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「あ、あの超級魔法でさえ壊すのか」


 人間は超級魔法の魔方陣を壊されたことにひどく童動揺しているようだ。その様子から超級魔法魔法が奥の手だったというのはすぐにわかった。それを理解した大地は


「イリア、イリア。渓谷だ。あそこにいくぞ」

「で、でも」

「早くっ」

「!!!!!」


 大地の圧に負け、言うことに従う。イリアも同じく。


「ま、待て。また逃げるのか?」

「これは戦略的撤退だ。逃げるんじゃない」

「屁理屈を」

「言ってろ」


 超級魔法で体力の大半を失ってしまった人間は大地達を追うことはできない。かといって、大地達も人間と戦って余分な体力を消費する訳にもいかない。地獄絵図と化した浜に、体力を消耗した人間を残し、大地達は再び渓谷へと向かった。


「ねぇ、大地。ほんとに行くの?」

「ああ。あの、ガイアとか言う幼女の正体のヒントだ」

「へぇ、大地は小さい子が好きなんだ。へぇ」

「違う」


 ただ正体を知りたいと言っただけでロリコン扱いされてしまうことに、力強く否定の意思を表す。しかし、大地はそういっているが、実際にイリスやイリアは年齢こそ吸血鬼らしく、300歳と295歳だが、見た目は、まだ11歳くらいなのだ。ロリコンと言われても否定は出来まい。


「止まれ。今日はここで野宿だ」

「えぇ、また野宿ぅ」

「大地、野宿は厳しい」


 大地が止まったのは、海から樹海を通り、渓谷に行く道の途中。つまり、樹海の中である。以前と同じように木に空間を造りそこで野宿というわけだ。しかし二人揃って苦虫を噛み潰したような顔をするが、大地は構うことなく、


「厳しくても我慢しろ。これから一戦交えにいくんだ」

「ふふん、とか言って、この寝具、だいぶいいやつだよ。全く、大地は不器用だなぁ」


 口では厳しいことを言っているが、野宿用に体が冷えないよう毛布、栄養価の高い食料、汗の臭いを消臭する液体。これら全て、大地がイリス達のために買ったものだ。不器用もここまで来ると関心である。


「それにしても、その腕輪、ほんと便利だねぇ」

「あぁ、持ち運びには便利だな」


 大地がイリス達のために毛布や食料、消臭液を買って運んでこれたのも、腕輪があったからだ。この腕輪は、収納機能があり、無制限に荷物をいれることができる。大きさも重さも関係なく運ぶことが出来るため、冒険者に大変愛されているのである。


「さ、もう寝ろ。明日は早いぞ」

「はぁぁい」

「はい」


 三者、それぞれ明日に備え眠りに着くのだった。


 優しい朝日がシャワーのように樹海に降り注ぐなか、魔獣の断末魔と、狩猟者の声が響き渡る。


「邪魔だっ」

「弱い弱い」

「まだまだっ」


 樹海内の魔獣を次々に狩っていく狩猟者、そう、大地達である。樹海の魔獣達も十分強いがやはり大地達には及ばない。瞬殺されていく。それこそかまいたちのようなスピードと攻撃で。


「そろそろだぞ」

「えっ。もう?」

「ずいぶんと早いですね」

「以前よりも強くなってるからな」


 渓谷に着くまでに時間がかかると思っていたイリス達は、予想以上に早く着いてしまうことに驚きを隠せない。大地は千里眼を使い、大体の距離は把握できていたのでいつも通りである。しばらく走っていると、光が見え始めた。どうやら樹海を抜けるようだ。


「はぁ。やっと抜けた。相変わらず樹海は気が滅入るな」

「でも、大地と寝れたのは良かったかな」

「・・・まあな」

「二人で変な会話してないで行きますよ」

「はいはい」


 イリスと大地の会話を無理矢理断ち切り、試練の場へと向かうイリア。それに、二人もつづく。


「また、あの試練の場に行くの?」

「あぁ、どうしてもな」

「大地がここまでのロリコンだったなんて」

「違うからな」


 ロリコンとそうじゃないかの話をしてから、十五分ほど経過しただろうか。とうとう見えてきた。


「ここだ。試練の場」

「・・・・・・・・・・」

「いい思いではないですね」


 三者、真剣な面持ちで試練の場へと入っていく。薄暗い階段を降りていくと、以前ドラゴンを倒した部屋に着いた。試練のというくらいだからまた出てくるのだろう。そう考えた大地は戦闘体制に入った。イリス達も同じく。十数秒後、


