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「ガイア。また来やがったか。なんのようだ」

「今朝はだいぶお楽しみだったみたいですね」

「ち、違う。あれは事故だ、ってなんで知ってんだよ」

「見てたから」

「変態め」


 今朝のイリスに達の絡みを見られていたことに動揺を隠せない大地。


「で、結局お前は何をしに来たんだ」

「すぐに分かる」


 意味深な笑みを浮かべた幼女はゆっくりと大地に歩み寄ってくる。ガイアと大地の距離は次第に近づいていき、お互いの距離が十センチにまで近づいたとき、ガイアはとんでもない行動にでた。


「んんっ」


 ガイアは大地の肩に手を置くとピョンとジャンプし大地の唇を奪った。つまりキスをされたということだ。大地の身長は百六十ほどで、ガイアの身長は百四十ほどだ。ガイアはピンとつま先を伸ばし、大地はすこし前屈みになる。


「んんんっ」


 振りほどこうとしたが、ガイアの方が速かった。舌を入れてきたのだ。その事に動揺し後ろに倒れてしまう。ガイアが馬乗りになっている状態だ。しかし舌はどんどんなめ回していく。


「んん。はぁはぁ。んんん」


 見た目に反し艶かしい声を出すガイア。大地は困惑している。ディープキスをされたら誰でもそうなってしまうだろう。しかし、大地もやられっぱなしではない。食らえ、とばかりに入れられた舌を噛んだ。大地の口からガイアの血が溢れ出す。


「痛い」

「お前。なんのつもりだ」

「別に」


 ガイアの舌はすでに治っていた。吸血鬼に似た再生能力でもあるのだろう。痛がる振りをしながらガイアはそっけない返事をし消えてしまった。


「全く。ほんと何しに来たんだ」


 起き上がりガイアに対する愚痴をこぼす。今朝も今も苦労の絶えない生活にまいっている大地である。


「ただいま」

「「おかえり」」


 部屋に戻ると二人の少女、イリスとイリアが優しく出迎えてくれた。それを見ていると今朝のことが霞んでしまいそうなほど。


「大地。何してきたの?」

「散歩だ」

「それにしてはだいぶ時間がかかったようですけど」

「ちょっと遠くまで行ってたからな」


 ガイアのことは隠すことにした。また現れたと言えば二人が何をしでかすか分からない。それにディープキスをされたこともあって秘密にしておきたかったのだ。


「なあ、今から海に行かないか?暇だし」


 何気なくそう口にした。本当に何気なく。しかし、その質問に対する返答は異常なまでにすさまじかった。


「エエエッ。海ぃ。やっっっっったぁぁぁぁぁ」

「海ですか。面白そうですね。あ、大地が行きたいなら付いていってあげなくもないですけど」

「よし。じゃ、行こうか」


 かくして大地達は海に行くことになった。水着はレンタルできるためそうした。イリスはスクール水着のような感じで、イリアは、ワンピースのような水着だ。大地は海パンである。


「この海には魔獣がいるらしい。水深三十メートルくらいに生息している。危険な魔獣だからあんまり奥に行くなよ」

「「はぁぁぁい」」


 少女らしい元気な返事をし海に飛び込んでいくイリスとイリア。他にも遊びに来ている人もいるがどれもゴツイ男や、名の知れた魔術師ばかりだった。おおよそここの海にいるという魔獣を倒すためだろう。


 大地達が海で楽しく遊んでいるころ、帝国では大地の抹殺計画が練られていた。国を助けるために召喚した勇者が全く使い物にならず、ダンジョンで戦死したと国民に伝えたのに、生きているとなれば国王の信用が落ちる可能性がある。故に、現在大地を殺すために総力をあげて作戦を練っているのだ。


