再会
「上級魔法、紅蓮」
金髪フワフワツインテールの少女、イリス。現在六十六階層。順調に進みつつある迷宮攻略だが。
「今ので三百八十二匹目だ。ほんと広いな。六十階層よりも下は」
「全くだよ」
「飽きてきました」
「おにいちゃん、疲れたぁ」
「ふん、まだまだ余裕よ」
六十階層から下はこれまでとは比べ物にならないくらいに広く、探知の限界距離、十キロでも測りきれないほど広い。
「広い上に魔獣も強い」
「ほんとに」
「いちいち相手をしていたら魔力が尽きます」
「私はもうちょっと余裕があるかな」
「私は魔力なんて使わない。元のスペックがいいから」
各々愚痴が止まらない。殺しの連続に飽きてきたのだろう。
「今日はこの辺で終わりにするか」
「賛成」
「同意です」
「異議なーし」
「構わないわよ」
壁に空間を作る。七畳くらいの広さだ。ぞろぞろと入り各々休憩をとる。
「悪いが二時間ほど仮眠を取らせてくれ。このところ寝不足でな」
「わかった」
「ごゆっくり」
「しょうがないおにいちゃんだね」
「おやすみ」
部屋の隅の方で壁に背中を預け座り込む。しばらくすると、大地の意識はシャットダウンされた。
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
完璧なる静寂に誰も声が出せない。大地がいないと会話すらまともにできない。大地の大切さをしみじみ実感する四人の少女。
何もすることがない少女達は、とりあえず
「寝よっか」
「そうですね」
「そうだね。寝よう」
「ふん、どうせやることないし、寝てあげるわよ」
とりあえず寝る。各々こてんと横になり大地同様意識をシャットダウンさせた。たった一人を除いて。
「ん、んん。重い・・・」
体に感じる重みに、僅かに意識が覚醒する。
「もう起きちゃったの?まだ寝ててもいいんだよ」
覚醒しきっていない大地は目を細め、自分の腹の上に乗る少女の姿を確認した。
「イリス?」
「ふふん。まだ寝ぼけてるの?疑問系じゃなくてもいいよ」
「どうなって」
大地は寝る際に座るような体制で眠った。だが、いざ起きてみると体は仰向けになり、その上にはイリスが。状況の整理が追い付かない大地にイリスは追い討ちをかける。
「ほら大地。そのまま動かないで」
「何をす・・・んん、んんん」
何を思ったか、イリスは大地の唇に自分のそれを押し付けた。絡み合うように。
「ぷはぁ」
「おい、イリス。どういうつもりだ」
キスによりようやく完璧に覚醒した大地。目の前で妖艶な笑みを浮かべるイリスを凝視する。
「大地が悪いんだよ」
「俺が?」
「最近構ってくれないし、ラミアばっか気にかけてるじゃん」
「俺はお前も大事にしてる」
「じゃあ証明して」
「は?どうやって」
「大地からキスして」
「・・・・・・・・・・」
答えられない。イリスの要望に大地は答えが出せない。自分からキスすることは簡単だ。しかし、そうするとイリスを特別視しているように見えてしまう。そうなってしまったらイリアたちとの戦闘は免れないだろう。
「悪い。いまは」
「何で?」
「お前だけを特別扱いするわけにはいかないんだ」
「そんなに嫌われるのが嫌なの?」
「少なくとも、ここにいるお前ら四人には嫌われたくない」
「四人じゃダメ」
「どういうことだ」
「私一人でいい。大地は私だけ見てればいいの」
突然、叫んだかと思うと錬成で塞いでいた穴を壊し外に出ていってしまった。
「イリスっ」
急いであとを追おうとするも何かに引き留められる。
「んん、おにいちゃん?どこ行くの?」
「夜空、悪い。いまは構ってる暇ないんだ」
焦った大地は、夜空に捕まれた手を放し、高速でイリスのあとを追った。
「おにいちゃん?」
「ん、何かあったんですか?夜空」
