大人の階段
「これが、外の世界」
初めてのものを見るような純粋な顔。疑いようがないくらいの無垢な声を発したのは、先日まで深く暗い地下で生活をしていた支配者、ガイアである。地下から出た後、樹海へと入り、次の目的地へと向かっていた。
高い木々が覆い被さるようにして生えている樹海。人は処刑場というが、それほど悪くはない。食料にも困らない上に魔獣との戦闘はいい運動になるためなかなか快適なのだ。
「大地。これぜんぶ樹なの?」
「ああ。全て本物の樹だ」
「わぁぁぁぁぁ」
ガイアを地下から助け出した大地達は、樹海の中を散歩中だ。
「にしても、大地はすごいね。まさか、あんな方法でガイアを助けるなんて」
「はい、さすがは大地です」
「別に、大して難しくない。支配者の力が外に出ることを許さないなら全部出せばいい。俺が吸血して、支配者の力を吸いとる。支配者の力が無くなったガイアを外にだし、俺も出る。それだけ」
「でも、支配者の力を吸いとったなら大地は出られないんじゃない?」
「俺の魔力とガイアの支配者の力を混ぜて別の力に変えた。さすがに支配者の力を体に取り入れた時は、力が大きすぎて壊れそうになったけどな」
軽く言っているが、支配者の力を取り入れるというのは自殺ともいえる行為なのである。支配者の力は強大すぎるため、いままでにも手にいれたいという者がいた。しかし、全員が例外なく壊れた。ただ、脳が狂ったわけではない。体の細胞が余すことなく全てが弾けとぶのだ。それほどまでに支配者は強大なのだ。
「もう、大地。次からはそんな無茶しないでね」
「というか前にも同じようなことがあった気がするんだけど?」
「ドラゴン戦です。あのときも大地は無茶をしました」
「悪いな。でも、そうせざるを得なかったんだ」
「次こそはやったらダメだよ」
「大丈夫だ。多分」
次も同じことをするのだろう。イリス達はそんなことを思いながらも、ガイアのために無茶をしたことが若干気にくわないらしく、バレない程度に大地を睨むのであった。
「ねぇ、大地。ステータスなんとかっての見せて」
「ステータスボードか?ほら」
「ありがとう」
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名前:大神大地 年齢:16 職業:鍛治職人 レベル:???
筋力:17150[+???]
耐性:17150[+???]
魔力:17150[+???]
魔耐:17150[+???]
能力:鍛治・錬成[+気体]・鑑定[+魔法]・身体強化・夜眼・魔力操作・千里眼
・感覚操作・探知・放電・威圧・支配
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大地のステータスはやはり上がっていた。吸血鬼の力を百パーセントまで引き出せるようになったのだ。しかし、何やらよくわからないものがある。一目でわかるが、[+???]、だ。正直、これが何を意味するのかは大地にも分からなかった。ただ、支配者か、もしくは試練が原因なのは言うまでもない。
「ここまで正確に測れるんだ。私も欲しい」
「急いで街まで行けば、そうだな。あと一時間ほどで手に入れられる」
「本当?じゃあ急ご」
「はぁ、イリス、イリア。行けるか?」
「「当たり前」」
「いくぞっ」
大地は身体強化五倍、イリスとイリアは上級魔法疾風、ガイアは元が良いので強化する必要はない。それぞれ、強化を施し(ガイアを除いて)風の如く樹海を駆け抜けていく。
風になってから小一時間。ちょっと大きめの街に着いた。樹海を抜け、ちょっと長い道を走り、ようやくたどり着いた。海の見える街で、その海に大地達は行ったことがある。つまり、その海の近くの街なのだ。
「ここには大きな店がある。そこに行く前に決めておきたいことがある。この街には俺達を知ってる奴等がいる。ばれると面倒だ。早急に終わらせるぞ」
「「「うん」」」
大地は、国から殺すように命じられた冒険者たちに狙われているのだ。もちろんそれは一刻千金を夢見る者達。駆け出し冒険者やベテラン冒険者、幅広く大地を殺そうと殺気立っているのだ。
サササッと歩く大地達。この街にの広さはなかなかのもので、小さな国と同等なまでに広い。端から端まで歩いて十時間はかかるだろう。その街にはいたるところに店がある。今回行くのは、歩いて三十分程度で行ける店。ありとあらゆるものが揃っている。
「なあ、あれ討伐クエストに出てたやつじゃねえか?」
「ばーか、自分から死にに来るやつなんていねぇよ」
「ははは、違いねぇ」
街中を移動する大地を目撃した冒険者の一人がぼそりと呟く。その呟きに隣にいた冒険者の仲間らしき人物がツッコミをいれる。つまらないショートコントに若干焦りを覚える大地であった。
「ここ、だよな?」
「多分、ここ以外店はない」
「では、入りましょう」
