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災難

 人間が少女を殺そうとし、それを見ていることしかできないもう一人の少女。その少女たちの保護者的存在である元人間の吸血鬼、その目の前には最悪の相手がいた。


「貴様、どうしてここに」

「穴の中は退屈でつまらないから。久しぶりに外に出てみようと思って」

「ふざけやがって」

「で、どうするの?このままだと、あの子が死んじゃうよ」

「貴様の助けなどいらん」

「うーーん。じゃあ、ここは私が勝手にやらせてもらうよ」

「は、なに言って」


 意味の分からないことを言った少女は人間の方へと歩いていく。どうやら人間も近づいてくる幼女に気付いたのかイリアを投げ捨てる。だが、何か様子が変だ。


「貴様は、ガ、ガイアッ。こんなところにいるはずは」

「なんだ、急に動揺し始めたぞ」


 人間はその幼女を見るや否やでガラリと雰囲気が変わった。様子から察するに恐怖、を抱いているのは明白である。


「個人的にあなたが気に入らないので排除します」

「クソッ」


 人間は苦渋の決断を迫られたような表情になる。額から汗が流れ、体が少しふるえている。


 一方の幼女は黒いオーラを放ち、一歩一歩ゆっくりと人間に近づいていく。その幼女に笑みはなく、ただひたすらに無表情。恐怖を抱かせるには十分だった。


「おい、今のうちに逃げるぞ。イリアは俺が担ぐ。急げ」

「う、うん」


 ガイアと呼ばれる幼女が人間を引き留めているうちに大地はイリアを抱き抱え、イリスと共にその場を後にした。


 樹海に逃げ込むにしてもここからだと遠い。大地達の目的地の方が近いと判断し、全速力で走った。残り少ない体力を限界まで絞り走った。


 走り続けて何時間がたっただろうか。およそ三時間。たった三時間でも大地達にとっては永遠にも思える時間だっただろう。


「はぁ、はぁ、はぁ。ここまで来れば、大丈夫、だろう」

「はぁはぁはぁ。そう、だね」


 走り続けて三時間。大地達の目的地に到着した。そこは


「う、海だぁぁぁぁぁ」

「ああ、海だ。遊ぶ前に店で鉱石を換金してもらうからちょっと待ってろ」

「はぁぁぁい」


 一人できゃっきゃとはしゃいでいるイリスを海岸に残し、海岸付近の店へと入った。中は酒場のような感じで冒険者らしき人達が酒を飲んでいる。だが、そのわりには店内は綺麗だった。そのギャップに驚くもすぐに戻る。ちなみにイリアはまだ目覚めていないので店の中のベンチに座寝かせた。


「なあ、ここで換金はできるか?」

「はい。換金したいものを提出してください」


 窓口らしきところにいる女の人に話しかけたところ換金してもらえるとのことなので、今までとってきた鉱石、金属を出した。余談だが店の人はイリスやイリアに及ばずともなかなかの美人である。


「・・・・・・これで全部だ」

「それでは鑑定してきますのでしばらくお待ちください」


 鑑定が済むまでおよそ数分とのことなので、イリアを寝かせたベンチに腰掛け待つことにした。どのように座ったのかと問われれば、イリアの頭を大地の膝にのせるような形で座っている。無論、大地は自然にやっているのだ。普段からイリア達が勝手にやってくるせいでいつのまにか癖になっていたようだ。心なしか、イリアの表情が和らいだような気がした。だが、周りからの視線は狙い違わず大地を射抜いていた。イリアのような美少女に膝枕をしていたら当たり前である。


