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強制アルビニズム化計画 5

(大地、落ち着いて)

「悪いなレイア。ここでこいつを殺さないと気が済まないんだ」


 大地の目はまっすぐに国王を睨み付けている。だが、どこかいつもの大地とは違う異質な空気を放っていた。


「むダダ。貴さマには殺セない」

「寝言は寝てから言え」


 時間にして一秒未満。そのたった僅かな時間で、国王の左腕は根本からごっそりと切断されていた。


「・・・・・イリス達は殺させない」


 凄まじい勢いで魔法を発動していく。紅蓮、神風、聖水、焔、雷殺、水界。対応しきれる量ではない。


 城の至るところが次々に壊れていく。大地の魔法は並大抵の警備兵など瞬殺出来るほどの威力があるのだ。そんな魔法が秒単位で放たれているのだ。国民にも影響が出るのは目に見えているだろう。


「グッ、貴サマ、ナメるなヨ」

「お前こそ」


 お互いの拳がぶつかり合う。一発一発が衝撃波を生む拳が、周囲の城壁に亀裂をいれていく。


「あアぁっぁァぁぁアぁァっぁッっぁあ」

「・・・・・・・・・・」


 奇声を発しながらの国王と、無言の大地。どちらも力は五分五分。城壁はすでに半分以上が壊れ、城そのものも壊れつつある。


「はっ」


 衝撃波を生み続けた拳と拳のぶつかり合いは、大地の一発で幕を閉じた。


「マだダ。マだ負けテない」

「超電磁砲」


 鳩尾に入れられた大地の拳は国王に重く響き渡り、とうとう国王は膝を地に着いた。そこへ、無情にも大地は超電磁砲をぶつける。


「がァぁぁァアっッぁアぁあ」


 国王の右腕は吹き飛び、両手を失ってしまった。もはや勝ち目はない。それを悟ったのか国王は、


「フフふ。今、荒野ノ中心にオ前ノ助ケた少女がいル」

「なっ、どうするつもりだっ。答えろっ」

「合図さエ出せバ、殺セる」


 大地の助け出した少女が国王に再度捕まったという。そのうえ、合図一つで殺すのも容易とのこと。大地の額に冷や汗が滲む。


「アあぁッぁぁぁぁアぁぁっぁッっぁア」


 奇声と共に国王の口から真っ赤な光線が空に向かって発射される。恐らく、これが合図であろう。


「超電磁砲っ」


 考えるよりも速く、大地は人間超電磁砲で荒野に飛び出していた。ほんの一瞬のうちに大地は少女のもとまでたどり着いた。


「誰だ貴様」

「処刑の邪魔は許されない」

「お前らは先に処刑を進めてくれ。こいつは俺が片付ける」


 総勢十人。警備兵二人に処刑を任せ八人で大地を相手にしようということだ。


「殺し」


 殺してやる。そう言いたかったのだろう。だが、大地の拳の方が速かった。瞬間にして警備兵の頭部を粉砕した。


 それを見て唖然としている残り七人も気にせずに殺していった。全員一瞬で。


「おい、やばいぞ」

「逃げるが勝ちだ」


 子供が言いそうなことを掃き捨て大地に背を向ける。ただ、それが間違いだった。


「後ろががら空きだ」


 放電により一瞬でその姿を消した。


「大丈夫か?」

「あのときの。うん大丈夫だよ」


 どうやら怪我は無いようだ。荒野での処刑は魔獣の餌にすることのようなので、少女は手足を鎖で結ばれている。


「俺が甘かった」

「でも助けに来てくれた」

「これをやる。身の危険を感じたら使え」


 大地が渡したのは、引き金を引くだけで超電磁砲を放てる道具、バレットだ。


「これで死なないやつはほとんどいない」

「いろいろ、ありがと」


 少女の安全を確保し、帝国の方を向く。


「散々ひどい目に遭わせてくれたんだ。命で払ってもらわなきゃな」


 千里眼を使用。国王はさっきから動いていない。少女が死んだと思い込んでいるようだ。


「半径一メートルのチタン合金だ。この距離なら申し分ないだろ」

「なにするの?」

「見てろ」


 大地の体からバチバチと電気が溢れだす。周囲の砂鉄を寄せ集め大地の周りに同心円状を形成する。


「強化十二倍、放電、超級、神雷、雷殺、上級、雷斬、電槍」


 大地の周りだけが明るく光輝く。大地の姿が光で見えなくなりそうだ。そして、


「お前に生きる資格は、無い」


 秒速八キロで大地の超電磁砲が発射された。真っ白な閃光が尾を引きながら国王に向かって直進する。


「クックック、ユウ者。ザまァ見ろ」


 痛みに耐えながらも大地を嘲笑う国王。目の前から超電磁砲が放たれているとも知らずに。


 なんの悲鳴もなく国王は消し飛んだ。城壁も城も一気に貫通し、巨大なチタン合金は溶けきった。


「これが超電磁砲だ」

「・・・・・す、ごい」


 大地の本気の超電磁砲を目の当たりにし、腰が抜けてしまっている少女。ペタンと座り込み、渡されたバレットを見つめる。


「あれをこれで撃てるの?」

「威力はさっきの六割くらいだな。それでも十分強いが」


 人を一瞬で殺せる武器を手に持って、少し恐怖があるのだろう。それもそうだ。少女はまだまだ子供。人を殺したことなど無いのだから。


「バレットの弾は大きさが正しければどんな金属でもいい」

「うん。分かった」


 一通りの説明を施し、少女を帝国内の家族の元へと戻す。そろそろ強制アルビニズム化計画の影響が消えてくる頃だ。


「はぁ、どっと疲れたな」

(当たり前だよ。あんな超電磁砲放つなんて。ちょっとは自分の体を大事にしてよ)

