やわらかな手
「宴もたけなわでございますが」
幹事が定番の挨拶で、おひらきを宣言している頃には、少し酔いも回り、そういえば、タケナワの意味ってなんなんだろう、と別の事を考える、余裕も出てきた。
締めも軽く課長が挨拶をして、幹事が二次会はカラオケだと、案内をする。
明日は土曜で、会社も休みなので、二次会へ流れる人も、多そうだ。
「二次会はどうするの」
「バスがあるうちに帰ります」
靴を履こうとする、皆の後ろで、順番を待ちながら、少し顔の紅い、オウムちゃんと話す。
「残念だなー!可愛い後輩が出ないなんて!でもお前は来るよな!」
同僚が、ばしんと、肩を叩きながら、茶化してくる。顔だけでも出そうか、と思っていた、二次会への参加意欲が、本当に萎えてしまった自分に、びっくりしつつ、もちろん行くよ、と苦笑いで答えた。
あっ、と小さな声をあげて靴を履こうとしたオウムちゃんがよろめいた。考えるより先に手が出て、彼女の手を支える。
少しひんやりとした、柔らかな小さな手。
「すみません、ありがとうございます」
「大丈夫、気を付けて」
しっかりと、靴を履くのを見届けてから、幹事に二次会には、ちょっと遅れると伝えて、店を出た。
大丈夫だから、二次会があるから、と断るオウムちゃんを、半ば強引にバス停まで送る、と決めたが、あの同僚ですら、賛成してくれた。
「すみません、大丈夫ですから」
「皆さん待ってますよ」
申し訳なさそうにする彼女が、乗り込んだバスを、見送ってからも、しばらくバス停に佇んでいた。
女の子にさわったのは初めてではない。
けれど、オウムちゃんはアンドロイドではないのか。
硬い機械とは程遠い柔らかさは、いつまでも手の中に残っていた。