ピュロス海
臨海学校の真っ最中、大地が街の生徒と交流を行っていたときのこと。
「大地は何してるんだろ」
「学院は街の生徒と交流みたいです」
「おにいちゃん、ナンパされてないかな」
「「「・・・・・・・・・・」」」
大地と過ごす時間が減り精神的に参っているイリス達。身体的にも参っているというのは言いたくても言えない。
「私たちは実技の授業」
「力を抑えた状態で、ですが」
「おにいちゃんも難しいこというなぁ」
力を抑えるのは大地だけではない。イリス達も強大な力を有するが故に抑えなければいけないのだ。
今回大地は街の生徒との交流だが、イリス達学園は施設を借り、実技の授業。といってもただの授業ではない。学園の生徒全員でトーナメント形式で行う授業なにのだ。
「全員が終わる頃には日がくれてる」
「つまらないですね」
「おにいちゃんとならいくらでもいれるのに」
トーナメント形式でも力を抑えなければいけないため、負けないとけない。弱いという印象をつけるにはそれしかないのだ。
イリス達は五年生のため出番は後の方になる。それまでは、ただ待つ、それだけ。
「下級魔法、中級魔法、下級魔法、中級魔法。弱い技ばかり」
「上級魔法程度使えないなんて」
「超級魔法までならいける」
学園の生徒は下級魔法か中級魔法しか使わない。樹海や平野、試練の場で上級魔法をぶっぱなしてきたイリス達にはそれが退屈で仕方がないのだ。
つまらない時間が続き、すでに無表情となっているイリス達三人にようやく出番が回ってくる。
「まずは私。おにいちゃんに誉めてもらうために上手くやる」
「間違って殺さないでね」
「抑えてくださいね」
「うん。行ってくる」
そして結果は言うまでもなく敗北。相手の魔法にわざと当たり負けたフリをしたのだ。しばらくしてイリスの出番、
「じゃあ、行ってくる」
「お姉ちゃん。気を付けて」
「いってらっしゃーい」
「やってくる」
そして敗北。続くイリアも
「完璧に負けてきます」
「文章がおかしい気がするんだけど」
「気を付けてぇ」
そしてやはり、敗北。
「あとはひたすらつまらない時間を過ごすだけね」
「はい」
「おにいちゃんが欲しいよぉ」
六年生が終わるのをただ待つ。太陽は徐々に沈みつつある。すでに戦い終わった生徒達は各々適当にくつろいでいる。イリス達ははしっこの方で小さくまとまっているだけ。
「はぁ、ここにいる全員の髪の毛をむしりたくなってきたわ」
「抑えてください、お姉ちゃん。それは私も同じですから」
「はぁはぁ。おにいちゃん」
「夜空、息が荒くなってますよ」
「アニウム(兄の成分的なもの)が足りなくて目の前がボンヤリしてるよぉ」
どうやら夜空は限界が近いらしい。なぜかはわからないがアニウムなる物質を勝手に作っているが、それが不足しているらしい。
アニウム不足で意識が朦朧としている夜空。座った状態でもわかるほどフラフラとしている夜空。どうやら本当にまずいらしい。さっきから意味のわからないことをぶつぶつと呟いている。
「お、おにい、ちゃんが、いっぱい、もっと、抱きしめてぇ」
「ちょっとイリア、これは本当にまずいわよ」
「は、はい。はやく何とかしないと」
二人の少女は考えた。頭から煙が出るほど必死に考えた。その結果、辿り着いた答えは
「「大地を見せればいい」」
簡単なことだった。大地成分、つまりアニウムがなくて苦しいなら大地を見せてあげればいい。大地に会わせるという考えに固執していたが故になかなかこの案がでなかった。すでに十分が経過している。夜空はもはや虚ろとなっていた。目に光がない。
「急がないと」
「よ、夜空っ」
「?????」
口ではなにも言わないが目で疑問符を浮かべているのは分かった。時間がないので夜空には簡潔に説明を施す。
「千里眼なら大地を見ることが出来るんじゃない?」
「離れていても大地を見ていられる」
