食屍鬼
「ふあぁ。体が軽いな。乱れが治ったのか」
朝目覚めると、大地の体からは魔力の乱れは消え、いつも通りの快調だった。
「超電磁砲」
試しに適当な方向へ超電磁砲を放つ。
放たれた鉄球は次々に木をなぎ倒し、球は溶け去った。
「快調だ。今なら帝国相手にも戦える気がする」
「んん。どうしたの?大地」
大地の放った超電磁砲で起きてしまったようだ。目を擦りながら大地に呼び掛ける。イリア達も後ろからもぞもぞと起き出してきた。
「大地、魔力が乱れてない」
「何があったんですか?」
「どうしたの大地」
「怪しいわね」
少女たちは大地の乱れが治ったことに不信感を抱いている。それも当然と言えば当然だが。二日かかるはずだったのがものの数時間で治ってしまったのだ。
「なんか起きたら治ってた」
苦しい言い訳である。だが他にどう言えと。寝起きの脳みそはあまり働いてはくれないのだ。
「と、とりあえず亜人を探そう」
「しょうがないなぁ」
「また何か隠してるんですね」
「おにいちゃん。嘘はダメだよ」
「嘘だらけの人生なんて面白くないわよ」
心が痛い。イリス達の言っていることは正論だ。故に反論できない。その上、イリス達を騙している罪悪感、それでも健気に慕ってくれていることに大地は応えられない。罪の意識が芽生える。
「探知」
半径二キロで探知をかける。広さで言えば中層の方が表層よりも圧倒的に狭い。それでも、濃い魔素のせいで、探知は砂嵐のように乱れる。
「前方から数体の魔獣がくる。戦闘体制にはいれ」
探知に映ったのは複数の魔獣。まっすぐに大地達の方に進んできている。
「魔法の準備、姿を現した瞬間殺せ」
指示通りに魔方陣を展開。最大限まで魔力をチャージし、待機。
地面を走る音が聞こえる。どんどんと近くなっていくその足跡は大地達への死刑宣告をしているようにも感じた。
「キエェェェェェ」
「撃てっ」
現れたのはワニの口とダチョウを合わせたような魔獣だ。攻撃、敏捷の二つに優れていると予想できる。
だが、いくら元のスペックがよくても、イリス達の魔法を防ぐことは不可能だったようだ。
「キェッ」
短い悲鳴をあげ、魔獣はその命を散らした。
「全く、ここの魔獣は強弱の判断がつかないのか」
「全くだよねほんと」
「迷惑極まりないですね」
「おにいちゃんとなら、勝てる」
「雑魚の集合体ね。話にならないわ」
各々愚痴を吐き捨てる。中層魔獣を雑魚扱いできるのはごく限られた人のみだろう。
中層を進むこと三時間。真上から照りつける太陽を木々が遮っている。おかげで樹海は年中気温が低いとか。
「ぜんぜん見つからない」
「歩き疲れてきたよ」
「どこにいるんですか」
「おにいちゃんおんぶしてぇ」
「全く、いつまで歩かせるのよ」
歩けど歩けど亜人は見つからない。二キロの探知を用いても亜人らしき反応はどこにもない。
それでも歩くしかないのだ。黙って少年少女は歩き続けた。
さらに二時間が経過。相変わらず景色は木で埋め尽くされている。亜人は見つからない。
「今日はもうやめにするか」
「そうだね」
「ゆっくり策を練るとしましょう」
「サッと亜人を見つけてサッと試練をクリアしよぉ」
「別に疲れてないけど、しょうがないから休憩してあげるわ」
ということで、付近の木に穴を開ける。ぞろぞろと中にはいる少女達。大地はもちろん木の上だ。
「レイア。ちょいとフォロー頼む」
レイアに話しかける。いつもならすぐに返事がくるのだが今回は何か様子がおかしい。
「おい、レイア」
「・・・ん、どう・・・した・・・の?」
言葉を上手く話せていない。意味としては伝わるが途切れ途切れで上手く聞き取れない。
「何があった」
「魔力・・・乱れ・・・治した・・・から」
どうやら大地の魔力の乱れを治したことが原因のようだ。
魔力の乱れを治したのが原因なら、魔力を与えてみよう。という考えに至ったのか、大地はレイアに魔力を送り込む。
「んんんんん。頭がスッキリしてきた」
「理由を説明してもらおうか」
「うん。実はね」
どうやら夜空は力を使うとしばらくは意識が朦朧とする状態が続くらしい。大地の魔力の乱れを治すのに力を使ってしまったのが原因だ。
「先に言ってくれれば」
「私が勝手にやったことだから」
「次からはちゃんと言えよ」
「うん」
レイアの知らなかった情報を手に入れることができた。力を使えばしばらくは休まないといけない。失った力は他者から魔力を受けとることで治せる。
「そこでレイア。俺の魔力で千里眼を使ってくれ。亜人を探す」
「なるほど。大地の魔力なら私にはなんともない。でも、大地が千里眼を使うわけじゃないから見えないよ」
「俺の千里眼は一度行ったことのある場所しか見れないからな。死神の眼でおまえの視界とリンクする」
「さすが大地。冴えてるね」
ということで早速リンク。他人の視界を覗くのは変な気分である。
「ここにもいないねぇ」