「全く、こっち見んなよ。はぁ」


 ぼそりと呟く大地。若干キレかかっている大地のもとにさっきの店員が声をかけてきた。しかも、凄く興奮している。


「あ、あの、鑑定が済みました。ぜ、全部で、ご、五千ゴールドです」

「それってどれくらいだ?」

「は、はい。五千ゴールドは、五万シルバー、五十万カッパーと同等の価値があります。五千ゴールドあれば、半年は働かなくても生活していけます」

「あの、鉱石にそんなに価値があったのか」

「鉱石の価値は密度とレア度で決まります。あの鉱石は樹海で採れたものばかりで、しかも密度も最高でした」

「そ、そうか」


 ここで大地が口ごもったのには理由がある。大地が倒したのは樹海の表層部分の魔獣だ。その程度の魔物がそこまで大きい密度を持っているはずがない。ではなぜ密度が大きかったのか。答えはシンプルだ。大地の錬成で鉱石をおしかためた。それだけのことなのである。多すぎて不便だったので小さくしたのだ。まさかそれが原因でここまでの大金を受けとるとは想像すらしていなかっただろう。罪悪感を抱きながらも店をあとにする。もちろんイリアを抱えて。


「おい、イリス。金は手に入った。行くぞ」

「はぁぁぁい」


 大金を手にし大地が向かったのは、酒場同様、海岸付近に位置する旅館のようなところだ。宿泊費も安く、三食ついている。風呂は各部屋に取り付けられている。なかなか良い旅館なのだ。


「今日から一週間ほどここで過ごす。長旅の疲れを癒しておけ」

「やったぁぁぁぁぁ」


 舞い上がっているイリスを落ち着かせ旅館に入る。なかには受付と食堂が一緒になったような感じだった。食堂と言っても床が一段高くなっているだけなのだが。そこは敢えてスルーし、イリアを抱えたまま受け付けに向かう。受け付けには、十五歳ほどの少女がいた。ここ最近少女やら幼女に出会うことが多くないか?と心中で呟く大地だった。


「一週間ほど泊まりたい。空いているか?」

「えっと、現在二部屋の空きはありません」

「一部屋で良い」


 直後、ガタンという音がした。それもひとつではなく複数。そのうちの一つは受付の少女。その他は食堂にいる全員だった。和やかだった空気が一瞬で凍りつく。


「え、えっと、お連れのお二人も一緒の部屋ということですか?」

「そうだ。何か問題でも?」

「い、いえいえ。三人で一部屋ですね。一番端の海側の部屋になります。どうぞ、おたのしみ・・・いえ、ごゆっくり」

「ああ」


 受付の少女から部屋の鍵を受けとるとさっさと部屋へといってしまった。食堂に残された人々は困惑する者もいれば、怒る者もいる、嫉妬する者だって当然いる。いずれにしろ食堂の人々は勘違いをしているのだ。美少女二人と男子が一人。食堂の人でなくても誤解してしまいそうだ。


 部屋に着き、中に入るとその様子に感嘆した。十畳ほどの大きさで、三人で使うにはもったいないくらいの広さだ。しかも部屋が海側に位置しているため、窓からは海が一望できる。スイートルームのような部屋だ。これで宿泊費十シルバーとは安いものだ。


「大地、なに見てるの?」

「なんですか?その板は」


 広い部屋の隅の方で大地は帝国でもらった自身のステータスが分かる道具、ステータスボードを見ていた。平野での人間との戦いで自分の力を再確認しておきたいようだ。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

名前:大神大地 年齢:16 職業:鍛治職人 レベル:???

筋力:13720

耐性:13720

魔力:13720

魔耐:13720

能力:鍛治・錬成[+気体]・鑑定[+魔法]・身体強化・夜眼・魔力操作・千里眼

     ・感覚操作・探知・放電

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 大地は吸血鬼の力を八十パーセントまで使えるようになった。百パーセントまでもう一息だが、八十パーセントまで出してもあの人間には敵わなかった。恐らく百パーセントまでいけても結果は変わらないだろう。