「グエアァァァァァァァァァァァ」


 案の定ドラゴンが出てきた。そして、見た目も大きさも以前と変わっていない。それを確認すると強ばっていた大地の表情が不適な笑みへと変わった。そして


「わめくな、トカゲが」


 ドラゴンに罵声を浴びせ、バレットを六発ドラゴンの頭、両手足、胴に当てた。青い光を発し飛び出した弾丸は青いラインを描き、ドラゴンを貫いた。時間にして数秒の出来事だった。


「大地、これじゃ、ドラゴンがかわいそうだよ」

「出てきて即瞬殺は、どうかと」

「しょうがないだろ。長居はしてられないんだ」


 瞬殺されたドラゴンを憐れみながら次の部屋へと進む大地達。


「ここは蛇が出てくるんだったな」

「うん、たしかあの辺から」

「構えろ」


 三人は蛇の出現位置を確認すると戦闘体制に入った。数秒後


「キシャァァァァァァァァァァ」


 以前と同じところから勢いよく飛び出して来た。それを知っていた大地は蛇に向かってバレットを構え、引き金に手をかける。


「死ね」


 殺意を込めて引き金を引こうとする、が


「キシャァァァァァァァァァァ・・・」


 けたたましい咆哮と共に蛇は弾けとんだ。大地がやったのではない。これをやったのは大地の後ろで自慢気に笑う二人の少女だった。


「お前ら、瞬殺は蛇が可哀想だろ」

「「どの口が言う」」


 ドラゴンを瞬殺しておいて可哀想だなんて言える立場ではないはずなのだが平然とそう口にした大地に呆れているイリス達。


「さて、次いくか。気を付けろよ。ここから先はまだいってない場所だからな」

「うん」

「大丈夫」


 次の部屋へと足を踏み入れる。途端にざけた雰囲気から一変して真剣な雰囲気へと変わった。五十メートルの正方形の部屋の中央にあの幼女、ガイアがいたからだ。


「やっと来た。待ってたよ。だ・い・ち」

「だいぶ変わったな。あの時は羽や変なオーラを放っていたのに。それにしゃべり方も変わっているように感じるな」

「フフフ、外の世界を見て学んだ」

「フン、まあ、そんなことはどうでもいい。ここにいるってことはお前も試練の魔獣なのか?」

「惜しいね。私は確かに魔獣。だけど、この試練の場を治める魔獣、支配者」

「・・・・・なるほど。強いわけだ」

「勝てるかな?」

「勝つっ」


 力強くそう言いきった大地は地面を強く蹴りガイアの顔面めがけて拳を放った。が、風魔法、風壁(ふうへき)で防がれる。


 風壁は、高密度に圧縮された空気を壁として、攻撃を防ぐ上級魔法。突破は難しい。だが、


「空気を操れるのはお前だけじゃないっ」


 錬成で風壁に穴を開ける。思わぬ方法に驚いたガイアは反応が遅れ、大地の拳をもろに顔面に受けてしまった。そのまま吹き飛び、壁に激突する。


「・・・すごく・・・強くなってる」

「私達もねっ」


 以前とはくらべものにならないくらい強くなったのは大地だけではない。イリスとイリアも強くなったのだ。それは火を見るより明らかだった。


「上級魔法、紅蓮」

「上級魔法、疾風」


 イリスの紅蓮をイリアの疾風に合わせ、炎の塊となったイリアがガイアめがけて突進する。大地の攻撃を受けたばかりで、避けるには遅かった。そのまま炎の塊となったイリアの突進を受けた。


