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《殺戮因子》と《蛇腹》②

 十二時間後。彼らは白昼堂々と商店街を歩いていた。休日と言うことも手伝って人は多く、下手に隠れて移動するよりも、人混みに紛れた方が安全だと言う判断を二人は下したようだ。木を隠すなら森と言う奴だ。

「取り敢えず、服でも買おう」

 もっとも、目立ちすぎる浴衣姿の情の格好をどうにかしなければ、人混みの中でも二人は相当浮いてしまっている。殺戮因子のコートを浴衣の上から羽織る情は、何故だか少し嬉しそうに首を縦に振った。

 良くこんな調子で生きてこられたものだと、殺戮因子は不思議でならない。格好も浴衣なんてふざけているし、昨晩の援助交際の相手も、ネットに顔写真を出して捕まえたらしい。携帯電話なんて足の付きやすい物を持ち歩くなんて、殺戮因子は自身の四年間に及ぶ逃走劇が馬鹿らしく思えてくる。

「このコートだって相当目立つ」

「しょうがないだろう? うっかり他人に触れでもしたら、それだけで死人がでるんだ」

 まさか五月の浴衣女に服装の駄目出しを喰らうなんて。しかし浴衣に意味はないだろうが、殺戮因子のコートにはちゃんとした意味がある。

 力を抑えるのにどうしても必要なのだ。抜き身の刀よりも物騒な《殺戮因子》を、物理的に封印するには、露出を少なくするしか方法がない。

「能力のコントロールできないの?」

 コートの余った裾を振り回す情が、説明を聞いて不思議そうに首を傾げる。

「出来ないね。呼吸や心臓の鼓動と同じなんだよ。まあ、少なくすることは出来るけど、完全には不可能だ。最低限度は漏れちゃう。ホースと水みたいな感じかな? 戦闘中は意識して言葉と視線に混ぜ込める――――ホースの口を狭めて勢いを増すことは出来るけど、元栓の切り方は知らないから、流れ出る殺意を完全にゼロにできない。だから、もしかしたら、こうやって歩いているだけで、何人かの人間は殺意に障られているかもね」

「危険人物」

「《殺戮因子》なんだよ」

 呆れたように指差す情に対して、殺戮因子はおどけたように答える。何人死のうと知ったことではない。その程度で死んでしまえる人間が、殺戮因子にとって大切であったり、嫌悪したりすべきものでないに決まっている。

「まあ、そのコートじゃなくてもいいんだけどね。物理的に接触を出来ないようにすれば問題はないよ。どうしよ? 適当にスーツでいいかな?」

「似合いそう」

 殺戮因子の意見に、情は一も二もなく賛同する。血塗れの人生を送っている割には、割と二人とも整った顔の造りなのも幸いした。きちっとスーツを着れば、就職活動中の真面目な男女に見えなくもないだろう。

「どうでもいいけど、服屋とかって店員がベタベタ話しかけて来ないか? アレ、苦手だよ」

 殺戮因子になる前に一度だけ紳士服を専門に扱う店に出向いたことがあるのだが、買う気もなかったのに店員の根強い押しに負けて買ってしまった苦い記憶が有る。ネクタイの色なんて、似合うだの季節だの、散々理由をつけられて三本も買わされた。好き嫌いがないと、拘りもなくなってしまうらしく、殺戮因子はその場の雰囲気や勢いに流されるタイプの人間だった。

 片や情はと言うと、服を買った経験がないらしく、不思議そうに首を捻った後、「私がコーディネートしてあげる」と妙に張り切り始めた。買った経験のない奴にそんなことが出来るわけがない。そう思うと同時、コンビニの買い物程度でさえ言葉を発するのには気をつけているのだから、情に任せざるを得ない。和柄のスーツはないだろうが、それだけが杞憂だった。


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