穴を進んでいく大地。過去の自分が作った穴を見て記憶を遡る大地。しかしどれも思い出したくない記憶ばかりだった。大分日数がたっているせいか、魔獣がウジャウジャと湧いていた。それらすべてを殺しながら進んでいくと階段が見え始めた。上層への階段だ。


 階段を登るとあとはひたすら地上への道を進むだけ。しかし道など覚えていない大地にとってそれは苦行だった。何度も魔獣に遭遇し、何度も道を間違えた。途中冒険者に会うこともあったがみな同じように大地を無視した。大地には関わりたくないのだろう。だがその理由を知ることはできない。それから数時間後、ようやく地上への出口を発見した。


「はあはあはあ。全く、長すぎる」


 ダンジョンの大変さが改めて身にしみたと共に急ぎ王国へと向かう大地。そう大地は国王に用があるためにわざわざ戻ってきたのだ。しかし、大地はしらなかった。大地が姿を消したあの日から、帝国の全員が敵だということを。


 一応勇者である以上門番も通さないわけにはいかない。その表情は苦渋の決断を迫られたかのような顔だ。渋々門を開け大地を城内へ入れる。大地は城内に入るや否や王室へと向かった。ここに来たのは帝国兵の裏切りについて抗議するため。あともうひとつあるが今はまだその時ではないので黙っていることにした。


「国王様、帝国兵についてですが・・・」


 話終えると国王は部下に耳打ちをしてこちらを見て言った。


「勇者様。残念ですがあなたは公式で死んだ、もしくは逃亡したということになっています。そんな噂のたっている中勇者様を勇者として扱うのはこの国への印象が悪くなります。なので」


 そこまでいうと国王は手をパンパンと叩いた。それを合図に部下たちが大地を取り囲むように武器を構える。ここまでされると何をされるのかは嫌でもわかってしまう。帝国兵のステータスは平均で200を越える。大地には勝ち目がない。国王はそんな大地にさらに追い討ちをかけるように告げた。


「殺れ」


 刹那、帝国兵が一斉に大地に押し掛けてきた。姿勢を低くし相手の足元をくぐり抜け全力で外に向かって走った。だが帝国兵はそれを逃さない。次々に魔法を放ち大地を追い込む。身体強化を使い紙一重でかわす大地。攻撃する余裕など与えられない、ように見えるが、大地には避けながらでも相手を殺すことができる技を持っている。


「くっ、錬成っ」


 二酸化炭素を集め帝国兵を包む。呼吸ができなくなればもがく。帝国兵はその場で倒れのたうちまわる。その隙に門を抜け町に出る。噴水のある広場辺りに出た。これで安心、できなかった。国は大地を悪人として国民に知らせていた。故に大地を見た国民は血相を変え襲いかかってくる。国に貢献することで報酬を得ようということだ。


「おい、あいつだ。指名手配中の大地とかいうやつだよ。あれ捕まえれば報酬が貰えるってよ」

「おい、まじかよ。捕まえようぜ」


 襲い来る国民を軽くあしらい町の外を目指す。国民程度なら大地でも余裕で倒せるのだ。次々に倒されていく国民。それでも国民の勢いは収まらない。それどころか帝国兵の援軍により勢力が増す。その様子はさながら地獄絵図というべきだろう。利益のため、帝国兵にとられるわけにはいかない国民と帝国兵で争いが勃発してしまった。国王の命令のためどんな手を使ってでも大地を捕まえなければいけない帝国兵は国民を次々に殺していく。町中が血で染まるような勢いで国民が死んでいく。


「ひでー有り様だな。利益のためなら同族でも殺すっていうのか」


 人間の醜さに引き気味の大地。もはやこれを人間と扱っていいのかわからないが全くその通りである。その時、勢いの収まった国民を押し退け、帝国兵が迫ってきた。帝国兵は鎧に血が飛び散り所々国民の肉片がついている。その状態で迫ってくる様はまさにゾンビとなった武者のようだった。


 身体強化で能力を倍にし、急ぎ町の門を目指す。そこさえ出てしまえば外は魔獣の領域。帝国兵も迂闊に手は出さないだろう。そう考えた。


「あの門をくぐれば出れる」


 笑みを浮かべ門をくぐる。振り返りざまあみろと言わんばかりの表情をして見せる大地であったがそれは驚愕に変わった。なぜなら帝国兵は門など気にせず、むしろ魔獣の領域なら暴れ放題といわんばかりに勢いを増した。大地は甘かったのだ。


