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UnHappyBirthday《TRES》

会社がコロナやらのゴタゴタのせいで忙しすぎました。遅れて申し訳ありません

 落ちる左腕を横目に暁人はようやく立ち止まり一つ息を吐いた。右手に握られている銃の残弾は5発。もうリロードは出来ない。不可能ではないが戦いながらではもう無理だろう。


「まだやるか?腕落ちたんだ、もう終わりでいいだろ。片腕で止血もしないんじゃ寝転がってる女より楽に殺せるぞ」


 ルーレストの頬の刺青は消えていない。だが最初に発現させていたときほどの異次元じみた力はもう感じない。


「意味はないと思うがこれが最後だ。

 退け、元々長くないのにこれ以上縮めて何になる?余生を楽しんだ方がいいんじゃねえの?」

「腕一本消えた程度で何故お前の指図を受けなければいけない」


 ボタボタと血が地面に落ちる音だけがその場にいる人と吸血鬼の耳に障る。ルーレストは呆れたようにため息を吐くと一瞬にして暁人の背後を取り気だるげに腕を振るい上げ、


-バンッ!


 発砲音が聞こえ自身がまた撃たれたことを認識した。


「普通、自分の身体をブラインド代わりにするか?しかもほどんど効果がないと分かってるのに」


 腹部と口から血の塊を吐く暁人にルーレスト場にそぐわない微笑を浮かべながらからかっている。


「日に三度も撃たれるなんてな。俺も老いたか?」

「……だったら墓に帰れ吸血鬼」


 自分ごと撃ったせいか、もう暁人走れる状態ではなかった。立ってこそいるが既に足が震え歩くのもままならない。腕の出血も腹部の銃創も気休めほどの手当てもしていないせいか血が止まる気配がない。


「なぁアキト。お前何がしたかったんだ?俺たち個人や吸血鬼に対する事前知識があったんだ、分が悪いどころの話じゃない事くらい理解していたはずだろ?それなのに今こうして死にかけて、目的が見えねぇ。ホント、よく分からない」

「……そこに随分こだわるな。俺からすれば他人の目的なんてくだらない事を一々気にするお前の方が分からない」

「そうか?普通だろ。分からないのは怖い。だから理解できるように心がける。何もおかしくないと思うがな。生物としての大先輩の考えだ。参考にしろよ」

「今後があれば考えてやる」


 そして暁人は地に倒れた。血は止まらない、既に致死量の出血ではないかと思うほどの量が出ていてもまだ止まらない。


「リィン、そのお嬢ちゃんまだ戦えそうか?」

「少し待ってくれ。完全に止めるよ」


 ケイリィンの頬に逆十字が浮かび上がり、ライラの体に軽く触れる。


「少し辛いが我慢してくれ。どうせすぐに飢餓(渇き)に変わる」

「ッガァ!…………!!」


 短く苦痛の叫びを上げると大量の水が落ちる音が聞こえ、その後の声は完全に消える。その視界の端でどんどん血だまりが広がっていく。


(血……?まさか私の……?)

「これで入れられるよ。どうする、僕がしようか?」

「いや、いい。お前2人もテメェの血族ガキなんていらないだろ。しかも揃って女だ……いや2人とも女になる可能性が高いってのが正しいか?」


 視線を暁人に向けているルーレストの言葉を聞きながら、肉体から熱が失われていくのをライラは感じていた。


「それじゃあ、お休みお嬢さん(レディ)。お前に良い寝覚めがあることを期待してるぜ_死ぬまでの悪夢だ、我慢しな」


 そして首筋にルーレストが牙を突き立てる。


「あぁ……あああアアアアアアアアアァァァァァァァッッ!!!」


 ‐流れる。体に。吸血鬼。血。気持ちいい。気持ち悪い。快い。嫌だ。汚れる。穢れる。私は。私は。私は!!‐


「私は……人間、だ……お前らなんかじゃない……」

「ああ、さっきまではな。

 さよなら人間(ヒューマン)、おかえり俺の吸血鬼ヴァンパイア


 そう囁くと二体の吸血鬼は姿を消した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「あの青年の方は良かったのかい?死んでなかっただろう。というかアレ死んだふりだよ。彼、戦おうと思えばまだやれたはずだ」

「ん?そうだったのか?ま、別にいいんじゃねぇの。お前の言うことが事実だとしても普通にしてりゃアレはあのままでも死ぬ。普通にしなくてもどのみち吸血鬼こっち側だ。ルベルを探す手数が増えるし、狩人達の標的代わりにもしようと思えるような奴が出来そうだ。ありゃヤベーぞ。多分どんな世界、どんな時代に産まれても悪鬼羅刹にしかならんな」


 戦闘があった場所から離れたビルの屋上で二体の吸血鬼は缶ビールを飲みながら軽口を叩いていた。ルーレストの銃創も既に元々在りはしなかったように癒えている。


「……それに」


 旧友の苦言に意味深な笑みを浮かべてルーレストは楽しそうに付け加えた。


「自覚の有無は知らんが、奴は本気じゃなかったよ」

「君相手に手抜きと死んだふりか。そりゃ足元掬われて殺されそうだ。今から行って始末つけた方が賢明じゃないか」

「どうだかな。手を抜いていたというより、そもそもどう動けばいいかを理解していなかったって感じか?済まんな上手く言えんで。ともかく正面からやりあっても違和感が拭えなかった」

