悪夢
そよ風のふく草原に凄まじい轟音と煙が舞い上がった。その煙のなかには二人の人物の姿が。
「がっ。痛いなっ」
「うっ。殺すっ」
大地とカオスの一騎討ちに周囲の景色は荒れ果てていた。攻撃と攻撃が衝突し会うたびに強大な衝撃波を生み、周囲の物体をどんどん消していく。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「なっ。あぶなっ。よっ。ちっ。あっ」
怒り狂った大地の拳を防ぎきれなくなったのか、大地の拳が効きはじめている。
「わ、歪曲」
「なっ」
身の危険を感じたのか歪曲にて別の場所へと移動する。どこに行ったのか大地には分からない。仕留めきれなかった悔しさと、イリス達に対する申し訳なさが、大地をさらに苦しめる。
「くそっ。もっと、俺にもっと力があれば。力があれば」
感情に任せ、ただひたすらに地面を殴り続ける。どんどん深くえぐれていく地面は次第に十メートルに達し、大地は殴るのをやめた。
「いたっ。全く、あれはひどいよ。ただ仲間が殺されただけじゃないか。あんなにも怒るなんて。支配者も楽じゃないな」
迷宮に戻ったカオスは支配者の部屋へと戻ってきていた。つまり白竜とラミアの交戦した場所だ。
「あー。白竜やり過ぎちゃったみたいだね。あの女の死体どころか骨も残ってないよ」
白竜との戦闘にて命の灯火を消したラミア。その部屋にはひどく激しい戦闘が行われたことがわかるほどの損壊状態だった。
「さてと、死体がないならここには用はない。次の部屋だ」
そういって向かったのは触手の怪物がいた部屋だ。その部屋の中心には、
「これはまだ死体が残ってるね。お腹に穴が空いてるけど」
イリスの死体が無惨にも地面に転がっていた。その体には複数の穴があり、再生しきれなかった部分が痛々しく残っている。血はほとんど残ってない。再生が限界を迎えたのだ。
「よっと。これをあいつのところに持っていったらどんな反応をするのかな?」
どうやらカオスの頭の中はその名に違わぬ思考を持っているようだ。イリスの死体をかつぎ、大地のいる草原へと場所を歪めた。
「お待たせ」
「おい、お前どこに・・・・・・・・・・イ、イリスになにしてんだ」
「なにもしてないよ。フフフ、もう死んでるしね」
「うるさいっ。お前が殺したんだろぉおぉぉおぉお」
地面を強く蹴り、カオスの顔面に殴りかかる。だが、カオスは手に持ったイリスを盾にし、攻撃を防ごうとした。
「くそっ。卑怯だぞ」
「卑怯もくそもないよ。これは殺し合いなんだから」
直前でブレーキをかけなんとかイリスに拳を当てずにすんだが、その隙に腹部を蹴られ後方に大きく飛ばされた。
「ほらほら、どうしたの?受けてるだけじゃ僕は倒せないよ」
「イリスを返せ」
「しつこいよ。もう死んでるんだよ、これは」
「いいからかえせぇぇえぇ」
カオスの手にぶら下がったイリスに細心の注意を払い、拳を放つ。
次々に放たれる拳をイリスを利用してうまくそらすカオス。その際に生じた隙をつき、大地にダメージを与えていく。
「上級魔法、絶対零度。防げるかな?」
「上級魔法、紅蓮。消し飛ばしてやる」
威力はほぼ互角。熱気と冷気がぶつかり合い、凄まじい水蒸気が発生する。
一歩も譲らない魔法の押し合いはとうとう電気をも発生させた。バチバチと音をならし、周囲を壊していく。
「これはまずいね。せっかく僕が作った空間が壊れ始めてきたよ」
「よそ見してんじゃねぇよ」
カオスの言う空間。恐らくこの草原であろうことはわかる。それを決定付けるように、周りの景色にヒビが入る。