「やった」

「いえ、そう簡単にはいきません」

「今のは効いたよ。ほんとに強くなったね」

「くっ、かすり傷すら無いなんて」

「じゃあ、今度はこっちがいくよ」


 言い終わる前に、ガイアはイリスの後ろへと回り込んだ。右手にもった光の槍がイリスの胴を貫く。深々と刺さった槍は数秒後に消えた。力なく地面に倒れるイリス。血はまだたくさんあるため、およそ一分で戦線復帰出来るだろうが、


「遅いよ」


 イリスの回復が終わるのをガイアが待っているはずもなく、隣で倒れた姉を見ていた妹、イリアを雷魔法で感電させた。地面に倒れ、ビクビクしているイリアも復帰には一分はかかりそうだ。


「強くなったね。強くはなったけど、まだ足りない。私を倒すには弱すぎる」

「自惚れるなっ」


 イリスとイリアの力が弱いと批判したガイアに罵声を浴びせ背後から膝蹴りを食らわせる。しかし、それを手で受け止めるともう片方の手で突風を放つ。至近距離での突風を回避することはできず、吹き飛ばされた。壁に激突こそしなかったものの、突風に耐えるために体力を消耗してしまった。


「だいちは、この二人よりも強そう。少しは粘ってよ」

「ふざけやがって」


 火、水、風、雷。それぞれの魔法が大地に襲いかかる。器用に魔法を避けていくが防戦一方。反撃の隙はない。しかし、避けた魔法は壁や床、天井にあたり、壊していく。この部屋が壊れるのも時間の問題だろう。一か八か、大地は賭けに出た。


「強化、十倍」


 荒れ狂う魔法の波を、滝登りをするコイの如く進んでいく。ガイアと大地との距離がどんどん縮んでいく。それにつれて、ガイアの放つ魔法に焦りが生じる。その隙を狙い、一気にガイアの懐に潜り込む。


「終わりだっ」


 ガイアのみぞおちに強化百倍の拳を叩き込む。以前と同じように手が弾けた。しかし、ガイアにもダメージはあったようだ。お腹を押さえて地面に膝をついている。


「うう・・・んんんn」

「俺の勝ちだな」


 地面にうずくまって苦し気な声をあげている幼女に、お構いなしに勝利宣言をする鬼畜野郎の絵が完成した。実際は違うのだが、イリスとイリアにはそう見えたようだ。


「ロリコン大地」

「ロリコン」

「違う」


 断固として否定する大地。そしてクルリとガイアに向き直ると、


「抵抗出来ないように拘束させてもらう。悪く思うな」

「えっ、ちょ、待っ」


 大地の言う拘束とは鬼畜なものだった。目を伏せたくなってしまうほどに。


「んん、ん、んんんん」

「大地、これはやり過ぎなんじゃない?」

「はい、これは引きますね」

「そうか?でもこれくらいしないと反撃される可能性があるからな」


 手を背中に回して縛り、足は体操座りのようにして縛る。太ももと胴を一緒に縛りさらに拘束をする。これをあと二回ほど繰り返す。縄は、固い鉱石と混ぜ合わせ丈夫な造りになっている。さらにさらに、海岸近くの酒場で買った、痺れ薬を二十人分投与。痺れて動けなくなった体に、麻酔で神経を麻痺させる。仕上げにさるぐつわ。


 大地の拘束といわれる拷問にさすがのガイアもお手上げのようだ。麻酔と痺れ薬でビクビクしている幼女を見て引いているイリスとイリアを無視して幼女を見下ろす大地。


「おい、お前は支配者なんだろ?勝つとなんかあるのか?」

「んんんんんんんんんん」

「おっと、悪い。今はずすから」

「はぁ、はぁ、はぁ。支配者、を、倒して、手に入るのは、名誉、と、力」

「力?」


 ビクビクしながらもなんとか言葉を紡ぐガイア。そのなかにあった、力という言葉に反応する大地。


「力?力が手にはいるのか?どうやって」

「わかった、から、これ、はずし、て」

「・・・・・・・・・・分かった」


 言われた通り、拷問のような拘束を解く。地面にペタンと座り、体を動かそうと必死にもがいている。が、酒場の痺れ薬、麻酔は対魔獣用。一つあれば樹海の魔獣でもただではすまない。それが痺れ薬と麻酔と合わせて四十個。ガイアと言えど人の手を借りなければどうしようもない。そこで


