最強の人間
日の光があまり届かない樹海の中。鬱蒼としていてホラーな雰囲気を醸し出している。鳥すら鳴かない静寂に包まれた樹海にそれを壊すように悲鳴が響き渡る。
「うあぁぁぁぁぁ。やめろ、やめろ。やめてくれぇああぁぁぁぁああぁぁぁ・・・・・」
ある冒険者による必死の懇願もむなしく、容赦ない拳が降り下ろされる。
「はぁ。全く。ここ最近冒険者が多くないか?」
誰も居ない虚空に向かって質問をする大地。もちろん返事など帰ってくるはずもなく樹海の奥へと溶けていった。
「ただいま。イリス、イリア。ほら、飯」
樹海では至るところにキノコが生えているため食料には困らない。飲み物は雨が降った際に大量に確保し、保管している。
「ん、ありがと」
「ありがとう、ございます」
黒いオーラを纏った幼女との戦闘から既に二週間近く経っている。イリス達はだんだんと回復している。だが、
「毎日毎日冒険者の相手をしなきゃならんとは面倒だな、ふぅ」
そう、大地があのとき倒した四人の冒険者をはじめとして、大地を倒そうという輩が急増したのだ。そのたびにぶちのめす。本来、霧が立ち込め入ったら出られないとさえ言われた樹海だが、それに対処できる固有魔法を持った冒険者たちがわんさかと来るためあまり意味をなさない。
「ごめん、私達のせいで」
「すいま、せん」
「そうだよ、お前らのせいだ。だからはやくしろ。だが、それまでは、俺が守ってやる」
「「・・・・・」」
二人ははにかんだように顔を伏せている。それが見た目と相まってとても可愛らしい。この調子ならイリス達が戦闘を再開できるのもそろそろだろう。
大地は柔らかい表情をしている。とても穏やかな、樹海にいることを忘れてしまいそうなほど。口では厳しいがイリス達を大事に思っているのだ。
大地は外に出て木の上にピョンとのった。高さは十メートルほど。この樹海は木の高さが最低でも十五メートルはあるため偵察などに向いている地形なのだ。
「さて行くか」
深呼吸をして近い木に飛びうつる。そしたら別の木へ。これを繰り返し器用に木の上をわたっていく。慣れてくるとどんどんとスピードをあげていく。気がつけばものすごい高速で移動していた。あまりの速さに見たものは何が通ったのか理解できないであろう。
「ふん、いないな。今日のところは引き上げるかな」
一通りの探索を終え、木へと戻る大地。冒険者から奪った探知の能力で探索はスムーズに進んでいる。探知の能力は半径二百メートルほどまで探知できる優れ能力なのだ。
「さて、帰ったらなにしようかな」
樹海の中でする発言ではないのだが、大地にとって樹海の魔獣は子犬のようなものなのだ。たとえ十体でかかってきたとしても一瞬で蹴散らしてしまうだろう。故にこの樹海にはもはや弱い魔獣はほとんどいない。いるのはレベル50に相等する強力な魔獣のみである。
木の上を忍者のごとく渡り、イリス達のもとに戻ってきた。するとどういうことだろう木の前にイリス達がたっている。大地は木の上から見下ろしているためイリス達を視認できるが、イリス達はこちらに気づいていないようだ。
「ワッ」
突然上から降ってきた大地に驚き尻餅をつくイリス。イリアは目を丸くしている。
「よ、お前たち、もう大丈夫なのか?」
「うん、大地だけに苦労かけてられないから」
「大地・・さん。今までは迷惑かけてすいませんでした」
「おい、イリア。そろそろさん付けはやめろ。落ち着かない」
「ええっ。・・・は、はい」
大地の一言で顔を伏せる。耳が赤くなっている。相当照れているようだ。もちろん大地はそんなことには気づきもしない。
「おし。それじゃあ行くか」
「どこに?」
「決まってるだろ。まだ行ってない場所だよ」
「それって・・・」
その言葉は何かによって遮られた。
「おっし。見つけたぜ」
「あの頃のかりを返してやる」
「ズタズタにしてやるよ」
「覚悟しろ」
大地はこの輩に見覚えがあった。四人組で以前もあったことがある。と言ってもぶちのめしたが。
「お前らか。しつこいぞ」