「なんだこのヒビ。向こう側に何か見える」
「全く、せっかくの空間が台無しだよ」
間もなく景色は崩壊し、もとの迷宮の景色へと戻った。すなわち、ラミアの死んだ場所。そんな場所にいる大地は果たして平静を保てるのか。答えは否だ。
「超級魔法、焔。もえつきろぉぉぉおおぉぉぉ」
「歪曲っ」
大地の放った超級魔法。威力としては十分すぎるほどだが、歪曲の前には威力など無意味。すべてを歪めてしまう。
超級魔法を防がれてもなお、諦めようとはしない。強くカオスを睨み付け、超級魔法を放ち続ける。
「超級魔法、焔、颶風、水界、雷殺」
「歪曲、歪曲、歪曲、歪曲」
放たれる超級魔法を次々に歪曲させていくカオス。余裕に満ち溢れた表情がさらに大地を怒らせる。
「衝撃波、さすがのお前も範囲が広ければ歪曲もできないだろ」
「ふん、甘いよ」
大地の考えも一瞬で粉砕。カオスは自分の周りを歪曲させ、衝撃波を無効にした。
「まだだ。お前を殺す」
「はぁ、もう飽きてきたよ」
カオスの顔面に殴りかかる。それをさらりとかわすカオス。大地に生まれた隙をつき、腹部を蹴りあげた。
「ぐぁっ」
「超級魔法、雷殺だったかな?」
超級魔法、雷殺。雷斬の数倍の威力を誇る。その速度は光と同等、威力は超電磁砲の三倍に値する。
「くっ」
蹴りあげられ、天井に衝突した大地に追い討ちをかけるように、カオスは雷殺を発動させた。
放たれた雷殺は狙い違わず大地の心臓を撃ち抜いた。大地の血の雨が降り注ぎ、落下と同時にぐしゃりと嫌音をたてる。
「まだだ、まだイリス達の仇をとって、ない・・・」
心臓の破裂による多量出血のせいか、大地は心臓の再生の最中に気を失った。
「動かないってことは死んだってことなのかな?はぁ、疲れた。この死体はもう要らないかな?」
大地との戦いに勝利したカオスはイリスの死体を投げ棄て、迷宮のどこかへと消えてしまった。
「・・・。だ・・。だ・ち」
何かが聞こえる。聞き慣れた、しかしずっと聞きたいと思っていたあの声が。
「だいち」
「んん、なんだ?」
視界がぼやける。目の前には微笑みかける少女がいる。誰なのかと手で少女を抱き寄せる。しかし、少女の正体を知った大地は目を見開き、思考すら止まった。
「どうしたの?大地」
「いや、何でもない」
大地の目の前にいたのは、金髪ツインテールの少女、イリスだった。
イリスは死んだ。そのはずだった。だがそうなると大地の目の前にいる少女はイリスではないのか。否。これもイリスだ。
「どういうことだ?」
頭が混乱し、イリスから目をそらす。そこには
「俺は、狂ってるのか?」
丘の上に立つ一本の木に大地は背を預けていた。丘の下は色とりどりの花が咲き誇り、ありとあらゆる生物が争いなく生活を共にしていた。
「なんでこんなところにいるんだ?」
「大地が行きたいって言ったんだよ?」
「そうだったか?悪いな覚えてない」
「もう、しょうがないな」
ぷくぅぅっと頬を膨らませるイリスに大地の思考は次第に考えることを忘れていく。
辺り一面争いのない平和な世界。再びイリス達を失うことはない。そう思った大地は、その時点で負けたのだ。
「ねぇ、見て大地。この丘の下。何か面白そうなものがあるよ」
「どんなのだ?」
「ほらあれ。あれだよ」
「そんなに身を乗り出すと落ちるぞ」
「大丈、きゃっ」
丘から身を乗り出していたイリスは手を滑らせ、崖の下へと吸い込まれるように落ちていく。
「イリスっ」
瞬発的に走り、イリスの手を掴もうと手を伸ばすが。大地の手は空をつかみ、イリスはそのまま丘の下へと落ちていった。
「はっ」