「おにいちゃん、を」
アニウムが底を尽きかけ精神的に満身創痍な夜空が、イリス達の言葉を聞くと共に徐々に目に光を灯し始めた。
「せ、千里、眼っ」
千里眼。大地の場合は一度行ったことのある場所しか見れない。しかし、元支配者の夜空は千里眼の名の通り、どこまでも見ることが出来るのだ。
夜空は千里眼を大地のいる方向へと向けた。次々と景色が流れていき、ようやく大地のいる街の学院を視認できた。
「おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん」
大地を黙々と探し始める。太陽はすでに沈もうとしている。学院の中、屋上、校庭、と見ていくとそれはそこにいた。
「おにいちゃん、見つけた」
とうとう見つけた。大地は女子生徒と別れ、これから帰るというったかんじだ。
「アニウム充電完了。ふぅ、おにいちゃんはいつ見てもカッコいいな」
アニウム、もとより大地を見て活力を取り戻した夜空は、千里眼で見た大地を思いだしうっとりとしている。
「はぁ、やっと戻った」
「さすがにこれは異常ですね」
「ご、ごめん」
ひとしきりうっとりした後、間一髪だった、みたいな顔をしている二人に注意され苦笑いで謝るのだった。
学園の生徒の宿泊先。つまり街の旅館。そこへ向かう道に、横にならんで歩く三つの陰、イリス、イリア、夜空だ。旅館に着くまでの十数分間、三人の少女はある人物の話題でもちきりだった。
「ねえ、夜空。千里眼で見たとき、大地はどうだった?」
「すごくカッコよかったよ。全身がゾクゾクした」
「当たり前です。大地ですから」
イリス達が話す事といっても基本的には大地の事である。というかそれしかない。
「大地、はやく会いたいなぁ」
「ダメ、私が最初におにいちゃんと会う」
「いくらお姉ちゃんでもこれは譲れません」
どうやら話が発展して誰が大地に最初に会うのか、という話題になってしまったようだ。
「私が最初に大地と出会ったんだもん。当然私が最初よ」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんなんですからここは妹である私にゆずってください」
「私はおにいちゃんの妹だもん。妹だからおにいちゃんの所有権は私にあるの」
大地の取り合いとなり、三人の美少女の間には見えない火花、いや、稲妻が走っている。
「お前ら、実技の授業は楽しめたか?」
「「「大地は私のもの」」」
「いや、違うからな」
「「「・・・・・・・・・・」」」
噂をすればなんとやら。張本人が出てきてしまった。大地の存在に気付いたイリス達はハッと我に返ると、自分の言ったことを思い出す。そして赤面。
「大丈夫かと思って来てみたが、余裕そうだな。じゃ、俺は戻る。うまくやれよ」
「だ、大地。待って」
「なんだ?」
「三日目の海、私たちと行動しない?」
「そうです。大地は私たちと行動した方がいいです。いえ、するべきです」
「おにいちゃん、拒否権はないんだよ」
「・・・・・もとよりそのつもりだ」
「「「・・・・・・えっ」」」
てっきり断られると思っていたイリス達は予想外の反応に硬直している。数秒後、事実を理解したイリス達は大地に詰め寄りキラキラとした視線を送る。
「色々とな・・・・・それだけだ」
それだけ言ってさっさと海の方の旅館へと戻っていた。取り残されたイリス達は大地の思わぬ反応に再度きゃっきゃとはしゃぐのだった。
二日目の予定。二日目の今日は学院の生徒は施設を借りての実技授業。学園の生徒は街の学園の生徒と交流。
施設を借りての実技授業。大地は昨日イリス達が使った施設を使っている。もちろん学園がやったのと同じようにトーナメント形式でだ。
(さっさと負けて支配の訓練しないとな)
学院では任意の順番で戦闘を行える。ただし、順番が被った場合は成績の高い方が優先される。
