天水
「死ね」
ラミアを嘲笑うように金棒は降り下ろされた。
「はあ?」
通路に響く聞き覚えのある声。その声が響くと共に、塞がれていた通路から激しい電気と閃光が走る。
飛び出した閃光は真っ直ぐにサイクロプスの右手を吹き飛ばした。
「ぐああぁぁあぁあ。貴様、なにぉ」
サイクロプスの右手を消した張本人。怒りと苦渋に満ちた表情でそれを見るサイクロプス。そこには
「「「大地」」」
岩に埋もれていたと思われていた大地の姿がそこにはあった。
「きさまぁ、よくも」
「よくもだと?」
大地の目に殺意が宿る。かつてないほど冷たく、凍てつくようなその目に、サイクロプスは恐怖心を抱いた。
「ふざけんなっ」
いきなりの怒号にあわせ、大地から超電磁砲が放たれる。サイクロプスの右手を吹き飛ばした時よりも強く、速い超電磁砲が。
「ぐあぁぁあぁあぁあああぁあ」
サイクロプスの左手が吹き飛ばされる。両手を失ったサイクロプスは激痛に耐えきれず膝をついた。
「よ・く・も・俺のラミアをそんなにしてくれたなっ」
再度、大地の怒号が響き渡る。だが今度は超電磁砲ではない。
強化二十倍での[衝撃波]。どこで覚えたのか知らないが、ラミアのものよりも圧倒的に強く重い。
「はっ・・・・・」
圧倒的過ぎる力に声をあげることすら忘れ、ただ静かに命の灯火を消した。
「弱いな」
決して弱いわけではないのだが、地面に転がるサイクロプスに最上級の怒りを込めそう言い放った。
「ラミア、大丈夫か」
「ちょっと痛いけど、我慢できる」
サイクロプスに踏まれた右足を庇うように手でおさえるラミア。とても我慢できそうな怪我ではないことはすぐにわかる。
「今日はここで終わりだ。しばらく休むぞ」
「でも、それじゃあ」
「今はお前が優先だ」
「・・・・・ぅん」
自分のせいで足を引っ張りたくないラミアは迷宮攻略を進めようとするが、大地は許さない。たとえ攻略が遅れるようなことがあっても、ラミアに無理をさせるのは心苦しいのだ。
それを理解し大人しく大地の指示に従うラミア。
「地上で薬を買ってくる。もう切らしちまってるからな」
「私はここでラミアを見ています」
「私もそうするよ。おにいちゃん行ってらっしゃい」
「ごめん、大地。迷惑かけて」
「大事にするって言っただろ?」
顔を紅潮させもじもじとするラミア。怪我をしているとは思えないほどその顔は喜びに満ちていた。が、
「ちょっと。私を忘れないでよ」
大地、イリア、夜空、ラミアの四人で会話をしていると、突然、迷宮内に声が響いた。
痺れをきらしたのか若干怒り気味で一人の少女が飛び出してくる。
「「「イリス(お姉ちゃん)」」」
岩につぶれた後、大地に助けられたのだ。もともと錬成の使える大地だから出来たことである。
「なんで私はガン無視なの?」
「すいません。大地の登場の仕方があまりにもかっこ良かったので」
「おにいちゃんが凄すぎてイリスが霞んでた」
「ごめん、傷が痛すぎてそんな暇なかった」
「そんなぁぁぁ」
イリア達が辛辣過ぎるのか、イリスのメンタルが弱いのか。いずれにしろイリスは通路の端の方で一人絶望している。
「お前ら、イリスを頼んだぞ」
「「「はい」」」
四人の少女を残し、大地はきた道を引き返していった。
「大地が戻ってくるまでおよそ三十分といったところですね」
「おにいちゃんがいないと息がつまりそうになるよ」
イリアと夜空は大地について話している。ラミアは傷をおさえ痛そうに顔を歪めている。イリスもラミア同様通路の端で顔を歪めている。
「放電、探知、強化五倍。最速で突破する」
危険な迷宮内を、魔獣が襲ってくるかも知れないのにずんずんと走る大地。襲いくる魔獣でさえ一瞬思考を失うほどに大地は速く走った。
「長いな。これじゃ時間がかかりすぎる。・・・・・・・・・・壊すか」
意味のわからないことをいう大地。壊す。何を壊すのか。その答えは次の瞬間嫌でも理解することになる。
「強化二十倍、超電磁砲」
五十階層から放たれた強化二十倍の超電磁砲は地上を突き破り、大きな光の筋を作り出した。
「よっと」
突如、地上にできた光の筋と巨大な穴。その中から一人の吸血鬼が飛び出してきた。
「ここは、帝国からちょっと離れてるな」
帝国から離れた場所にも関わらず、大地にはおびただしいまでの視線が突き刺さった。
「おい、あいつ迷宮から出てきたぞ」
「もしかしてこの穴もあいつがやったのか」
「気をつけろ。見た目は人間でも中身は魔獣かもしれん」
穴の周りに集まった冒険者達が騒ぎ出す。
「ちっ。めんどくせぇ」
誰が見てもわかるくらいに嫌そうな顔をする大地。それを見た冒険者は何を勘違いしたのか、
「おい見ろよあの顔。すげぇ悪そうな顔してるぞ」
「ここでやっちまったほうがいいんじゃないか?」
「あぁ、そうだな。お前ら、一気にいくぞ」
冒険者達は大地を害悪と判断し戦闘体制に入る。剣を構える者、魔方陣を展開する者、応援を呼びに行く者。冒険者によって様々だが、どれも大地に対して畏怖の念を抱いている。故に早い段階で殺っておきたいのだ。
