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アルビノ

 薄暗い樹海の中、それとは対照的な声が延々とこだます。


「大地、第三の試練ってこの樹海でいいんだよね?」

「正確にはオリンポス樹海だ」


 何度も訪れている樹海だが、それはあくまでも表層部。樹海は表層、中層、深層の三つに別れており深層の中心に支配者がいるという。


 余談だが、樹海は空から見下ろすことはできない。上空は有毒な魔素が飛散しているため、近寄れば中毒になりかねない。


「今いるのは表層だ。中層に行くには案内してもらわないと行けない」

「誰に案内してもらうの?」

「ここの住民にだ」


 イリスの質問に対する大地の答でいう住民とは、亜人族のことだ。


 一言で亜人といっても、鳥や魚、妖精など様々なのだ。


「中層の案内人は鳥の亜人だ」

「どんな姿をしてるのか興味があります」

「私はいつもおにいちゃんに興味津々だよ」

「わかったわかった」


 夜空の告白めいた発言を軽く流す。満更でもないというのはイリス達には内緒だ。


 薄暗い樹海がさらに暗くなった。夜だ。


「この木をえぐるぞ」


 大地が選んだのは直径三メートルの木。中身をえぐり、木の中に直径二・五メートルの部屋を作り出した。


「全員入るのは無理だ。俺は別の木の上で寝る」

「大地も一緒に寝よ?」

「そうです。その方が暖かいです」

「おにいちゃんの抱き枕だよっ」

「しょうがないから一緒に寝る権利をあげるわよ。別に寝たいとかそういう訳じゃないからね」


 各々それぞれの理由で誘うが、大地はきっぱりと断る。


「単純に狭いんだ。それにお前達の睡眠を阻害するわけにはいかんだろ」

「全く、大地はもぅ」

「優しすぎるのも考えものですねぇ」

「おにいちゃんがかっこいぃ」

「全く、私と寝るのを諦めるなんて、大地の意気地無し」


 怒ったように見えて実は喜んでいるイリス達も諦めてくれたことなので、さっさと木の上に登る。


「さて、俺も寝るかな」


 僅かに差し込む月明かりに照らされながら、大地は静かに眠りについた。


「おい、お前ら。朝だぞ」


 翌日。木の中で眠りこける四人の少女。服ははだけ、いろいろとヤバイ絵面だ。


「大地、だめっ」

「そんなところ、舐めたらだめっ、ですっ」

「おにいちゃん、いいよ」

「今だけは、許してあげるわよ」


 全て寝言である。夢の中ならなんでもしてもいいが、ここまで露骨に夢の内容がわかってしまうと少々気恥ずかしいものである。


「俺で遊ぶなっ」


 ちょっと声のボリュームをあげる。声に反応しイリス達の目が開く。


「もぅ、いいところだったのに」

「大地、激しかったです」

「もうちょっとでおにいちゃんと」

「私は普通だったわよ。別に変な夢とか見てないから」


 この展開に慣れつつある大地は夢の内容まではとやかくは言わない。順応の早さは誉めるべきだろう。


「ほら、服を直せ」

「いやぁん。大地のエッチぃ」

「大地はやはりロリコンでしたか」

「おにいちゃんも見せてくれるよね?」

「勝手に見ないでよ。ちゃんと許可をとってから」


 ロリコンではない。もちろん見せるわけでもない。許可を取れば見せてくれるのかと聞きたくなるがしない。大地は多分紳士なのだ。


 さっさと身支度を整え、歩き出す。


 朝ゆえに少し明るい樹海を、陽気な少女達が歩いている。


「亜人はどこにいるの?」

「俺にもわからん。半径二キロで探知をかけてるが、魔獣らしき反応だらけだ」


 なかなか亜人が見つからない。広い樹海なのでそうそう見つかるものでもないんだが、さすがに気が滅入ってくる。


「おっ。数十人ほどの反応がある。魔獣ではなさそうだな」

「位置は?」

「直進二キロだ」


 亜人とおぼしき反応を見つけた途端に、イリス達の表情はパアァっと明るくなった。


「大地、急ご」

「速くいきましょう」

「いこうおにいちゃん」

「さっさといくわよ」


 全員が急かしてくるので仕方なく、大地も急いでいくことに。


「相手は亜人と決まった訳じゃない。他の種族の可能性もある。距離が五十メートル圏内に入ったら歩いて近づくぞ」


 的確な判断する。少女達も反論はない。


「手段は問わない。速く行ければそれでいい。行けっ」

「おおおぉぉぉ」


 イリスは強化八倍からの疾風と神風の組合せ。イリアも同様。夜空は疾風と神風、そして神速(しんそく)。ラミアはもともと運動面ではスペックが高いので、強化八倍と竜化。大地はというと、


