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ダンジョン

 主なダンジョンはこの世界には二つしかなく、細かいものを含めると百以上はある。その中で今回挑むのは世界四大試練と呼ばれるほどの一つであるダンジョン、クレータ大迷宮。現在五十六階層まで到達できているがそれ以上を行ったものはいない。それよりも下は強力な魔物が大量にいるため、そこにいこうものなら肉を引き裂かれ魔獣の夕飯になるだけだ。


 だが、魔獣が強いためステータスアップを狙って若者冒険者でごった返している。それゆえに今ではクレータ大迷宮は観光地のようになっている。


 大地たちが今回向かうのはそのクレータ大迷宮の三十階層。魔獣の強さもほどよく訓練などによく使用される場所だ。アリアの不安を払拭すべく、大地はやる気になっている。もちろん他の帝国兵も。帝国兵の方はアリアと行動できることがうれしいらしい。


 そして簡単な状態チェックをして、覚悟を決める。大きく息を吸い、深く吐く。いくぞ、の掛け声と共に大地たちはダンジョンへと潜っていった。


 一階層の真っ暗な道を進む者達がいる。大地ご一行である。アリアにこの世界に来たことを後悔してないことを証明するためにここに来た。つまり、強くなれば大地もうれしい、そうなればアリアも安心。一石二鳥なのだ。


「アリアさん。どんな危険が襲ってきても絶対に守るから安心して」

「魔獣たちには指一本触れさせないよ」

「魔獣はすべて狩る」


 大地の付き添いという形でダンジョンに来た帝国兵の精鋭たちだ。アリアにいいところを見せようと必死な様子だ。


「はい、頼りにしてます」


 もう慣れたのか、アリアはさらりと受け流す。帝国兵はおぉぉぉぉぉぉ、とやる気十分だ。それに対し大地は慎重な面持ちで道を進んでいく。幅三メートル、高さ四メートルの長方形の通路をただひたすらに進んでいた。


「・・・・・・・・・・」


 何も喋らない大地にアリアが駆け寄る。隣にならび、いつものようにまっすぐ落ち着いた声で大地に話しかける。


「大地さん。もっと力を抜きましょう。こんな暗くて狭い通路でそんなに集中していると気が滅入ってしまいますよ」


 ダンジョン内でも変わらず接してくれるアリアに安心したのか、強ばった表情が少し緩んだ。アリアの方を見て小さく「ありがとう」と言った大地とアリアのやり取りを後ろの三人は殺意と憎悪に満ちた視線で見ていた。


 そんなこととは知らずに二人は会話をしながらどんどんと進んでいく。あとの三人も一緒に。


(おい、ここなら何かあっても事故って形で処理されるんじゃねーか)

(お前、まさか・・・。やるのか?)

(少し教育が必要だ)


 後ろでこのあとを大きく左右する会話が行われていることに二人は気づかない。それどころかそんな様子を見せつけられた帝国兵はさらに怒りを増幅させた。


 一階層からなんの問題もなく二十階層まで降り来て、しばらく進むと通路が少し広くなり、地面が舗装されていない洞窟のような場所に出た。壁には赤や緑、青の鉱石が埋まっておりそれらは「輝光石(きこうせき)」というそうだ。鉱石自体が発光し、その光は数年も続くという。もちろん予備知識のない大地がこれがなんなのかわかったのは鑑定スキルのお陰というわけだ。まさに便利能力だ。


「へえ、ここには輝光石以外にもいろんな鉱石があるんだな。どれも使えそうなものばかりだ」

「鉱石の種類がわかるんですか?すごいです。さすが大地さんです」

「あ、ありがとう」


 自分達はそっちのけで大地とばかり話しているのを見た帝国兵はこれ以上ないくらいに表情が歪んでいる。笑っているのか怒っているのかわからないような有り様だ。だがもちろん二人は気づかない。帝国兵などお構いなしに自分達の世界を作った。そこに付け入る隙はない。重いため息をつく帝国兵をおいてどんどんと進んでいく。