「悪いな。だが、関係ないイリス達を殺そうとしていた国王が許せなかったんだ」


 人間超電磁砲を利用し、一瞬でイリス達の元へとたどり着く。睡眠薬の効果はまだ続いているようで、四人仲良く眠っている。


 大地も、さっさと木の上に登り就寝体制をとる。長かった戦いもとうとう終わりを告げたのだ。


「起きてよ大地」

「んんん。どうしたんだ?」


 何回同じような経験をしただろうか。朝早くから一人の少女に叩き起こされる。


「大地、魔力が凄いことになってるよ」

「何が?ってマジか」


 連日間にわたる大量魔力消費によって、大地の魔力を抑制するバルブのようなものが緩んでしまったようだ。大地からドバドバと魔力が溢れだしている。


「大地が生産する魔力が、溢れる魔力よりも多いせいで大地の周りだけが高密度の魔力で溢れかえってるよ」


 大地の魔力が多いせいで周囲は魔力の巣窟と化している。これでは魔獣が寄ってきてしまうのは必然といっても過言ではないだろう。


「ガァア」


 案の定、一匹の魔獣が上質な魔力を求め寄り付いてきた。


「上級、雷斬」


 もちろん、樹海の表層部分の魔獣では大地達には軽く及ばない。大地の雷斬によって、激しく血の雨をふらせた。


「大地。魔力が安定するまで魔法禁止」

「そうです。使ったらお仕置きですよ」

「使えない間は私がおにいちゃんを守ってあげるよ」

「しょうがないから私が一肌脱いであげるわよ。感謝しなさい」


 イリス達に心配されてしまった。無理もないだろう。ほぼ、無尽蔵に流れ出る魔力は周囲からは願ってもない餌だ。


「分かった。なら、しばらくは任せる」


 今回ばかりは大地でもどうしようもない。魔力がだだ漏れの状態ではまともな戦闘は不可能。おとなしくイリス達に従うほかないのだ。


「よし、それじゃ樹海の中層に行くために亜人に案内してもらうか」

「えっ?場所わかるの?」


 大地は強制アルビニズム化計画にて大勢の亜人の奴隷を助けていたのだ。大地が頼めば協力してくれるだろう。


 樹海を通り抜け、ピュロス海へと到着。なぜ来たのかは見当がつくだろう。


「いらっしゃ・・・・・一番端のスイートルームです。様々な設備が完備されています。どうぞごゆっくり」

「前にも同じような事があった気がするな」


 ピュロス海の旅館にて、またもや変な誤解を受けてしまう。


「お、お久しぶりです。ご主人様」

「久しぶりだな。仕事は上手くいってるか?」


 以前買い取った奴隷達である。仕事はどんどん上達しているようで、旅館の売り上げに貢献しているとのこと。そのうえ容姿まで抜群ときた。今では奴隷達に会いに来る客も少なくないと。


「それは良かったな」

「全部ご主人様のおかげです。ありがとうございます」


 上手くやってることで安堵の息を漏らす大地。助けた側としては喜びは大きいのだろう。


「ちょっと大地。どういう関係なの?」

「説明を求めます」

「おにいちゃん。浮気?」

「女たらし。大地には失望したわ」


 イリス達に問い詰められる。しかし、計画のことを話すわけにはいかないので適当にはぐらかす。


「大地。私だけを見て」

「いいえ。私だけで十分です」

「妹は大事にしなきゃだよ」

「私は信じてたわ。裏切った責任をとって」


 適当なはぐらかしは意味を成さない。イリス達の熱はどんどんと上がり、しまいには


「あぶなっ」


 案の定、熱が最高潮に達したイリス達は上級魔法をポンポン放つ。


「待てっ。あぶねっ」


 急ぎ旅館から飛び出す。幸い、旅館に損傷はない。大地には心に大きな怪我をしそうだが。


「紅蓮」

「雷斬」

「絶対零度」

「電槍」


 次々に爆破が起こる。浜の砂が巻き上がり、海の水が吹き荒れた。


 それから十数分後。さすがのイリス達も疲れ、旅館で深い眠りについている。


「はぁ、はぁ、はぁ。さすがに、強化なしで、イリス達を回避するのは、疲れる、な」


 イリス達と同じく、大地も疲弊しきっているようで、浜にバタリと倒れこんだ。


「はぁ。樹海の中層は明日にするか」


 妥当な判断だろう。むしろこのまま樹海にいこうものなら一瞬で肉塊となってしまうだろう。


「悪いが、旅館の部屋一つ。貸してくれないか?」

「フフフ。どうぞごゆっくり」


 受付の少女の意味ありげな笑いが、大地の頭の中で反響し、溶けていく。


「たまには、ゆっくりするのも、いいかもな」


 旅館の部屋へと移動し、しみじみそんなことを思う、大地だった。

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