「大地、誰?」
「敵だ」
「ふぅん」
「じゃ、いってくるから待ってろ」
「待って。私たちに行かせて。ねっ、イリア」
「はい。今まで迷惑をかけてきたので」
「そうか」
大地は二人を信じこの場を引くことにした。それに吸血鬼の女王とその妹。不足はない。
「おい、ガキ。どけ。目的はお前らじゃない」
「ガキですって?」
「殺ってしまいましょう、お姉ちゃん」
「ええ」
「邪魔だっていってんだろぉぉぉぉぉ」
とうとうしびれを切らした冒険者の一人が、何の考えもなしに突っ込んでくる。右手に握りしめられた剣がイリス達を捉え、降り下ろされる。だが
「ぐぁ・・・」
冒険者は短い悲鳴をあげ、体を両断された。イリスの風魔法、神風。範囲を小さくすればするほど、膨大な風が圧縮され刀のようになる。これにより冒険者はしんだ。
「あ、あ。はっ。こ、このガキィィィィィ」
仲間の一人が逆上し無防備にも跳躍し剣を降り下ろそうとする。だが、それでは、遅すぎた。
「・・・・・・・・・・」
悲鳴など聞こえなかった。聞こえるのは地面にサラサラと落ちる冒険者だったもの。イリアの火魔法、紅蓮。高温のため人間の体なら一瞬で灰になってしまう。
「お、おい。ヤバイぞあいつら。に、逃げよう」
「おい、俺に名案がある」
「ほんとか。もっとはやく言えよ。じゃあそれでいこう」
「ああ」
冒険者には策があるようだ。堂々と立っている。何をするのかと見ていると、
「お前が囮になって俺が逃げる。じゃあな。ハハハハハ」
「っぐぁ。おい、待てよ。きたねーぞ。オォォォイ」
どうやら仲間を犠牲にして自分だけ助かろうという魂胆だったらしい。しかし、ここにいるのは三人の吸血鬼。人間程度では到底及ばない。
「はあはあはあはあ。ここまで来れば大丈夫だろう」
「本当に大丈夫なのか?」
「な、なんだ・・と」
逃げた冒険者は油断し足を止めた。だがそれが命取りとなった。吸血鬼相手に油断などしてはならないのだ。案の定大地が冒険者に追い付き、首を跳ねた。仲間を犠牲にした結果である。
「犠牲にするくらいなら一緒に死ね」
大地は切った首を掴むと足早にイリス達のもとへと戻った。
「殺ってきたぜ。案外弱いもんだな」
「さすが大地」
「見事です。大地・・・さん。あ、大地・・・」
まだ呼び慣れていないのか間違いを可愛らしく訂正する。恥ずかしいのか、顔を紅潮させもじもじしている。その様子を気づかれないように暖かい目で見る大地と、それをすねたように見るイリスと、人生の崖っぷちに立たされたような顔をしている冒険者。大地はやっと冒険者に目を向けると、
「おい、貴様。貴様はどうしたい?」
「し、し、し、死に、たく、ないです」
「違う。今言うべき言葉は死にたくないじゃない。生きたい、だ。それが言えないお前に価値はない。せめて一瞬で殺してやる」
「いやだ、いやだ、いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶望に彩られた悲鳴、鳴り響く一発に銃声、一瞬の青い閃光。確実に殺したように見えた。しかし
「あ、あああ、ああ。・・・あ、あれ。死んでない。い、生きてる」
「悪いが殺す気がなくなった。とっとと失せろっ」
「は、はぃぃぃ。あ、ありがとうございますっ」
冒険者は生きることを最大に謳歌しながら樹海の奥へと消えていった。一方のイリス達は不満気である。殺さなかったことが疑問なのだろうか。それに対する答えはとてつもなくシンプルだった。
「なんで殺さなかったの?」
「そうです。あちらから仕掛けてきたんですよ。死も覚悟のはずです」
「俺も一応もと人間だからな」
「・・・そうだよね。大地は元人間だった」
「不謹慎でした。すいません」
「いや、いい。それよりも、先に進もう」
大地の呼び掛けに頷き、ついていく。目的地まで三日。本気でいけば半日ほどで行けるんだが観光も含めてゆっくり行こうということになったのだ。
