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UnHappyBirthday《DUO》

投稿期間あいた上に短めとは……

疾走_

_追走

発砲_

_回避、反撃

回避、発砲_

_退避_


「残弾まだあるか?ないなら殴り合いでもするか?個人的にはそっちの方が趣味なんでな」

「殴りたいならさっさと一発でも当てろ。俺が死んで終わりでもこっちは構わない」


 筋書きが決まった演劇のように暁人とルーレストは無意味な攻防を繰り返していた。どちらの攻撃も当たらず暁人が弾丸を消費しているだけだった。


「そろそろやる気出せよアキト。まだ隠し玉とかとっておきとかあるんだろ?でなきゃこんな無謀なうえに殺したところで、殺されたところで得るものなんてない戦いするわけがない。これでくたばったら死に損だぜ、お前?まさかさっき逃げ帰った奴が切り札な訳でもあるまいし」

「言いたいことはそれだけだな。続けるぞ」


 ルーレストの言葉を聞き流しながら暁人は無造作に発砲した。銃を撃つための構えなど知らないというように片手で左右の膝を狙いダブルタップ。普通なら寸分違わず両膝を撃ち抜けている。だが、そんなものは当たらずにルーレストから攻撃を仕掛ける。人外の速度で暁人へ迫り思い切り右腕を掲げ振るい落とす。紙一重で避けようとした暁人がこの戦いで初めて体勢を崩した。

 理由は単純だ。ルーレストが地面を大きく陥没させたのだ。吸血鬼本来の怪力を()()()()()だけ使って。その証拠にルーレストの左頬にはうっすらとだが、禍々しい逆十字の刺青が浮かんでいる。

 体勢の崩れた暁人にルーレストの拳が入る。ナイフの刃を放たれた拳打に突き立て防いだが、柄ごと砕かれそのまま力業で柵まで吹き飛ばされる。暁人が叩き付けられた部分が鉄製であるにも関わらず大きくひしゃげ杭が地面ごと抉り抜かれる。暁人は無表情で血を吐き捨てながら悠然と立ち上がった。暁人がもう一本のナイフを出しているときには既に刺青はまるで最初から存在しなかったように消えていた。


「もう一度言うぜアキト。本気で来い。切り札があるならさっさとそいつ切っちまえ。遊ばれてる内にどうにかしな。表情(ツラ)に出していないがキツいんじゃねぇの?」

「俺としては闇祝グラティア使われななければ意味がないんだがな。お前こそ早く使え」


 空になったのか、今の弾倉を捨て予備の弾倉に入れ換える。左手にナイフ、右手に拳銃。構えもせずにそれを睨む吸血鬼。先程と変わらない構図が再び出来あがっていた。


(とは言え……流石にこのままじゃキツいか。正面からのり合いは遊ばれている内ならなんとかというところか)

「来ないならこっちから行くぜ。闇祝(グラティア)は使ってやらねぇけど」


 知りたいことは分かった。今の自分が吸血鬼相手にどの程度なのかも暁人は主観的に理解した。この時点で『吸血鬼と正面から戦えばこのままの自分でも勝てる可能性があるかの予行練習テスト』という三つの内の一つの目的は果たした。

 ならば次だ。この際マーサから頼まれた狩人ツキカゲの保護など目的ではあるが無視して良いだろう。目の前には吸血鬼として最上級の化け物が二体。本命に移ってもいい頃合いだ。

 カチリ、と頭の中で何かが外れたような、あるいは解かれたような感覚になる。

 すぅと息を吸うと視界が先程よりもクリアなものとなり自分の血流の音が煩く聞こえ始める。目の前のルーレストの指の動きまで動きが確実に捉えることができる。

 ルーレストが腕を上げている最中、暁人は正面からアスファルトを蹴り抉りながらルーレストへ駆けた。


「なるほど。……最初からそれ使えやァッ!!」


 先程よりもなお速く、その速度は無駄な攻防を繰り返していた際のルーレストよりも速かった。当然そのような速度をただの人間は出せない。現にルーレストの心臓を狙った一突きは確実に左胸近くを捉え直撃した。しかし心臓の位置を胸部から別部分へ変えられダメージは与えられず、さらに刺された部分の体肉の密度を上げナイフを体の中で圧折へしおる。

 そして、上げていた腕をそのまま振り下ろす。狙いは頭部。当たれば確実に命を奪える強さと速さ。それに合わせるように暁人は腕を動かしカウンター気味に顎に銃口を合わせ引き金を引く。