「もっと奥を見てくれ」
「りょーかい」
レイアが見て、大地が指示をだす。樹海のなかを千里眼で見続けること三十分。それらしきものを確認した。
「あれは亜人か?」
「そうだね。亜人のなかでも、なかなかレアなやつだね」
「形状から察するに、植物か?」
「それっぽいね」
大地達が見たのは植物と人間を合わせたような亜人だった。容姿は悪くなく、周囲の仲間とおぼしき亜人を見る限り、男という性別はないと見える。
体は緑だったり茶だったり、様々だ。どれも体に植物の一部が見られる。ツルが巻き付いていたり、頭に花が生えていたり。
「とりあえず行ってみるぞ」
「私たちだけで?」
「そうだ」
「オッケー。距離は直進七キロだよ」
「人間超電磁砲なら一秒だ」
ということで僅か一秒で目的の場所に到着。ばれないように茂みに隠れ植物系の亜人を観察。
「おねぇちゃん。水がほしい」
「おねぇちゃん。種がほしい」
「おねぇちゃん。土がほしい」
おねぇちゃんと呼ばれていることから、恐らくリーダーだろう。見た感じ一番年上だ。といっても大地よりも年下。十二歳くらいだろう。
「わがまま言わないで。ここ最近は植物や食料を荒らされてるんだから」
穏やかではない言葉が聞こえてくる。荒らし。樹海の中層でも強弱関係はあるようだ。
「また食屍鬼なの?」
「そうね。食物の荒し具合から食屍鬼でしょうね」
「はぁ。今日で何回目なの?」
「少なくとも十五回目ね」
驚くことに、この亜人の集団が育てていた食物を荒らしたのは食屍鬼だという。しかも結構な頻度で荒らされていたようだ。
「私達は力がないからね。隠れるしかないんだよ」
「お姉ちゃん。なんとかできないの?」
「どうしようもないわね」
深刻な問題に亜人達は頭を抱えている。大地としてもせっかく見つけた亜人だ。このまま放っておくのは難しいだろう。
「その食屍鬼、俺が倒してやろうか?」
亜人が危険でないことはわかったので、茂みから出て声をかける。
当然だが急にかけられた声に亜人達は身構える。完全に大地を警戒しているようだ。
「俺は深層に案内してほしいだけだ。お前らは俺を案内しろ。その代わり、俺が食屍鬼を殺す」
「見たところ、体格はよくなさそうな上に武器をなにも持っていない。あなたでは勝てないとおもいます」
勝てない。その言葉に大地はピクリ反応し、ちょっと左手に力を込める。
「勝てないだと?」
瞬間、大地から左に十メートルほどの位置に雷が落ちる。一瞬まばゆい光が発生し、その跡には半径五メートル、深さ五メートルの大穴が空いていた。
「これでもまだ、勝てないと言うつもりか?」
「すいません。撤回します。あなたは十分すぎるほどの力を持っています」
亜人達は大地の実力を認めているようだが、警戒を解いてはいない。そう簡単には信用してもらえないようだ。
「食屍鬼に襲われたところを見せてくれ」
「はい。ついてきてください」
言われるがままについていく。岩をのぼり、河をわたり、木のトンネルをくぐった先に、それはあった。
「なんだこれ」
「すごいね、大地」
そこにあったのは、半径一キロにわたる都市だった。
都市周辺は堀があり、五メートル間隔で警備の亜人が立っている。家は木に穴を開けて作っているようだ。大地のよくやるやり方が使われていた。人工としては一万人ほどだろう。
「他の種族とはぜんぜん違うな。ここまでの都市を築けるだけの力があったのか」
感嘆の言葉が喉をついて出る。一万人もの植物系亜人が生活しているのだ。誰だって感嘆の言葉くらいは出てしまうだろう。
「この都市の入り口は?」
「東西南北に一つずつ」
「ここまでの人口なら食屍鬼にも勝てるんじゃないのか?」
「無理よ」
亜人は諦めたように言うと、その理由話す。と言っても、理由は小学生でもわかるような単純なものだった。
「相手は、三万よ」
「三万っ?」
聞く限り、食屍鬼と植物系亜人のステータス値は食屍鬼の方が二倍ほど強い。その上数は食屍鬼の方が三倍も多い。勝ち目がないのは誰にでもわかるだろう。
「今はなんとかなってるけど、いずれ壊れる」
「なるほど。食屍鬼はいつ攻めてくるんだ?」
「毎晩よ。一日たりとも来なかった日はないわ」
「わかった。今日から俺達をこの都市に住まわせてくれないか?」
「俺達?」
「仲間だ」
「なんのために?」
「食屍鬼狩りだ」
大地はニヤリと笑う。どう考えても笑う場面ではないのだが、大地は笑ってしまうのだ。
「えぇぇぇぇぇ」
「食屍鬼ですかっ?」
「三万もいるのっ?」
「無茶よっ」
イリス達のもとへ戻り、亜人との出来事を話した。やはり、怒られてしまった。
「やるといったらやる。深層へ行くためだ」
「大地が言うなら」
「仕方がないので」
「やってあげようかな」
「しょうがなくだからね」
話がまとまったところで、大地達は先程の都市へと向かう。
食屍鬼との戦争が、ゆっくりと幕をあげた。




