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UnHappyBirthday《UNUS》

遅くなりましたが明けましておめでとうございます。今年もノロノロなスピードですが書いていきたいと思います。

23時20分


「初めまして、吸血鬼」


 静かな夜だった。

 波の音だけが妙に煩く感じられる。そんな夜に二体の吸血鬼に殺意を向けている冗談のように美麗な一人の少年がいた。

 ルーレストもケイリィンも吸血鬼(自分達)を殺す専門職とも言うべき幾人の狩人達よりも目の前の軽い装備_目に見える限りでは拳銃とナイフ_しかしていない少年の方が遥かに危険だと感じていた。特にケイリィンは警戒の色を濃くしている。


「よぉ、どうやら俺達にちょっかいかけてたらしいな。あの飯屋の哀れな連中もお前の差し金だろう?」

「だったら?晩飯の礼なら必要ないからな。あんな浮浪者共どうせ大して旨くもなかったろ?」


 暁人は事も無げに答える。自分のせいで何人死のうが知ったことではない、そう言いたげに。


「酷ぇな。他人(ひと)様に殺しやらせといて。どうでもいいってか?」

ひとじゃないだろ、お前らは。違うか吸血鬼ルーレスト・サングイス、ケイリィン・ハウルヴァーン」

「やっぱりと言うか何と言うか、僕らの事は把握済みか」


 煙草をくゆらせ、灰を落とす。暁人の殺気は依然として衰えてないがあまりにも臨戦態勢とは程遠かった。

 殺気は激しい。だがあまりにも"熱"を感じない。戦うにしても殺されるにしてもそこには感情があるはずだ。例えば憎悪。例えば悪意。例えば恐怖。それらを感じることが出来ない。人以前に生物としての本能レベルで何もかもが欠落している。

 言うなれば"枯れ木"だ。20に届くか届かないか程度の年でそんな空気を醸している。あまりにも普通とは遠い。自分たちのように表沙汰にできないことを生業として生きている類かと吸血鬼たちは考えているが、もしそうなら今のような正面切って喧嘩を売るなんて非効率なことをするはずがない。


「お前が何なのか知らねぇが俺たちが吸血鬼って知っているのなら最初に言っておく。この街の連続殺人犯は俺たちじゃないし、ついでに赤月の天園(ルベル・カエルム)の事も知らない。むしろ俺たちもそれを知りたくてこんな場所まで来ている」

「そうだろうな。これから先の被害者ならともかく、これまでの被害者をいくら闇祝グラティアがあるとは言え今日来たばかりのお前らに殺れるとは思ってない」


 狩人ではないにも関わらず闇祝グラティアの事も知っている。それは二体と地に伏している狩人に少なくない驚きを与えた。


「何者だ、君?そして何のつもりだ?」


 ケイリィンの問いにゆっくりとホルスターから拳銃を抜いた暁人は凍えそうな微笑をたたえながら答えた。


「害獣駆除」


 瞬間、弾かれたようにルーレストは駆ける。目の前にいるのは狩人のような『獲物』ではない。れっきとした狩らねばならぬただの『敵』だ。人間相手に闇祝(本気)を使う気はないが、それでも目の前の青年が並みの吸血鬼より危険であるのは直感していた。

 鳩尾を爪で貫くように一突き。それはくうをすり抜け―


―バンッ!バンッ!


 ルーレストの背後に回った暁人からお返しとばかりに射程数cmから背中から鳩尾への発砲で完全に死んだ攻撃となった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 (何が起きてるの……?)


 ライラが見えていない所で状況は変わっている。

 ルーレストと正体不明の男が話しているのは聞こえた。その男の話を鵜呑みにするなら元凶はその男だというのも聞こえているので理解できる。

 分からないのは直後の吸血鬼特有の怪力で地を蹴る音とその一瞬遅く聞こえた二発の銃声だ。吸血鬼の速度にただの人間が合わせられる訳がない。ましてや弾丸を苦もなく避ける吸血鬼に銃撃などよほどの至近距離か狙撃用のライフルで不意を突かなければ当たるわけがない。当たったとしても銃弾では殺しきれない。


「ガッ……」


 いきなり自分の頭部を踏みつけていたケイリィンから腹部を蹴られ体勢を変えられてようやく場面を確認できた。ありえないと思った。悪い夢だとも。

 そこには先ほど現れたであろう煙草を持っている男に対しルーレスト・サングイスが胸あたりから血を流していた。自分から見て男は背を向けており表情は窺えない。だがそれと対峙しているルーレストは実に愉快気に頬を歪めていた。


「ベレッタ90two。扱いやすい良い銃だ。弾数(だんすう)威力(いりょく)共にもうぶんない。だがそれは人間に限った話だ。化け物と殺し合いを演じるには心もとないんじゃないか?」