「おにいちゃんがすごく急いで出てった」
「緊急事態みたいですね。私たちもあとを追いましょう」
「うん」
覚醒しきったイリアと夜空は大地を追おうとするが、
「んぁ、大地ぃ、そこはだめぇ」
なにやら卑猥な夢を見ているようだ。まだ寝ているラミアは身をくねらせ喜んでいるように見える。
「なんだかイライラしますね」
「やっちゃう?」
「そうですね」
ニヤリと笑うイリアはくねくねしているラミアに近づく。そっとラミアの腕に人差し指をあてると、
「下級魔法、静電気」
途端に、イリアの指からバチバチと電気が発生する。静電気はラミアの体を駆け巡り強制的に意識を覚醒させる。
「ああぁぁあぁぁあああぁぁあぁ」
体が麻痺しビクビクと痙攣するラミア。
「ら、らにふゆろよ(な、なにするのよ)」
麻痺しているせいなのか、呂律の回らないラミア。しかし、お構いなしにイリアは軽くあしらう。
「早く起きないラミアが悪いんです」
「そうだよ、いま忙しいんだから」
「あれ、大地は?」
「かくかくしかじか、という訳です」
事情を聞くなり、ラミアはすっと立ち上がり
「なにぼさっとしてるのよ。早く行くわよ」
その言葉をそっくりそのまま過去の自分に言え。そう言いたいのをぐっと我慢し大地達を追いかけはじめるイリア達だった。
「全く、ラミアがもっと早く行動していたらこんなことにはならなかったのに」
「そうだよ、ラミア。反省して」
「してるわよ」
強化十倍に重ね疾風走り去るイリアと夜空。元々パワー重視のラミアは強化十倍でイリア達と同等。六十六階層をギュンギュン走り回る。
「大地の位置をつかめません」
「私もだよ」
「どこにいるのよ」
なかなか大地達を見つけられないイリア達。実際、スピードでは大地の方が上回っているため、大地が本気で走れば追い付けない。
「全く、どこで何をしているのやら」
六十九階層にて。
「捕まえたぞ、イリス」
「放してよ」
六十四階層から六十九階層まで一気にかけ降りたイリスはどうやら燃料切れの様子。息を荒くし、フラフラしている。
「おいイリス」
「私だけを見てくれない大地なんて嫌」
「落ち着けって」
「嫌だっ」
捕まれた大地の振りほどき、大地の胴に上級魔法、雷斬をぶつける。
「ぐぁ」
大地の胴には穴があき、ドクドクと血が吹き出した。
「くっ。再生がなかったら確実に逝ってたな」
体の再生に十五秒ほど有したせいか、眼前にいたイリスはすでに迷宮の奥へと消えていた。
「くそ、何がダメだったんだ」
イリスの怒りの原因をたどる。
「わからない」
どうやら大地にはまだわからない領域らしい。どれだけ考えてもそれらしい答えは出てこなかった。
「探知、放電」
まだでない答えに戸惑いつつも、イリス探しを続行する。
「大地、大地、大地、大地、大地」
雷斬を放ち、大地の返り血で血しぶきまみれになってしまったイリス。さながらサイコパスのような格好だが、真実は違う。
大地を求めすぎるがあまりの行動に自分でさえ抑えられない。無意識のうちに発動してしまった雷斬に罪悪感を。自分だけを見てくれない大地に対する憎悪。大地を取り巻く美少女達に対する嫉妬。それらの感情がイリスを今に至らせた。
「ああああああああああ」
逃げ場のない感情が混ざりあい次第にイリスは限界を迎える。
溜め込んだ感情にまかせ上級魔法、炉心溶融をぶっぱなす。
炉心溶融。イリスを中心として高熱で周囲の物質を融解していく危険な魔法。
「はぁはぁ。・・・・・・・・・・大地」
メルトダウンは六十八階層、七十階層まで及び範囲は三十メートル。跡形もなく蒸発し、岩の断面が赤く溶けている。
「バカみたいにデカイ魔力が。イリスか」
現在大地は六十九階層にいる。イリスとの距離は定かではないがかなり近い。
「探知・・・・・・・・・・ここか。五百メートル圏内」
