ようやく自覚する
えっ、気付いたって、何のことだろう。
まさか本当に、ロボットだとか、言い出したりして。
熱のせいか、ぼんやりと考えこんでいたら、肯定と取られてしまったらしい。
「指導係のあんたには元から教えておいても良かったんだろうけどねぇ」
「教えられてても、どうしようもできなかっただろ」
「ま、確かにね。手助けしなくてもちゃんと馴染めるかが大事だから」
やっぱり、オウムちゃんは、ただのかわいい女の子では、なかったのだ。
けれど、もうそれは、どうでもよかったりする。
「ずーっとあの子のことばっかり考えててさ、知恵熱かな、これ」
「そりゃあれだ、お医者様でも草津の湯でも、ってやつだよ」
そうか、これは恋なのか。
「あたしにもどうしようもないねぇ」
と、ニヤニヤ笑っていた彼女は、ふいに、すっと真面目な顔に、なった。
「これから、どうするのさ」
自分の気持ちに、気づいたばかりで、どうするも。
そもそも、機械相手に、恋心を抱いたところで、何ができると、言うのだ。
「別に、どうもしないさ、俺にはどうしようもないだろ」
「そんなことないさ、変わらずに接してやってよ」
「それはもちろん」
「避けたりされたら、橋詰ちゃんが傷つくからさ」
そりゃ、あれだけ精巧な、アンドロイドだったら、人間のように、傷つくだろう。無意識に、落ち着こうとしたのか、鞄に入っていた、ペットボトルの水を、出して飲み干す。
「告白とかしてみたら?」
喉に残った水が、うっかり変な場所に入り、げほげほと咳き込んだ。
「何をいきなり!」
「そりゃ、生半可な気持ちじゃできないだろうから、あんた次第だけど」
まぁ、橋詰ちゃんから嫌われてたら、元も子もないからね、とニヤリと笑う。
「それはない!」と勢いで言ってから、と思いたい。と小さく付け足す。
「あたしから見ても、脈はありそうだけどね」
からかわれているだけのような気がしてきた。
熱のせいだけじゃなく、顔が火照っているのがわかる。
その日は、おとなしく早退し、その後症状が、悪化する訳でもなく。ずっと調子の悪いまま、代休と土日を使った連休を、だらだらと過ごす羽目に、なったのだった。