 どれだけ集中していても危険を避けられないこともある。鉱石を見てはわあぁぁ、と感動するアリアに唐突に危険がおとずれた。誰が予知できただろうか、まさか鉱石そのものが魔獣だったとは。洞窟中の鉱石がビキビキと

周りの岩を壊しながら這い出てくる。大きさは一メートルくらいのトカゲっぽい形をした魔獣だ。体の八割が鉱石でできているため攻撃はほぼ通じない。


 帝国兵は、アリアを守るべく三人がかりで取り囲み肉壁をつくる。大地は三メートルくらい離れたところで、鉱石のトカゲに取り囲まれている。


「大地さん。早くこっちに来てください。こいつらには剣は通じません。急いで」


 大地のピンチを助けるように帝国兵へと懇願するアリアであったがその想いもむなしく、帝国兵はアリアを守るために退こうとはしない。もとよりここで大地に死んでもらった方が帝国兵達にとっては都合がいいのだ。邪魔物がいなくなる。それだけを考え、必死に事故に見せかける。だが、大地もそこまでバカではない。ステータスが低いならと蓄えていた知識が早速役に立つ。


「錬成」


 その言葉と共にトカゲの体はみるみる形を変えていく。体の八割は鉱石。手足が残り二割と考えた大地は八割分の鉱石を手足に移動させ動きを封じた。てっきりここで死ぬと思っていた帝国兵は大地の一連の行動を見て、ただ口をパクパクさせるだけだった。だが大地の猛攻はまだ終わらない。


「錬成、錬成、錬成、錬成、錬成、錬成、錬成、錬成、錬成、錬成」


 次々と魔獣を錬成し動きを封じていった。すべてのトカゲを錬成し終えた大地はさすがに疲れたようで地面にドスッと腰をおろした。そこにアリアが駆け寄ってくる。


「さ、さすがです大地さんです。でも、あれだけの魔獣の鉱石を錬成するだけの魔力はなかったはず、どうやって」

「簡単だよ。この入れ物に液体化させた魔力をいれておいて足りなくなったら補充する。それだけだよ」


 そう、大地は自分の魔力の低さにも不満を持っていたため、そこをどう対処しようかと考えに考えた案がこれである。液体魔力に限りはあるがまだ持つだろう。足軽にその場でピョンピョンとジャンプする大地をよく思わないものがいたのは言うまでもない。


 ここに来てアリアは大地が苦しんでいない、楽しんでいると思い始めてきた。トカゲを倒すとき大地はいきいきとしていた。その表情は疑いようもないくらいに楽しんでいた。殺しを楽しんでいたのではなく、役に立てることが、だ。そう確信したときアリアは自然と大地の腕に手が伸びていた。大地は若干慌てているがお構い無く腕を掴む。アリアは心の底から嬉しかったのだ。大地を傷つけていないと確信して。


 だが、そんなことは許さない、と帝国兵は妨害をする。二人の間に割って入り引き離す。大地をキッっと睨み付けるとスタスタと先に行ってしまった。


 鉱石(トカゲじゃない)の埋まった綺麗な洞窟を抜け下に続く階段を降りるとガラリと風景が変わった。さっきまでの洞窟とは違い少し広くなり壁が赤く発光している。足元には腕の骨と思われるものが落ちている。初心者が調子に乗った末路だ。骨にビビりつつも先に進む大地とアリア。チャンスと言わんばかりに甘い言葉で誘惑する帝国兵達。各々多様な反応をしているところに大地たちを戦慄させる物体がそこにはあった。


 ひときわ広い空間に出た大地達はその中央にあるものがなんなのかよく知っていた。全長三メートル、牛頭人身の怪物。本来四十階層にいるはずの化物。数々の冒険者や帝国兵が肉塊へと変えられた殺人鬼。そう、ミノタウロス。目を閉じ右手に大振りな斧を持っており、大地達に気づいたのかギロリと睨みつける。


「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ」


 凄まじい咆哮をあげ大地達めがけて斧を振りかざす。大きな轟音と爆風により飛ばされてしまった大地達。ミノタウロスは三人の帝国兵を見る。どうやら狩る相手を定めたようだ。ミノタウロスは身をかがめ、斧を持つ手に力を込めるとバァン、という音と共に帝国兵達に急接近し斧で凪ぎ払った。