樹海を出て平野にでる。この平野は障害物が少ないため魔獣を見つけやすいというメリットと、魔獣に見つかりやすいというデメリットがある。しかし、強さ事態はレベル30相等の雑魚ばかりなので心配することは特にない。
「大地。ここの魔獣弱すぎじゃない?」
「当たり前だ。俺達が強すぎるんだから」
「でも、大地、油断は禁物ですよ」
顔を紅潮させ名前を呼ぶ。このやり取りはもう見飽きたとばかりにイリスが話題をかえる。こんな魔獣が襲ってきやすい場所で無防備にも会話をしているのだ。空や地面や地中に潜む魔獣たちも驚愕である。
「キィィィィィ」
「グルルルル」
「ォォォォォ」
大地達が楽しげに喋っているのに嫉妬したのか、リア充は殺す。と、言わんばかりに四方八方から一斉に魔獣が攻めてきた。プロの冒険者チームでもここまで一斉に襲われたことはないだろう。
「イリス。任せた」
「一瞬で終わらせてあげる」
その言葉の直後飛びかかかってきた魔獣は皆等しく灰になった。時間にして数秒。魔獣は今起きたことを理解する前に死んだ。
「上出来だ」
「ふふーん、当たり前よ」
イリスに称賛の言葉を送り頭を撫でる。それを隣で見ているイリアは不服そうだ。
「いきますよ。大地」
「急がなくても目的地は逃げないぞ」
「いいから」
イリアの威圧に負け頭から手を離す大地。イリスは少しもの足りなさそうである。それとは反対にイリアは次こそはと気合いが入っている。
大地達は今広い平野の真ん中辺りを歩いている。ここは魔獣に襲われやすい場所で何人もの冒険者が命を落としてきた。しかし、襲い来る魔獣を見るとチャンスと言わんばかりに一瞬で消した。それはもう目も当てられないくらいに。
「うん、なかなかやるな」
「ん、ありがとうございますっ」
イリスと同じように頭を撫でてやる大地。見るまでもなく嬉しそうである。
「ほ、ほら大地。なにやってんの?はやく行こ」
「全く、せっかちだな」
先程とは立場が逆になってしまっている。イリスとイリアの間には見えない火花が散っている。
それから先はもはや魔獣など塵に等しかった。圧倒的な力でねじ伏せる。一方的な蹂躙。魔獣がかわいそうに見えてきてしまう。ただ頭を撫でられる、それだけでここまでの力を発揮できるのかと、感心している大地である。
「負けない。次に撫でてもらうのは私」
「いくらお姉ちゃんでもこれだけは譲れません」
魔獣を倒すことよりも、頭を撫でてもらうことになってしまったがゆえに、とうとう二人の間で戦闘が始まってしまった
「私が撫でてもらうっ」
「いいえ、私がっ」
お互いに真っ正面から突進していき、ぶつかったと同時に凄まじい爆風に巻き込まれる。地面の砂は吹き飛ばされ、生えていた雑草はいくらか抜けてしまっている。
「ぐあ。ペッぺ。砂が入っちまった。全く」
爆風で飛ばされた砂が大地にかかり少々ご機嫌斜めの大地。しかし、女の争いは止まらない。
突進した直後、イリスの腹部に蹴りを入れるイリア。もろに食らいそのまま地面をズザァァァァァっと滑っていく。十メートルほど滑っていくとガッと止まり、右手を前に出した。
「お返し」
次の瞬間、右手からものすごい風が吹き荒れた。神風である。凄まじい風に飲み込まれるイリア。砂と混じって砂嵐ができている。
しかし、それらを一気に消す。こちらも神風である。神風と神風をぶつけ相殺したのだ。
「お姉ちゃん。甘く見ないでよ」
「当たり前」
再度ぶつかり合うイリス達。しかし今度はなにかが違う。ぶつかったあとすぐに離れまたぶつかる。縦横無尽に、激しい衝撃とスピードでぶつかり合う。
「なるほど、疾風か」
疾風。体に風をまとうことで風のように素早く動くことができる。身体強化と違うところは、風をまとっているため飛び道具は通用しないこと。上級魔法のため長くは持たないが二人の場合はそれもあまり問題にはならないだろう。
「アアアアアアアアアア」
「ハアアアアアアアアア」
互いに全速力でぶつかろうというとき、
「グエェアァァァァァァァァァァ」
尖った口、大きな翼、漆黒のからだ、緑色に彩られた目。プテラノドンのような魔獣が空から落下してきた。
