桜の木の下で
白衣の男に会うなんて、一大イベントが、あったせいか、気まずい気分は、吹き飛んでしまった。まだ少し、落ち着かないオウムちゃんを、何気ない冗談で、笑わせながら、車を走らせる。
家に着く頃には、笑顔も見せてくれるように、なっていた。
「じゃあ、明日は無理しないで辛かったら休むんだよ」
「すみません、ありがとうございました」
後姿を見送る。
オウムちゃんは、振り返って、小さく手を振り、家に入っていった。
次の日、彼女は元気に出社した。
しばらく、急ぎの仕事が、立て込んだせいだろうか、あっという間に、日々が過ぎ去り、慌ただしい年度末を、乗り切った頃には、向かいの席は、からっぽになっていた。
そして、満開の桜の下、送別会が開かれている。
昼間の開催だった、せいもあるだろう。お酒を飲む人は少なく、けれど相変わらず、にぎやかに、各自が持ち寄った、お重やお菓子を、囲んでいた。
「ねぇ、そのから揚げ取ってー!」
「花見宴会は夜より昼の方がいいわねぇ」
「ほんと、桜がキレイに見えるわぁ」
「夜は寒いしね、時間の余裕もあるし」
「そうね、次から昼間にしましょうよ」
「ビールおかわりちょうだーい!」
「ちょっと、自分で行ってきなさい」
「このお団子美味しい!どこで買ってきたの」
「誰だよ、アイス買ってきたの!溶けてきてるよ!」
久しぶりに会う、オウムちゃんは、相変わらず、にこにこと皆の話を聞いている。
「あれ、お茶もうないの?!」
「あ、じゃあ買ってくるよ、他に欲しい物ない?」
「ビール!」
「それはまだまだあるわよ、あなたぐらいしか飲まないんだから」
立ち上がった、僕を見て、オウムちゃんも、立ち上がった。
「あの、お手洗いってどこでしょうか」
「あっちの公衆トイレは混んでそうだし、一緒にコンビニ行く?」
あ、じゃあ。とオウムちゃんは、靴を履いて、ついてきた。
川沿いの桜並木に、沿った遊歩道を、歩く。
たくさんの、花見客が行き交う中、自然と足取りは、ゆっくりとなる。
周りは、がやがやと、うるさいが、二人だけが、浮かんでいるようだ。
ちらりちらりと、桜の花びらが舞っていた。