「これはステータスボード。自分の力がどれだけなのか分かるんだ」

「私もできる?」

「これは俺専用なんだ。悪いな」

「ムゥゥゥ」


 プクゥゥゥっと顔を膨らませ怒るイリス。少女らしく可愛らしい。それを無視して大地はスキル、千里眼を使った。平野にガイアと呼ばれる幼女が現れた後どうなったのかを確認するためだ。千里眼とは言っても不完全なもので一度行ったことのある場所しか見れないのだ。しかし、一度でも行った場所なら、どれだけ離れていても見ることができる。


「これはひでぇな。一キロ四方で平野が荒れ地に変わってる」


 大地が見たのは、平野の面影すらない人間とガイアの幼女の戦いの痕跡だった。その二人がどこにいるのかは知らないがひどい有り様である。


「あの人間も、ガイアとか言う幼女も化物だな」

「化物とは侵害ですね」


 背筋が凍った。今話題に出した人物がすぐ背後で、耳の近くで話しかけてきたのだから。


「すごい驚きようだね。そんなに私が怖いの?」

「あぁ、この上ないくらいな。なんのようだ?」

「あなたが途中で逃げたりするから追いかけてきただけだよ」

「なぜ俺を追いかける。お前と俺では大した接点はないはずだが」


 幼女はしばらく黙ってしまった。そして少し考える仕草をした後、再び口を開いた。


「私の名前はガイア。由来は大地の神様からきてる。また来るから」


 それだけ言うとガイアは消えてしまった。残ったのは静寂のみ。しばらくの静寂のあと、イリスが口をひらいた。


「大地、大地の神様って大地の親なの?」

「ややこしいな。名前の大地じゃなくて、地面の方の大地だ」

「ふぅん」


 どうでもいい会話に、はりつめていた空気がすこし緩和される。と、話しやすくなった雰囲気でイリアが提案をする。


「大地。私たちは国を出てからお風呂に入っていません。川の水で流したりはしましたが、ちゃんとしたお風呂に入っていません。なので、今から入りましょう。三人で」

「おお、いいな。それじゃ俺はここで待っているから・・・三人で?」


 湯気の立ち込める三畳くらいの浴室に三つの影がある。そのうちの二つは小柄で可愛らしい少女が二人。一方はフワフワのツインテール。もう一方はボブカット。その間に挟まれるようにして座っているのが元人間、現在吸血鬼である大神大地である。


「どうしてこうなった」


 説明するまでもないがイリスとイリアは大地に依存しているといっても過言ではないくらいにいつもベタベタしている。一見そうは見えないが大地もそうである。故に今までたいした障害もなかったのだが今回は別だ。


「ほら、大地。気持ちいい?」

「大地。ここがいいんですか?」


 渓谷にいるときは風呂なんてなかったからよかったものの、実際にあると、イリスやイリアの裸体が見えてしまう。二人ともとても綺麗で吸い込まれそうな肌をしていた。吸血鬼故に傷ひとつないサラサラの肌だ。


「綺麗、だ」


 思わずそう口にした大地の言葉をイリス達は逃さない。その言葉をトリガーにしてイリス達の猛攻は勢いをます。


「じゃあ、今度はここ。大地のおっきい。フフフ」

「それでは私も。これは、大きいだけではなくすごく固いです」


 美少女二人のちっちゃな手で擦られては擦られる。食堂の人達が見たら、多分旅館内で戦争が起きるだろう。

 

「大地、動かないで。背中洗いにくい」

「あまり動かれると流しにくいです」


 決して勘違いしないでほしい。これはただ背中を流してもらっているだけであり十八禁ではない。


「おい、お前らもういいだろ。俺はもう寝たいんだが」

「もう、しょうがないなぁ」

「せっかちですね」


 そしてジャァっと流して風呂から上がる大地達。イリス達の裸体はなるべく見ないようにして体を拭く。さっさと風呂から上がってすぐに布団を敷き横になる。長旅で疲れたせいか、