範囲は五百メートル圏内。それが分かった途端、勢いよく駆け出す。
「いま、下層の方で大きな揺れが発生しました」
「私も感知したよ。多分イリスじゃないかな」
「イリス、こんな力隠し持ってたのね」
「ここから一キロほど。急ぎます。全速力で」
イリスのメルトダウンの衝撃を感知し、居場所を把握したイリア達は全速力で走る。
「はぁ、はぁ、はぁ。くそっ、この辺りのはずなんだが」
イリスがメルトダウンさせた通路を手がかりに進む大地だが。
「この焼け跡に残る魔力のせいでイリスの場所が把握できない」
イリスのメルトダウン。本来は魔力なんて僅かにしか残らないため探知の邪魔になるほどでもないのだが、イリスの場合、魔力の制御が出来ていないせいで技の発動時に一気に魔力が流出してしまっているのだ。
「ちっ。まあいい。とりあえず走れば追い付くはず」
大地とイリスのいる階層よりも少し上層で、イリア達は下層にむけて走り続けていた。
「下層でものすごい量の魔力が流出しています。これは異常ですよ」
「急がないと魔力に集る魔獣のせいでさらに混乱してくるよ」
「なら、近道よ」
「どうやって」
近道。ラミアの発言にイリア達は理解が追い付いていないが、次の瞬間、目の前ではあり得ないことが起きた。
「竜化。強化十倍。はあっ」
竜化に強化十倍を重ね、全力で地面を殴る。
途端に地面が割れ、轟音と共に下層へと落ちていく。
「近道成功」
満面の笑みで喜んでいるラミアとは真逆に、危うく岩に潰されそうになったことに若干の恐れを抱いたイリア達。当然だが
「何を考えているんですか」
「もう少しでつぶれちゃうとこだったじゃん」
「ごめんごめん。でもこれが一番速く下層に行けるんだもん」
「まあいいです。さあ行きましょう。もっと下へ」
イリアの指示に従い、ラミアはどんどん地面を壊していき、とうとう六十九階層へと到着した。
「すごい魔力。これ全部お姉ちゃんの?」
「すでに魔獣に感づかれてるみたい」
「早くしないと」
大地やイリスのいる階層。イリア達は捜索を開始した。その顔には先程までの余裕はない。異常に濃くなっている魔力に、時間がないことを悟ったのだろう。
「魔力の密度が落ちてきた。そろそろイリスも燃料切れか」
どんどん流出していく魔力は、次第に少なくなっていた。すなわち、イリスの魔力がどんどんなくなっていることを示している。大地の顔が険しくなる。
「強化五倍、探知、放電」
技の精度をあげるべく強化をかける。沈黙の中、大地の呼吸だけが聞こえる。
「いた。分かりにくいが、ここから五十メートルか。近い」
正確なイリスの位置を確認。大地の目が光る。イリスまでの五十メートル。通路に従って進めば追い付けない。ならば
「イリス。先に謝っておく。悪い。超電磁砲」
イリスのいる方向に出力を抑え超電磁砲を放つ。放たれた鉄球は電気を散らし、一直線に突き進んだ。
「イリスに当たってなければいいが」
放たれたレールガンにより、壁には直径二メートルの穴が五十メートルにわたり空いている。その中を通り、ようやく
「イリスっ」
レールガンには当たらなかったのか、穴よりも二、三メートルほど離れたところでたたずむイリス。
「大地、私だけを見てくれる決心がついたの?」
「・・・・・・・・・・」
「出来ていないんだね。じゃあ追いかけてこないでよ」
「イリス、俺はお前達四人が大事なんだ」
「そんなの嫌だ。大地は私だけの大地なの。大地は私だけ見て、私だけ聞いて、私だけ触って。他の誰も必要ない」
途端にイリスは上級魔法、紅蓮を発動させた。
「なっ。絶対零度」
間一髪で、絶対零度を発動させ威力を殺したが、イリスの熱は覚めない。どうやら本気らしい。