「数は三十か。レベルは装備からして平均50から60。ちっ、急いでるのに」
ただ薬が欲しいだけなのに、冒険者に囲まれてしまう。この状況を心から恨む大地。その表情は一層暗くなる。
「三、二、一でいくぞ」
「あぁ、覚悟はできている」
「出来るだけ早く片付けるぞ」
どうやらそろそろ開始するようだ。大地も戦闘体制に入る。
「三、二、一・・・・・突撃ぃぃぃぃぃ」
「おおおおおぉぉぉぉぉ」
三人の冒険者が剣を片手に突撃する。三人ともスピード型のようだ。大地を惑わすようにギュンギュンと走る。そして
「ここだ」
「はっ」
「どうだっ」
大地に三人の冒険者の剣が、三方向から突き刺さる。だが、大地相手に剣など無意味に等しい。大地に向かって突き刺さろうとした剣は、大地に直撃する寸前、錬成により剣を維持できなくなった。
「剣が」
錬成された剣は大地の右手を覆うように再錬成された。簡易型のガントレットとなり大地に有利な状況を作ってしまった。
「雑魚が」
剣が錬成されたことに動揺した三人の冒険者達は、落雷によって一瞬でその命を散らした。もちろん、落雷を産み出したのは大地である。
「おい、なんだあいつ。強いなんてもんじゃないぞ」
「化け物だ」
「は、放てぇぇぇぇぇ」
なす術なく消された冒険者達をみた待機中の冒険者達は逆上し、十以上の冒険者達が一斉に上級魔法を放った。
「火、風、雷。この程度の魔法しか使えないのか」
放たれた魔法は、火系魔法、風系魔法、雷系魔法。どれも上級魔法で放たれた魔法をこの程度と称した大地。全方向から放たれた魔法に対処の施しようがないように見える。
「気体錬成、二酸化炭素。錬成、土の壁。上級魔法、雷斬」
十以上もの上級魔法を防ぐのは容易ではない。だがしかし、それをやってしまうのが大地なのだ。
火系魔法は二酸化炭素で消火。風系魔法は錬成で地面を壁にして風を遮る。雷系魔法はさらに威力を強くした雷系魔法で相殺した。
「おいおい、嘘だろ?」
「上級魔法だぞ」
「簡単に防げるはずねぇよ」
通常の人間なら骨も残らないほどの魔法を無傷の状態でいる大地に、戦意を喪失させた冒険者達。
攻撃が止まり、冒険者達を睨み付ける大地。それに恐怖した冒険者達は我先にと逃げ出す。しかし、だいちは許さない。
「お前たちから喧嘩売っといて逃げられると思ってんのか?」
一瞬で冒険者達の前に移動した大地は半径二十キロ分の衝撃波を二十メートルに圧縮し放った。威力は千倍。突然、強い衝撃に冒険者達の体は限度を越え粉々に砕け散った。
「はぁ、余分な体力を使っちまった。全く、手間かけさせやがって」
地面に転がる冒険者だったものを見下ろし愚痴をこぼし、急ぎその場を後にした。
「やっとついた。ここには俺を殺そうとしてる王もいるからな。早く済まさないと」
さっさと買い物をすませ、最上級の薬、天水を二十個ほど買ってクレータ大迷宮へと戻る。
「この穴、塞がるわけないよな?」
自分が開けてしまった大穴を見て若干罪悪感を覚える大地。それを背負い、穴を落ちていく大地。
「ぐっ」
迷宮内に僅かに響く男の声。大地である。なぜこんな声を出したのか。答えは明白だ。
大地は地上から五十階層まで落ちたのだ。一階層およそ五メートルから十メートほどの高さがある。間をとって七・五メートルとする。それが五十階層分とすると三百七十五メートル。そんな高さを飛び降りたのだ。大地の足は着地と共にぐちゃりと飛び散った。もちろん吸血鬼なのですぐに再生。
「感覚操作で感覚を無くしておくべきだったな」
飛び降りてから後悔した大地。再生が終わると共に勢いよく走り出す。強化二十倍、上級魔法、疾風、放電の電磁波を利用しマップの把握、一気に高速で階層を降りていく。
「探知、半径一キロ。いた」
探知にてイリス達の位置を把握。全速力で駆け抜ける。
「よっっっと」
地面をガリガリと削りながらキュッとストップする大地。イリス達のいる壁の前まで来たのだ。
「錬成」
錬成で壁に穴を開けサッと入ってスッと閉める。
「ただいま。ラミア、待たせたな。薬持ってきたぞ」
「大地、ありがとう」
「薬の使用後、体が熱くなるからな気をつけろ」
「え、死なないよね」
「大丈夫だ。時間はかかるが薬の効果は絶大だ」
「そう、それならいいけど」
若干不安そうなラミアを尻目に天水をラミアに飲ませようとする。瓶状の入れ物に入った天水をラミアの口に持っていく。だが、
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だ、それより早くしないと怪我が悪化する」
「まずは大地が飲んでみてよ」
「俺は怪我しても治るから必要ないんだよ」
「安全かどうか証明してよ」
「無理だ、いいから飲め」
「まって」
「イリア達にやられたその腹の傷、出血が多い」
「すいません。サイクロプス相手だと手加減できなくて。事故なんです」
「わかった。後で説教な」
「はい」