「試したいことがあるから、先に行っててくれ」


 何をしたいのかは全くわからないが、大地のことなのですぐ追い付くだろうと、イリス達は先に走り去っていった。


 イリス達が見えなくなると、大地は腕輪からチタン合金でできたガントレットを取り出す。


 チタン合金を錬成して作ったガントレットを右手に装着。こうすることで、ありとあらゆる魔法を打ち消す右手を覆い、ガントレットを通して電気を発生させることができる。


 ガントレットを装着した大地は木に登り、一番上まで到達。


 大地は放電を使い、樹海の木よりも十メートルほど高い位置に二本の電気の筋を作り出す。


 仕上げに、自分の体を薄く鉄でコーティング。これで準備完了。


人間超電磁砲(にんげんレールガン)の完成だ。金剛。溶けるのはごめんだからな」


 金剛を使い防御を高めると、作り出した二本の筋の間へと跳躍した。すると、


「なっ」


 超電磁砲の原理で大地は秒速七キロで飛ばされた。


「放電」


 あまりにも速すぎるため、打ち出されてからすぐに放電で地面と自分を繋ぎ、減速させる。


 瞬きするよりも速く、大地は目標の場所へ到着した。


「危なかった。速すぎて首の骨に少しヒビが入っちまった。まぁすぐなおるけど」


 うっかりと首の骨を折ってしまった大地。それでも吸血鬼なのですぐに治ってしまうのがすごいところなのだ。


「あれ、大地。なんでここにいるの?」

「いつ私たちを追い越したんですか?」

「おにいちゃんどうやったの?」

「何をしたのか教えなさいよ」

「それは後だ。亜人かどうか確かめにいくぞ」


 てくてくと五十メートル歩き終えた大地達が見たものは亜人ではなかった。だが、それに勝るとも劣らずそこには神秘的な光景が広がっていた。


「なんだ、これ」

「すごいね」

「異常すぎます」

「おにいちゃん、なんか変だよ」

「おかしいわね」


 大地達の目の前に広がっていたのは様々な種族を寄せ集めたような集団だった。それがただの集団だったら別になんともないのかも知れない。だが、目の前の種族達はどこか違った。それは火を見るよりも明らかだった。