 町の門を出たらあとは広大な草原が広がっているだけこの高原をまっすぐ行くと鬼の国がある。横に行くと樹海がある。どちらにしろ厳しい状況は変わらない。樹海でのイリスとの戦闘の時キラーを無くしてしまい帝国兵の懐に潜り込む前に殺される。


「くそ、何でこんなことに」


 とりあえず大地は慣れ親しんだと共に悲しみの場所でもある樹海に逃げ込むことにした。イリスに会えるかもしれない希望とおいてけぼりにしてしまった罪悪感を胸に覚悟を決めて。


 樹海の中は変わっておらず鬱蒼としている。だが大地にはそれが心地よかった。イリスと幾日も過ごしたこの樹海において大地には恐ろしさなど微塵もなかった。一方の帝国兵は相当嫌いなようだ。足が次第に遅くなってきている。


「へ、帝国兵もその程度か。これなら余裕そうだな」


 足取りの遅い帝国兵からどんどんと距離が離れていく。やっと安心できる状態になり深呼吸をする。木々に遮られた日光がチラチラと降り注ぐ。近くの木にもたれ掛かりここでの出来事を思い出す。イリスに襲われ、鬼に襲われ、イリスと仲良くなって、そして最後に悲しませた。大地の表情は暗く落ち込んでいた。


「俺は・・・・・馬鹿だな」


 あの時戻らずにイリスと一緒にいればずっといいことが出来たかもしれない。ここを離れてたったの一日も経っていないが後悔が大地を襲う。


「おい、そっちいたかー」

「いえ、いません」


 思い出に浸っている大地の近くへ帝国兵が迫ってきていた。ずいぶん長い間ここにいたようだ。気分を切り替え奥へ進もうとい時、誤って転んでしまった。その拍子に声が出てしまい帝国兵に大地の位置を特定されてしまった。


 帝国兵はこの樹海に慣れたようでさっきよりもスピードが上がっている。両方凄まじいスピードで樹海を駆けていく。途中で魔獣が襲ってきたが器用にかわし速度を落とさない。それは帝国兵も同じようで魔獣は瞬殺。お互いに譲らずとうとう大地にとって大事な場所についてしまった。


「しまった。ここは」


 この広大な樹海の中特定の場所に来ることはほぼ不可能。それなのに大地は来てしまった。イリスと過ごしたあの木のもとへ。恐らく無意識に覚えていたのだろう。故にたどり着いてしまった。


「くそ離れないと」


 だが大地が行動を起こす前に最悪のタイミングで最悪の事態が起こってしまった。金髪でツインテールの可愛らしい女の子。どこから持ってきたのか白いワンピースに身を包んでいる。そして真っ先にこちらに気づき歓喜の表情を浮かべた。


「だ、大地。いつ戻ってきたの?何で人間と一緒にいるの?」

「すまない、イリス。今は説明できない。だから今は俺のいうことに従ってここから逃げろ。いくらお前でも死なない保証はない」


 頭に疑問符を浮かべているイリスは帝国兵達を見てすべてを悟った。


「なるほど、そういうことね。でも心配は無用よ。私、強いから」


 そういうと胸をポンと叩き大地を見る。だが大地にはわかっている。このままやりあっても勝機は限りなくゼロに近いことを。相手の数は百ほど。強さは平均200を越える。その中でも十人は平均五百を越える化け物たちだ。イリスはおよそ平均千以上。それでも全員相手にするには足りない。大地なんかは論外だ。つまり、勝ち目はない。


「イリス。だめだ逃げるぞ」

「大丈夫、私が全部相手するわ」

「無理だ。いくぞ。俺たちじゃ勝てない」

「大地は私の実力を見たでしょ。なら信じてよ」

「それでも無理なものは無理なんだ」


 そんな大地とイリスが言い合っているのを見ていた帝国兵は、ついに痺れを切らし強硬手段へと出た。一斉に詠唱しし百人の魔法が大地たちに降り注ぐ。イリスが吸血鬼というのは国民は知らないが帝国兵は知っている。大地とイリス。両方殺れるなら一石二鳥というわけだ。


「くそっ」

「だ、大地何を」


 迫り来る魔法から逃げられないと判断したのか大地はイリスを掴み身体強化マックスで樹海の奥へと放り投げた。身体強化マックスなだけあってイリスの姿はすぐに見えなくなった。そして大地は迫り来る百の魔法を見つめ自身の死を覚悟した。


 凄まじい轟音と衝撃が樹海を震動させる。樹海内の魔獣が一斉にざわめき不穏な空気を漂わせる。その中に一人の少女の叫びがこだました。


「いやあああああああああああああああ」


 その声は、世界の終わりを告げるかのような、絶望した、決壊した、そんな悲痛な叫びだった。



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