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中層

 旅館のとある一室。窓から差し込む陽の光が大地の意識を覚醒させていく。


「もう朝か。たまにはゆっくり寝かせてもらいたいもんだな」


 愚痴をこぼしながら立ち上がろうとすると、やけに下半身が重たい。またイリス達かと布団をめくると、


「スー・・・・・・・・・・スー」


 そこにいたのはイリス達ではなく、旅館の受付の少女だった。まだ制服を着ているとことから、仕事の途中で寝たことがわかる。ではなぜ。


 大地の出した答えはシンプルだった。わからないなら聞けばいい。それだけだ。


「起きろ」

「ふぁっ」


 ちょっと強めに起こす。本人の許可なく布団に潜り込んでいるのだ。情けは無用である。


「俺の布団で何してたんだ?」

「えっ。あなたが連れ込んだんじゃないですか」


 予想に反する返答に大地の思考回路は数秒間停止した。そして再起動。


「どういうことだ?」

「あのあと、疲れきったあなたを部屋まで運んできたら、私を抱き枕にしてそのまま寝てしまったんです」


 これはやばい。死神の眼を使っても嘘をついていないことがわかる。


「それは悪かった」

「ほんとですよ。私のはじめてまで奪われちゃったんですから」

「それは嘘だな」

「な、なんで分かったんですか」

「はじめての場合は血が出る。でもこの部屋には血の臭いがない」

「恐ろしいですね」


 このままいける。なんて事を思ったのか少女は大地に襲われた的な発言をするが大地の前には嘘は意味を成さない。


「おいイリス達。起きろ、って起きてるのか」


 少女を軽くあしらいイリス達の部屋へとお邪魔する。


 いつものように起こしてやろうとしたら、すでにイリス達は起きていた。


「お前らが早起きなんて珍しいな」

「大地よりも早く寝てるもん」


 ごもっともな理由にそれ以上の追求はやめた。


「それじゃ、今日中に中層までいくぞ」

「「「「おぉぉぉ」」」」


 奴隷を一人引き連れ樹海の中に入る。


「案内頼むぞ」

「はい。一生懸命役に立ちます」


 そうして樹海の中をうろちょろとする。途中、魔獣に襲われたりもしたが、イリス達に一瞬で召された。


「はい、つきました。ここからが中層です」

「特に変わったところは見えないが」

「魔素の濃度が十倍ほど違います」


 とうとう中層に到着。周囲の景色にたいした変化は見られない。これではどこからが中層かもわからないだろう。


「帰りは一人で大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「念のためこれを持っておけ」


 大地は腕輪から爆弾を五個ほど持たせる。樹海の表層部分の魔獣なら、その爆弾でも十分だろう。


「さてと、中層に来たわけだが」

「ちょっと息苦しいね」

「はい。魔素が濃いからでしょうか」

「この胸を締め上げられるような感じ。私、おにいちゃんのこと好きだよ」

「変なこと言わないでよ。魔素が濃いからに決まってるじゃない」


 中層にて、ワイワイと楽しげに歩く大地達。そこへ


「キッ、キッ」


 魔獣が現れた。熊と猿を合体させたような魔獣。爪は鋭く、それを使って周囲の木を器用に飛び回っている。名前がわからないので熊猿と呼ぶことにしよう。


「俺は今魔法が使えない。イリス、援護頼む」

「任せておいて」


 飛び回る熊猿にイリスの紅蓮が放たれる。以前よりも強くなったイリスの炎は白くなり、一直線に突き進む。


「キッ」


 だが相手もバカではない。サッと別の木に飛び移る。でかい図体のわりに動きは速い。


「ふんっ」


 もちろん大地だってバカではい。飛び移った瞬間に一気に跳躍し、右足で蹴りを放つ。


「キィィィッ」


 右足の威力は強く、熊猿を木ごと破壊した。上半身と下半身が引き離され、苦しそうに地でもがいている。


「うるさい」


 止めの一発。脳天を踏み潰す。バチャッと血肉が飛び散る。


「ふぅ、魔獣の質がけた違いだな。集団で襲われると面倒」

「そうだね」

「それでも私たちには遠く及びませんが」

「おにいちゃんは今魔法使えないもんね」

「肝心なときに、大地は抜けてるわね」


 可愛らしい少女達に文句を言われてしまった。正論なので反論はできない。今の主導権はイリス達にあるようだ。


 少女達を先頭にして中層をうろうろと動く。言わなくてもわかると思うが、迷っている。


「大地ぃ。どこ行けばいいのぉ」

「落ち着いてください。円周率を唱えましょう」

「おにいちゃん、ここどこ?」

「迷ってなんかないわよ?迷ったふりしてるだけなんだから」


 完全に迷ってしまった。なんとなくはわかっていた。いつもダンジョンを進む時の先頭は大地だ。つまり、イリス達が先頭となるのはこれがはじめてと言うことだ。


「まずは中層で亜人を探す。表層の亜人では中層は不適任だからな」