「入ろ、大地」
大地達が到着したのはコス○コのような大きな店だった。一瞬、倉庫と間違えかけたが他に店らしい店もないので、とりあえず入ってみることにした。
「ふう、どうやら普通の店みたいだぞ」
「ほんとだ、よく分からないものがたくさんある」
「興味深いですね」
「ねぇ、大地。これなにぃ」
「ちょっとおとなしくしろよ。特に、イリスとイリア。お前ら年は500くらいなんだろ?ガイアはともかくとして」
「ガイアガイアって。大地のロリコンッ」
「違うからな」
最近ロリコン扱いされることが多くなっていると感じる大地。なぜなのか理解できない大地を見て、さらに膨れるイリスとイリア。その様子がなんとも可愛らしい。
「おっと、これだこれ。ステータスボード」
大地が見つけたステータスボードは、大地の物とは違いブレスレットのようだった。手にはめて、宙に画面が出てくるという近未来なステータスボード。この際だからと大地も買い換えることにした。
「悪くないな」
「なんかカッコいい」
「すごいですね。これを作った人を称賛せずにはいられないです」
「大地、見てみて。どお?」
「いいんじゃないか?」
「またガイア」
「はぁ、救いようがありません」
そばでため息をつくイリス達に大地は全く気付かなかった。
店を後にすると、大地はふたたびあそこへと向かった。海岸沿いにある立派な建物。そう、あの旅館である。
「いらっしゃいましたか。あ、いや、あの、いらっしゃいませ」
「ああ、あのときの子か。三日間ほど宿まりたいんだが」
「はい、四名様で一部屋、一番端の海側の部屋となっております。防音でカーテンは外から見えないように特別加工、お好みに合わせて、スク水、メイド服、セーラー服などもご用意しております。どうぞ、お楽しみ、じゃなくて、どうぞごゆっくり」
「・・・ここは本当に旅館なのか?」
思わずそう言ってしまった大地であるが、本当に受付の女の子の言う通りの設備が整ってるなら、それはもはや旅館ではなくラ○ホテル。自分達が三日間過ごす部屋がどのような有り様なのか、恐る恐る扉に手をかける。
「頼む。普通であってくれ」
神に祈るような懇願も虚しく砕け散った。むしろ、部屋の中は旅館と隔離されているのではないか、と思ってしまうほど異様な光景だった。
「ねえねえ大地、これなに?ヌルヌルの液体が入ってるよ」
「大地、これは何ですか?スイッチをいれるとブルブルと震動します」
「だーいーちー。見てこれ、このゴムなんかすごいよ」
「はは、もうどうにでもなれ」
イリス、イリア、ガイア。三人が手に卑猥な物を持って大地に聞いてくる。無知とは時に、人を恐怖のどん底に叩きおとすのだ。
「大地、これなに?飲み物みたいだけど。ん?飲み過ぎ注意?変なの」
「まて、それはっ」
だが、時既に遅し、イリスは瓶に入ったものを飲んでしまった。量で言えば小瓶一本分ほど。しかし、少しでもそれを飲んでしまえば後戻りは出来ない。イリスの顔が赤くなっていく。トロンとした表情は、反則なくらい艶かしく、魅力的だった。
「はぁはぁ。大地、体が熱いよぉ。全身が敏感になってるぅ」
「まてイリス。落ち着け。とにかく落ち着くんだ」
「だめ、大地が欲しい」
息を荒くしながら艶かしい表情で迫ってくるイリスを、大地は振り払うことが出来なかった。それどころか、抵抗する力がどんどん弱くなっていく。いまにもキスをしてしまいそうなところで、
「お姉ちゃんだけずるいです。私も」
「大地は私だけのもの」
イリスに対抗するように、イリアもガイアも、イリスが飲んだのと同じのを飲む。量は同じくらい。そしてやはり
「大地ぃ、私をめちゃくちゃに、して」
「なにこれぇ、こんなのはじめてぇ」
「お、お前ら。いいか、そこから動くな。そしてしゃべるな。それ以上は俺がもたない」
トロンとした表情の美少女が目に前に三人。全員が大地を求め、迫ってくる。大地の理性もそんな美少女の前には無力だった。ダムが決壊するように大地の理性は一気に解き放たれた。一匹の狼の誕生だった。
「くそ、もう我慢できない」
「「「大地、しよ?」」」
日の光が差し込まない暗い部屋、鼻を刺激するスルメ臭、体に感じる三つの温もり、頭にこびりついて離れない昨夜の記憶、自殺したくなるような罪悪感、それらを胸に大地という狼が目を覚ました。
「俺は、なんてことを」
しばらく、絶望に身を任せていると、体にまとわりついていた三つの温もりが、モゾモゾと動き出した。それは
「大地、お、おは、よう」
「おはよう、ございます、です」
「だ・ち。お・よう」
イリス、イリア、ガイア。いずれもぎこちない挨拶を大地にかける。原因は火を見るよりも明らかだ。昨夜の出来事、イリス、イリア、ガイア、そして大地は大人の階段をのぼった。しかも、いきなり四人一緒に。
「えっと、とりあえず掃除、しないか?」
