不安と勢いで
夜の道路は、すんなりと車を走らせる。彼女の家は、もうすぐそこだ。
「あのさ、部署が変わっても、またこうやって誘ってもいいかな」
「はい」
「今日のお店もまた行きたいね」
「そうですね」
返事がなんだか固い。
「イヤだったらちゃんと言ってね」
「そんなことないです!すみません…」
あやまるような、ことではないのに、何だかうまく、噛み合わない。
いつも彼女が降りる、彼女の家の、少し手前。いつもどおり車を停めて、ライトを一つ暗くし、スモールだけにする。
「あの、ありがとうございました」
降りようとする彼女の手を握った。びくっとした動きが伝わる。
相変わらず、少しひんやりとして、やわらかい、小さな手。
「不安なんだ、このまま君が居なくなってしまう気がして」
返事はないが、振りほどこうともしない。
「好きなんだ」
はっと彼女が振り向く。
暗がりで見つめる、眼鏡の奥の瞳は、どんな返事を、用意しようとしているのか、読み取れない。
「これから先は先輩としてじゃなく、俺の彼女として一緒に居て欲しい」
掴んだ手に左手が添えられた。
と思ったら、取った手を離して、そっと押し返された。
「私なんかじゃダメです…ごめんなさい!」ぱっとドアを空けて出て行ってしまう。
うっかり、大声で呼び止めそうになったが、夜の住宅街に、響き渡りそうで、何とか思い留まった。
早足で家に入る、彼女の後姿が、見えなくなる。
いつものように、笑顔で手を振ってくれることはなかった。
しばらく更新お休みします、次の更新予定は7日の月曜です。




