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神級魔法

「放電、衝撃波」


 衝撃波に放電をのせ、鬼を広範囲で感電させる。だが、感電させるだけでは鬼は死なない。そこで、


「気体錬成」


 広範囲にわたり酸素を錬成させ、呼吸を奪う。


「大半は殺せたな。残りは三十万」

「おらぁぁぁぁぁ」


 残りの鬼が大地に攻めてくる。それに対し、大地は左手を前につき出すと、魔法を放った。いや、落とした。


神級(しんきゅう)魔法、邪滅龍雷(じゃめつりゅうらい)


 半径一キロにも及ぶ落雷が光の三倍の速度で落下する。


 落ちた雷は、浜を含め海に大きな穴をあけ、巨大な津波を発生させた。


「結界」


 結界で津波を防ぐ。津波によって鬼も人間もほぼ全滅。大地たちの勝ちはほぼ確定した。


「くっ。さすがに、神級となると、痛いな」


 がくりと浜に膝をつく。神級魔法は魔力を大きく消費する。だいたい大地の魔力の十割ほど。つまりは大地の魔力量でも一発しか撃てないのだ。


「あとは、イリス達に、任せるしか、ないな」


 残りの人間はもはやいないに等しい。簡単に殺し、全滅させる。


「今の雷。絶対大地だよね」

「それ以外はあり得ないでしょう」

「こっちは片付いたし、いってみよ」


 重力で地面に落とされていた竜は、津波に飲まれ呼吸を奪われ死に至った。空を飛んでいる僅かな竜も、重力で落とし殺して絶滅。


「今の雷はおにいちゃんだ」

「あんなの撃つなんてぶっ飛んでるわね」

「大地だもん。あれだけの雷を撃ててもおかしくないよ」


 イリス達と夜空達は大地のいる方向へと走る。あれだけの魔法なのだ。大地にも何かあったに違いない。そう考えたのだろう。


「はぁはぁ。うっ」


 大地の口から血が吹き出す。体が限界に近づいている。意識を失うのも時間の問題だろう。


「大地っ」


 イリス達だ。見た感じ焦っているように見える。


「どうやら両方とも上手くいったみたいだな」


 戦争の阻止に成功し気を緩めた瞬間、口からドボドボと血が溢れ出す。もう、限界のようだ。


 どさりと倒れる。その後、大地の体がどうなったのかは、大地が知るよしもなかった。


 一週間後。


「んっ。んんん」


 深く長い眠りから目覚めた大地。一週間も体を動かさなかったのだ。妙な感覚が大地を襲う。


「あっ」

「イリス、おはよう。いい朝だな」

「だ、だ、だ、大地ぃぃぃ」


 近くにいたイリスと目があった。軽く挨拶をすると、目に涙を浮かべながら抱きついてくる。


「どうしたんだ?」


 ずっと眠っていた大地に、今まであった他愛もないことを話していく。寝ている大地の唇を奪ったり、こっそり添い寝したり、体を隅々まで拭いたり、など。本当に他愛もない話だった。


「待て。何がどうなったら他愛もない話になるんだ?」

「だって、大地と私はもうそういう仲じゃないっ」


 顔を紅潮させ、それらしいことを口走るイリス。かくいう大地もほんのりと顔が紅くなっている。


「大地、目が覚めたんですね?」

「あぁ、お陰さまでな」

「大地、聞いてください。大地が眠っていたときに」


 イリアの登場だ。イリスとは違い落ち着いているように見える。


 かと思ったら大地が眠っていたときに何があったのかを楽しそうに語り出す。寝ている大地の唇を奪ったり、こっそり添い寝したり、体を隅々まで拭いたり、など。


「ん?いまちょっとデジャブが」

「おにいちゃん、やっと目が覚めたのっ?」


 デジャブに頭を抱えていると、夜空が来た。イリス同様ハイテンションで大地が眠っていたときのことを話す。寝ている大地の唇を奪ったり、こっそり添い寝したり、体を隅々まで拭いたり、など。


「あれ?時間でも戻ったのか?」


 度重なるデジャブに、とうとう現実逃避を始めた大地。まさか三人とも同じようなことをしていたとは思いもよらないだろう。


「大地、起きたのね?」


 次に来たのはラミアだ。何となく予想できるとは思うが、ラミアは大地が眠っていたときのことを、顔を紅潮させながら話した。寝ている大地の唇を奪ったり、こっそり添い寝したり、体を隅々まで拭いたり、など。