「ソ、ソウダネー」
「イイトオモイマス」
「サンセイー」
大地はともかく、三人は重症のようだ。言葉に意思が宿ってない。まさに棒読みである。
部屋の掃除とはいっても、転がっているのはどれも、昨夜の記憶を鮮明に思い出させるものばかり。十五分くらいでできたはずの掃除がその倍、三十分もかかってしまった。
掃除が終わると、気まずい静寂が訪れる。
「そ、そういえばまだステータスボードに自分の情報を登録してなかったね。今のうちにやろ」
「お、おお。そういえばそうだったな。よしやろう」
「そ、そうですね」
「やろう」
登録の方法はシンプルで、ステータスボード(腕に着ける方)に血をつけるだけ。さっそくイリス、イリア、ガイアは血をつけた。すると、たちまちステータスボードが光り、文字や数字が出てきた。
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名前:イリス・アルテミス 年齢:500 職業:吸血鬼 レベル:80
筋力:79
耐性:79
魔力:15800
魔耐:15800
能力:・再生・再生操作・波動・斬撃・探知・身体強化・夜眼・魔力操作・支配
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名前:イリア・アルテミス 年齢:495 職業:吸血鬼 レベル:75
筋力:74
耐性:74
魔力:14800
魔耐:14800
能力:・再生・再生操作・波動・斬撃・探知・身体強化・夜眼・魔力操作・支配
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名前:?????? 年齢:10 職業:?????? レベル:120
筋力:5
耐性:5
魔力:35700
魔耐:35700
能力:・金剛・威圧・複写・再生操作・再生・構築・超電磁砲・衝撃波・神速
・夜眼・魔力操作・支配・身体強化・千里眼
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こんな感じで三人とも魔法に偏っている。筋力などは魔法で補っているというわけだ。しかし、ガイアの名前と職業が??????なのはなぜなのか見当がつかなかった。
「ガイア、お前の名前と職業が??????になってるぞ」
「ガイアっていうのは支配者としての名前。でも、試練の場を出た私は支配者じゃない。だから名前と職業が??????なんだと思う」
「・・・・・・・・・・よし。じゃあ、今日からお前は俺の妹で名前は大神夜空だ」
そう口にした瞬間、ガイアのステータスボードの名前が大神夜空に、職業が妹に書き変わった。職業が妹というのは意味わからんが、なってしまったものは変えられない。夜空も満更ではないようなので結果オーライである。一部を除いて
「ちょっと大地。ズルいよガイアだけ」
「そうです。私たちも大地の妹にしてください」
「ガイアじゃない。夜空だ。夜空はもともと名前と職業が決まってなかったからできたわけで、お前らはちゃんと名前があったから出来なかった。それだけだ」
「「うぅぅぅぅぅ」」
ほっぺたをぷくぅぅぅっと膨らませて抗議するイリア達。しかし、出来ないものは出来ないのである。大地の発言もそうだが、イリスとイリアも毎回毎回疲れないのか?と疑問を抱いたら敗けである。
十数分後には熱も冷めたようでなんとか落ち着いた二人。しかし、冷めながらもまだ諦めていない様子。さすがの大地も参っている。
「ねぇ、お、おにい、ちゃん」
「ん?どうした?」
「何でもない。呼んでみたかっただけ」
「はあ、全くしょうがない奴等だな」
ブツブツと呟くイリスとイリア、おにいちゃんおにいちゃんと連呼する夜空。大地はそれらに向かって、爆弾を投下した。物理的な方ではない。
「お前達、今日を含めあと二日この宿に泊まる。そのあと、次の試練へと挑む。クレータ大迷宮に」
「え?あそこに行くの?」
「ああ、夜空の試練はクリアしちまったから、なんかすることないかなと考えていたら思い付いたんだよ。四大試練を突破しようって」
「はあ、さすが大地。出会ったときから変わらずぶっとんでるわね」
「お姉ちゃんに大地を渡すわけにはいかないので」
「おにいちゃんのケアは妹の仕事」
それぞれ試練とは関係無さそうな理由で大地に付いてくることを選んだイリス、イリア、夜空。しかし、表情は真剣だ。本気だということを汲み取るとフッと笑い告げた。新たな旅の始まりを。
「クレータ大迷宮を攻略する。敵は殺し仲間は死守。そして、お前らに危険があった場合、俺はどんな方法を使ってでも守る。・・・・・だが、絶対に死ぬなよ」
「分かってるって」
「問題ないです」
「大丈夫だよ。余裕」
今日も今日とて四人の声に不安の色はない。皆が試練突破に向け、一歩、足を踏み出した。