心地よい涼しさ、鳥の囀ずり、体に感じる温かく柔らかい感触、そして木の匂い。大地は樹海にいた。
「どうしたんですか?大地」
「イリア?」
「そうですよ」
大地の目の前には、金髪ボブカットの少女イリアがいた。
先程同様、これもイリア。死んだはずのイリアはなぜか大地の目の前にいる。
「なんで樹海に」
「私たちの出会いの場所だからです」
「そうか。おれはここでイリアにあったんだ」
遠い昔を思い出すように目を細める大地。そこに寄り添うように肩を並べるイリア。
「少しくらいこうしててもバチは当たりませんよね?」
「そうだな」
次第に思考が薄れていき、深い、深い眠りにつこうとした時、再度大地は敗北した。
突然、凄まじい轟音が聞こえた。それも一発ではなく何発、いやなん十発も。
「なんだ」
「人間たちです。しかも相手は超エリート兵。危険です。逃げましょう」
エリート兵。大地の聞いたことのない単語に困惑するがイリアは急ぎ大地の手をとり駆け出す。
エリート兵はこちらに気付いたようで、二十近くの兵隊が遅い来る。
「はぁはぁはぁ。大地、ここは私が時間を稼ぎます。その隙に」
「はっ?何言ってんだ。そんなのさせるわけ」
最後まで言い終わる前に、大地はイリアに投げ飛ばされた。
「生きてください」
「イリアァァァァァ」
大地が飛ばされ間もなく、イリアはエリート兵の魔法に飲み込まれた。どんどんと遠ざかっていくイリアの最期の景色に、大地は後悔を拭いきれず急ぎ引き返す。
「はぁはぁはぁ。あのバカ。何やって・・・るんだよ」
戻ってみれば、そこにあるのは半身が焼けたイリアだった。
「なんで戻ってきたんですか。死にますよ」
「なんでこんなことしたんだよ」
「エリート兵がすぐそこまで、行ってください」
イリアはの言う通り、エリート兵はすでに魔方陣を展開し、すぐにもでも発射できる。
「行ってください。巻き添えをくらいます」
「・・・・・・・・・・」
「生きていて、欲しいんです」
イリアの行動に、大地はスッと立ち上がり、逃げ出した。背後では凄まじい轟音が鳴り響き、土や木が飛ばされてくる。その中には
「う、で?」
華奢な腕が大地の前にぼとりと落ちる。それは、見間違えようのないほど完璧に、
「イリ、ア」
瞬間、大地の目の前は電源を抜いたテレビのように暗くなった。
「んん」
見慣れない天井。恐らくどこかの民家だろうことはすぐにわかった。それと同時に樹海を思い出す。
二度の悪夢の後だ。寝心地が悪いのだろう。右手で頭を抑え、深くため息をつく。
「なんだよ、気分悪い」
悪夢を思いだし、それを振り払うように寝返りをうつ。だが、そうするべきだったのか。もしかしたら寝返りをうたない方が良かったのではないだろうか。そう思った。
「夜、空」
寝返りをうち横を見たとき、そこには夜空の寝顔があった。スースーとたてる寝息に、夜空から漂ってくる甘い匂い、大地を惑わす魅惑のフェロモンに理性など無いに等しかった。
「夜空」
隣で眠る夜空を抱き締めるように手をまわす。いや実際に抱き締めているわけだが。大地は抱き締めるだけでは足りないようで、夜空を抱き寄せる。二人の距離はもはやゼロ。ぴったりと密着し、相手の鼓動すら聞こえるほど。
「んん、おにい、ちゃん?」
「夜空っ」
目を覚ましたのか夜空は今目の前にいる大地を上目遣いで確認する。
「夜空、これは違うんだ」
「離れないで。このままがいい」
急ぎ離れようとした大地をきゅっと抱き締め返す夜空。その顔は喜びに満ち溢れ紅潮している。夜空の体温が上がり、それが大地にも伝わる。
「夜空」
「おにいちゃん」