「最初の方にやりたいんですが空いてますか?」
「ん?えーっと、八番目だ。やるのか?」
「はい。お願いします」
「んじゃ、お前は八番目ってことな」
キルケに聞いてみたところ八番目が空いてるとのことなので、そこでやることにした。そして大地の順番が決まると、七番目の希望者が急増した。その中には女子生徒もいるが九割がた男子だった。
「四肢をもいでやるぜ」
「じわじわと痛め付けてやる」
「一瞬だ。一瞬でけりをつける」
殺意と憎悪に彩られた男子達の気迫は異常なものだった。女子にモテモテのハーレム大地が許せないというだけでここまでの殺気を引き出せる。やはり大地は凄かった。
しかし、一方では
「大神くんにいじめられたい」
「あの鋭い目で罵倒して欲しい」
「はぁはぁ、大神くんにペット扱いされたい」
こちらもこちらで背筋が凍るような話をしている。なぜか大地の周りには誰かしらのMがいるのだ。それは大地がS故なのかそうでないのかは本人もわからない。
結局大地の対戦相手となったのは学院二年生の中では三本の指に入る実力者。大地の知らない男子生徒だが、体術に特化していて中級魔法までなら生身で受けても問題ないらしい。
一回戦、二回戦、三回戦ときてようやく大地の出番。
「二秒だ。二秒で貴様を葬ってくれる」
「・・・・・・・・・・」
今回の実技。大地にはある秘策があった。戦闘において絶対にボロをださないための秘訣が。
「それじゃあ、始めっ」
始めの合図と共に大地は秘策、を実行した。
「棄権します」
「はい、終了」
本当の戦闘でないかぎり、棄権、この一言で戦闘から抜け出すことが出来る。力を隠したい大地にとっては都合がいいのだ。
しかし、一方の対戦相手は
「えっ・・・・・終わり?」
戦闘前までの覇気が一瞬にして消沈。機械的動きで仲間の輪に戻っていった。
(さて、支配の訓練に勤しむとするか)
心の中でそう呟き、ペンを取り出す。
「字を書くことはできるようになった。次はペンの分解だ」
一心不乱にペンを支配する。ゆっくりとペンのキャップ的なものが外れ、中からインクが出てくる。宙に浮いているインクは出たり入ったりしている。
(よし、ここまでできれば後は回数だ)
ペンの分解に成功した大地は何度も同じ動作を繰り返した。
「・・・・・ま、こんなもんだろ」
ペンの支配は完璧と言っていいほどマスターした。満足気にふぅっと息を吐く。
「おし、これで全員終わったな?そんじゃ、旅館に戻るぞ」
「ペンの支配だけでだいぶ時間がかかっちまった。だが、コツは掴んだ」
支配のコツを掴んだ大地。不適な笑みを浮かべ旅館へと急いだ。
大地が棄権戦闘を始める前、イリス達は街の学園の生徒と交流を楽しんでいた。
「私はイリス・アルテミス。よろしくね」
「私はその妹、イリア・アルテミス」
「私は大神夜空。おにいちゃんの妹」
早速友達造りに勤しむ三人の少女達。相手は女子生徒。話が合うとのことで現在一緒にいる。
「ねえ、その髪、綺麗だね。どうやったらそんな風になるの?」
「特に何もしてないよ」
「はい、朝起きたらすでにこんな感じです」
「私も髪の手入れをしたことはあんまりないかも」
「なにそれどういう仕組み?」
朝起きたら髪が整っているとかあり得ない話なんだが事実なのでどうしようもない。
「ねえ、知ってる?」
「何を?」
「学院の方に超イケメンが来たんだって」
「どんな?」
「黒髪で鋭い目付きのイケメンだって」
「あぁ、なるほど」
「なるほどって知ってる人なの?」
「うん、すごく」
「じゃあ紹介してよ」
「それはだめ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
大地はとられるのではないか、そんな不安からイリスは女子生徒の頼みを断った。きっぱりと。もちろんそれはイリスに限ったことではない。イリアも夜空も同じなのだ。