「ぐぁ・・・」


 短い悲鳴と共に真っ二つにされた帝国兵の体が崩れ落ちる。ミノタウロスは帝国兵だったものを手で掴みボリボリと咀嚼(そしゃく)し始めた。アリアや大地はもちろんの残った二人の帝国兵ですら戦慄の色を隠せなかった。


「あ、あぁ、ば、化物。化物がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「おい、待て、早ま・・・」


 帝国兵の生き残りが仲間を食われたことに激怒し、剣を片手に真っ正面から斬りつけた、はずだった。帝国兵の剣はミノタウロスには届かず、目前で帝国兵の体は粉々に弾けとんだ。その場に肉片が飛び散る。ミノタウロスは斧ではなく素手で帝国兵を殺した。


 帝国兵の精鋭達がなす術もなく殺られていく。その場に残るものが死を確信し目を閉じた。ズシズシと迫ってくる足音に大地達はただ恐怖するだけだった。


「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ」


 ズガァァァンと、激しい轟音が響いた。目を開くとそこには変わり果てた帝国兵の姿があった。ミノタウロスは帝国兵を一心不乱にむさぼる。ボリボリと音をたてながら帝国兵の体は肉塊と化した。


「だ、大地さん。ここは私が時間を稼ぎます。その間に逃げてください」


 アリアは大地の前に出た。その発言は「自分が犠牲になるから逃げてください」、アリアの命がけの策だった。帝国のメイドであるアリアは基礎的な訓練は受けている。大地の三倍くらいはある。だがそれでも帝国兵には及ばない。ミノタウロスは帝国兵を一瞬で葬った。アリアが勝てる相手ではない。時間を稼ぐとは言っても十秒ほどであろう。どうせ逃げられないと悟った大地は自然に滑らかな動きでアリアの前に出た。そして、


「アリアさんは死なせない。僕が守る。何をしてでも守ると決めたから、今」

「だめです大地さん。死にますよ。大地さんは国の勇者です。こんなところで死なれたら・・・」

「アリアさんに死んでほしくないんだ。だから、生きて」


 アリアの言葉を遮り、そう言い残した大地は液状化魔力を片手にミノタウロスに突っ込んだ。

アリアはその背中を見ていることで精一杯だった。


「いくぞミノタウロス」

「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ」


 懐に潜り込んだ大地めがけて大振りな斧が一気に振り落とされる。しかし、それを待ってたと言わんばかりに大地は横によける。


「錬成錬成錬成」


 大地はミノタウロスの斧と鉱石でできた床を錬成で固定した。斧はかなり深く埋まっており抜くことは恐らく不可能、それならばとミノタウロスは斧を捨て素手で反撃を始めた。


「な、まさか錬成でそこまで・・・」


 大地の錬成による策に驚いたアリアはおもわず感激混じりの反応をしている。アリアに勝てるかも、という考えが一瞬頭をよぎる。だが大地はわかっていた。この戦闘は確実に負ける。いや、もはや戦闘ではなく、一方的な蹂躙になるであろうことは目に見えていた。だから、


「アリアさん。何で逃げてないんですか。早く逃げて」

「でも、それじゃあ大地さんが」

「いいから早く」


 大地にはアリアを気にしながら戦う余裕はない。アリアを早く逃がす必要があった。だから、強めに言った。嫌われること覚悟で。


「だ、大地さん・・・・・クッ」


 意を決したように振り返らず全力で上層へと走るアリア。その背中はとても辛そうに見えた。


「アリアさんは逃げた。あとは僕がうまく逃げれば完璧・・・なんだけど。無理かな」


 乾いた笑いをこぼしつつ、大地はミノタウロスの猛攻を必死に避ける。避ける避ける避ける。だが、ミノタウロスもそこまでバカではない。パターンを見切られついにその手が大地に、