「奴は今、海にいます。海の魔獣を利用しましょう」

「いや、奴は帝国兵一人よりも弱い。百人ほど送り込んで殺しましょう」

「最新の情報では、奴は樹海でレベル50の冒険者四人をそれぞれ一発で倒したとのことです。帝国兵百人じゃ足りなさすぎる」

「やっぱり海の魔獣を利用するべきです」

「ここは我々の精鋭を送りましょう。五十人全員平均、1200。申し分ない強さでしょう」


 帝国内のお偉い人たちが集まり様々な案を出している。話に出てきた1200の数値。これはレベル40に相等するものだ。それが五十人。小規模な戦争を起こせるレベルである。海の魔獣を利用しようという案があるがこれは被害が大きくなるため却下された。自分の意見を使いたいために議論はどんどん激しくなっていく。そこに


「ちょっと待って」

「貴様、カオス。今は会議中だぞ」

「それの始末は僕がするよ」


 部屋のドアを破って入ってきたのは、カオスと呼ばれる、平野で大地と戦った人間である。帝国内で最強の名を持つ人間。しかし気分屋なため国の命令には従わない。強すぎるため刃向かうものはいない。そんな人間が直接議論の場に乗り込んで来たのだ。帝国内の権力者達は今作戦をすべてその人間に委ねた。


「さあ、たのしい時間の始まりだよ」


 不適な笑みを浮かべたカオスと呼ばれる人間は大地達のいる海へと向かった。


「大地ぃ。こっちこっち」

「こちらも忘れないでください」

「へっ、まとめて相手してやる」


 大地達は波打ち際辺りで水を掛け合っていた。少なくとも三人はそう思っていた。しかし、


「おい、あの三人、ちょっとやばくないか?」

「あぁ、尋常じゃない」

「あんなのがいるのか、この世には」


 浜辺にいる人が驚くのも無理はない。大地達本人は水を掛け合ってるだけかもしれないが、周りから見ればもはや戦闘といっても過言ではないのだから。


「そこだっ」

「甘い」

「これならどうですかっ」


 イリスが勢いよく水面を蹴る。すると水面がパッカリと割れた。幅およそ一メートル。その割れ目はものすごい勢いで大地に向かっていく。が、大地はそれを軽くかわす。そこを狙ったように天から降ってくるイリアの攻撃もあっさりかわす。イリアが落下の際に強く地面を蹴った時に生じた波で浜辺が水で覆われてしまった。


「甘いな。さあ、攻守交代だ」


 そういうと大地は両手を水に入れ、クロスさせるように前に出す。すると、エックスを描くように水が吹き荒れる。それをイリスとイリアはそれぞれ左右に避ける。しかし、それも計算済み。大地は左に避けたイリスに急接近する。と、思ったら直前で止まり水を叩きつける。その衝撃で水が十メートルほどの噴水のようになる。それに気をとられているうちにイリスの背後に周りアッパーを食らわせるように水を叩く。殴られた水は大きな波となりイリスを押し流した。


「お姉ちゃん」

「よそ見とは、余裕じゃないか」

「なっ」


 流されたイリスに気をとられたイリアに、大地は容赦なく水を蹴りあげ押し流す。これまでの一連の流れを時間にするとたったの五秒ほど。あまりの短い時間に大地達以外の人は目を丸くするばかりだ。


「あぁ、また負けた。大地強すぎぃ」

「はい、大地。ちょっと大人げないです」

「ふん、なんとでも言え。勝ちは勝ちだ」

「これで、五十戦中四九敗。一勝しかできなかった」

「悔しいを通り越して絶望です」

「じゃ、しばらく休憩するか」


 歴戦の末ようやく休憩をとる大地達。浜辺は海水で水浸しである。故に、一度旅館に戻ることになった。


 部屋に着くと三人は風呂に入った。今回も三人一緒だが大地は慣れつつある。適応力が半端じゃない大地だからこそできるのだ。風呂から上がると三人は布団を敷きそのまま眠りに着いた。


