観察日記
オウムちゃんの行動、その一。
ランチはお弁当を持参している、どうやら母親が作ったおかずを、自分で詰めているらしい、正直に話してしまう所が、彼女らしくて良い。
その二。
きちんとした家のお嬢さんである。
ハンカチは、しっかりアイロンがけされたものを、毎日取り替えているし、ポケットティッシュも、常備している。
資料室の奥から、古い本を探してきてもらった時に、パンツスーツの膝に、白い埃が、びっしりついていた事があった。それを指摘すると、オウムちゃんはさっと、鞄からエチケットブラシを取りだして、すぐ綺麗にしたのだ。
今時、そんな事ができる子が居るのか、と感心してしまった。きっと、しっかりした家で、大事に育てられた娘さんなのだろう。
その三。
私生活は不明だ。
きちんとした家、と思ってはいるが、家族構成がいまいち、よくわからない。
同僚との世間話を、小耳に挟んだ所によると、一人っ子で、妹のように可愛がっている、ミニチュアシュナウザーが居るらしい。祖父母と同居しているかもしれない。付き合っている男性が、居るのかも不明だ。
興味本位で、指導係の権威を、振りかざして聞き出すのは、憚られた。
オウムちゃんは、今日も感じ良く、コンピュータのモニターに向かい、綺麗に整えて薄いピンクのマニキュアが塗られた、清潔感溢れる指先で、キーボードを叩く。
僕は、その様子を、見るともなしに眺めながら、電話を切った。
「またやり直しかよ!あんなクライアントくそくらえだ」
「くそくらえですね」
笑顔で彼女は繰り返す。
下品な言葉が、オウムちゃんの唇から出てきた事に、びっくりして、つい彼女を、凝視してしまった。
きょとんとした表情で、オウムちゃんは僕を見つめ返していたが、しばらくするとモニターに視線を戻し、仕事を再開する。
今のは何だったんだろう、鳥じゃなくて狐につままれた気分だった。