「知ってるよ。拳銃(これ)吸血鬼(お前ら)を殺せるなんてありえない。ほとんど効果ないだろ、これ」


 ケイリィンは冷静に銃を分析する、それでは殺せないと。男の方も分かっていると返す。何故、分かっているのにそんなものを使うのか。分からない。男の狙いも吸血鬼の攻撃を回避しただけでなく反撃までやってのけた理由も。


「いやぁ、そんなことはないぜ?撃たれるなんて久しぶりだ。案外痛いもんだな」

「レスト」

「分かってる。普通の人間なら今ので死んでるってことだろ?気ィ引き締めるさ。だから手出さないでくれ。俺一人でやりた……」


 ルーレストがケイリィンから視線を男へ移す直前、男が動いた。人として出せる速度をゆうに超えている。だが相手は本物の人外だ。そんな速度でもその気になった吸血鬼(夜の獣)にはまだ足りない。

 ほぼ0の距離でルーレストの眉間へ銃口を向け引き金を引く。隙間など数ミリあるかどうかの距離からの銃撃をルーレストは嗤いながら避け男の喉笛を爪で引き裂こうと手を伸ばす。


「っ!」


 僅かに男の方が反応が遅れた。爪が喉を掠め、骨肉を砕き裂こうと首に指が食い込む前に銃口でルーレストの腕をいなし、後方へ飛び退きながら左手でベルトの鞘からナイフを投擲し、右手で再び発砲。だが、ナイフも銃弾も右腕だけでに掴まれ返す手で男へと投げ返される。


「…………へぇ」


 スーツを軽く切った弾丸は元々直撃しないのは分かっていたかのように対処すらしなかった。後のナイフはルーレストがそうしたように煙草を持っている左腕で柄部分を掴んでみせていた。吸血鬼が投げた投擲物を掴み取るなど常識外れもいいところだ。

 ケイリィンが面白がるように口笛を吹き手をたたく。


「お前、名前は?知りたい」

本條暁人(ほんじょうあきと)。覚えなくて良い。どうせすぐ死ぬ名だ」

「いやいや、お前みたいなの忘れるなんて勿体ねぇよ。それじゃまぁアキト、お前の狙いや目的は分からねぇが、とりあえず踊ろうか!」

「一人でくるくるってろ」


 暁人と名乗った青年が煙草を落とす。地に落ちた瞬間、互いに互いを目指し最短距離を疾走。再び銃弾と一人の男と一体の獣が舞い乱れる。放たれる弾丸も鉄をも断つ爪も当たらない。獣と人は躍り続けていく。どちらかではなく暁人が倒れる瞬間まで。

 暁人本人も含めこの場にいる4人とも初めから分かりきっている。暁人は勝てないと。ルーレストは闇祝グラティアどころかを吸血鬼本来の人智を超えている身体能力も全力では使っていない。それで互角である以上勝ち目はないのは明白だ。


「なるほど。本命はこちらか?」


 そう小さな声でつぶやくとケイリィンは明後日の方向へ視線を向け少し間があった後、柔らかに笑みを浮かべた。


「判断が早いな。賢明だ。しかし、何もせず即撤退ということは狙いは僕らの命じゃないということか?君はどう思う?可愛い狩人さん」


 ケイリィンの問いに答えられなかった。こんな奴の言葉を答えたくないというのもあるが、それ以上にこの男の言っている意味が分からなかった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 暁人と吸血鬼が交戦している場所より数百メートル離れた車の中で颯はバレットM82のスコープ越しにケイリィンと視線が重なった。銃を向けられているのを分かっているかは不明だが人を安心させるような柔和な笑みをこちらに向けて浮かべていた。


「ケイリィンの方にバレた。車を出してくれ」

「マジか、この距離で気づくのかよ」


 紺田がぼやきながら車を発進させ颯は真朝に電話を掛けた。


「マーサか。アキがルーレストと交戦中、俺たちは多分見つかったから引き上げている。今のところ追われてはいないはずだ」

『りょーかい。人払いの方は皆が頑張ってくれてるからまだ大丈夫だよ。アキ君はほっといてもいいとしてツキカゲちゃんの方はどうなった?』

「一瞬でボコられた。ケイリィンが瞬間移動みたいな感じでいきなり消えたと思ったら即KO。まるで相手になっていなかったよ」

『若いとは言えその子だって狩人でしょ。吸血鬼をぶっ倒すプロなんじゃないの?そんなすぐにやられるもん?』

「知るわけないだろ。ともかくアキの目的の半分はクリアしたようなもんだ。俺たちは追われてなさそうな場所で待機でいいか?」

『ん。お願い。じゃあ紺ちゃんにも気を付けてって言っておいて』


 電話を切り振り返る。彼らは追ってきてはいない。ということは化け物2人と暁人はほぼ一人で戦うというのか


「せいぜい死ぬなよアキ」


 自分ですら本心かどうか分からない。颯はそんな一言を呟いていた。

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