「白い」

「白すぎる」

「白いですね」

「白くて目がいたいよ」

「白しかないじゃない」


 大地達は体が白い種族達を見た。これに関して大地には少し知っていることがある。


「アルビノか」

「何?アルビノって」


 簡単に言うと、メラニンという遺伝子情報の欠乏で色素が薄くなってしまった人たちのことだ。故に、アルビノは驚くほど肌が白いのだ。


「全部で何十人だ?」

「多いね」

「こんな樹海の中にどうして」

「訳ありなのかな?」

「年齢層は若い種族ばかりね」


 ちょっと珍しい光景に目を奪われたものの、サッと反らし、次の行動を開始するよう呼び掛ける。


「亜人じゃないなら用はない。いくぞ」

「そうだね」

「いきましょう」


 さっさとアルビノ集団のもとを離れ、百メートルほど進んだところで野宿ということになった。


「まだ昼だが、早いに越したことはないだろう」

「大地は心配性だなぁ」

「しょうがないですね」


 さくっと木をえぐり、中に入り込む。今度は少し大きめの木があったため、全員で入ることができた。


「お前達、これ食っとけ」

「なにこれ?」

「見た目は果実のようですね」

「あーんして、おにいちゃん」

「どうしてもっていうなら食べてあげないこともないわよ」


 イリス達には言っていないが、この果実、強い睡眠薬のような効果を持っている。なぜそれをイリス達に食べさせるのか。近くで観察中のレイアにはわからなかった。


「なんか、急に眠く」

「ボーッとしてしまいます」

「おやすみ、おにい、ちゃん」

「ちょっと寝させて」


 果実を食べたのち、イリス達はうとうとし始め、そのままカクンと寝てしまった。


「悪いな、やりたいことがあるんだ」


 そういって大地は木から出て、歩きだした。どこへいくのか。それはすぐにわかった。


「ねぇ大地。ここってさっきの」

「そうだ。アルビノ達だ」


 大地が来ていたのは、先程のアルビノ集団のところである。少し地面が盛り上がり、周りよりも位置の高いところで、茂みからアルビノ達を見下ろす大地。


「何かあったの?」

「アルビノは弱いんだ。遺伝子情報が欠乏しているからな」

「そうかもしれないけど」

「そんなアルビノが、いつ魔獣に教われるかも知れない樹海にいるわけないんだ」

「確かに」


 何か事情があるのだろう。大地は探知にて周囲に魔獣がいないことを確認し、アルビノ達に近づいていく。


「だ、誰ですか」

「私たちを殺しに来たの?」

「妹を助けて。私はどうなってもいいから」


 だいぶ感情が荒んでいるようだ。大地を見ただけで殺されるなどと黒い感情を抱く。何がアルビノをそうさせたのだろう。


「大丈夫だ。俺は無意味な殺傷は好まない」

「じゃあ、何をしに」


 アルビノ集団のリーダーらしき最年長の少女が恐る恐る大地に訪ねる。最年長といっても、見た感じ十五歳くらいだろう。


「ちょっと気になってな。お前らはアルビノだろ?なんでこんな危険な場所にいるんだ?」

「その、実は・・・」


 要約すると、ここにいるアルビノ達は全員人工的に産み出されたアルビノらしい。しかも、生まれたのが、女なら奴隷として売り出し、男なら稼ぎに出させる。ブラックなことをしているようだ。


