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強制アルビニズム化計画 4

 樹海の中にうっすらと光が差し込む。太陽の光だ。暗く寒い夜は終わりを迎えた。


「最近寝てばっかりな気がする」

「そうですね。運動もあんまりしないせいか体が重いです」

「おにいちゃんも構ってくれないし」

「樹海の中じゃお風呂にも入れないわね」


 目覚めたらイリス達は朝っぱらから愚痴をこぼす。朝だというのに荒んでいる。


「大地はまだ寝てるの?」

「珍しいですね」

「いつもはおにいちゃんが起こしてくれるのに」

「無責任ね、まったく」


 一晩中亜人と戦闘を繰り広げていたのだ。強力な睡魔が襲ってきても不思議じゃないだろう。もっとも、イリス達はそれを知らないわけだが。


「じゃ、起こそっか」

「そうですね」

「そうしよう」

「そうね」


 各々木にのぼる。木に背中を預け、座るように眠る大地の顔をまじまじと見つめるイリス達。なぜ起こさないのだろうか。


「大地って寝てるときも格好いいんだね」

「当たり前ですよ」

「さすがお兄ちゃんだね」

「否定はしないわ」


 それから数分間、イリス達は大地の顔を見続けて、やっと本来の目的を思い出す。


「大地、起きて」

「朝ですよ」

「起きないと悪戯(いたずら)しちゃうぞ」

「起きなさいよ」


 大地の肩をゆさゆさと揺らし、声をかける。


「んん、なんだ。もう朝なのか?」


 開ききっていない目でイリス達をみる。ニコニコと微笑んでいる様子が可愛らしい。


「さてと、魔獣でも狩ってくるか」


 眠気覚ましに魔獣狩り。体を動かすのは良いことだ。


「雷斬、雷斬、雷斬、雷斬、雷斬、雷斬、雷斬」


 目についた魔獣を片っ端から狩る。魔獣の生態系が崩れそうなほどな勢いである。


「はぁ、やっと目が覚めてきたな」

「最近大地、疲れてない?」

「そうですね。起きるのも遅いですし」

「魔力の乱れを感じるよ」

「ちょっとは休んでもいいんじゃない?」


 強制アルビニズム化計画阻止のため、夜な夜な激しい戦闘を繰り返しているのだ。体調に多少の変化があってもおかしくはないだろう。


「なんでもない」


 適当にはぐらかす。大地としては知られたくはないのだ。


 夜。空からは雨が降り注ぎ、視界が妨げられる。


「今日は一気に三つ潰す」


 最初は鳥、その次も鳥、その次も鳥。前回と合わせて五つ。研究施設は残り六つ。


「明日は夕方から。四つ潰す」


 なんとか戻ってきたが、消耗は激しい。いくらステータス値は高くても、数で攻められたら限界は来る。


「やばい、クラクラす・・る」


 木にたどり着くと、ガクッと足から崩れ落ちた。そのまま疲労に身を任せ、大地は深い眠りに落ちてしまった。


「大地っ」

「はっ。・・・・・なんだ?」


 突如、自分を呼ぶ声に目を覚ます。ぼんやりとした視界が次第にはっきりとする。大地の目の前には四人の少女がいた。


「大地、こんなとこでなにやってるの?」

「それに服が汚れています」

「昨日よりも魔力の乱れが激しいよ」

「私達に黙って何かしている何て事は、ないわよね?」


 朝起きたら大地が倒れていたのだ。何かあると思うのは当然だろう。そろそろ隠すのも難しくなってくるのは、大地にもわかっていただろう。


「ちょっと、遠くまで魔獣を狩りに行ってたんだ」


 またはぐらかす。しかし、イリス達もわかってきたのだろう。大地が嘘をついていることに。


「そう、なんだ」

「ならいいんですが」

「知らなかったよ」

「秘密にする意味が分からないわ」


 薄々気付き始めている。大地は今夜もどこかへいくのだろう。イリス達の考えは一致していた。


 夕暮れ。昨日の雨のせいで湿気が高い。火系統の魔法は威力が落ちる。


「悪いな。こうするしかなかった」


 以前、大地がイリス達に食べさせた果実。強力な睡眠薬の効果をもつ。大地もまた、イリス達の考えを知っていた。もっとも、大地は死神の眼の能力を使ったわけだが。


「残り六つ。今日は四つが限界か」


 鳥や魚、妖精や蛇。四種類の亜人と戦闘を繰り返した。いずれも相手は強い。大地の腕が二回ほど千切られた。


「全く、連日で激しい魔力の消費。体への強大な負荷、千切られて失った血液。迷宮でもここまではしなかった」


 疲労は蓄積し、大地の体を(むしば)む。だが、残り二つ。ゴールは近い。


「次は上で寝ないとな。ばれちまう」


 朝、大地が地面に倒れていたため、イリス達は大地を心配していたのだ。そうさせまいと、大地は疲れきった体で木の上へと這い上がる。


「あと・・・・・二つ」


 上までたどり着くと、十秒もしないうちに深い眠りに着いた。どれだけ疲れているのか嫌でもわかるだろう。


「ふあぁ。さぁ、今日が最終回だ」


 無理矢理早起きする。まだ疲労が回復しきっていない。元の状態の六十パーセント出せるか出せないかくらいだろう。


「おい、起きろ。朝だ」


 イリス達を起こす。無理矢理早起きしたため、怪しまれる心配は少ないだろう。


「んん?」

「大地」

「おはよぅ。おにいちゃん」

「今日は起こしてくれるのね」


 眠い目を擦りながら体を起こすイリス達。最近疲れていたせいか、あまりイリス達を見ていなかったが、久しぶりにちゃんと見てみると


「綺麗、だな」


