思いもよらない告白
え、あ、だって。とうろたえる僕を見て、オウムちゃんはぷっと吹き出した。
「なんですか、それ」
「あの、白衣の男が、君を改造していて」
しどろもどろになる僕を見て、オウムちゃんはニコッと笑い、とりあえず座って話しましょうか、と、河川敷を少し降りて、芝生に腰かけた。
その隣に腰を下ろすと、地面は暖かく、ゆっくりとした川の流れは、キラキラと太陽を反射している。
長閑な春の風景に、溶け込む二人。少し、落ち着く事ができた。
「オウムちゃんって言うのはね」
僕が勝手につけたあだ名。
資料室で見かけた彼女と白衣の男。
その時に拾った小さなネジ。
医務室の主と話して、確信を得たこと。
ゆっくり、一つずつ、順を追って話をする僕を、じっとオウムちゃんは見ていた。
全部伝わっただろうか、しばらく間があって、彼女が話しはじめる。
「改造していたのは、私じゃありません、この、メガネです」
両手でフレームの両端を持って、包むようにメガネをかけ直す。
「私は、聴力障碍者です」
予想もしない告白に、びっくりする僕を放置して、オウムちゃんは前を向き、言葉を続ける。
「このメガネは、内耳に埋め込んだ補聴器と連動して、私が聞き取りにくい音を、聞こえやすいようにしてくれています。登録した自分の呼ばれ方を優先して大きくしたり、自分の視線の先にある音に焦点を当てて、その辺りの音がよく聞こえるようにしたり。フレームを通った声を返すことで、自分の声の聞こえ方も調整しやすくなります。まだ製品化はされていません、私は臨床試験の実験台です」
全然気が付かなかった。相槌すら打てずに、ただ頷く。
高校に入ったばかりの頃、急激に聴力が弱くなったこと。
それが原因で引き籠るようになり、通信制で何年もかかって高校を卒業したこと。
「私は幸せです、理解ある家族と、たくさんの方の協力があって、皆さんに気づかれないまま、生活できるまでになりました」
淡々と説明しているように見えるが、きっと様々な葛藤を乗り越えてきたのだろう。
「耳が聞こえない人には、症状と原因は色々あって、全員が私のようにうまくこのメガネとなじめるようになるかはわかりません、そのサポートをするのが、新しく設立された部署なんです。会社から打診がある前に、異動の立候補をしました」
僕の方に向き直るが、目を合わせようとはしない。
「皆さんや、先輩と離れるのは、とてもさみしいです。でも、自分は、このもらった幸運を、同じように苦しんできた仲間に返したいんです」
「そっか」
ようやく言えたのはその一言だった。
オウムちゃんはアンドロイドなどではなかった。たくさんの辛い思いを抱えた、血の通った人間だった。




