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《地獄期間》と《十本刀》②

 二時間後。世界と関守はあの後、《ふらんしーぬ》の格好にそれぞれ上着を羽織ると、表に停めてあったバイクに跨り、高速道路を利用して葦原市から程近い、この辺りで一番大きな街を訪れていた。大型連休と言うことも手伝って、駐車場はどこもかしこも満員御礼。バイクを止めるだけで随分と時間がかかってしまった。

「一時間で五百円? 葦原の駅裏なんて、最初の八時間は百円で、以降は五時間毎に百円だぞ」

 駐車料金表を見て、世界が「有り得ねー」と田舎と都会の格差に驚きの声を上げる。こんな値段で停める人間がいるのだろうか? 正に自分がその一人だと言うことを棚に上げる世界だった。

「それで? どうする気だ? って言うか、俺はその殺人鬼の容姿も分からないんだが。もしかして、白髪で赤い目をしていたりするのか?」

 神知教の試作品である愛機『PREDATOR300』のシートを撫で、世界が首を傾げる。水だけで時速三百キロと言う常識外のスピードを叩き出すそのバイクは、全体的に鋭利なフォルムをしていて、名前の通りに捕食者のようなデザインとなっている。緋色の瞳を持った、肉食獣のような世界には妙に似合っているように思えた。

「まあ、まずはこれじゃ」

 対して、人の良さそうな袴姿のままの関守は、懐から掌大のカードを取り出す。彼が乗っているのは、似合う似合わないで言えば、あまり小さな身体には似合わない『カタナ』のファイナルエディション。確実に、名前だけで選んだのだろう。多鞘関守と言う人間は、基本的に形から入る。

「無線機か? これ」

 関守からカードを受け取り、世界が適当に予想を口にする。返って来たのは肯定の頷き。別に携帯電話でも良いのだが、今月のいざこざで世界は携帯電話を猫にぶつけて壊してしまったので、非情に有難いアイテムだった。

「薄いな。殆ど紙じゃあねーか。まじでさ、テレパシー技術ってもうすぐ出来そうだよな。頭の中にこれ埋め込んでさ」

「そう言った話は後回し。もう周波数も合わせてあるからの、ボタンを押して話すだけだ」

 説明しながら、関守が真っ黒なカードに書かれた赤いボタンを押す。すると、世界の持つカードから関守の声が飛び出し、微妙に時間差を交えて世界の鼓膜が揺れる。

「二人で人海戦術と言うのは無理があるが、お互いに情報を交換しながら捜索しよう」

「まじかよ。この街を二人で? ばっかじゃねーの?」

 珍しそうにカード状の無線を構いながら、世界が悪態をつく。この辺りで一番の都会であるこの街で、たった一人の人間を探すなんて、不可能にも等しいだろう。おまけに今日は大型連休の夜である。一体、何万人の人間がこの町にいると言うのだろうか? 

 元々やる気があった世界ではないが、彼女との団欒を中断してまで来たのだから、『殺人鬼はいませんでした』なんて、疲労感だけの結果は勘弁して欲しい。

「馬鹿とはなんじゃ、ちゃんと依頼主から情報はもらっておる。ほれ」 

 明らかに呆れた表情の世界に、関守は大仰に袖の中から取り出したのは一枚の写真。写っているのは、真っ黒な野球帽を被り、サングラスで目元を隠し、血のように赤いコートを着ている男の姿。

「情報って写真一枚かよ! 阿呆かお前は!」

 無言でまじまじとその写真を見つめた後、世界がもっともなことを叫ぶ。

 こんな一枚の写真から見つけられたら、それは奇跡だろう。写真なんてものは名前とは裏腹に、真実なんて映さない。三次元のものを無理矢理平面に押し込んだだけで、事実には程遠い。正面からの顔写真を渡されたとしても、その人物の横顔まではわからないし、眉を顰めているだけで別人に見えるかもしれない。それ以前に、こんな体格と年齢もわからないような写真を情報とは呼べない。

「阿呆とは何じゃ! この程度から割り出せんのなら、拙者や一、ましてや嵐のようにはなれんぞ?」

「俺は、化物にはなりたかねーよ」

 関守の台詞に世界は肩を竦めて苦笑する。『嵐になる』なんて『海水を飲みきる』とか『小指で山を動かす』とか、神話や妄想の類でしかない。要するに『無理』だ。

 悟りを開いたように笑う世界に、関守は構わず言葉を続けた。

「そうかの? 負け知らずの《人生不敗》。そんな嵐に勝てるのは、案外お前かもしれんと拙者は本気で思っておるが?」

 自然災害に勝てる。そんなことを言われたら、誰だって冗談と思い、一笑するだろう。

 が、それを言ったのが、嵐に認められた数少ない実力者、多鞘関守となれば話は別だ。

「……煽てても何もでねーよ」

 何気なく言われたその一言に、世界はくるりとその場で回れ右して関守に背中を向ける。

「さっさと終わらせて、俺は帰るぜ」

 肩を竦めると、その台詞残して世界が夜の繁華街に向かって消えて行く。

「……単純な奴じゃの」

 その後ろ姿に、関守はぽつりと呟いた。彼の頭の中には、馴染みの和食屋が何件か浮かんでいて、殺人鬼を捕まえられなかった世界に何を奢ってやろうかと考える。

「鰻にするか」

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