予測不可能です
よく日差しが当たる、こぢんまりとしたおしゃれなカフェ。
バイト募集中!どなたでも大歓迎です。初心者様には丁寧かつ親切に指導させていただきます。と、かわいらしい書体で書かれたちらしを持って、私はその扉をわくわくしながら開けた。
中から、店長です、と名乗って一人の人が姿を現した。その人が、かなりかっこよかったときは、もう最高!と思ったものだ。
切れ長の二重にスッと通った鼻筋、清潔感を与える黒髪。モデル並みのスタイル。細身ではあるけれど、しっかり筋肉のついた体つき。ぱりっとしたシワのないシャツに、黒い腰巻きエプロン。そこら辺のテレビに出るより、かなりかっこいい店長に思わず笑みがこぼれたのはしょうがないと思う。
店長さんは、そんな私を見てふわりと優しく笑う。
「もしかしてバイト募集の紙を見て、こちらに来て下さったんですか?」
と私の手元を見た。
緊張と興奮で訳の分からなくなった頭でなんとか頷き、名前を述べようと口を開く。
すると店長の笑みが一気に深くなった。
―――ビュッ!ストン!
「え?」
音と同時に何かが飛び、私の真横に突き刺さる音がした。
何?何が刺さった?どこから飛んできた?
おそるおそる横を向けばすぐ近くにフォークが見えた。かなりの勢いがあったからか、びいんびいんと音を立てて揺れている。
慌てて店長を見ると、なんてことはないように朗らかに笑っていた。
それを見て、一気に背中に嫌な感じの汗が流れる。
き、きのせいですよねー、で済ましたいものの、ちょっと、これは、とてつもなくやばい雰囲気が、漂っているのですが、
「名前は気軽に名乗ってはいけませんよ。そんなことしたら、ここではすぐに殺されてしまいますよ?」
僕があだ名を付けてあげますから、と言いながら綺麗に笑う店長に、くらくらとめまいがする。
え?このお店ってカフェじゃないの?
何で何で名前を名乗ると殺されちゃうんですか?
そんなに危ない店?ウソでしょ?
可愛い女の子達が来るようなお店でしょ?
いろいろ聞きたいものの、怖くて何も言えない。
「じゃああだ名は、ピンクが似合うので、モモさんということで。今日からいろいろ教えて差し上げますね?」
それは接客の仕方についてですか、殺人についてですか、どっち?!と疑問に思ったのは私だけではないと思います。私、モモ、この先が見えなくなりました。生きて家に帰れるのでしょうか?まったくもって予測不可能です。
「モモさん」
「は、はい!何でしょう店長?!」
「とりあえずお茶にしましょう、スコーン焼きますよ」
「その、ふりふりのエプロンどこから出してきたんですか、超似合いますね」
とりあえず今日は、のほほんお茶会です。