 その言葉は、自然に大地の口からこぼれ落ちたものだ。なんの意識もせずにただ思ったことがそのまま口に出てしまった。


「もぅ。朝から優しいなぁ」

「お世辞を言ってもなにも出ませんよっ」

「妹と兄の禁断の恋。おにいちゃんは積極的だね」

「なに今さら事実を言っているのよ。当たり前じゃない」


 各々喜んでくれている様子。こうするのも久しぶりだ、と懐かしさを感じる大地。なぜだろうか。今の大地は異常なほど落ち着いている。


「はあぁ」


 あくびを一回。それを聞きつけ四人の美少女がさっと寄ってくる。


「大地、眠いなら私の足、貸してあげるよ」

「私の足も使っていいですよ」

「足だけじゃなくてもいいんだよ。私は体を使わせてあげる」

「ふん、しょうがないわね。足だけなら使わせてあげないでもないわ」


 睡眠不足の大地はお言葉に甘えて一人づつ使っていった。イリス、イリア、夜空、ラミア。それぞれの足を一時間づつかりた。


 時は夕暮。辺りが暗くなりはじめた。


「お前たちにお陰で助かった。今度なんでも言うこと聞いてやる」


 また滅茶苦茶なことを言っている。どうせあとでやばいことをやらされるのは目に見えている。それでも、イリス達にはそれくらい感謝していることの表れなのだろう。


「何度も悪いな。・・・・・行ってくる」


 果実で眠っているイリス達に挨拶をして、満を持して出撃する。


 残り二つのうち、一つは蛇の亜人が支配していたが、全員焼き払い奴隷を開放。研究施設を破壊し、最後の一つへと向かう。


「ここが最後か」


 ようやく最後の研究施設である帝国へとたどり着く。だが妙なことに


「音がなにも聞こえない。奴隷の反応はあるのに」


 研究施設からはなんの音も聞こえなかった。奴隷の声はおろか、警備兵の声どころか姿すら見られない。


「まぁ、いい。奴隷を開放してとっとと逃げればいい」


 正面から突っ込むつもりだ。勢いよく走り、入り口に差し掛かったところで、


「ぐぁ」


 なんだろうか。地下からだろう。なにかおぞましいものが飛び出してきた。


「ユウ者ヨ。ヨクぞ、参っタ。ダが残ネンダッたナ。オ前はコこデ死ヌ」


 外見から判断するまでもなく、おぞましいそれがなんであるのか大地はすぐに分かった。


「強制アルビニズム化計画はただの準備に過ぎない。本来の目的は大量に生産した多種族のアルビノを一ヶ所に集め、アルビノから定期的に魔力を抽出し、それを特定の人物に蓄積させることで、多種族の優れている能力だけを得ることができる」

「ソの通リだ」

「特定の人物。なぜ貴様なんだっ。国王っ」


 国王は、アルビノから得た魔力をどんどん吸収し、人間の姿を保てなくなったのだ。目の前にいるのは、足が魚や蛇のようになっていたり、背中や腕から羽が生えていたりともはや人ではない。


「こノ力で、帝国ヲ支配スる」

「お前みたいな化物ができるわけないだろぉぉぉ」


 大地お得意の超電磁砲を放つ。敏捷性に優れた鳥でも回避できなかったのだ。国王が避けられるはずがない。そう思っていた。


「ムだダ」


 超電磁砲が直撃する瞬間、国王は一瞬で姿を消した。超電磁砲はそのまま城壁を突き破り、空闇へと消えていった。


「遅イ」

「なっ」


 どこに消えたのかと周囲を見渡すと、国王は背後にいた。


「あアぁッァアあァァ」


 大地の胴体を思い切り蹴る。蹴った衝撃で大規模な衝撃波が広がる。


「ぐっ、強い。竜の胴体じゃなかったら危なかった」


 大地の右胴は竜で出来ている。耐久性に優れているため、ちょっとやそっとの攻撃じゃびくともしない。


「ユウ者。おマエのせイで、アルびノの計カクがばレた。許サなイ。殺ス」

「ふざけんな」


 どうやら魔力を取り入れすぎたようだ。まともな思考回路は消滅し、ただ私欲のために動く化物になりつつある。


「お前は妊娠が出来ると判断したら小さな子でも容赦なく孕ませたそうじゃないか」

「ダったラ、何ダ」

「お前っ」


 大地の目が紅く光る。いつものあれが、来る。


「そんなことのために、あの子等(アルビノ達)を使ったのかぁぁっぁあああぁ」


 半径五百メートル分の衝撃波を五十メートルに圧縮し、電気をのせて放った。


 バチバチと電気を散らしながら衝撃波が広がっていく。二つの技の重なりに、城内にいた警備兵は感電死を余儀なくされた。


「調子ニのルなよ」


 威力は十分すぎるほどだった。まともにたっていられるのはあり得ない。それほどの威力の衝撃波だったはず。にかかわらず、


「あアぁッぁアあぁぁっァっっぁア」


 国王の拳は正確に大地の心臓を貫通し、そのまま体内で爆発を起こした。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 左半身が吹き飛ぶ。無論、吸血鬼なので一秒で再生終了。だが、出血は大きかった。


「こノ力ナら、スベてヲ支配でキル。カオスからキいタぞ。オ前の仲マも殺シテやる」


 その時、大地のなかで何かが外れた。ガチャっと音をたてて大地の理性を奪っていく。


「もういい。この国の人間なんて知ったことか。お前だけは、ここで殺す」

「不可能ダ」

「どうだろうな?」


 大地の目は(くれない)に染まる。抑えてきた何かが、大地の中の化物を覚醒させた。

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