「ぐぁぁ、うぅ」


 ミノタウロスの腕が大地の体を掠めた。たったそれだけだが大地を飛ばすには十分だった。そのまま壁に激突し肺の空気が一気におしだされ、うめき声をあげる。


 勝利を確信したのか大地に向かってゆっくりと近づくミノタウロス。万事休す、そう思った。


 大地の目の前に立つ牛の化物。足元になす術もなく絶望するだけの若き少年。その様子はさながら死神が人の命を奪っていく瞬間にも見えた。


「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ」


 けたたましい咆哮と共にミノタウロスの拳が降り下ろされる。大地はグッと目を閉じ自分の死を覚悟した。今までの出来事が走馬灯のように脳内で再生される。異世界転移、国の勇者、美少女メイド、帝国兵とのいざこざ、ダンジョン。思い出されるのはこの世界での出来事ばかり、大地の口からは、


「生きたいな」


 自然とそんな言葉が出ていた。目からは大粒の涙が流れている。そして強く願った。


(もっと僕に力があれば)


 もはや遅い。もっと真剣に必死に訓練に取り組んでいたらこうはならなかっただろう。すべて自分が弱いから。そんな自分を愚かだといまさら自覚するなんて、と情けない表情で降り下ろされる拳をまっすぐに見つめた。


「最期くらいは潔く終わりたい」


 ズガァァァン。ミノタウロスの拳が大地のいた場所を粉々に破壊した。それに当たって無事な者はまずいないだろう。それは大地とて例外ではない、と思われたが実際は違った。


 極度の恐怖心とそれに打ち勝つ覚悟、二つの影響により大地は奇跡を起こした。大地のステータスは一段階進化のだ。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

名前:大神大地 年齢:16 職業:鍛治職人 レベル:6

筋力:20

耐性:20

魔力:35

魔耐:35

能力:鍛治・錬成[+気体]・鑑定

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 錬成に追加技能、気体がついている。つまり、錬成により鉱石や金属だけではなく気体をも操れるということだ。恐怖と覚悟があり得ないことを実現させた瞬間である。


 大地は、無意識に気体を錬成しミノタウロスの拳の軌道を変えたのだ。ミノタウロスは自分の拳の軌道がずれたことに驚きを隠せないようだ。それは大地も同じようで、確実に殺されると思ったら生きている、大地とミノタウロスは困惑の色を隠せない。


「は、れ、錬成」

 

 ミノタウロスとしばらく見つめあっていた大地は我に返るととっさに錬成を発動。空気中の酸素を凝縮し、ミノタウロスの頭部にゼロ距離で破裂させる。凝縮した酸素は、部屋の八割ほど。いくらミノタウロスでも見えない酸素を防ぐことは出来ず、後ろにのけ反った。大地は残り二割を凝縮し身に纏うことで酸素の衝撃に耐えた。これ程までの量の酸素を浴びて無事なミノタウロスは流石だろう。だが、のけ反った際に腹部は防御できない。


「そこだぁぁぁぁぁ」


 大地は、さらけ出されたミノタウロスの腹部を逃さない。背後の壁を錬成し、槍状に変化させる。そしてそのまま勢いよくミノタウロスの腹部に突き立てた。深々と刺さる槍を大地もろとも手で凪ぎ払う。


「くっ、まだそんな力が」


 ズザザザザっと、床を転がる大地。だがさすがのミノタウロスも腹部に槍が刺さればただではすまない。これ以上の戦闘はリスクが高いと判断したのか凄まじいスピードで去っていった。跡に残るのは、帝国兵だったものとミノタウロスの斧だけ。


 しばらくの沈黙のあとダンジョン内に喜びに満ちた声が響いた。


「や、やった。僕はやったぞぉぉぉぉ」


 そしてそのまま場でばたりと倒れこむ。魔力を使いすぎたようだ。その顔は、誰がどう見ても幸せそうな表情だった。大地は部屋の真ん中で高い天井を見上げる。相手が油断していたとはいえ四十階層の魔獣を倒せなかったが追い返した。その事に安堵と興奮を募らせる大地。そして、決意する。強く、やる気に満ちた声で、


「強く、なる」

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