「グアァ、グアァ。グエェアァァァァァァァァァァ」
地面に勢いよく落下したプテラノドンのような魔獣は、大地達ではなく空を見上げている。
「ワイバーン」
「なんで、ここに」
どうやら奴はワイバーンというらしい。どこを見ているのかとつられて大地達も空を見上げる。そこには
「あ、あ、あれは」
「だ、大地。逃げよ。あんなの勝てないよ」
「大地、はやくしてください。奴は危険です」
イリス達がひどく怯えている。だが、大地にはそれが分からなかった。空にいるのは人間。浮いているようだが固有魔法だろう。
「グエェアァァァァァァァァァァ」
再度空にいる人間に威嚇をするワイバーン。しかし、人間はニヤリと不適な笑みを浮かべると、一瞬にして消えた。否、人間は
「グエェア・・・・・」
人間は消えていない。速すぎたために見えなかったのだ。そして人間はワイバーンを一瞬で殺した。その人間は殺したワイバーンを見ているとこちらに気づいたのかゆっくりと歩み寄ってきた。
その人間は黒い髪に、つり目、背は大地とほぼ一緒だ。男、ほかには特に変わった特徴はない。しかし、その人間はただならぬオーラを放っている。
「やあ、吸血鬼がなんでこんなところにいるのかな?」
「俺達は吸血鬼じゃない」
「樹海で見たんだよ。言い逃れはさせないよ」
「お前には関係ないだろ」
「君には関係なくても後ろの二人には関係があるんだよ」
「こいつらを知ってるのか?」
「数年前にそいつらの国に忍び込んだことがあってね、鬼に見つかってしまったんだよ。それからは戦闘の嵐だったよ。僕を殺そうと躍起になってたけど、全員倒してやったよ。もちろんそいつらもね」
大地は正直焦っていた。なんせこの男はイリス達を倒したのだ。それも無理もない。二人の実力は大地も知っている。ゆえにそれを倒したこの人間がどれ程強いのか大地にもわかる。
「じゃ、俺達はもう行かせてもらうぞ」
「まってよ。ちょっと、遊んでいかない?」
早々に立ち去ろうとした大地を引き留める。次の瞬間、大地は得体のしれない感覚に危険を感じ、瞬時に後ろに飛び退いた。
ドガァァァァァァァァァァン
飛び退いた直後、大地のさっきまでいた場所は大きくえぐれていた。あと一歩遅ければからだがグチャグチャになっていたであろう。
「あはは、さすがだね。じゃあ、こんなのはどうかな」
そういうと、一瞬で距離を積めてきた。かと思うと背後に回り込み凪ぎ払うかのように蹴りを入れる。
しかし、大地だって弱いわけではない。一瞬、フェイントに騙されかけたが体制を立て直し、背後からの攻撃を身をしならせてかわす。そのまま相手の軸足を蹴る。
「おおっと」
バランスを崩したところで腹部に拳をいれる。ズザァッと後退したがすぐに体制立て直す。吸血鬼の力で殴られても死なない。人間の域を越えている。
「やるね。凄い力だ。でもまだ全力じゃないね」
「さあな」
「フフフ、面白いね。ほんとはからかうだけのつもりだったんだけど・・・・・・ちょっと本気を出すよ。ちゃんとついてきてね」
「チッ」
そういった人間は物凄い勢いで突進してくると、そのまま大地にぶつかった。激しい震動と爆風に包まれる。煙の中から大地が飛んでくる。そのあとにそれを追うように人間がくる。
「ゴホゴホ、イリア、こっち」
「お姉ちゃん、どこに」
「離れる。ここにいたら大地の足手まとい」
急ぎその場を離れるイリス達。二百メートルほど離れると、振り返り二人の戦闘を眺める。
一方の大地達は、人間側が優勢。吹き飛ばされた大地は、迫り来る人間に拳をいれようとズザッっと踏みとどまる。そして身構えると拳を放った。しかしそれをしゃがんで回避した人間はアッパーを食らわせた。
「ぐっ」
「まだまだだよ」
アッパーに続き、のけ反った大地の無防備な腹部に両手をふりおろす。もろにそれを受けた大地は地面に叩きつけられた。
「あれ?死んじゃった?ほらほら、そんなもんじゃないでしょ」
「くっ。黙れ」