「・・・・・・・・・・ん、んん」


 大地達が眠ってからすでに半日がたった。大地はムクリと起き上がりまだ隣で眠りこけている二人の少女をユサユサと揺さぶった。


「おい、起きろ。もう半日もたってるぞ」

「んん、おはよ。大地」

「・・・・・・・・・おはよ、ござい、まあす」


 三者モゾモゾと布団から這い出ると顔を洗い海へと出ていった。


「すっかり暗くなってるね」

「はい、しかし、人は昼間よりも多くなっている気がします」

「海の魔獣討伐依頼が出てたぞ。恐らくそれ目的だ。報酬は五百ゴールドだってさ」


 海の魔獣を倒せば五百ゴールド、さらに海の魔獣を倒した人として名が知れわたる。一石二鳥のチャンスというわけだ。もっともそれだけがここに集まっている理由ではないが。


「おい、さっきからなんか視線を感じねぇか」

「うん、すごい数だよ」

「殺意の視線ですね」

「こっちだ」


 大地は浜辺に沿って歩きだした。このままいくと建物がない入江のような場所に出る。そこなら被害を最小限に抑えながら戦闘を繰り広げることができる。大地達についてくるものが大勢いる。その事から誰かが大地達に関するクエストのようなものをだしたことは明白だ。


 十数分歩くと入江につながるトンネルが見えてきた。ここから入江に行ける。周囲が高い壁に囲まれているため戦闘に利用するには高度な技術が必要となる。


「着いた。いいか、十歩歩いたら三方向に散る。俺は前、イリスは右、イリアは左。やつらを片付ける」

「わかった」

「わかりました」


 簡単な作戦を伝え実行に移す。背後を警戒しながら三人とも慎重に歩いていく。後ろの冒険者や、魔術師達もただならぬ面持ちでそれぞれの武器を構える。


 一歩、二歩、三歩、四歩・・・八歩、九歩。・・・・・・十歩。次の瞬間目の前にいたはずの三人がさっと散った。急な行動に困惑する冒険者達だったが、それぞれ狙いを定めると魔法やら剣を構え、攻めてきた。


「こっちには五人か。一瞬で終わらせてやる」

「こっちは四人。なるべく痛くしないであげる」

「こちらは五人ですか。楽勝ですね」


 大地に攻めてきたのはいかつい男ばかりだった。どいつも大振りの剣を構えている。そのうちの一人が高く跳躍し落下の力を利用て剣を降り下ろす。しかし、大地はそれをサラリとかわす。勢いよく地面にあたった剣は砂を撒き散らした。それが仇となり、視界を失った冒険者は強い蹴りをみぞおちに食らう。高速で吹き飛ばされた冒険者は、入江の壁に激突し、壁を大きく壊した。


「化け物が」


 静かにそう呟き、姿勢を低くしながら攻めてきた二人目の冒険者。大地に近づくと勢いよく剣を前につきだした。しかし、大地はそれを片手で受け流すともう片方の手で顎にアッパーをいれる。そのまま一回転して地面に崩れ去る。


「俺を忘れるなっ」


 地面に倒れている冒険者に気をとられている大地に、背後から剣を突き刺すようにだした。しかしさっとかわされ避けと同時に腰に蹴りをうける。グキッという音と共にその冒険者も倒れて動かなくなった。


「ふざけんなよ。強すぎるだろーが。こんなの聞いてねーし」

「ああ、依頼書にはレベルは50くらいだって。こいつそれ以上だぞ」


 残った二人の冒険者は大地の強さに恐怖し去っていった。丁度そのころイリス達も終わったようで大地のもとに集まってきた。二人が戦った跡には灰や血肉が転がっている。だいぶ派手にやったようだ。


「じゃ、戻るか」

「うん」

「はい」


 三人で一仕事終え、満足げにトンネルへと向かう大地達。しかし、冒険者達の攻撃は、奴の作戦の一部だったにすぎないということを強く思い知らされる。この時の大地達はまだその事を知らなかった。


 トンネルを抜け、浜辺に出ると、そこは元の面影すらなくした地獄が広がっていた。


「なんだ、これは」


 白い砂や青い海は赤く染まり、見るからになだらかな絨毯のような浜は所々に血肉が転がっている。そして、それをやったであろう人物がこちらにゆっくりと近づいてくる。大地達はそいつをよく知っていた。