「おまえらの(あるじ)はどこにいる」

「ご主人様は、いま帝国の方で奴隷の買い手を探しに行っています。もうじき戻ってくるかと」

「なるほど」


 一通りの事情を理解し、全員のアルビノを見渡してみる。


「これを人工的に」


 人間の恐ろしさに身震いしていると、数十メートル先でこちらに走ってくる足音を察知した。


「誰か来る」


 近くの茂みにサッと隠れる。


「全く、買い手が全く見つからねぇ。おまえらのせいだぞ、このっ」


 主とおぼしき人物は、買い手が見つからない腹いせからか、最年長の少女を蹴る。


「ぐっ、あっ、ごしゅっ、じんっ、さまぁっ」

「うるさい。おまえらのせいで、俺はどんどん不幸になるんだよぉ」


 勢いを増していく猛攻は十数分続き、終わった頃には、少女の肌は黒くなり、意識は朦朧(もうろう)としている状態だった。


「奴隷の分際で」


 アルビノ達がいう主とは奴隷商人のことのようだ。買い手が見つかるまでだろう。


「じゃあな。逃げんなよ」


 商人は捨て台詞を残し、どこかへいってしまった。


「あれが主か」

「見てたんですか」

「悪いな」

「いいんです。そうです。あれが私たちの主です」

「なんでそれだけ殴られても逃げようと思わない」

「逃げても殺されるだけですから」


 諦めたような言った。実際そうするしかないのだろう。奴隷とはそういうものだ。


 結局、その日はそれっきり。大地はイリス達を眠らせている木の中へと戻った。


「まだ寝てるね」

「そうだな」


 イリス達はまだ眠っている。さすがに果実を食べさせ過ぎたのだろうか。陽は陰り、夜を迎えようとしている。


「ふあぁぁぁ」

「んっ」

「ふぁ」

「んぁ」


 どうやら四人ともお目覚めのようだ。太陽はすでに沈みきり月が夜を照らしている。


「あれ、もう夜?」

「寝過ぎてしまいました」

「おにいちゃん、おはようのキスしてぇ」

「なんでもっと早く起こしてくれなかったのよぉ」


 文句を言われているが、反論できない。おとなしく、イリス達の言うことに従った。


 夜も更けてきた朝方。一晩中大地で遊び尽くしたイリス達は、昼間寝たにも関わらず、今も熟睡している。


「はぁ、さてと行くか」

「また行くの?」

「悪いか?」

「別に」


 大地が向かったのはいうまでもなくアルビノ達のところだ。


「眠れたか?」

「またあなたですか」

「ほら」


 大地が差し出したのは袋に入った大量の食料だった。


「おねえちゃん、こんなにも」

「いいなぁ、奴隷じゃない人は」

「最近、ご主人様ご飯くれない」


 十数人のアルビノ達は、大地の出した食料に夢中だ。目の前に食料があるのに食べられない。もどかしいのだろう。


「それはくれてやる」

「何が目的ですか」

「すぐにわかるさ」


 ニヤリと不適な笑みを浮かべた大地は探知をかける。


「来たか」


 数分後、昨日の商人の姿が見えた。


「誰だ貴様」

「俺は怪しいもんじゃない」

「俺の奴隷に何しやがった」

「何も」


 自分の奴隷の様子を見に来れば、そこには見知らぬ者の姿が。商人は驚いただろう。そしてすぐさま怒りを露にした。


「だったらなんでこいつらこんなもん食ってんだよ」

「俺がやった」

「俺の奴隷に勝手なことをするな」

「それは悪かった」

「ちっ。お前らもお前らだ。俺以外のやつに尻尾を振るなんて。この売女(ばいた)供が」


 商人は昨日と同様、怒りを最年長の少女にぶつけようとずんずんと近づいていく。


「このバカ供が」


 昨日の傷も癒えていない体に、商人は冷酷にも更なる苦痛を加えようとしていた。


「買う」


 その一言で、商人の足は動きを止めた。


「今なんて?」

「聞こえなかったのか?全員買うと言ったんだ」


 衝撃的な発言だった。十数人。正確には十五人の奴隷を全員買うと言うのだ。大地以外のその場にいたものは例外なく、一瞬思考が停止した。


「い、いくらだ」

「一人あたり五千ゴールドでどうだ」

「五千?そんなにも。まいどありぃ」

「ほら、合計七万五千ゴールド」


 急に大金が流れ込んできて一気にテンションがハイになった商人は陽気に樹海のどこかにいってしまった。


「何をするつもりですか」

「お前らが安全に暮らせるところまで送り届ける」

「私たちとあなたにはなんの接点もありません。なんで」

「俺は、無意味に人を傷付けることが嫌いなんだ」


 大地のその言葉は、奴隷の少女達全員の景色を変えるほど、力強い一言だったのだろう。少女達は笑い、泣き、抱き合った。心のそこから喜びを謳歌していた。


「じゃあ、まずはこの腕輪に入ってもらうぞ」

「なんですかそれは」

「なんでも収納可能な腕輪だ。中はこの腕輪が壊れない限り絶対安全だ」

「ご主人様がそう言うなら」


 大地をご主人様というのは、大地が奴隷達を買ったからである。大地は特に気にしていないようだが、イリス達に見られれば小規模な戦争が起こりかねない。


「さて、全員入ったな」


 全員を腕輪にいれてどうしようと言うのだろうか。その答えは、常人には実行不可能なことだった。


「人間超電磁砲」


 自分を超電磁砲のたまとして、発射することで、初速七キロをだす。距離が短すぎると通りすぎてしまうので使い方が大切になってくる。


「ぐっ。また首をやっちまった」


 人生で首を折るのは二度目となった大地。そして、やはりすぐ治る。


「また来ることになるとは、ピュロス海」


 なぜ大地がピュロス海に来たのかという疑問は、恐らく異世界人ではなくても理解できるのではないだろうか。


「今となってはいい思い出だな。この旅館」


 大地とイリス達が大人になった場所。ここに来たのはさっき買ったばかりの奴隷達のためだ。


「すいません」

「いらっしゃいま・・・お一人でお楽しみになりますか?」

「違う」


 なぜかここの受付の少女には大地は性的な大人に見られている。なぜかは知らないが。


「ちょっと待ってくれ」


 腕輪に入れた十五人の少女達を一気に出す。


「あっ。十五人一緒にですか。広い部屋があります。どうぞごゆっくりお楽しみに」

「違う。この十五人をここで働かせてほしいんだ。住み込みで」

「ほんとですか?ちょうど人手が足りなかったんです」

「そうか。これは礼金だ。受け取ってくれ」

「住み込みって」

「こいつらには家がない。十五人なら三部屋くらいでいいだろう。その礼金で旅館を増築すると客足も増えるだろうし、こいつらに部屋を与えられるだろう」

「リッチですね」


 大地が旅館まで来たのは、いく宛のない奴隷達に居場所を与えるためだ。その場所を旅館につくってもらうため、礼金として二万五千ゴールドを寄付した。


「あの、ご主人様。ありがとうございます」

「構わない。金はすぐに取り戻せる」

「そういうわけでは」

「お前達はもう自由なんだ」

「私たちはご主人様の奴隷です。命令をください」

「はぁ、これは命令だ。お前達はこの旅館で働いて、今まで出来なかったことをしろ」


 十五人の奴隷は喜びを露にし、心から大地に感謝をした。


「アルビノを人工的に、か」


 旅館をあとにした大地の顔は、どこか煮え切らない、そんな色で満たされていた。

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