「はあ、しょうがないな。これ以上できないならあの二人に相手してもらおっかな?」
「ま、待て。やめろ」
「フフフ、いやだね」
人間は、物凄い勢いでイリス達へと近づいた。
「やあ、久しぶりに僕と殺らないか?」
「イリア」
「お姉ちゃん」
人間の問いにイリスとイリアはお互いに顔を見合わせ答えた。上級魔法での攻撃という形で。
「「紅蓮っ」」
「なっ」
重なった紅蓮は人間に直撃した。通常の二倍以上の威力のある紅蓮。凌げるものはなかなかいない。
「や、やった」
「油断してるからです」
二人はその人間を倒せた喜びに浸りお互い抱き合っている。二人は紅蓮を放った際に魔力を一気に全部使ったようでその場にペタンと座っている。
「余韻に浸っているとこ悪いけど、その程度じゃ僕を殺しきれないよ」
イリス達の紅蓮を受けてなお立っている人間がそこにいた。普通、吸血鬼の上級魔法を食らって生きているものはなかなかいない。ましてや吸血鬼の女王とその妹の攻撃が同時に襲ったのだ。生きている確率はゼロに等しかったはず。
「僕の固有魔法、金剛は簡単に破れないよ」
金剛。体を鉄のように硬くすることができる。自身の耐性、魔耐を爆発的に増加させるため、金剛を突破することはほぼ不可能。それこそ支配者やあの幼女くらいだろう。
「いきなりなんて随分気がはやいねぇ。じゃ、お望み通り、始めようか」
そう言った瞬間、イリスは弾かれた。時間にして一秒もない。たったそれだけの時間でイリスは後方に十数メートルも飛ばされた。それに呆気をとられているイリアも同じようにわずかな時間で吹き飛ばされた。
「はぁ。がっかりだよ。二人がかりでその程度なの?もっと本気だしてよ。面白くないじゃん」
ぜんぜん余裕そうな人間に反し、イリス達は地面にうずくまっている。そして人間はイリスに狙いを定めた。
「ほら。立てよ。もっと粘れよ。楽しませろよ」
そう言いながらうずくまっているイリスを蹴る人間。イリスはただ耐えるしかなかった。相手が悪すぎた。
「あ、そうだ。いいこと思い付いた」
人間はなにか良いことを思い付いたようないたずらな笑みを浮かべるとうずくまっているイリス達を掴み大地の方へと向かってきた。
「やあ、お待たせ。君の大好きな二人を連れてきたよ」
「なんのつもりだ」
「見ていなよ」
地面にうずくまっている大地に向かい不適な笑みを浮かべた人間はイリスを離す。そしてイリアの首を掴む。
「がぁ・・・ぁぁ・・・ぁぁぁぁ」
必死に手を振りほどこうと抵抗するイリアだが、抵抗もむなしく手は離れない。そして人間は首を掴んだままイリアを持ち上げた。自身の体重が一気にかかる。次第に抵抗する手は勢いを失う。
「じゃ、見ててよ。きっと楽しいから」
意味の分からないことをいわれ困惑する大地だったがすぐにその意味がわかる。しかし、それは楽しい、とはかけ離れたことだった。
「いくよっ」
「うぁ」
人間はイリアを殴り始めた。しかもみぞおちをピンポイントで。抵抗をしたくてもできないイリア。なす術もなくいたぶられる。殴られるたびに血を吐く。首を絞められているため、酸素が不足し気を失いかけている。
「よっ、よっ、よっと」
「あ・・・あ・・あ」
「おい、もうやめろ」
殴るのをやめさせようとする大地だが人間の暴行は一層勢いをます。イリスも見ていることしかできないようだ。
「フフフ。じゃあ次はここを・・・よっと」
「ぐぁ・・・」
次第に悲鳴の声も小さくなっていく。殴られるたびに血を吐いているため再生能力が低下している。このままだといずれ死ぬ。その事を理解した大地は心に強く願った。
(こいつを殺せるだけの力があれば)
苦渋に満ちた表情で大地は後悔する。自分の力に自惚れすぎた、と。もはやあきらめ下を向こうとした時、
「力が欲しいならあげるよ。いくらでもあげる。その代わり君は一生呪われていくことになるよ?自分の一生をかけてでも力がほしいの?」
その言葉を発した主は目の前にいた。羽の生えた、黒いオーラを纏った幼女、大地達を一時期絶望に追いやった張本人が。