「お前ら何してたんだ」


 とうとう頭をおさえ始めた大地。三人だけだと思えば四人目も。大地の脳は限界を越えるスピードで疲労していく。


「大地、やっと起きたの?あのね実は」


 寝ている大地の唇を(etc)・・・・・。


 大地はぐったりとしている。まさか五人全員が同じようなことをしていたとは。脳が理解することを拒否している。


「まぁいい。どれ、久しぶりに体でも動かすか」


 一週間も体を動かしてないのだ。妙に重たい感じが気持ち悪いのか、大地は外へと出る。


「レアはまだ生きてるんだよな?」

「うん。あの後、ふらふらになりながら帰っていったよ」

「ちょっと吸いすぎたか」


 レアの血を吸いすぎたことを後悔する大地。このとき、大地は忘れていた。血を吸うとどうなるのかを。


「寝起きだからな。かるく、電槍(でんそう)


 軽い気持ちで放った電槍。その程度の電槍は木々をぶち抜き、乱暴な音をたてながら海上を突き進んでいった。


「なんか、電槍がおかしいな」

「大地、力入れすぎだよ」

「悪い」


 仕切り直しだ。刀を構え、海と対面する。


「フンッ」


 海を切り分けるように振りおろした刀は、激しく発光し長さ五メートルの斬撃を生み出した。そのまま、ケーキを切るように海はパッカリと割れてしまった。


「・・・・・なんでだ?」

「大地。寝てる間に何があったの?」

「わからん。だが、異常に強くなってることはわかる」


 理解不能な急成長に困惑しつつも、大地はその力を受け入れている。


「妾の力じゃ。勝手に吸いおって」

「レアっ」


 急な声に振り返ると、そこにはレアがいた。ドンと構えており、ここから先は通行止めとでも言わんばかりに立っている。


「お前の?」

「あぁそうじゃ」


 妾のじゃ。確かにレアはそういった。大地は上手く理解できていないようだ。変人を見るかのいうな困惑の視線をレアに突き刺す。


「お主、妾の血を吸ったじゃろう」

「あ」


 ようやく合点がいった。血を吸ったせいで、レアの能力や力を一部もらってしまったのだ。


「全く。人の血を無許可で飲むとは」

「悪い。神級魔法は魔力の減りが激しいからな」

「神級?そんな魔法あったじゃろうか?」

「いや、超級までだ。だが、それよりも上にいけそうだったからな、俺がそう名付けた」

「ぶっ飛んじゃ奴じゃな」


 そう。実は神級は大地が勝手にそう呼んでいるだけなのだ。人間の限界は超級まで。だが、大地は超級の先を見つけてしまった。


「はっ」


 唐突に、大地はレアに刀を振りおろす。避けられる距離ではない。


「反射」


 レアの血を吸い、力の一部を手に入れても、大地の攻撃はレアには届かなかった。


「妾を甘く見すぎじゃぞ」

「そうだな」


 相変わらず余裕の表情が消えないレア。呼吸すら乱さないレアに、大地たちは力の差を嫌でも理解させられる。レアには勝てないのだと。


「その反射ってのは光の反射と同じなのか?」

「全くの別物じゃ。この反射は、攻撃の方向を正反対へと変えるだけじゃからのう」

「なるほどな」


 つまり、放った攻撃はまっすぐ自分に返ってくるということだ。


「一度本土に戻る」

「諦めるのか?」


 レアの表情が僅かに強ばり、声が少し震えているように感じた。さながら、捨てられた猫にように。


「ちょっとした特訓をするだけだ」

「なんじゃ、特訓か」


 レアの顔から一気に力が抜けるのがわかる。やはり一人にされるのは悲しいのだろう。それなのに、強がっているレアを見ると、大地はイライラしてくるのだ。なぜ誰にも本音を言わないのかと。


「船が壊れてるね」

「跡形もないですね」

「おにいちゃんの雷で吹き飛んじゃったのかな?」

「大地、手加減しないと」

「帰りのことも考えておいてよ」


 少女に口々に文句を言われる。もちろん、大地は後先考えずに神級魔法を放ったわけではない。きちんと対策は立ててあるのだ。


「どうせ船は壊れると思ってたからな。新しいのを作っておいた」


 当たり前のように言った大地は、腕輪から船をだす。当たり前のように船をつくり、当たり前のように船を片手で持ち上げ、当たり前のように船を海に浮かべた。


「当たり前って」

「何だろう」


 当たり前を疑い始めたイリス達。だが、大地はお構いなしに船に乗り込む。


「置いていくぞ」


 大地の声に、イリス達はとてとてと船に乗り込む。レア島とはしばらくのお別れだ。


「どうしたの?大地」

「いや、なんでもない」


 自分の右手を見て、深刻な表情をしている大地。道で轢き潰されたカエルの死体を眺める純粋な子供のような表情だ。


 そんな表情を見てしまったら、イリス達も心配になるだろう。思わず声をかけたが、適当にはぐらかされてしまう。


「反射、か」


 大地は気づいてしまったのだ。きづかなくても良かったことを。気づいてしまえば、大地はレアを殺すことはできない。選ぶ選択肢は、助ける。それ以外はないだろう。


 レアの反射に打ち勝てる方法を、大地は誰にも話さず、ただ自分の胸だけに秘めていた。

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