洋食屋にて
「お待たせ、さぁ乗って」
会社の皆に、気付かれるのが、少し気恥ずかしくて、仕事が終わったあと、別々に会社を出て、少し離れた、待ち合わせ場所まで、迎えに行くのが、定番になっていた。
騒がしい店を、彼女はあまり、好きではないらしい。
今日も、ゆっくりできそうな、レストランを、見つけてある。
何となく、よく行くお店を、避けてしまった。
「タンポポオムライスが美味しいんだって、ここでいい?」
オウムちゃんが、こくりと頷く。
車の中でも、何となくいつもより、交わす言葉が少ない。
お店の人が、愛想よく応対してくれて、安心した、悪いお店ではなさそうだ。
お好きな席に、と言われて、少し奥まった、4人がけのテーブル席へ向かう。
まずはメニューを、手に取って、彼女に手渡す。
1ページに1品ずつ、料理の写真が貼られ、細かく説明が、書かれており、読むだけでかなり、時間がかかりそうだ。
全てのページに、さっと目を通し。彼女はそれなりに、じっくり読んでいたが、頼んだのは、2人ともオムライスだった。
気まずい空気が、二人の間を流れている。
「転属、希望してたの?」上手く言葉を選べなくて、口をついて出たのは、何の配慮も、できていない詰問だった。
オウムちゃんがこくりと頷く。
「今の部署は大好きです。でも、どうしてもやりたいことがあって」
「そっか」
やっぱり気まずい。早く料理が、運ばれてこないかと思っていたら、ニコニコの店員さんが、小さなサラダを、持ってきてくれた。
カトラリーの中から、フォークを2本取り、片方を手渡す。ありがとうございます、と彼女が受け取った時、少しだけ指が触れた。
しゃくしゃくと、生野菜を咀嚼する音が交わる。
ゆっくりと、彼女に合わせて食べ終わった頃に、オムライスが運ばれてきた。
ケチャップライスの、上に乗ったオムレツには、マヨネーズとケチャップが、細く絞り出されて、簡単な模様が、描かれている。
しばらく、きれいな見た目を楽しんだあと、オムレツに、ぷつりとナイフを入れると、とろりと半熟の卵が、全体に広がった。
思わず、顔を見合わせて、笑顔になる。
美味しい食べ物の、効果は偉大だ。その後も無言で、オムライスを平らげたが、先ほどまでの、気まずい雰囲気は、消えていた。
食後のコーヒーに紅茶と、小さなデザートを楽しんで、店を後にする。
車に乗り込んで、はー、美味しかった。とオウムちゃんが呟いた。
「他にも色々気になるメニューあったよな」
「そうそう、オムカレーも食べてみたいです」
また来よう。この間まで普通に言えた一言が、言えなかった。