しばし時が流れた。一体どれくらい抱き合っていたんだろうか。二人の頭にはそんなことが吹き飛ぶくらい幸せに満ちていた。
そしてやはり、大地は負けた。
何かが近づいてくる。とても大きく、強いものが。
「夜空、何か来る」
「え?」
時すでに遅し、立ち上がろうとした瞬間壁が爆破された。壊れた壁の向こうに見えるのは、体長十メートルのドラゴンが三体。いずれも黒龍だった。
「ちっ。上級魔法、紅蓮」
「上級魔法、紅蓮」
大地と夜空の上級魔法を防げるものはなかなかいない。
「「「ガアアアアアァァァァァ」」」
黒龍も対抗する。そう思われたが、あろうことか一匹を見殺しにして二つの紅蓮を相殺した。そのまま一匹の死体を見棄て、黒龍は火焔を発動させる。
「正気かよ」
「もう一発」
後ろは壁、避けるにはスペースが足りない。なら打ち消すしかないだろう。
「気体錬成」
二酸化炭素をかき集め、火を消す。だが、消えた火の向こうにはドラゴンの姿が見えない。索敵のために探知を発動させる。
「おかしい。魔力反応が俺と夜空のしかない」
「そんなはずないよ。ドラゴンはそんな速く逃げられない」
状況の把握ができなくなり、混乱する二人は再度探知をかける。
「特に変わったところは」
「ないと思う」
変わったところはない。そのはずだ。だが、大地の頭の中に僅かな違和感が生まれる。何か、何かがさっきと違う。決定的とまではいかない。それでも何かが違う。
「探知」
「もういないんじゃない?」
夜空の言う可能性もゼロじゃない。だが大地はそう思わなかった。それは探知をしてすぐに気づかされた。
「上だ。逃げっ」
そう言おうとしたときにはすでに遅かった。
探知で探れなかったのは、ドラゴンが大地達の真上に飛んでいたから大地達と反応が重なって見えなかったんだ。二回目に大地の感じた違和感はドラゴンの魔力が高まったため、探知の際に微妙な魔力のズレを無意識に感じ取っていたのだろう。
そして三回目にようやく違和感の正体に気がついた。だが、その時にはもう遅すぎたのだ。ドラゴンは高まった魔力を一気に大地たちに放射。
大地がドラゴンの居場所に気づいてから避けるまでの時間はほんの二秒もなかった。つまり、逃げられなかったのだ。大地を除いて。
「おい、夜空。起きろよ。起きてくれよ」
「大丈夫。体の半分が消しとんで再生には時間がかかるけど、あと二分くらいかな」
空からの奇襲に夜空は大地を庇い、自分の身を呈して守ったのだ。その代償は半身の消失。治るのには二分ほどかかると言う。吸血鬼ではないので再生力はそれくらいだろう。
重要なのは、空にいるドラゴンが再び攻撃をしようとしていることだ。恐らくあと十秒ほど。やることは一つ。
「夜空、逃げるぞ」
「おにいちゃんの服が血で汚れちゃう」
「そんなのはどうでもいいんだ。第二波が来るぞ」
夜空を担ごうとしたとき、同時にドラゴンの攻撃が放たれた。
「ちくしょう。上級魔法、絶対零度」
ドラゴンの攻撃を相殺するつもりだ。だが、大地の視界にはドラゴンしか映っていなかった。それが、大地の敗因。
「ぐっ」
突然背後から聞こえる呻き声に目をやると、そこには首を貫かれた夜空の姿があった。
「おい、夜空、夜空っ」
「・・・・・・・・・・」
生きてはいる。口をパクパクさせて何を言っているのか分からない。だが、そろそろ死が近いのは確かだ。
「超級魔法、水界」
黒龍の攻撃を一気に押し返し、夜空のもとに駆け寄る。
首に痛々しくあいた穴を手で抑える。その手を夜空は優しく引き離し、大地に微笑みかける。
夜空の近くには夜空の首を貫いたとおぼしき鉄の矢があった。それは紛れもなく人間が作ったものだった。
