医務室にて
「37度4分、これまた微妙だね」
体温計を片手に医務室の主が苦笑いする。
「頭も身体も微妙に痛いんだよ、我慢できないほどじゃないんだ」
こちらも苦笑いで返す。
しかめっつらで、仕事を片付けていた理由を、課長に聞かれて、正直に言ったら、医務室に行けと、強制的に席を立たされたのだ。
「ほら、インフルエンザ流行ってるしさ」
「熱が出てないし違うだろうねぇ、調子が悪いのを自覚したのはいつからだい」
展示会が終わった日に、皆でご飯に行って、その夜からだから、2日前ぐらいだろうか。
「じゃ、大丈夫だろうけど、今日は早退してゆっくり休みな」
「薬とか出してくれないの」と聞いたら、さらさらっと走り書きした、メモ紙をつきつけられた。
「バナナ、プリン、スポーツドリンク、なんじゃこりゃ」
「コンビニでも買える消化にいいもの。風邪薬はいつも飲んでる自分に合ったのを買ってきな」
あたしゃ薬剤師じゃないからねー、と言いながら手元の書類に何か書きつけてから、じっとこちらを見る。
「何か悩み事でも?」
心当たりは一つぐらいだ。
「いや、仕事とはあまり関係ないから」
「体調崩して仕事に差し障ってても関係ない、と?」
そこまで言われると、反論しにくくなる。
「身体と心ってのはね、つながってるんだよ、心にわだかまりがあるとどうしても身体の調子も滞ってくるんだ」
「なるほど、そんなものなのか」
「話して楽になるようなら、お姉さんに言ってみてごらん、ほら」
「お姉さんて、年下じゃなかったっけか」
笑いながらつっこむと、まだ余裕がありそうだね、と主がニヤリと笑う。
ふーっと息を吐く。ほっとしたのか、うっかり口をついて出た。
「ちょっと頭から離れない事があってね」
「おっと、色気のある話かい」
興味津々とばかりに、食いついてきた。
「いや、考えるほど俺がバカになったんじゃないかってさ、それだけだよ」
ふーん。と身体を引いて、わかりやすく、興味をなくしたかと思ったが、口をついて出た名前は、的確に刺さった。
「橋詰ちゃんかな」
「えっ、あ、いや、それは」
わかりやすすぎるよ。と笑われる。
あんたは鋭すぎるよ。
「もしかして、気付いた?」
え、気付いたって何が。




