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再戦

「さて、今日からは徹底的にステータス上げを行う」

「「「「え?」」」」


 突然の大地の提案に、イリスを除いたその他は理解に時間を有した。


「第四の支配者は恐らくここ。ピュロス海にいる」

「なんで分かるの?」

「ここにはクラーケンって魔獣がいただろ?」

「うん、おにいちゃんと私で倒した」

「あいつの出現はタイミングが良すぎた。わざわざ人がたくさん集まってくる時間帯に出た。だれか操っている奴がいるんじゃないかって思ったわけだ」


 ごもっともだ。攻めてみる価値は十分にある。しかし、それには大きな二つの問題があった。


「支配者と一対一(さし)で勝負できるだけの実力と、潜水の技能だ」


 まず、支配者と互角以上にやりあえる実力がなければ意味がない。以前のように、ただ一方的に殺られるのみ。


 そして潜水だ。おそらく支配者は海の中に潜んでいると考える方が自然だ。さすがに海の上空にはいないだろう。


「ふかく、そして速く水中で動けなければならない」


 ほぼ無理難題なのだが、


「わかった。大地に言うことなら」

「拒否権はないんでしょう?やりましょう」

「おにいちゃん、私の勇姿、ちゃんとみてよね」

「余裕よ。完璧すぎるほどだわ」

「私を誰だと思ってるの?元支配者よ」


 各々それぞれの理由で快諾してくれた。ほんとに強い仲間たちである。


「とりあえず、クレータ大迷宮にいくぞ」


 そして時は経ち、クレータ大迷宮へと到着。


「階層ごとに十匹ずつ殺していけ。十匹殺したら次の階層でさらに十匹殺す。これを百階層まで」


 ハードである。百階層まで続けるとなると、千匹の魔獣を殺すことになる。しかも下層の方は質が高い。魔力切れが懸念される。


「紅蓮」

「絶対零度」

「支配」

「衝撃波」

「技能強化、上級、紅蓮」


 レイアには攻撃系のスキルはない。そのため、ただの魔法を強化している。もっとも、強化のスキルは高く、下級魔法でも上級魔法にしてしまうほどだ。


「じゃあ、俺も殺していくとするか」


 イリス達の間を何かがするりと駆け抜けていった。淡く光った尾が次々に魔獣を切り裂いていく。


「十匹、処理完了」


 その場にいた全員が言葉を失った。魔獣の質は低くても、攻撃までのモーションが綺麗すぎるのだ。僅かな無駄すらないその攻撃は、イリス達の心をつよく射抜いた。


 そして時は経ち、三時間後。


「やっと、七十階層」

「まだ、先は遠いですね」

「魔力はあと四割しか残ってないよ」

「私は魔力はあんまり使わないから平気ね」

「魔力量には自信があるもん」


 レイアとラミアはまだまだ行けそうだ。だが、イリス、イリア、夜空がピンチ。長期戦には向いていないようだ。


 さらに二時間後。


「「「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」」」

「はぁはぁ、ちょっとピンチになってきたわね」

「魔力量はあと三割。ちょっと危ないかな」


 現在九十階層。イリス達は満身創痍だ。あと二十匹殺せたらいいところだろう。さすがのラミアも体力が減りつつあり、レイアは魔力量が枯渇寸前だ。


「イリス、イリア、夜空。そこまでだ」

「「「えっ?」」」


 大地からの戦闘続行不可能との判断を下された。他の二人は続行。劣等感めいたものを抱いてしまうのが人情だろう。


「なんで?」

「まだ、いけます」

「おにいちゃん、やらせて」


 大地に抱きつき、顔を紅潮させ、息を荒げ、さらにやらせてと懇願するのはどうだろうか。周囲からは危ない奴としてとらえられるだろう。


「目的はステータスをあげることだ。ここで死んだら意味がない」


 正論だ。強くなりたくて戦死したら本末転倒だ。イリス達は黙って大地の指示にしたがった。


 そしてさらに二時間後。


「ゲホゲホ。はぁはぁ、おらぁ」

「強化、はぁぁぁ」


 現在百階層。レイア達はもはや満身創痍。だが、なんとかクリア出来そうだ。


 そして数分後。なんとかノルマを達成したラミア達は、どさりと地面に倒れこむ。


「そんなところで寝てると風邪引くぞ。こっちにはいれ」


 壁に錬成で穴をあける。広さは十畳くらいだろうか。岩でできた風呂に、机、椅子。生活するのに十分な設備が整っている。


「水は聖水で作って紅蓮で温めた。とりあえず入っておけ」

「「「「「はぁぁい」」」」」


 少女入浴中。仕切り越しに聞こえてくる少女の声に、心を乱されながらも、なんとか耐え抜いた。


「今日はもう寝るか。疲れただろう」

「うん」

「おやすみです」

「おにいちゃん、夜這いかけてもいいんだよ?」

「ちゃんと起こしなさいよ」

「大地、隣で寝る?」


 様々な誘惑に、大地はきっぱりと断る。やりたいことがあるのだ。


「寝静まったか。それじゃ」


 実は、大地はイリス達が魔獣を殺している間に、自分も大量に魔獣を殺していたのだ。すると、入手できる魔石も大量になるわけで。


「イリスとイリア、夜空、レイアは魔力系だから、これか」

「そして、ラミアは近接派だから、これだな」


 何をしているのだろうか。ぶつぶつと呟きながら何かをしている。実に怪しい行為だ。


 そして翌朝。といっても百階層ともなると光は届かないので朝晩の区別はないのだが。


「お前らにプレゼントだ」

「「「「「おぉぉぉぉぉ」」」」」


  イリス達の前に陳列されているのは、ブレスレットが三つ、何かが入った小瓶が一つ、全長二メートルはありりそうな大きな鎌。


「これはお前達に合わせて作った魔道具だ」


 ブレスレットは、意思伝達に使われる魔石[念石]、電気を数百倍にも増幅させるトランジスタの仕組みを利用した、魔力増幅装置内蔵、そしてイリス、イリア、夜空の遺伝子をそれぞれ内蔵。