「くそ、人間が。ぶっ殺して」
「いままで、あり、が、とう」
人間を殺すべく立ち上がろうとした大地の手を、夜空はそっとつかみ、いままでの感謝をのせ、綺麗に笑い、掴んだ手は力なく地面に落ちた。
「夜空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そのまま景色が崩れるように大地は闇に落ちていった。
「ああああっ」
飛び上がるように起きた大地は、現在の状況を確認する。
薄暗く、気の遠くなりそうな長い通路。恐らくクレータ大迷宮の中であろう。なぜ通路にいるのかは分からないがようやく現実に戻れたような気がして少し安堵する大地。
とりあえず安堵の余韻に浸りながら道なりに進む。途中分かれ道があったが適当に進んで進んで進んで進んで進んで、進んだ。
大地は甘かった。独りよがりの安堵など無意味だと。迷宮の通路の先に行き着いた時点で安堵は真逆のものへと変化した。異常に広い部屋。不吉の前兆。
一度や二度、三度までならず四度目にも、大地は敗北した。
「なん、だ。これ」
行き着いた先で見つけたのは、百人の人間が咀嚼された跡だった。所々に落ちた血が、どれ程悲惨だったのかを物語っている。
「誰がやりやがった」
答えはいたって簡単だった。ここは迷宮。それならば冒険者も死ぬ可能性はゼロじゃない。そう、この惨劇を引き起こしたのは紛れもなく魔獣だったのだ。
「探知」
魔獣の存在を把握すべく、探知をかける。意外なことに魔獣はすぐに見つかった。
「上か」
大地の頭上をガサガサとうごめくそれは一言で言うなら蜘蛛だった。大きさは足一本が五メートルほどの異常にでかい蜘蛛。
魔獣はすぐに見つかったが、それと同時に大地はもう一つ重要なものを見つけてしまった。
「ラミアっ」
蜘蛛の糸に右足をとられ、天井付近で宙吊りになっている。蜘蛛はラミアを捕食しようとゆっくりと近づいていく。
逃げ場はなし。蜘蛛は油断し、一瞬ラミアから目を放した。だが、その僅かな時間でラミアは無茶をしでかした。
「うっ」
捕食される瞬間、ラミアは自身で右足を切断。そのまま大地の元へと落下してきた。
「よっと」
「ありがとう、大地」
ラミアにいつものような覇気はなく、むしろ腕や足、顔に紫色の筋が通っている。それがなんなのかはおおよそ見当がつく。蜘蛛の毒だろう。
「おいラミア。おまえ無茶しすぎだぞ」
「うん、でも。大地なら来てくれるって思ってたから」
大地が来るのをわかっていたような口振り。それほどまでに大地を信用していたのだろうか。大地にとっては嬉しい限りである。
「うっ。大地ごめん。私はもう助からないから」
「毒なら天水で治せる。早く飲め」
「天水の熱に耐えられるほど今の体は丈夫じゃない」
ぐったりとしたラミアは死を覚悟しているようだった。紫色の筋は先程の何倍もできており、死が近いことは明白だった。
「この蜘蛛は倒せない。強すぎたよ」
「大丈夫だ。きっと助けてやる」
「大地、行って」
「どういう」
どういうことだ。そう言い終わる前に大地はラミアの衝撃波で吹き飛ばされた。衝撃波の影響で部屋が崩れだし、通路との道も岩で塞がれていく。
「ラミア、ラミアァァァァァ」
飛ばされ遠ざかるラミア。岩で埋まっていく通路。岩と岩の隙間越しにラミアが上から降ってきた蜘蛛に咀嚼されるのをみた。最期にラミアは笑っていた。蜘蛛に殺されるとわかっていながら、ラミアは笑いながら言った。
「生きて」
大地は遠ざかる景色を見つめながら、黒く、どす黒く、さらに黒い闇の景色へと吸い込まれていった。
「力が、欲しい」