 バンッ、そんな銃声が鳴り響くのが止まないまま暁人もルーレストもお互い距離を取っていた。


「さっきの連中より不味いな。こんなもん食わせるなって。こう見えても歳3桁なんだよ。年寄りの食事には気を使うもんだぜ?」


 弾丸を噛み砕きながらルーレストは世間話のノリで笑っていた。今までの攻撃は全て意味がない。撃たれた跡も刺された傷も既に初めから無かったかのように消えている。最初から分かりきっていた事だが化け物が過ぎる。だからこそ調度いいと暁人は考えているわけだが。


「お前のネタはある程度読めたが考えは詰めておくべきだ、そうだろうリィン?」

「話を振らないでもらえないかな。正直、こうして立っているだけも飽きてきたんだ。君と代わりたいくらいだよ」


 足元のライラの後ろ喉を踏みつけながらケイリィンは退屈そうな反応を示していた。そんな反応のケイリィンに肩を竦めるとルーレストはアスファルトをまるで雪のような容易さで砕きながらも鷲掴み、


「俺の考えが間違えていなければこの程度問題ないはずだ。頼むから死ぬなよ?」


 頬に刺青を浮かばせ投げつけた。空気抵抗で幾らか暁人に届く前に霧散する。だがそれは目潰し代わりとなり形を保っている飛来物のカモフラージュになり暁人を襲う。しかし当たらない。正確に言うならば体に直撃しない。スーツはズタズタに切れている部分もあるがそれだけだった。暁人がやったことはただ小さく体を動かしながらルーレストに歩み寄って行く事だった。銃弾を越える速度の飛来物の雨をまるで何もないかのように。


「……おい」


 二人の距離は近くなる。どちらかが一歩でも踏み出せば相手を殴れる絶妙な距離。そんな中で暁人はつまらないと言わんばかりに口を開く。


「いつまで遊ぶ気だ。ガキじゃあるまいし小石遊びがそんなに愉快か?」

「俺からすればお前の拳銃それも遊びだよ。もっともお前は殴りたくても殴れないだろうがな……その体もう長くないだろ」


 ルーレストは暁人の異常性の核心を突くように語り出す。


「人間の体ってのは案外いい子ちゃんに出来ている。有名な話でもあるが、自分の力で自分を傷つけないようにするために普段は筋肉や神経をだいたい2、3割くらいの機能でしか使わないようにストッパーをかけているそうだとよ。ようするにお前はそのストッパーが緩いってことだな。

 先天的か後天的かは知らないがお前はそのストッパーをほぼ自由に切り替えられるようだ。だがそんな事してりゃ体はもたない、筋肉疲労なんて目じゃないだろう。もっと直接的な、そして致命的なダメージが体に蓄積されていく。いくら戦っている最中は脳内物質アドレナリンとかが出まくっていても、それこそ殴った程度の痛みで気が狂うほどの痛みが伴う。殴られた際の衝撃と痛みは語るまでもない。違うか?」

「だったら?」


 この状況でもまだ暁人はどうでもよさげに振る舞っている。そもそもルーレストの言っていることが1から10まで正しければ先ほど鉄柵に激突した際に既に死んでいる。『痛み』という点ではルーレストの言うことに間違いはないが。

 ようするに『痛み』などと言った体の負荷など全て暁人は無視していた。無視できるほど自分自身に対する関心がまるで無い。


「お前に関係あるのか、それ?」

「はは、確かにェな……んじゃまぁ終わらせるか」


 その言葉の直後ルーレストの纏う雰囲気が今までとは比にならないほど異質な物に変貌する。頬に浮かぶ逆十字は先ほどの比でない濃く顕現する。風がないのにコートが翻り、地が爆発するように割れる。そして深紅の瞳が暁人を捕らえた。


「安心しろ闇祝(グラティア)は使わない。本気の2歩手前だ、悪いがこれ以上は疲れるし出さなしたくないんでね。それでもこの先を見たいなら出させろよアキト」

「あぁそうするよ」


 張り詰めた空気の中、暁人はゆっくりと拳銃を向ける。


「よく見ておくといい。レストがあそこまでやる気なのは久しぶりだから」

「……うっ……あぁ……」


 既に何本か内蔵に骨が突き刺さっている。それはなんとなく分かっているが麻酔と上から力を込め踏みしめているケイリィンのせいでライラはどうすることも出来なかった。目の前の人外と男の決着を見ることしかできない。

 暁人の銃声が先か、ルーレストが地を蹴るのが先か、それとも両者同時に動いたか。ライラには分からなかった。

 分かるのは鮮血と夜闇に紛れてもはっきりと見える黒い影、そして時折見えるマズルフラッシュの閃光とその銃声。

 ライラには分からなかった。なぜ目の前の暁人と名乗った男は狩人でもないというのに血にまみれながらも戦い続けているのか。


「これで終わりだな」


 暁人の左腕が血を降らせながら舞い落ちた。


「なんで……」


 分からなかった。何故腕を獲られたというのにアキトは平然と銃を構え続けるのか。

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