 遺伝子を内蔵されたブレスレットは、イリスが魔力を放ったときに、遺伝子を伝わってブレスレット内の魔力増幅装置によって魔力を十数倍にも増幅させて放出される。


「これでちょっとの魔力でも強い魔法が放てる。だが、魔力を注ぎすぎると、自分のからだが耐えきれなくなるからな」


 大きな鎌は、念石の伝達機能をあげ、大きさに干渉できるようにした。最低一メートル、最高十メートルまで変化可能。


 そして、魔力増幅装置を内蔵している。そのため、ちょっとの魔力で斬撃を飛ばすことができる。


「だが、魔力を流した分だけ、鎌が重くなるからな。一メートル大きくするごとに一t重くなっていく。気を付けろよ」


 大地が徹夜して作った魔道具たちだ。それぞれイリス達の遺伝子が内蔵されているため、イリス達以外には使えない。


「そいつを使いこなせれば戦力としては十分すぎるほどだ」


 とりあえず、実践練習。百二十階層にて魔獣を狩る。


「とりあえず、中級魔法程度の魔力でいくよ」

「わかった。あそこにいる魔獣に向かってやってみろ」


 中級魔法、連火(れんか)。相手に向かって連続で爆発する魔法。なのだが、


「えっ?」


 ただの連火の十倍の威力はあるだろう。通常なら半径一メートル程度なのだが。


「ちょっと待て。通路が崩れるぞぉぉぉ」


 半径は十五倍にもなって広がった。威力も十五倍のため、通路は早くも瓦解し始め、大地達を襲った。


「危ねぇ。結界を張ってなかったら焦げてたな」


 間一髪で結界を張り、なんとか連火の威力を殺した大地。


「ごめん。加減がわからなくて」

「別にいいさ。俺もよく分かってなかったからな」


 ちいさな反省会を終え、次はラミアの番となった。


「十tなんて余裕よ。一気に切り裂くわよ」


 余裕とは言っているが、手がプルプルしている。見栄を張っている姿が愛らしい。


「ふんっ」


 凪ぎ払うように鎌を振ると、長さ十メートルの斬撃が通路をガリガリと削るように進んでいった。


「どこまで飛んでいったの?」

「いや、まだ飛び続けてるな。予想距離は二十キロ先くらいだろうな」

「二十キロっ?」


 驚くのも当然だろう。魔法ですら二十キロまで飛ぶものはなかなか無い。ラミアとしては近距離戦だけではなく、長距離戦にも対応できるのでメリットだらけなのだ。


「とりあえず、今日はこれに慣れることを目標としよう」

「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」


 その日一日、クレータ大迷宮を震源とした、地震が起こったとのこと。


「今は百五十階層だ。魔獣のレベルは150。いけるか?」

「大地のブレスレットがあれば」

「下等な魔獣なんて」

「一撃だよ」

「内蔵がどんどん飛び出てくるわね」

「省エネだねっ」


 各々全然余裕のようだ。このままだと二百階層まで行けそうだ。


「待てっ」


 突然、大地の表情が強ばる。


「どうしたの?」

「ヤバイ。急げっ。最速で上層に上るぞ」

「「「「「えっ?」」」」」

「十二倍、超電磁砲(レールガン)


 百五十の岩を貫き、太陽の光が差し込む。


「超級魔法、颶風(ぐふう)っ」

「「「「「きゃっ」」」」」


 状況を理解できずにしどろもどろしているイリス達を、颶風で無理矢理地上に吹き飛ばす。


「俺も早く脱出しな」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ」


 脱出しようと、大地も颶風を使おうとした瞬間、何かが壁を突き破って乱入してきた。


「ちくしょう。来やがったか」

「ガァァァァァ」


 壁を突き破ったのは白い竜。通路の幅が狭いせいで全身が見えないが、見間違えようのないほど完璧に、白竜だった。


「ちくしょう。探知、電磁波、強化五倍」


 探知で魔獣の位置を把握、電磁波で迷宮の地形を把握、あとは強化五倍で疾走するのみ。


「ガアッ、ガアッ、ガアッ」


 炎の塊が連続で吐き出される。


「ぐっ、はっ、よっと」


 迫り来る炎を、壁や天井を使い回避。白竜は通路をガラガラと破壊しながら迫ってくる。


「ちっ。上級、紅蓮」

「ガアッ」


 白竜の炎と、大地の紅蓮が衝突する。


「ぐあっ」


 爆発と共に、大地は通路の奥へと吹き飛ばされた。


 ズザッと着地し、白竜へと視線を向ける。


「ここから真下の位置に五百立方メートルの空間がある。いけるっ。超電磁砲っ」

「ガアアアアアアアアアアアアアアア」


 光線状の炎が大地に一直線に進んでくる。


「ふっ」


 なんとか当たる直前に下層へ降りることに成功したが、降りた先は、


「ちっ。二百階層か」

「ガアアアアアアアアアアアアアアア」


 大地のすぐあとに、白竜が落ちてきた。


「生きて帰れるかわからねぇな」

「ガァァァ」


 お互い出方を伺うように、一歩も動かない。


 睨みあう両者の間に見えない稲妻が走る。支配者戦と勝るとも劣らない激しい戦いが、今幕を開けた。

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