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《殺戮因子》と《蛇腹》⑤

「でもさ、いいの? 殺人鬼を逃がしたりして」

 殺人鬼二人が店を出て行くのを見送って、千鳥が東に訊ねた。

 犯罪者と知りながら会いに来て、殺戮犯と知りながら会話をして、《殺戮因子》と知りながら手を振って別れた東に疑問を抱かずにはいられなかったのだろう。

 良心は痛まないのだろうか? 罪悪感は芽生えないのだろうか? と。

 千鳥は偶に、紫東と言う人間がわからなくなる。

 何しろ、その行動に責任と言うものを持たないのだ。昨日言ったことを今日批判し、今日の目標を明日に回す。その上、本当に本気にならないくせに、実力は護衛である千鳥をあらゆる面で凌駕する。何か一つに本気を出せば、あるいは嵐に到達できるかもしれない才能を、彼は一切使おうとしない。

 そんな彼の心中が、千鳥には一切読めなかった。

 もし、かけらも罪悪感を覚えていないとしたら、一体今後どうやって接すればいいのだろうか? 本当に目の前の紫東は、幼少から知っている紫東なのだろうか?

「馬鹿だな、千鳥姉」

 心配そうにブレザーの裾を握る千鳥を見て、からからと笑い声を上げる。

「悪は栄えないものなのさ」

 そう言って、携帯意電話をブレザーの内ポケットから取り出す。慣れた手つきでメモリ限界寸前の電話帳を開いて、一つの電話番号を呼び出す。

「誰にかけるのよ?」

「《十本刀》の多鞘関守」

「『殺人鬼殺し』じゃん」

 簡単に東の口から出てきた名前に、千鳥は絶句する。数いる武闘派能力者の中でも、五指に入るインファイター。天下五剣の一振り。流星刀所持者。嵐と互角の戦いをしたとさえ言われる伝説的剣士。千鳥は知る由もないことだが、昨晩殺戮因子と対峙した人物である。

 どうやら今回の殺人鬼との面談は、彼に頼まれてのことで、最初からあの二人を逃がす気はないらしかった。

 こう言った雑務を東は小遣い稼ぎにやっているのだが、ここまで大物の名前が出てくることは千鳥の予想を超えていた。流石に、次期党首ともなると顔の広さが半端ではない。そこに感心しつつ、ほぼ四六時中一緒にいるのに、いつの間にそう言った人間達と知合っているのかを疑問にも思う。

「ネットのゲームだよ。……どうも、ぼくです」

 絶対に嘘とわかる情報網を口にしている間に、東の電話が繋がる。少年は日本人にありがちなことに、電話の向こうの人間に会釈して微笑みかけている。微かに、管理職の哀愁が見える気すらする、素晴らしい会釈だ。しかし殺戮因子には下げなかった頭だが、《十本刀》には惜しみなく下げられるものらしい。

「言われた通りに、《殺戮因子》に発信機を付けときました。居場所の確認方法は事前にメールで送っておきましたから、後は好きにしてください。え? お礼? 別にいりませんよ。ぼくは一度でいいから殺人鬼とお話したかっただけですし」

 その後も三分ほど世間話を繰り返し、東は頭を下げながら電話を切った。

 千鳥の顔を見て、微笑みかける。

「さーて、殺人鬼の中の殺人鬼VSラストサムライ。世紀の一戦を、見逃す手はないね。遅くとも明日の昼前には始まるんじゃあないかな? 一緒に見るよね? もう補習もないんでしょ?」

 ハブ対マングースを見るような気軽さで、東は二人の能力者の殺し合いを千鳥に勧める。

「東さ、何か思わないの? あの二人にも、《十本刀》にも。あなたが何もしなければ、少なくとも明日明後日にどっちかが死ぬってことはなかったと思うけど」

 殺人鬼と殺人鬼殺しが戦えば、決着は死以外有り得ないだろう。そんな死闘のお膳立てをして、後悔は芽生えないのだろうか?

 千鳥の問いに、東は彼女の手を取りながら答える。

「ぼくは、何時だって本気じゃあない。でも、この言葉だって本音じゃあないんだよ」

 そんなことを平然と言ってのける東。その台詞が本気でないのなら、その生き方本当でないのなら、一体何を持ってして、紫東は紫東と言えるのだろうか?

「帰ろっか」

 殊更明るく言って、千鳥の手を引いて店を出て行く東。

 その手の暖かさだけが、千鳥にとって救いだった。

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