「「ロリコン」」

「はぁ」


 動けないガイアを大地が運ぶことになった。お姫様だっこで。


「部屋の、奥」

「はいはい」


 抱き抱えられたガイアは大地に指示を出す。大地はそれに従う。


「で、ただの壁なんだが?」

「ちょっと、待ってて」


 大地の腕から降りると、壁にもたれ掛かりながら、何かを探るようになで回している。しばらくそうしているとピタリと動きが止まった。かと思うと魔力を注ぎ始めた。何もない壁に魔力を放っているガイアを不思議に思いながらも、目を離さない。しばらくすると


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 っと、石を引きずるような音と共に目の前の壁が左右に開き始めた。その中はくらい通路が続いており、終わりが見えない。


「なんだこれ」

「私の、家までの、道」

「なるほど。お前にも睡眠や食事は必用なわけか」

「当たり、前」


 どうやら支配者であるガイアも万能ではないようだ。


「もう、そろそろ」

「お前の家か?」

「まあね」


 終わりのないように見えた通路に終わりが訪れた。徐々に光が見え始め、視界が光におおい尽くされた。眩しい光に目がなれると、目の前にはいい意味でありえない光景が広がっていた。


「なんだ、ここは」

「フフフ、驚いた?ここが私の家」


 目の前に広がっているのは、どこまでも続いていそうな広大な草原に、試練の場に相応しくない明るい光、草原の中心逞しくそびえ立つ樹。その樹の根元に、椅子と机がちょこんと置かれている。この小さな幼女、ガイアが一人でその椅子と机を使っていたのかと思うと、敵とはいえ複雑な気分になる。


「おまえ、ここでずっと一人で暮らしてきたのか?」

「・・・・・・・・・・慣れてるから大丈夫」


 笑顔でそう答えた。しかし、その顔はどこか寂しげで、とても辛そうだった。


 幼いながらも強がるガイアに対し、大地は何も言わなかった。否、言えなかった。大地にも親はいる。そんな奴の口から何を言われても傷つけるだけだろう。そう判断したのだ。


「そこの椅子におろして」

「ああ」


 言われた通りにする。腕に抱き抱えていた幼女をそっと椅子におろす。


「それじゃぁ。まず、自己紹介から始めよっ」

「ああ・・・・・え、自己紹介?」

「はい、自己紹介です」


 満面の笑みでそう答える幼女。先程までに重々しい空気はどこにいったのか。いっそバカらしく思えるほど、なんの曇りもない顔でこちらを見つめるガイア。ずっとこうしていてもらちが明かないので、渋々ガイアの要求を承諾した。


「じゃあ私から。私はガイア。ここの支配者。年は十歳。以前はここをお母さんとお父さんが支配していたけど、夫婦喧嘩で二人とも死んじゃった。そのころ私は五歳だったから、支配者になって丁度五年。支配者だからって怖がらないでね」


 ガイアの親について突っ込みたいことはあるが長引くのであえてスルーすることにした。


「俺は大神大地。十六歳。別の世界から召喚された。その他は普通だ」


 適当な紹介を済ませる。それに真剣に耳を傾ける幼女含め少女が三人いた。


「私はイリス・アルテミス。戦って分かったと思うけど私は吸血鬼。鬼族だけど魔法が使える特別な鬼」

「私もお姉ちゃんと同じく吸血鬼。魔法が使える特別な鬼です」


 イリスとイリアも自己紹介を終える。改めて聞くと魔法が使える鬼というのは相当貴重なのではないかと思ってしまう。実際そうなんだが。


「はい、全員の名前覚えたよ。大地、イリス、イリア。いい名前だね」

「さあな」

「あたりまえよ」

「そうです。当たり前です」


 名前を褒められ、一人はそっけない反応だが、二人は満更でもない様子。見ていて微笑ましい光景である。


「それじゃ、約束を果たそうか」

「「「約束?」」」


 いきなりおかしなことを言い出したガイアに、大地達は聞き返す。ここに来てほんの十数分で、約束などしていないはず。しかし、そんな疑問はガイアの次の一言で打ち砕かれた。


「支配者を攻略した人達への見返り。力を授けよう」

 

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