ラミアの腹をぶち抜いたイリアと夜空の雷斬。傷は雷のせいで焼け、痛々しい穴が空いている。それを空けた原因、イリアと夜空に対する大地からの説教宣言。二人ともばつが悪そうに縮こまってしまった。
「さあ早く」
「あ、後で飲むから」
「今すぐに飲め」
「んんん・・・んっんっんっ」
強情なラミアの口に無理矢理天水を流し込む。瓶の中身が全部なくなったところで大地は瓶を錬成し、小さな杭のような形にして腕輪に入れた。
「おぇ、大地、多すぎるよ」
そう言って口を手で押さえる。何故かいかがわしさがあるがそんなのはたまたまだ。飲まないラミアが悪いと割りきり目を瞑る。
しばらくすると、ラミアは体の異常を訴えた。天水の特徴で、使用後体が熱くなるのだ。
「だ、だいちぃ。体が熱い。溶けちゃうぅぅ」
ペタンと地面に座り込み大地の服の裾を握り、上目遣いで訴える。その様子は端から見れば確実にロリコン扱いされてしまうであろう絵だった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
体の発熱がおさまるとラミアの傷は癒えていた。それはもう完璧なほどに。
「大地、強引すぎる。危うく溺死するところだったじゃない」
「わるい」
「ちゃんと反省してるの?」
「あぁ。飲ませるときは眠らせてからにする」
「そういうことじゃなくて」
ラミアの必死の訴えは大地に届かず撃沈。肩を落とすラミア。
「はぁ、疲れちまった。と、そうだ。ボード」
不意に何か思い出したように自分のステータスボードを確認する大地。そこには
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名前:大神大地 年齢:16 職業:鍛治職人 レベル:???
筋力:17150[+3570]
耐性:17150[+3570]
魔力:17150[+3570]
魔耐:17150[+3570]
能力:鍛治・錬成[+気体]・鑑定[+魔法]・身体強化・夜眼・魔力操作・千里眼
・感覚操作・探知・放電・威圧・支配・衝撃波
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以前よりもパワーアップしたのは明白。特に[+???]だったところが[+3750]となり、合計値が20720。これは小さな国なら大地一人でも制圧できるほどの数値なのだ。この[]の数値は支配者である夜空の力を吸った際に、大地の体が取り入れた支配者の力なのだ。大地の体に支配者の力が馴染むまでに時間がかかったが、ようやくその力が開花したようだ。
そして衝撃波。衝撃波は技としては簡単な方なのだ。大地はラミアの衝撃波を見て学び、ラミアに勝るとも劣らない衝撃波を獲得したのだ。
「私のも見てみて大地」
「お姉ちゃんだけは不公平です。私のも」
「おにいちゃん、妹が優先だよ」
「しょうがないから見せてあげるわよ」
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名前:イリス・アルテミス 年齢:500 職業:吸血鬼 レベル:83
筋力:158
耐性:158
魔力:16000
魔耐:16000
能力:・再生・再生操作・波動・斬撃・探知・身体強化・夜眼・魔力操作・支配
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名前:イリア・アルテミス 年齢:495 職業:吸血鬼 レベル:78
筋力:148
耐性:148
魔力:15000
魔耐:15000
能力:・再生・再生操作・波動・斬撃・探知・身体強化・夜眼・魔力操作・支配
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名前:大神夜空 年齢:10 職業:妹 レベル:130
筋力:10
耐性:10
魔力:35900
魔耐:35900
能力:・金剛・威圧・複写・再生操作・再生・構築・超電磁砲・衝撃波・神速
・夜眼・魔力操作・支配・身体強化・千里眼
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名前:ラミア・ネメシス 年齢:9 職業:奴隷 レベル:72
筋力:10800[+10000]
耐性:10800[+10000]
魔力:120 [+2000]
魔耐:120 [+2000]
能力:竜化・衝撃波・身体強化・金剛・感覚操作・千里眼・結界・探知・火焔・飛行
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質の高い魔獣を倒しまくった影響でステータスが上がっている。大地達なら大陸を支配することも可能なほどの力がある。
「これだけあれば七十階層までは安泰だな」
ステータスを確認し見通しを持てたことに安堵する大地。そして自信満々に宣言する。
「さてと、ラミアも回復したことだ。六十階層を突破するぞ」
「「「「おぉぉぉぉぉ」」」」
迷宮内にやる気に満ち溢れた声が響き渡った。