「おやすみ」


 そう一言かけて大地は眠りについた。このあと身に降りかかる難を知らぬまま。


 久しぶりの柔らかい布団、暖かい部屋、静かな周囲、そして柔らかい物体が二つ。正直気づかない振りをしようとも考えた大地だったが不可能だった。まだはっきりしない意識のなかその柔らかい物体を確認する。すると、意識がはっきりしていなくても明確な事実がそこにはあった。


「イリス。で、こっちはイリア、か」


 起きたばかりのため声がボソボソとしている。その声に反応したのか、大地を挟むように寝ているイリスとイリアがうぅぅんっとうなっている。イリアとイリアをどかそうと手を動かそうとした大地だができなかった。


「あ、なんか腕挟まれてる」


 大地の腕はイリスの太ももに挟まれている。ならばもう一方の手を、と、これも失敗した。もう一方の手は、イリアが両手で抱き締めており、大地の指の先を口に入れている。しかも両者全裸で。


「全く。何してるんだ、こいつらは」


 無理矢理抜こうとするも両方の手は足と腕で挟まれて逃れられない。しかも、イリスの場合、抜こうとすると足を擦り合わせるため大地の手がどんどんイリスの大事な部分に近づいてしまう。かといってイリアの方は動かそうとするとさらに強く抱き締められ二つの双丘がどんどん密着してしまう。


「終わった。ハハハ」


 乾いた笑みを溢し、自分を拘束し続ける二人の少女への抵抗を諦めた。


 二人の少女に拘束され続けてすでに一時間。イリス達が寝ぼけて大地の唇を奪おうとしたり、体を舐めてきたり、さらには貞操を奪われそうになったりと静かに激しい戦いが繰り広げられていた。


「失礼しまーす。ちょ、朝食を・・お持ち・・しました。・・・・・・し、失礼しましたぁぁぁ」


 二人に絡まれているところを、運悪く朝食を運びに来た受付の少女に見られてしまった。あの少女は見た目からだいたい十五歳と推測できる。十五歳と言えば思春期真っ盛りなわけで、大地達のように、若い男女がくんずほぐれつしていたら想像してしまうのだろう。


「おい、お前らいい加減に起きろ」

「んぁ、んん。だめぇ」

「んっ。はぁ、そこは」


 いい加減二人を起こそうとちょっと強く揺さぶってみると案の定やらかしてしまった。大地の手はイリスとイリアの大事な部分にぴったりと触れてしまった。それに合わせて二人の艶かしい声が出てくる。


「いい加減にしろっ」


 理性を抑えきれなくなる前に大地は二人の頭に頭突きをした。さすがにここまでされるとイリス達も寝てはいられない。バッと飛び起きた。


「い、いたい」

「女の子を頭突きで起こすなんて最低ですよ」

「お前らが悪い」

「大地、なんか腕がヌメヌメしてるよ。なにこれ?」

「な、なんでもない」


 イリスの体からでた液体だなんてとても言えない。さっとイリスの液体を拭き取ると部屋を出ていった。取り残された二人はわけがわからないようである。


「全く、朝から災難だ。全然気が休まらねぇ」


 旅館近くの海岸を歩きながら愚痴をこぼす大地。大地も男なのだ。ただ、性に関して他より鈍感なだけで全く興味がないという訳ではない。朝の出来事を脳内で再生しながらため息をつく。そんな大地に更なる災難が降り注ぐ。


「朝からため息なんて何かあったの?」


 吸い込まれそうな白い肌と綺麗な黒い髪、力を入れれば折れてしまいそうな華奢な手足、可愛らしい幼さのある顔、それを強調するように身に付けられた生地の薄い黒いノースリーブワンピース。普通の人なら可愛い幼女だ、と思うかもしれないが本当はとてつもない力を持った化物なのだ。


「また、会いに来たよ」

 

 ガイアと呼ばれる幼女は、無機質な笑顔で大地の前に現れた。 

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