「……どういうこと?まさか僕らの事を知っていてアレが初めての殺し合いだと?」


 ルーレスト肩をすくめる。そもそもそれが分からないからギリギリ生きている状態で退散したのだ。そこを聞かれても答えようがない。


「さてな。まぁ死ねばそれでよし。死ななくても利用価値はある可能性が大。あとは俺たちの眼鏡に合うかどうかだ」

「なら、もし彼が吸血鬼になれば僕も遊ぼうかな。君の血を受け継ぐんだ。けっして弱くはないだろうし」

「あんまり期待しすぎんなよ。それじゃリスティとヘイ、ついでにハダに挨拶しとくか」

「そうだね。あの万年フラれ公僕からから聞けるだけ話を聞いておきたい」


 その場には空になった二つの缶だけが残され、吸血鬼などそもそも存在しなかったかのように消えていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 体が熱い。血管ごと焼き切れるかのような熱が全身をめぐっている。人の身体から吸血鬼に変わっていくのを感じる。


「おい生きてるか」


 ライラの視線の先には男がいた。先ほどのホンジョウ・アキトと名乗った男が。血まみれで左腕もなく、しかしそんな傷を感じさせることがないほど平然と立っている。肩で息をしているが、それだけだ。それ以外に弱った様子は見られない。


「……あ……あなた、は……」

「生きてるならそれでいい。黙って話を聞け」


 アキトはライラの目の前にしゃがみこみ右腕だけでライラを抱き寄せた。


「なにをするん、ですか……!?早く傷を治さないと……」

「黙って話を聞けと言った。それに致命傷だ、どう考えても助かる見込みはない。だから話すのは今後の俺達(・・・・・)の身の在り方についてだ」


 俺達、その言葉にどのような意味が込められてるかは計れない。いぶかしむライラを無視するように暁人は続ける。


「一つはお前が吸血鬼になり、俺がここで死ぬパターンだ。当然俺は生きてはいないし、お前は他の狩人に殺されるだろう。有名どころで言えばベルスタとか言ったか?その手の輩に狩られてお前も終わりだ」


 そう、それで終わる。暁人はここで死に、ライラは師に討たれる。それ以外はない。ありはするが、それは選ぶべきではない。そうライラは考えている。

 だからこそ次の暁人のセリフも予想できていた。


「もう一つのパターン。お前の血因を俺に寄越せ。俺を吸血鬼にしろ。それでお前は人でいられる」

「ダメ、よ。……それは」


 この青年が吸血鬼(化け物)になる、それは何としてでも止めたかった。善意からではなく、警戒感から。

 この本條暁人という男が吸血鬼になれば自分では手が付けられなくなる_ライラの本能がそう訴えてる。


「ならお前、このまま吸血鬼(化け物)に成り果てるか?自分が討とうとしていた存在に成り下がるか?どんな理由で連中と戦ってたのかは知らんが奴らを殺したいと思っていたから狩人になってたんだろう?お前今まで殺してきた連中と同じになるつもりか?」

「それ、は……」

「人として無様に死ぬか、化け物混じりとして足掻いて生きるか。お前は人間に拘っているようだが、俺は化け物で構わん」

「でも……!」

「ならお前が俺を人間に戻せ。ルーレスト・サングイスがこの街にいる以上俺を人間に戻せる可能性は0じゃない。

 選べよ、少なくとも俺はまだ足掻く理由がある。そのために吸血鬼それが必要なんだ。お前が殺すべき存在そのものがな」


 吸血鬼に変わりゆく身体のせいで意識が虚ろになっていた。彼のあまりにも真剣な声音に思わず動いてしまった。吸血鬼になってしまう恐怖に勝つため目の前の男を利用してしまった。


「最初からこのつもりだったんですか?吸血鬼になるつもりでサングイス達に接触を?」

「聞くまでもないだろ」


 疑問を即応しライラを壊れ物のように優しく首もとに抱き寄せ、ライラの牙になりかけている歯を暁人は自分の首もとに突き立てさせた。


「お前にとっての剣が俺にとっての吸血鬼なんだ。つまり吸血鬼(こんなもの)は道具であり手段でしかない。

 化物を殺すには化物になるのが一番手っ取り早いだろ?」

「あなたを……簡単に、化け物として生かさない。……この事件の……間に、必ず人に戻してみせる」


 期待しないで待っている、そんな言葉が聞こえた気がしながらライラは瞳を閉じた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 颯と紺田が戻ったのは暁人とルーレスト達の戦闘が終わって30分ほど立ってからだった。


「悪いな、いきなり逃げて。ケイリィンの方に気付かれたんだ」

「分かってる。そもそもバレたら逃げろと言ったのは俺や真朝だ、最初から気にする必要はないだろ」


 そう言って暁人は落ちていた自分の左腕を拾い傷口に押し当てる。すると落ちていた傷口が腕を喰うように接合していった。


「……なんだよ、あれ……」

「ああいうのが吸血鬼って奴なんだろう」

「そう言うことだな」


 そこで初めて暁人は颯達に顔を向ける。


「見ての通り、ただの化け物だ」


 両手の爪は黒曜石のように黒く硬質化し、歯は牙に、瞳の色は深紅に。そんな身体が人から鬼へと変身した暁人の左頬には禍々しい逆十字が浮かび上がっていた。

やっと吸血鬼化

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