女子生徒はイリスの返答に肩を落とし、しばらくその事に傷ついてからパッと表情を戻した。
「そっか、その人大切な人なんだね。うん、じゃあ諦めるよ」
「いいの?」
「というか、私じゃ勝てないから」
「ごめん、でもありがとう」
女子生徒は悲しいはずなのにそれを無理矢理押し殺し笑って見せた。耐えきれなくなったのか急ぎ足でその場を去っていった。
「あの子には悪いけど大地は誰にも渡せない」
「すでに貞操も捧げましたし」
「大地、激しかった」
「ちょっとやめてよ。思い出すじゃない」
「お姉ちゃん、かわいかったですよ」
あの時の事を思いだし紅潮するイリス。何だかんだ言っているが実は嬉しかったりする。
結局、イリス達はそのあとピンク色の夜の事を話すだけで、誰とも交流をせずに終わった。
「二人とも、明日の海、わかってるわよね」
「はい」
「おにいちゃん、フフフフフ」
三日目の海、大地は三人の美少女の餌食となる。その事を知るものは誰一人としていなかった。
強い光の降り注ぐ砂浜、光を反射しギラギラと輝く水面。学院、学園の生徒は海に来ていた。
「・・・海か。久しぶりに羽を休めるのもいいかも知れないな」
学院と学園合わせて千二百六十人。そんな大人数で海にいるのだ。浜辺も含め海は人でごった返している。その中に金髪ツインテールと金髪ボブカット、黒髪幼女を見つけた。
「イリス、イリアと夜空」
「大地、約束通り遊ぼ」
「大地、焦らしたぶん遊んでもらいますよ」
「おにいちゃん、二人っきりで遊ぼ」
大地を発見した三人の少女達は大地を確認すると、とてとてと歩み寄ってきた。
「あぁ、それじゃあ、人気の少ないあっちの岩陰にいくか」
「「「えっ・・・・・・・・・・」」」
大地の一言で顔を紅潮させ体を硬直させるイリス達。大地にはその意味がわからないのか、その場に留まっているイリス達を急かす。
「おい、人混みの中にいると気が滅入る。はやくしてくれ」
「大地が、そう言うなら」
「覚悟は、出来てます」
「おにいちゃんなら、いいよ」
察しのいい人は分かっただろう。しかし、大地はどちらかというと良くない方だ。イリス達の態度の急変の意味を理解しないまま、岩陰へといってしまった。
大地が岩陰に入っていくと遅れてイリス達がやって来た。
「ん?どうした?顔が赤いぞ」
「何でも、ない」
「気になさらず」
「大丈夫だよ」
少々顔の赤い三人を気にして声をかけた大地だがますます顔を赤くしてしまったイリス達。
「大地、人が来るかも知れないよ?」
「探知を使っている。五十メートル圏内の生命体を探知できる」
「遠くから見られるかもしれません」
「この岩陰は上からも左右からも見えない。ここを覗くためには必ず俺の探知圏内に入ることになる」
「声が聞こえちゃうよ」
「塞いでればいいだろ」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「何かあったのか?」
「そういうことなら」
そういうと、おもむろに服を脱ぎ出すイリス。イリスに続いてイリアと夜空も脱ぎ始めた。
突然目の前で服を脱ぎ出すという奇行に及んだイリス達。それを見せつけられた大地は予期せぬ出来事に目を見開いている。
服の中は裸かと思われたが、服の中には水着を着用していた。ほっと安堵の表情を見せた大地の顔は次の瞬間、再び驚愕の表情に彩られた。
「もう少し待って。この水着も脱ぐから」
「ちょ、イリス落ち着け」
大地の言葉も虚しく、とうとうイリスの真っ白に透き通るような裸体が姿を現した。
「私たちもそろそろ」
「おにいちゃんだけだからね」
「いや、待て」
イリス同様、イリア、夜空もとうとう綺麗な体をさらけ出した。
「お、お前ら」
「岩陰に誘ったのは大地でしょ」
「このためにこの岩陰を選んだんですよね」
「優しく、ね?」