 中層までの案内は表層の亜人。深層までの案内は中層亜人。というような感じだ。これは亜人同士で決められているらしい。


「魔力の乱れが治るのにあと二日か」

「そこまで乱れるなんて何があったの?」

「お姉ちゃん。人は誰しも秘密にしておきたいことがあります」

「むやみに聞いちゃダメだよ」

「私はその辺の常識くらいあるわよ」


 イリアのフォローで計画のことは話さずにすみそうだが、いつまで隠し通せるのかは分からない。


「フウゥゥ、フウゥゥ」


 出た。魔獣である。虎を三倍にしたような魔獣が三体。いずれもレベルは40くらいだろう。イリス達で十分に倒せるレベルだ。こいつも名前が分からないため虎と呼ぶことに。


「お姉ちゃんはさっき戦ったので下がっててください」

「おにいちゃんにいいとこ見せなきゃ」

「秒で片付けてやるわ」


 各々やる気は十分。相手も弱いので心配する必要はなし。大地も肩の力を抜き、観戦に専念するようだ。


「先手必勝、紅蓮」


 まずはイリアの紅蓮だ。以前よりも強化されているが、イリスの炎のように真っ白ではない。赤みがかった白い炎だ。


 イリアの紅蓮は一直線に虎に向かって飛んだ。


「ガッ」


 見た目が虎なだけあって、瞬発力は高い。サッサと地面を蹴り、高速で移動する。


「上級魔法、氷槍(ひょうそう)。いくら速くてもこれじゃ意味がないね」


 素早く移動する虎は、夜空の氷槍に串刺しにされた。


 氷槍。氷の槍のようなものを生み出す。壁からでも地面からでも生み出すことができる。但し、強度は普通の氷と同じなので、体の固い魔獣には効果がない。


「動きを止めるだけじゃ生ぬるい」


 氷槍で動きを封じたあと、ラミアのアッパーが炸裂する。勢いよく回転し、からだがブチブチとねじ切れ、死んだ。


「あと二体」

「余裕だよ」

「捻り潰すわ」


 三人の少女の蹂躙劇が始まった。夜空は雷の檻を作り出し、じわりじわりと感電させて殺した。夜空とラミアは、夜空の威圧で動けないところを、ラミアの拳で殴る。わざと弱い力で殴り衰弱させてからのフィニッシュ。


「お前らなんか荒んでないか?」

「「「別に」」」


 大地の質問は軽く受け流されてしまった。若干ショックを受けるも即座に持ち直し、先へと進む。


 進むこと二時間。


「今日はここで寝るぞ」


 いつものように木に穴を開け、簡易式の家を作る。


 家を作り終えると、中にはいる。


「あぁ、これは派手に乱れてるな」


 ステータスボードを見るや否やで大地は若干気分ダウン。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

名前:大神大地 年齢:16 職業:鍛治職人 レベル:???

筋力:19150[+3570]

耐性:19150[+3570]

魔力:&%#+?[+3570]

魔耐:19150[+3570]

能力:鍛治・錬成[+気体]・鑑定[+魔法]・身体強化・夜眼・魔力操作・千里眼

  ・感覚操作・探知・放電・威圧・支配・衝撃波・消失[+魔法]・真眼

  ・思考伝達・視界共有・歪曲

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


魔力のところが変なマークになっている。まえよくが乱れているからだろう。正確な情報は把握できない。


「まぁ、他のところはなんともないのが、不幸中の幸いだな」


 完治するまで二日。それまでになにもなければいいのだが。大地は心中でそんなことを呟く。


 そして夜。昼間は軽く遊んでいたせいでイリス達は身を寄せあって寝ている。


「おいレイア」

「どうしたの?」

「お前なんか影が濃くなってきてないか?」

「私は大地の命。大地からもらったわずかな命を、自分のなかで増幅させることで新たな体を作ってるの」

「そんことが出来るのか」

「大地が歪曲を使えるから、ちょっその力を借りてるの」

「レイアも何気にすごいことしてるな」


 毎晩、こうして話すのが二人の日課になっていた。どうでもいい話から、今のようなすごい話まで、幅は広い。だからこそ楽しいのだ。


「レイア。おまえ俺の魔力の乱れを早く直したりは出来るのか?」

「出来るよ」

「お前が嫌じゃなければやってくれないか?」

「しょうがないなぁ」


 ラミアが目を閉じる。ゆらゆらと浮かぶラミアの体はわずかな光を帯び、次第にまばゆい光となり、大地を包み込んだ。


「これで大丈夫かな」

「体の中の淀みが軽くなった気がする」

「明日の朝にはもうなくなってるよ」

「おまえみたいなのが俺の嫁だったらな」


 その何気ない一言が、レイアを赤くさせる。


「もうぅ、大地。わかっててやってるでしょ」

「どうかな。もう眠いから寝る」

「全く。おやすみ」


 大地の就寝と共に、レイアもまた穏やかな表情で意識の深層へと潜っていった。

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