「あの時の、人間」

「「・・・・・・・・・・」」


 そう、平野で大地達と一戦交えたあの人間である。そして、ここで海の魔獣を倒そうと張り切っていた冒険者の血が、人間の体にベットリとついている。


「やあ、あのときはよくも逃げてくれたね。君たちがどういう経緯でガイアと知り合ったのは知らないけど二度は同じ失敗をしない。確実に殺すっ」

「お前ら、にげろっ」


 弾丸のような勢いで迫り来る人間から、イリスとイリアの二人を守るべく、二人を後方へと突き飛ばした。


「「大地っ」」


 必死に叫ぶ少女達の声もむなしく、次の瞬間には爆風と轟音によってかき消された。


「君一人で勝てるとでも?」

「十分だ」


 言い終わると大地は人間の胸部に拳を放った。その拳は狙い違わずあたり、人間を十数メートルほど後方に吹き飛ばした。吹き飛ばされた人間が地面に叩きつけられると共に肉片や血が舞い上がる。地獄絵図だ。


「やるね。前の時は本気じゃなかったってこと?」

「さあな」

「ま、いいけど」


 そう言いきった瞬間、人間は右手を上に向け聞き覚えのある言葉を放った。


「地に巣くう邪悪を滅する聖なる光よ、闇を罰せよ、神雷(しんらい)

「そ、それは、上級魔法のさらに上、超級魔法」

「知ってるんだね?そう、これは超級魔法。防げるかな?」

「クソッ」


 詠唱を終えると、空に直径三十メートルの魔方陣が現れる。この魔法一つで国が滅んだとも言われている。魔方陣の中心に魔力が集まる。発射まで一分ほどだろう。早くここを離れなければ。


「お前ら、にげろ」

「嫌だ」

「いいからにげろ」

「大地を置いてなんて行けないよ」

「俺はいい。早く」

「私も戦う。大地と一緒に」

「私もお姉ちゃんに賛成です」

「ちっ。勝手にしろ」


 発射まで三十秒。大地達に逃げるという選択肢は消えた。なら、やることはひとつしかない。人間を殺す。


「「「アアアアアアアアアア」」」

「無駄だよ」


 始めに仕掛けたのはイリスとイリア。二人で挟み人間めがけて蹴りをいれる。が、人間相手にそれは意味を成さない。さっと避けられお互いの蹴りが衝突した。そこに人間が二人の腹部に拳を叩き込む。二人揃って浜辺を転がった。どうやらお互い、人間の拳で肋骨が折れたようだ。治るには五秒ほど。


「なめるなっ」


 凪ぎ払うような拳を叩き込む大地。それを手でガードしもう片方の手で大地のみぞおちを狙う人間。それを体をしならせ避けると同時に膝を蹴る。ゴキッという音と共に人間は地に手をついた。膝が折れたようだ。


「くっ。強いねぇ。やっぱり前の時、手加減してたんだ。性格悪いよ」

「あのときはあれが本気だった。でも、今はなぜか力が有り余ってるんだ」

「フッ。いくら力があってももう遅いよ。僕を殺してもあの魔方陣は消えない。もう終わりだ」

「クソが」


 魔方陣はいつ発射されてもおかしくない。逃げるにしてももう遅い。絶体絶命の事態に直面し半ば諦めていたとき、


「だらしないですね。それでもあなたは私の恋人ですか?」

「ガイア。今の発言に間違いがあるが今はいい。なにしに来た」

「恋人を守りに来ました」

「突っ込まないぞ」

「面白くない」

「ほんとになにしに来たんだ」

「あれを壊しに来たんです」


 そう言い天を指差すガイア。その指の先には超級魔法の魔方陣が展開している。ガイアはあれを壊そうと言うのだ。いくら強くてもあれを壊すには相当の魔力を有する。不可能に等しかった。しかし、不適な笑みを浮かべ、魔方陣に手を向けると、


「破壊」


 その言葉と共にガイアの手からひとつの閃光が走った。その閃光は魔方陣にあたるとたちまち魔方陣を瓦解させた。


「お前、何をした」

「私の魔法」

「お前、何者だ」

「いずれ知るときが来るよ」


 意味深な笑みを浮かべ幽霊のように消えていく。目的も正体も掴めない不思議な幼女は最後にひとつだけ、言葉を残した。


「四つの試練、それが私の正体のヒントです」


 結局多くの謎を残し、華麗に消えていった。大地達はもちろん、人間でさえも言葉を失った。

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