ここに来てようやくイリス達の顔が妙に赤い理由を悟った大地。まさかそういった意味だとは思いもしなかっただろう。
「・・・・・・・・・・」
しかし、大地もすでに経験者。あの時の快感をもう一度味わいたい。その欲求は大地の理性を凌駕し、再び一匹の狼を誕生させた。
ちょっと早めの大人の営みが始まり一時間ほど経過した頃。
「「「「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」」」」
岩陰からは乱れた吐息が聞こえる。そこには一匹の狼と三人の美少女がいた。
「悪い、張り切りすぎた」
「だいじょうぶ」
「もんだい、ないです」
「はげし、かった」
三人の少女達は乱れた息を整えながら返答する。
「はぁ、それじゃ、そろそろ浜に戻るぞ」
「待って、着替えないと」
「ああ、そうだったな」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「まだか?」
「はい、おしまい」
「じゃ、いくぞ」
着替え終わったイリス達を引き連れ岩陰をあとにする。
相変わらず人でごった返している中を器用に通り抜け海へと入っていく大地。
「おい、お前たちも来いよ」
「いっくよぉぉ」
「仕方ないですね」
「私は、いいかな。おにいちゃんは楽しんできてよ」
いつも大地にベッタリな夜空が乗り気ではない。それに違和感を覚えた大地は瞬時にひとつの答えにたどり着いた。
「なるほど、泳げないのか」
「ふぇ、ち、違うもん。泳げるもん」
可愛らしく意地をはる夜空。ぷくぅぅぅっと膨らんだほっぺで顔を紅潮させている。とても可愛らしいその様子についつい大地は
「教えてやるよ。こっち来い」
「え、ほんと?」
「ああ」
「・・・じゃあ、ちょっとだけ」
いじらしく海に足をつける夜空。
「ひゃんっ。うぅ・・・冷たい」
その様子が見た目と相まってさらに夜空を可愛くみせる。一歩一歩水に足を浸けるたびにビクッと震える様子は反則級なほどに可憐だった。
夜空の胸辺りまで水面がきたところで泳ぎの練習をスタートする。
夜空の両手をとり大地が支えている。ラブコメ主人公のようなシチュエーションに浜辺からの視線が一気に大地に突き刺さる。
「・・・周りからの視線なんて、慣れた」
大地がそんな刑を受けているときに、夜空は図ったようなタイミングで大地に体を寄せた。
「な、夜空。どうした、練習するんじゃなかったのか?」
「おにいちゃん、潜ってみて。そしてよく耳を澄ませて」
「ん?別に構わんが」
少し真剣な顔でそういう夜空の言うことに従い、水中で耳を澄ませる。澄ませて、澄ませて、さらに澄ませる。魚の泳ぐ音さえ聞き取れるくらいに澄ませる。
(なんだこの音。魚にしては大きい。だが、船にしては深すぎる。なんだ)
「っはぁ。夜空、水中で妙な音を聞いた。何かがこっちに向かってくる。それも船やただの魚じゃない。もっと大きな何かが」
「やっぱり。おにいちゃん、それは多分」
「だ・い・ち」
夜空の話を遮って割り込んできたのはイリス。泳ぎの練習で仲良くしている大地と夜空が気になったのだ。もちろんイリアもいっしょだ。
「お前ら、泳いでたんじゃなかったのか?」
「別に、二人が仲良くしてるから邪魔しに来たとかそんなんじゃないし」
「お姉ちゃん、分かりやすいです」
「とりあえず、大地は私と遊ぶの」
「イリス。遊ぶのは後回しだ」
「何でよ」
「水中で耳を澄ませればわかる」
言われた通り水中で耳を澄ませるイリス。イリアも澄ませる。そしてやはり
「何か聞こえる」
「はい、普通じゃない何かが」
「・・・・・イリス、イリア、夜空。戦闘準備」
大地の言葉に迷いはない。
「うん」
「はい」
「わかった」
イリス、イリア、夜空にも迷いはない。大地の指示に反論はないようだ。
海から上がり、スタンバイ。それに合わせるように海には巨大な魚影が見えはじめた。
「さあ、戦争だ」