「私のものにならない大地なんて大地じゃない。殺す。殺して一生私だけのものにしてあげる。だから・・・・・・・・・・死んでっ」
地面を強く蹴り、大地の顔面に膝蹴りをいれる。強く弾かれ、壁に全身を強く打ち付けた大地は、血を吐き地面に膝をついた。
「まだまだだよ、大地。上級魔法、雷斬」
膝をついた大地に雷斬を避ける時間はない。もろに直撃しさらに弾かれる。
転がりながら立ち上がろうとすると、イリスの蹴りが炸裂した。腹部に直撃したそれは大地を真上に叩き上げ、天井を破壊した。
「ごほごほ。やばいな」
「大地、早く楽にしてあげるから」
天井を破壊し、その残骸に下半身が埋もれてしまった大地を見下すように、イリスは危険な言葉を放つ。
「おい、イリス。俺はお前だけのものになれない」
「うるさいっ」
大地の言葉に激怒し、残骸ごと一気に大地を蹴り飛ばす。そのまま壁に激突し地面にドサリと倒れ混む大地に追い討ちをかけるように上級魔法を連発する。
「紅蓮、紅蓮、紅蓮、紅蓮、紅蓮」
容赦なく浴びせられる業火に大地の肌は徐々に焦げていく。ボロボロと崩れる大地の体は吸血鬼故にどんどん再生をし、再生と破壊を繰り返している。
「なんで早く死んでくれないのよっ」
紅蓮では殺しきれないと判断したのか、今度は素手に転じる。
「強化十倍。ああああああああああ」
連続で大地の体を殴っていく。強すぎる力に、一発殴ると周囲の壁がビシッと嫌な音をたてる。
「あああああああああ」
イリスの猛攻はおさまらない。パラパラと天井が音をたて始める。
「大地なんて、大地なんて・・・・・・・・・・大地なんて嫌いっ」
言い終わると同時に力強い一発が大地に炸裂する。
「イリス、落ち着け」
「大地、なんで死んでくれないの?なんで私だけのものになってくれないの?」
騎乗位のような姿勢で肩を震わせるイリス。大地の胸に手を置き大粒の涙を溢す。
「イリス」
魔力切れで攻撃を止めたイリスは、嘘のようにおとなしくなった。
「おやおや、奇遇だねぇ。こんなところで会うなんて」
聞き覚えのある声。できれば思い出したくない記憶の人物。それはイリスとて同じだろう。
「あのときの人間か」
「覚えててくれたんだねぇ。うれしいよ」
「最強の人間だったか」
「前はね」
「前は?」
意味深な笑みを浮かべる人間。意図を汲み取れない大地達は疑問符を浮かべるのみだ。
「ここの支配者に会ってきたんだよ」
「もうそこまで行ったのか」
「それで支配者から能力をもらったんだ」
「能力?」
「こんな感じのをね」
言い終わると、瞬間的に大地の目に前に移動する人間。そのスピードは大地達を軽く凌駕し、本気で逃げられれば誰も追い付けないほどだ。
「これが得た能力、歪曲」
歪曲。魔力量に応じて大規模に歪曲させることができる。それがたとえ目に見えないものだとしても。
「いま僕は、君と僕との間の距離をねじ曲げたんだ。万能だよ、この能力は」
大地の額に冷や汗がにじむ。どれだけ力が強くてもそんなでたらめな能力に対抗できるほどの能力は大地にはない。
「いい忘れたけど、ここの支配者殺しちゃったから今の支配者は僕だ」
「なっ。殺したのか」
「邪魔だったから」
ニコリと微笑む人間の顔には笑うというしぐさだけで、中身のない冷たい色がうかがえる。
「せっかくまた会えたんだからさ。やらない?」
「逃げるぞ」
「うん」
お互いに顔を見合わせ、即座に後方に走り出す。強化十倍に疾風を重ね風のごとく通路を駆け抜ける。
「ダメだな。さっき能力の説明したじゃないか。歪曲」
歪曲。たったその一言で必死に走っていたはずの通路から一変、縦横高さが二百メートルほどの空間に移動していた。
「ここは」
「どこ?」
困惑する大地達に一人の人間が嘲笑うかのように高らかに答える。
「ようこそ。僕の、すなわち支配者の部屋へ」




